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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第4章

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国王の遣い

北の領地に――

何の前触れもなく国王の遣いが姿を現したのは、リリアーナたちが消えて五日目の朝だった。


まだ薄闇の残る刻。国王の紋章を刻んだ印璽を見せられ、オルフェウスはわずかに顔色を変えたが、すぐに領主としての冷静な仮面を取り戻す。


「この北の地に、どのような御用件でしょう」


静かに問いかける。


遣いは淡々と告げた。


「リリアーナという女性がここにいるはずだ。優れた治癒能力を持つという情報が入り、確認に参った。会うことはできるか?」


オルフェウスは即答した。


「確かに、リリアーナはここに居ました。だが――今は、いません」


遣いの眉が鋭く吊り上がる。


「……隠しても、何の得にもならぬぞ」


重圧を滲ませた一言。


しかしオルフェウスの声は揺るがない。


「五日前から、姿を消しました。我々も……必死に探してます。しかし、未だに見つかりません」


その沈痛な表情に、遣いは息を呑む。嘘ではないと、直感した。


その時だった。


「父上!魔鳥が来ました!」


遠くから、エドモンドの緊迫した声が響いた。

オルフェウスは小さく息を吐く。


――まだ早い。


「もう来たか……」


そして遣いに向き直り、低く告げた。


「使者殿。これより我々は魔鳥対策に入ります。しばらく応対はできません。滞在はご自由に。ただ、外に出るのは控えて下さい。命の保証はできかねます。詳しくは、マルグリットが説明します」


言い放つと、身を翻しエドモンドのもとへ足早に去っていった。


その場に取り残された遣いへ、マルグリットが深く礼をし声をかける。


「申し訳ございません。……これよりこの地は、戦場と化します。詳しいことは城内にてご説明いたします」


そう丁寧に告げ、マルグリットは遣いを城へと案内していった。


マルグリットは遣いに説明した。リリアーナは、ラニアという少女と普段と変わらない生活していたこと。薬草を二人で取りに森に行ったこと。そして、森から帰らなくなって5日過ぎたということを。マルグリットもまた、眠れぬ日々を過ごしていた。

遣いは、ただ聞くことしか出来なかった。



――嵐の前の静けさは、すでに消え去っていた。


オルフェウスとエドモンドは、弓を構えた。

背後には、魔力を矢へ込められる兵士が二名。この地で得られる最大限の戦力が、そこに揃っていた。


風が鳴り、空は不吉な影を孕み始めている。


オルフェウスは隣に立つ息子を横目で見た。

エドモンドの眼は血走り、頬はやつれ、唇は固く噛みしめられている。……戦いへの緊張ではない。もっと深く、もっと鋭い――焦り。


リリアーナが消えたあの日から、エドモンドは一睡も惜しんで探し続けていた。森へ入り、町の人々に何度も問い、城の隅々まで歩き回った。……だが――手掛かりは一つもない。リリアーナの持ち物ですら、跡形もなく消えてしまった。


剣を扱える。ラニアが傍にいる。襲われたとしても、易々と倒れるはずがない。なのに――どうして、何も見つからない?その答えのない問いは、エドモンドの心を日々蝕んでいく。


オルフェウスも、マルグリットも、その痛みに寄り添う言葉を持てなかった。


エドモンドは、ただ、目の前の脅威に全ての感情を押し殺して、弓を引き絞るしかない。


魔鳥の影が……空を覆い始めていた。


ついに、魔鳥の姿が見えた。

黒い影が幾重にも連なり、迫ってくる。


オルフェウスたちは、無言で弓を引き絞った。魔力が矢に乗る。


エドモンドは深く息を吸い、目の前の脅威へ集中する。雑念を捨てなければ――膝が折れてしまいそうだった。


時折、オルフェウスは息子へ視線を向けた。

エドモンドの弓さばきは鋭く、迷いがない。

次々と魔鳥を射抜いていくその姿は、兵士にとっては頼もしい英雄であり、同時に――痛々しい青年でもあった。


胸の奥底に、焦燥と恐怖を押し込めたまま戦う男の背中。


オルフェウスは自らを奮い立たせるように、

負けじと魔鳥を射落とし続けた。



やがて、長い一日が終わる。

誰一人傷を負うことなく、夜の闇が訪れた。


遠く、窓辺から戦場を見ていた国王の遣いは、震える手で窓枠を掴んでいた。始めて見る恐るべき魔鳥。そして――それを退ける力を持つ者たち。


(これほどの力とは…。そして、あの治癒師も、この地に?)


遣いの胸には恐怖と焦りが渦巻いていた。国王は情報を待っている。何の成果もなく帰ることなど許されない。


「……しばらく、この地に滞在しよう」


自らに言い聞かせるように呟き、遣いは拳を固く握りしめた。



マルグリットは、夫と息子を送り出した。

魔鳥の襲来――それは、どうしても乗り越えねばならない試練だった。国王からの遣いが来たことも気にはなったが、今はそれどころではない。


魔鳥襲来が終われば、結婚式が控えている。

そのリリアーナが姿を消すだなんて、あり得ない。あれほど幸せそうに笑っていたのだ。領地へ訪れた日からずっと彼女を見守ってきたマルグリットには、――リリアーナに、どうしようもない事態が降りかかったのだ、としか思えなかった。


最近は、かつて多かった賊の噂も途絶え、束の間の安堵が戻りつつあった。

……オルフェウスと胸を撫でおろしていた、その最中のことだった。


……久方ぶりに、夫を戦場へ送り出す。

どうか――無事で帰ってきて。

オルフェウス、エドモンド、リリアーナ……。


マルグリットは、祈りを込めて見送った。



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