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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第4章

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冬が終わろうとしていた

そのほかにもさまざまな出来事があったが、アグネッタとリリアーナはひとつひとつ確実に人々を癒やしていった。そうして日々がゆっくりと過ぎていった。


そんなある日、アグネッタは王妃に呼び出された。王妃の私室へ入ると、机の上には山のように積み上げられた手紙があった。


「……この山は、一体どうされたのですか?」

呼び出されたアグネッタが眉を寄せて尋ねると、王妃はうんざりしたようにため息をついた。


「あの商人の、男の子を治したでしょう?どうやら、あの家が盛大に情報を広めたみたいなのよ。おかげで、助けてほしいっていう依頼の山。もう、処理しきれないわ」


アグネッタは納得した。


王妃は、机に積まれた手紙の山から一つを抜いて言った。

「見てよ、これ。隣の、隣の国からよ。あそこは特別な鉱石が産出されるし、今のうちに仲良くしておくべき国だけれども……。」


「まあ、そんな遠くからですか」

アグネッタは目を丸くして問い返した。


「そうなのよ。しかもこの量……春までには絶対に終わらないわ」

王妃は大きくため息をつきながら肩を落とした。


「……ねぇ、夏までアグネッタ、お城で調合してくれないかしら?」

王妃は書類の山を恨めしげに眺めながら言った。


「できかねます。リリアーナの治癒があってこその、この治療ですから」

アグネッタは即座に、しかし礼を失さないよう静かに返した。


「……そこを、なんとか……」

王妃はわずかに身を乗り出し、期待するような目を向けた。


「できません」

アグネッタはその視線から逃げず、真面目な声音で、はっきりと言った。


「リリアーナが二人いればいいのだけど。代わりになりそうな人が、まったく見つからないのよ」

王妃は肩を落として言った。


「治癒師は貴重ですからね。それに、ほとんどが確固たる地位にいますし」

アグネッタが答えると、王妃は深くうなずいた。


「誇り高いから、交渉が難しいのよね。それに――治癒師でありながら魔力を操れる人なんて、本当にいないのよ」

王妃は続けた。


「リリアーナが新しい人を育ててみる、というのは?」

アグネッタが提案すると、王妃は苦笑した。


「先日ね、リリアーナに魔力操作についてこっそり聞いてみたの。でも返ってきた答えが『なんとなく』よ。とてもじゃないけれど、人に教えられるタイプじゃないわ」

王妃はあきれ半分、感心半分といった表情でため息をつく。


魔力操作を“なんとなく”で済ませてしまう――確かにそれは問題だ、とアグネッタは内心で思った。


「それで、春にはリリアーナは北の領地に行くのですね」

アグネッタが確認すると、王妃は小さくうなずいた。


「ええ。それが約束だったから。でもね……それはそれで困っているのよ」

王妃はそう言い、恨めしげに机上の手紙の山を見つめた。


「では、私もリリアーナが戻るまでは長期休みをいただきますね。この冬は、本当に働きましたから。――手当も、十分にいただけるはずですよね?」

アグネッタはさらりと言った。


王妃はじろりとアグネッタをねめつけた。

「……逃げられる人はいいわね」


「その地位にある人は、その責任を全うするのが道理です。私はしがない、ただの調合師ですもの」

アグネッタは、これまで王妃から押し付けられてきた無理難題の数々を思い返し、半ば憂さ晴らしのつもりで言い放った。


「断りの手紙を書くのも大変なのよ……」

王妃は深いため息をついた。まさか、ここまで名を馳せることになるとは、本人ですら想像していなかった。


一方その頃、国王はというと、頬が緩みっぱなしだった。自分は何もしていないのに、国の名声だけが勝手に上がるのだ。先日、外交で他国を訪れた際も、前回は露骨に見下されて非常に不愉快だったのだが、今回はまるで態度が違った。相手国が明らかにこちらを“上”として扱ってくる。それはもう、実に気分が良い。


「いざという時には、ぜひ調合師殿との面談の時間を……」

そんな申し出を向けられても、国王は涼しい顔で答えた。

「彼女の予定管理は、すべて王妃が行っております。王妃は我が国を第一に考える、実に優秀な女性ですのでな。おわかりいただけますな」


――実に楽だ。

側近が呆れたような目を向けていたが、あえて自分が動く必要などない。確かに“自分の専属”にできなかったのは少々心残りだが……さすがは王妃、というべきか。


その頃、リリアーナは北の領地へ戻れる日を指折り数えていた。

オルフェウス様たちも無事に解放されたと聞き、冬の魔獣についても王都から兵が派遣されたと耳にした。彼女のもとには、心を曇らせるような酷い知らせは一つも届いていない。


ラニアとラディンのことは少し気になったが、自分が眠っている間も問題が起こらなかったのだから、きっと大丈夫だろう――その程度にしか思っていなかった。


「早くエドモンド様に会いたいなあ……」

そう胸の内でつぶやくたび、自然と頬が緩んだ。手紙のやり取りは許可されなかったのが残念だが、王妃を訪れた公爵夫人がマルグリット様と頻繁に手紙を交わしていたおかげで、皆が元気に過ごしているということだけはわかっている。

冬の間に、薬草の種類も沢山覚えた。それはもう、師匠の厳しい監視の元で……。それも、解放なのだ。ついつい、リリアーナの口元が緩んだ。


……平和そのものの日々だった。

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