面影
* * *
「あ」
思わず、カーラは声を上げた。
そんなに混んでないバスに乗り込むと、座ってるシーザーを見つけたのだ。
せっかくだからシーザーの隣に座ろうとすると、反対隣りに座っていたクスナがさっとシーザーと席を替わった。
このクスナの行動を、カーラは自分に好意を持ってるからだと解釈した。
カーラはにこりと微笑み、クスナの隣に座る。
だが、クスナは自分とカーラの間にキャリーカートを置く。
クスナとしては子どもに癖を感じる危ない大人かと警戒しての行動だった。
「同じバスなんて奇遇ね」
と、カーラは話し掛けてくる。
「あぁ」
話しかけられたので、一応は返事する。
クスナは、あれ?と思いはじめていた。
旅行者かと思ったが、それなら港町にある繁華街や宿屋に行くはず。このバスに乗るのは珍しい。
「私、ザーグ研究所へ行くの」
「え!?」
「そこなら、僕の家の近くだよ」
呑気にシーザーが言う。
シーザーの言葉に、クスナは焦る。
――得体の知れない相手に家までバラしてどうすんだ!
「だったら、道案内してくれる?」
「うん……「研究所ならバス停から真っすぐだから!」
クスナがシーザーの言葉を遮った。
「あ、そう。じゃあ、道案内はいらないかしら?」
なんてカーラは言う。
着くまで時間があるから、なんか会話したいのだが何か糸口がない。
窓の外の風景を眺めることにした。隣に座るクスナに後ろを向ける姿勢になる。
クスナはちらりとカーラを見た。
きれいな黒髪だ。
シーザーがこの女性に対し、あまり警戒心がないのはあのエルフの少女と面影を重ねているんだろう。
「惚れた?」
クスナの視線に気づいたカーラがくるりと振り返った。
「別に」
クスナの素っ気ない返事。
そこで、カーラはピンと来た。
「なんだ、新婚さんか。私に惚れないから変だと思った」
「……え!?」
クスナは絶句した。
新婚ではないが、そろそろプロポーズを……なんて考えていた。




