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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第4章

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南の国での病

初老の男性とその付き人は国へ戻ると同時に、体内に潜む虫を殺すための治療に着手した。

まずは国民の患者数名を治験として選び、さまざまな薬草を組み合わせ、治癒魔法と併用しながら慎重に経過を観察していく。

しかし、それは決して容易な作業ではなかった。治癒師たちも調合師たちも手探りの状態で、試しては失敗し、考え直してはまた試す……そうした試行錯誤が延々と続く。


誰もが、この治療が本当に成功するのか半信半疑だった。


なにしろ、この病は古くから知られ、長年不治の病として恐れられてきたものだ。

患者たちは長い間苦しみ続けてきたにもかかわらず、これまで誰も救われなかった。


初老の男性はアグネッタから渡された薬を使い、付き人の治癒と併用して治療を進めた。だが――


「……私の力では及びません」


付き人は早い段階で自らの限界を悟り、治療を他の治癒師へと託した。選んだ相手は、“異物を取り除く”ことを得意とする治癒師だった。


その治癒師は、相談を受けたとき耳を疑った。

――小さな虫? 体内に?

馬鹿げた冗談か、相談者が正気を失ったのかと疑った。

だが、現実だった。


これを、どうにかしろと言うのか――。

治癒師はその瞬間、自分の人生が終わりに向かって転げ落ちていく音を聞いた気がした。


治癒師はまず、初老の男性の“目”の治療から取りかかった。

このままでは失明する――その危険が、治癒師の目にも明らかだったからだ。


異物を感知し、少しずつ分解し、排出を促す。治癒でも、非常に、非常に特殊な能力だ。地道で、集中力を極限まで要する作業が続く。

その治癒を始めると、初老の男性の目の不調はゆっくりと治っていった。


そして数日、数週間……日を重ねるごとに、治癒師は異変に気づいた。

体内に反応する“異物”が、確実に減っているのだ。


治癒師はすぐに初老の男性に進言した。


「薬草の効果が出ているようです。体内の異物の反応が、ゆっくりですが確実に減りつつあります」


それは本当に、ほんのわずかな変化だった。

しかし、不治とされてきた病に初めて現れた“前進”でもあった。


……そして一年後。

この国では、この病に対する適切な治療法が正式に確立されることとなる。

治験された人々から、複数の薬草の併用が効果が高い、とわかったからだ。また、治癒に関しても効果的な技術が確立した。

長く人々を苦しめてきた不治の病は、ついに治療可能な病として歴史を塗り替えたのだった。



後日談。


付き人は、静かな執務室で初老の男性に問いかけた。


「どうしてアグネッタ殿は、あそこまで理解していながら……最後を私たちに託したのでしょう?」


初老の男性は、書類から顔を上げ、呆れたように眉をひそめた。


「……そんなこともわからないのか?」


「だって、不思議ではありませんか。あれほどの見識がありながら……」


初老の男性は、深く息を吐き、静かに語った。


「アグネッタ殿は、私が王族だと見抜いていた。もしあの場で全てを治してしまえば、この国の面目は丸潰れだ。

 彼女はあえて“全てを語らず”、我ら自身の力で成し遂げよ、という道を選んだのだ」


付き人ははっとし、次の疑問を口にした。


「では……あの助手も、気づいていたのでしょうか?」


初老の男性は目を細め、穏やかに頷いた。


「そうだ。あの助手もまた、お前に気づかせるために動いていた。導くために、あえて一歩引いたのだ」


付き人は感嘆の息を漏らす。


「……アグネッタに治せぬものはない、という噂。あれは、真実だったのですね」


「──ああ。嘘ではなかったな」


ふたりはしばし言葉を失い、静かに遠くを見つめた。


外では、かつて“不治”と呼ばれた病に苦しむ者たちが、今日も新たな希望を手に入れている。その希望のきっかけとなったのは、他国の一人の治癒師と、その小さな助手――。


やがて、付き人はゆっくりと微笑んだ。


「……あの方々に、恥じぬ国にしていかなければなりませんね」


初老の男性もまた、しみじみとした感慨を持って答えた。


「ああ。誇りを取り戻したこの国を、さらに良くするのだ。……家族にも、感謝せねばならぬな。あの二人を紹介してくれたことに」


夕日が差し込む執務室の窓。

その光の中、二人は静かに、けれど確かに、遠く離れた治癒師たちへ、感謝と敬意を捧げていた。

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