第36話 苦無の決断
「苦無君、お待たせしました」
花さんがやっているカフェで待っていると、堀田さんが黒縁眼鏡、おダンゴ頭といういつもの格好でやってきた。校則を守るためか、夏休みなのに制服を着ている。
「今着いたところだよ。
来てくれてありがとう!」
カウンターの高いストールに堀田さんが座れるように手を引っぱってあげた。
「あわわわわ、あ、ありがとう」
ボクがアイスティー、堀田さんがアイスコーヒーを注文する。
それをボクたちの前に置いた花さんは、ウインクを残し奥へひっこんだ。
お客さんがボクたちだけだから、気を利かせてくれたのかもしれない。
「堀田さん」
「苦無君」
言葉が重なり、堀田さんが赤くなってうつむいた。
「ケイトさんのことだけど……」
なぜか、堀田さんが顔をそむけた。
「あの電話、気になるんだよね……。
やっぱり『助けて』なんてふつうじゃないよ」
堀田さんが、きっとした顔でこちらを見る。
「苦無君、苦無君は、ケイトのことが好きなんですか?」
「うーん、嫌いじゃないけど、好きかどうかよくわからない」
「よかっ、いえ、そうですか。
確かに、『助けて』という言葉は気になりますね。
でも、彼女、すでにイギリスへ帰っちゃったんでしょ?」
「うん、そうみたい」
「じゃあ、もう放っておけばいいんじゃないでしょうか?」
「それが、なんだか気になって仕方ないんだよ。
最後に聞いた電話の声から考えると、おびえてたんじゃないかな」
「どういうことでしょう?
無理やり家に連れかえられたってことでしょうか?」
「たぶん、彼女のおじいさんがそういうことをさせたんじゃないかな」
「やっぱり、あのジジイですか?」
「堀田さんは、ケイトのおじいさんのこと知ってるの?」
「業界では、いえ、魔術師の中ではとても有名な人物です」
「へえ、そうなんだ」
「ブライアン=ブリッジスは、伝統ある『魔術協会』の会長です。
サーの称号を持つ貴族でもあります。
自分の気にくわないことは、絶対に許さない男だという噂です」
「噂だとしたら、それは本当じゃないかもしれないね」
「でも……いえ、苦無君の言うとおりかもしれません」
「だけど、そんなおじいさんだと、よけいにケイトが心配だね」
「そ、そうでしょうか?」
「うん、決めた!」
「な、なにをです?」
「ボク、イギリスへ行くよ」
「ええええっ!?」
「あのね、ケイトが空港からかけてきた電話の声が忘れられないんだ」
「ひゅっ!
わ、忘れられない!?」
「うん、あれは本気で助けを求めていたと思う」
「あ、そういう意味ですか。
でも、イギリスへ行くっていっても……」
「うん、お金もかかるだろうし、学校も休めないから、なんとか夏休みの間に行けるようにするよ」
「……」
「また、相談にのってね。
今日はありがとう!
じゃあ、さっそくアルバイト探さなくちゃ!」
「あっ、く、苦無君――」
堀田さんがなにか言いかけましたが、ボクは二人分のお勘定をカウンターに置くと、店をとびだしました。




