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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第4章

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ラディンの旅

海鳥の鳴き声が響く港町に、ラディンは足を踏み入れた。


「……まさか、こんなに早く戻ってくることになるとはな」


 思わず苦笑が漏れる。ここまでの旅は路銀も潤沢で、まあ楽なもんだった。――この透明の玉と、種の入った謎の容器、その存在を除けば。


 シルヴァルナへ行くには、前回乗った船の乗組員を探す必要があった。確か、定期船なんかは出ていないと言っていたはずだ。交渉して乗せてもらうしかない。


「さて、と……どこだ?」


 潮風が髪を揺らす中、ラディンは港を見渡す。しかし、目当ての人物たちの姿はどこにもない。


 船は行き交っている。漁師たちの怒号、魚を売り買いする商人たちの声、港は今日も活気に満ちている。だが――求める手がかりはゼロ。


「……探すのは、難しそうだな」


 思ったより苦戦しそうな予感に、ラディンは額を押さえた。海の向こうに浮かぶ島を眺めながら、彼は――少しだけ溜息をついた。


「……早く行かないとな」


 風は彼の呟きを、どこか遠くへ運んでいった。


遠くから、低くしゃがれた声が飛んできた。


「おい、兄ちゃん!」


 ラディンは振り向かずに眉をひそめる。――いや、誰だよ。


 声の主は、さらに距離を詰めてきた。


「どうしたんだ、こんなとこで突っ立って。迷子か?」


 さすがに無視もできなくなり、ラディンはちらりと視線を向けた。そこに立っていた男の顔を見て、はっとする。

前回、あの島へ向かった時に乗せてくれた船の乗組員だった。


「……島に行く船を、探してる」


 短く答えると、男は目を丸くした。


「急いでるのか?」


「ああ」


「そりゃあ……困ったな。船はしばらく出さない予定なんだ。――ちょっと待ってろ。船長に確認してくる」


 そう言い残して、男は港の方へ足早に去っていった。


 ラディンはその背中を見送りながら、小さく息をつく。待つしかない。



「船長!船長!」


 乗組員は息を切らしながら船室へ飛び込む。


「前回、セラフィーネ様と一緒に来た金髪の兄ちゃん、覚えてます? あの人、また港に来てます。島に行きたいらしいです。」


 ラディンはこの辺りでは珍しい金髪の美形た。しかも王家専用の船で島から出た人物だ。忘れようがない。


「どうする?」別の船員が問う。


「次の便まで待ってもらうか?」


「いや、それで後から『どうして待たせた』って叱られたら堪らんぞ。相手はあの方だ」


 船長は腕を組み、しばし考え込んだ。


 そして、ごつい手で机を叩いた。


「よし、小型船を出そう。…困っているようだし、それなりに急ぎのはずだ。理由としては十分だろう」


「了解っす」


 船員たちは活気よく動き出した。


ラディンは、小型船に乗せてもらい、再び島へと向かった。風が頬を打つたび、胸の奥が少しだけ軽くなる。助かった――そう思わずにはいられなかった。


 島に着くと、突然の来訪に人々は驚きの声を上げた。しかし、ラディンが事情をかいつまんで説明すると、空気は一変する。


「よい働きをしてくれました」


 セラフィーネが小型船の乗組員へと労いの言葉をかけると、彼らは胸を撫で下ろした。安堵が顔ににじむ。


 その後、ラディンはセラフィーネに全てを話した。リリアーナのこと。 ラニアという少女のこと。彼女が作った透明の玉のこと。

そして、ラニアが成長させた木のこと――。


 セラフィーネは深く驚きながらも、表情には出さず、いつもの冷静さを保っていた。


「この玉と、種を皆に見てもらおう」


 そう言って彼女は島の技術者たちを集めた。



「ラニアとは……本当に、人と精霊が混ざっているのですか?」


 技術者の一人が、玉を光にかざしながら問う。


「玉は、確かに我々が作る物と同じですが……表面が歪なのは、加工方法の違いでしょう」


「こちらは種ですね。どう見ても、あの木の魔物です。容器の原理は理解しているようですが……。別の物に入れ替えておきましょう」


「木の魔力から再生とは……なんと興味深い」


 次々と見解が飛び交い、技術者たちの興奮はなかなか冷めなかった。


 ラディンが最も聞きたかった「玉」に関しては、島の技術とは異なり、一般に出しても問題ないだろうという結論に至った。それは、島から見て、という判断。世間での反応は、定かではない。

ラニアが一人で玉を簡単に作れるのは驚きだったが、見た目の精巧さは、島の技術の方が優れていた。

種は丁寧に別の容器へ整理された。壊れにくく、蓋が外れにくい構造で、封じの文様まで描かれている。


 しかし――最大の問題は、ラニアそのものだった。ラニアの存在を知った研究者たちは、興奮を隠しきれなかった。


「ぜひ調べたい!」「史上初の存在だぞ!」「我々の歴史に残る大発見だ!」


 そのような存在は、島の長い歴史の中でも例が無かった。誰が調査に向かうか――話題はそこへ移った瞬間、空気が一変する。


「私が行きます」


 セレナが静かに名乗りを上げる。精霊とも話が出来るし、恐らく詳しく知ることが出来る……。しかし、周囲の反応は即座だった。


「「駄目です!」」


 誰もが同時に声を上げ、全力で止めに入る。セレナは王であり、島の未来そのもの。危険を冒すなどあり得ない。


「では、私が」


 今度はセラフィーネが一歩前に出た。それを聞いたセレナは眉を下げ、唇を震わせる。


「また……私を置いて行くのですか……」


 その声音は今にも泣き出しそうで、場にいた者全員が息をのんだ。セラフィーネは気まずそうに視線を逸らす。


 静寂――。

その場を破ったのは、控えめな声だった。


「あ、あの……遠隔地通話の魔道具を持たせて行けば良いのでは? 今、開発中ですが。あれなら、毎日話ができます」


 提案したのは、一人の技術者。精霊が戻った島では、魔道具造りも盛んになっていた。


 次の瞬間――

「おお……!」


 どよめきが起きた。それはまるで救いの光が差したかのようだった。


「それなら……。毎日、連絡をしてくれるという約束なら……」

セレナは躊躇いながら言った。


「必ず、毎日連絡するわ。セレナ」


 セラフィーネは小さく微笑み、ラディンを振り返る。


「準備が整い次第、すぐに向かいましょう」


 ラディンは強く頷いた。


島からは、セラフィーネと技術者一人が、ラディンと共に行く事になった。魔道具が完成したら、直ぐに。


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