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28.高級な万年筆を使ってみたかった

「遂にこの日が来たか!」


「今日は何を買われたんですか?」


ティオがいつもの様に少し呆れた声で尋ねてくる。


その反応も最近は心地よい。


「これだよ」


そう言って箱を開ける。


中には一本の万年筆が入っていた。


「これは・・・ペンですか?」


「そう、高級万年筆」


「高級、なんですか?」


ティオが不思議そうに首を傾げるのも無理はない。


この世界では書類の類は羽ペンか筆記用魔道具が主流だ。


特に整魔士はプログラムを媒体へ直接刻む関係で、細かな調整は専用の魔道具で行う事が多い。


つまり、前世ほど筆記具に拘る文化が薄い。


「前世で少し憧れていてね」


「なるほど、ちょっとだけ贅沢ですね」


「分かってきたじゃないか」


祐一は早速インク瓶を開け、万年筆へインクを補充する。


この作業も前世では少し憧れていた。


「おお・・・」


インクを吸い上げる感覚。


静かな音。


無駄にゆっくりやりたくなる。


「祐一様、楽しそうですね」


「こういうのは雰囲気も大事なんだよ」


早速、机に向かい適当な紙へ文字を書いてみる。


『折下祐一』


「おお、なんか字が上手くなった気がする」


「気のせいでは?」


「うん、たぶん気のせい」


でも良いのだ。


こういうのは気分が大事なのだから。


さらさらとペン先が紙を滑る。


適度な重みも心地よい。


前世で安いボールペンばかり使っていた頃とは違う。


「なんというか、書くのが楽しくなるね」


「祐一様は整魔士ですから書類仕事も多いですし、良い買い物ではないでしょうか」


ティオの言葉に頷く。


実際、整魔協会への提出書類や設計メモ等、文字を書く機会はそれなりにある。


魔道具だけに頼るより、自分で書く方が整理しやすい時もあるのだ。


「ティオも書いてみる?」


「私がですか?」


「インクを付けすぎると汚れるから注意ね」


ティオがおそるおそる万年筆を受け取る。


そして、小さく自分の名前を書いた。


『ティオ』


「・・・!」


「どう?」


「これは・・・なんだか気持ち良いですね」


おっ、珍しく少し食いついた。


「でしょ?」


「はい、少しだけ分かりました」


ティオはもう一度、自分の名前を書いた。


今度はさっきより丁寧に。


「名前を書くのが楽しいって不思議ですね」


「分かるよ、その感じ」


結局その日は、二人で必要もない文字を紙に書き続けていた。


ティオSide


「高級万年筆ですか」


「正直、最初は何が違うのか分かりませんでした」


「でも、書き心地は不思議と良かったですね」


「それに祐一様、とても楽しそうでした」


前世では仕事の為に文字を書いていたのでしょう。


でも今日は違った。


「少しだけ羨ましいです」


「物を楽しめるって素敵ですね」


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