嫌悪
「あ、クスナ」
シーザーはクスナの声が聞こえると返事した。女性はさっとシーザーから離れた。
「この人ね、攫われそうになってたからここまで逃げてきた」
――攫われそうになってるのは、お前だろう?
とは言わず、
「こんな人気のないところで何してたんだ?」
それはシーザーにというより、一緒にいた女性に対しての質問だった。
こんな細道に連れ込んで、少年といちゃいちゃしたがる危ない癖の女かと思ったのだ。
「なんか、僕、におうみたい」
あっけらかんとシーザーが言った。
「におうなんて言ってない! 懐かしいにおいがするって言ったの」
女のその言葉に、クスナは嫌悪感をあらわにした。
どう考えても口説き文句だ。
「行くぞ。シーザー」
「うん。じゃあね、カーラ」
と、シーザーはクスナについて行く。
「またね、シーザー」
カーラは笑顔で手を振っていた。
* * *
その頃、ゼネバはザーグ研究所についていた。
「ワイヤをもう一つ欲しい」
応接室に通されたゼネバはそんなことを言った。
ゼネバを迎え入れたのは、ローゼズ・カイ・ザーグ。
ザーグ研究所内で、対アンドロイド用の武器の研究に没頭している。
「まあ、久しぶりに会ったんだから、世間話でも……」
応接室にドラム缶型のロボ、ファッティが鎮座している。
カイはファッティにコーヒーを淹れさせた。
「何年ぶりになるんだっけ?」
コーヒーを飲みながら、カイはそんなことを言う。
「三年ぶりになる」
ゼネバは寡黙な人物だ。あいかわらず口数は少なかった。
「あの時はワイヤの改造を請け負ったんだっけ」
カイの問いに、ゼネバは頷く。
「もう一つ欲しいというのは?」
カイはゼネバの腕を見た。
ゼネバの場合、袖の上のケースにワイヤを左右一つずつ収納していた。知らない人が見ればアームカバーのようファッション的なものに見えるだろう。
今のゼネバはケースはきっちり両袖にあった。
「こっちのは、くれてやった」
ゼネバは右腕の方のケースをテーブルに置いた。
中身は空だった。