機械人の町とダンジョン
お待たせしました。
まともに攻略させるの表現むつかしいですね。
――機械都市「シニクル」
「世界観がちがーう」
「ココだけSFだなおい」
「SFってなんだ?」
「屋台が自販ですお」
『おいしいわぁ』
「「「「既に食ってるし!」」」」
一向はフェンリルの頼みを聞くために機械人の町に訪れている。
三層の中でも最も異色を放っているここはある意味名物だったりもする。
「とりあえずギルドで聞いてみる?」
「だなぁ」
困ったらギルドで情報収集、コレ基本。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「メカメカしい入り口だね」
「自動ドアとか」
「すげぇ、近づいただけで扉が開くぞ!」
「ジーナさん、はしゃぎすぎですお」
『見たことないなら仕方ないわぁ』
中に入るといろんな種族が居る。
当然ながら機械人が圧倒的に多いが。
「こんにちは、何か御用ですか?」
受付の機械人が応対してくれる。
見た目はかなり古めかしいアンドロイドタイプで表情は全くわからない。
「ああ、気になります? これヴィンテージものの外部装甲なんですよ。
カッコいいですよね? 一応取り外しは出来ますが、機械人にとっては私服なのでそれを外すことは下着や裸で出歩くくらい恥ずかしいんですよ」
外部装甲にヴィンテージがあるというのは初めて知った。
というか「あるんだ……」的な感想だ。
「そういやぁシェイドが前に言ってたな、換装パーツが戦闘力の要とか」
「あら? シェイドさんとご知り合いですか?」
「なんていうか昔な」
「なるほど。
あ、それよりもご用件を」
「ああ、そうだった」
一行はここに来た経緯を受付に話す。
フェンリルに頼まれたというと驚き、ギルドマスターに聞いてくると走っていった。
待つこと数分、二階から所々に機械を取り付けた見た目幼女が現れる。
「待たせたの、フェンリル様からご依頼だと聞いたの」
「え?」
「こちらはギルドマスターです」
「シニクルギルドのマスターをやってるロナ・リンドなの、ロナでも愛称のロリィでも好きなように呼ぶの」
(合法ですお……間違いなく合法ですお!)
(とりあえずお前は鼻息おさえろや)
「機械人の王カイゼルギア様に会わせてあげたいのはやまやまなの、でも今は無理なの」
「無理……ですか?」
ロナは申し訳なさそうな顔をする。
表情があることに驚きだ。
「別に他種族だからとかじゃないの、物理的に会うのが難しいの」
「なんかアタシら向けの空気がしてきたぜ?」
何かを察した戦闘狂がうずうずしだした。
「理由を話してもらえますか?」
「わかったの。これはだいぶ前の話なの……」
今からしばらく前に邪龍の眷属を名乗る者が王城へと押し入り、天界に入るための鍵を奪われてしまった。
同時に王の制御系統を支配し、町を破壊するように書き換えられてしまう。
だが、完全に変えられる前に王は邪龍を封印する術式を用いて城をダンジョンと化し、自分を閉じ込めることに成功する。
王はめったに姿を現す人物ではなかったので今でも町はその事態に気づくことはなかった。
そのことを知る者たちはなんとか王をもとに戻そうと挑んだが無理だったということだ。
「今回の相手は狂った機械人の王か」
「天界の様子も気になるから行かないとね」
「いってくれるの?」
「そりゃ、フェンリルの頼みでそのつもりだったからちょっと厄介になった程度だぜ」
もう行きたくて仕方ないようだ。
「それもそうなの、フェンリル様がお認めになるほどの人たちなの。
だったら任せるの、これを持って行って王を止めて欲しいの」
「これはなんだお?」
「これは王のデータを以前の状態に戻すための外部ツールなの。
でも、暴れられると使えないから無力化させてからじゃないと無理なの」
『倒さなきゃダメなのねぇ』
「治し方がPCっぽいんだが」
「わかったよ、任せといて!」
「あなた方外の人に任せるのは申し訳ないの、でもそれしかないの。
ごめんなさいなの」
「はぁ、はぁ……ようじょの為ならどこでもいきますお!」
「うん、とりあえずテメェはいったん沈んでおけ」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
――王城(変異)1F。
「これは……」
「なんつうか……」
「一昔前の機械だお……」
良く言えば正に機械! という感じなのだが。
『街中に比べると見事に歯車だらけで違和感ねぇ』
そう、歯車動力のレトロな感じなのだ。
「アタシはワクワクしてきたぜ」
どこぞの戦闘民族のようなことを言っている奴もいる。
たぶん戦えればいいのだろう。
久々に言うがなぜ此奴が聖女に納まっていたのか不思議でしょうがない。
ロナの話によるとパーティー単位でしか入れず、レイドを組んでもパーティの規定人数を超えると自動的にあぶれた人は別枠のダンジョンに飛ばされるらしい。
インスタンスダンジョンという奴だろう。
だからこそ王城の騎士隊も連隊が組めず、冒険者たちも大人数での攻略が困難。
ココは数ではなく個々の力や仲間との信頼がモノを言う場所なのだとか。
――1F通路。
「使い古された罠が多いな」
ちょこちょことギースが解除しながら先導する。
「罠なんてなんもわかんねぇ」
ジーナがぼやく。
「慣れだ慣れ、初心者用ダンジョンで練習しただろが」
『壁代わりの歯車に直接触れないようにクリアガラスみたいなので覆われてるわぁ』
サルビアは自由な様子だ。
「あのスイッチ押していい?」
「押すな馬鹿!!」
「押すなという事は押していいという……」
「サルビア! あのローズを止めろ!」
サルビアがローズを羽交い絞めにする。
どうもローズは罠看破できるようだが、軒並み発動させたがる傾向が強いようだ。
「ここは漢解除で行きますかお?」
進みの遅さに面倒になってきたヤヨイが提案する。
「やめろ馬鹿! 誰がすんだよ」
「簡易指示モードならモンフーのフィードバックはかなり低めですお。
だから突っ込ませて再召喚すれば問題ないですお。
実際そうやってダンジョンの罠抜けて来てますお」
ギースは頭を抱えた。
「はぁ……ローズは芸人気質、ジーナは脳筋、サルビアは天然(演技?)、ヤヨイだけがまともだと思ってたが……いや、モビーディックの時におかしいのは分かってたか……」
よくもまぁリアルモードと現地人抱えてここまで来れたなとため息が出た。
――1F大広間。
大広間は床一面が空洞になっており、巨大な歯車が回っている。
歯車の先を見ると中型、小型とつながっているので歯車の回転に乗って飛び石のように反対側の通路に抜けるギミックフロアのようだ。
「魔物が出ないのは良いがこりゃ面倒だな」
「下が見えないよ」
ローズは空歩があるので落ちても平気だが他のメンツはそうはいかない。
ここは慎重に進む場所だ。
「おし、俺が先行してサルビアを補助しよう」
このメンツで一番こういったのが苦手そうなのがサルビアだから仕方ない。
「モンフーでサルビアさんぶん投げて向こうでキャッチしたら早くないかお? モンフーは再召喚で近くに出せるし」
「たぶんそれジーナぐらいしかできねぇぞ……」
ここにきてギースのため息の回数が更新されそうだ。
『お任せするわぁ』
「とりあえずヤヨイの案は却下だ、なにが起きるかわからんから慎重にいくに越したことはない」
「はーいですお」
「とりあえず俺が行く……よっと」
危なげなく一番大きな歯車に飛び移るギース。
歯車に降り立った途端に周囲に魔法陣が展開された。
「なに!?」
「ギース!」
「飛行タイプの機械獣ですお!」
見た目はガーゴイルのような形だがメカメカしい外見をした魔物が魔法陣から飛び出してくる。
「くそ! そういうフロアか! せいやぁ!!」
襲い掛かってきた一体を鞭でからめとり、近くに居た別の個体に投げつける。
「一体一体は弱いが如何せん数が多い! 援護してくれ!」
「空中戦ならお任せだよ! たあああぁぁぁぁ!」
勢いよくローズが飛び出す。
次々に撃墜されていくメカガーゴイル。
「此奴ら無限湧きタイプか!」
フロアを抜けるまで永遠に魔物が生まれてくるタイプのトラップらしい。
「だったら! モンフー! 転身」
『阿!!』
モンフーに入ったヤヨイが自分の身体とサルビアを抱えて歯車に飛び移る。
『援護はそっちに任せるお! こっちはとっとと抜けてしまうお!!』
「わかった! ジーナ、ギースを!」
「賜ったぜ!! おおらぁぁぁぁ!!」
ギースがさばききれなくなった魔物をジーナの蹴りが破壊する。
「助かった、一対一のモーション殺しは得意だがこういったこまごましたのを単独で止めるのは苦手だったんだよ」
ギースのPSや装備は複数の敵相手だと不利になる。
その穴をジーナが埋める。
「やぁぁぁぁぁ!!」
ローズは空中を蹴りながらモンフーの進路を妨害しそうなメカガーゴイルを破壊していく。
そしてついにモンフーたちが反対の通路にたどり着いた。
『こっちはオッケーですお! ギースさん、ジーナさんも早く来るお!!』
「私は援護に行ってくる」
『ローズ、無理はしないでねぇ』
「分かってるよサルビアさん」
即座に再び空間を蹴ってジーナの元へと向かう。
「ジーナ! こっちは任せて、近づいてきたのを対処して!」
「分かったぜ!」
「バインドウィップ! おら、まとめて吹き飛べや!」
からめとった一体を複数固まっている場所に投げ飛ばしてギースは次の歯車に乗る。
不安定な足場に注意がそれた瞬間、物陰に隠れていた一体がギースに襲い掛かった。
「しまった!」
「「ギース!!」」
魔物の攻撃を受け、縦に回転する歯車から落ちるギース。
何とかしようと鞭を振るうがどの歯車も射程圏外だ。
このままではデスペナを食らってしまうと思ったその時。
『歯を食いしばるおおおおおおお』
ギースの落下地点にモンフーが飛び込んできた。
「な!? わかった! やってくれ!」
ヤヨイのしようとしていることを即座に理解したギースは言われた通り防御姿勢を固める。
『誘導弾頭脚! ほわっちゃぁああ!!』
「ぐえぇぇぇぇ!! 馬鹿この、仲間にやる威力じゃねええええ!!」
まるでミサイルのような蹴りがギースに当たり、サルビアのいる通路の方に吹き飛ばされるギース。
『て、転身解除おおおおおおぉぉぉぉ……!!』
奈落の底に落ちていくヤヨイが慌てて叫ぶ声が遠ざかる。
「届かねぇ? ば、バインドウィップ!」
ギリギリで勢いが足りないギース。
苦し紛れにはなったバインドウィップ、だがそれも空を切る。
「やべぇ!」
『ふぬうううう』
ギースの行動に気づいたサルビアが寸でのところで鞭を掴む。
バインドの受付時間内だったためにサルビアの腕に絡みつくように引っかかった。
「サルビア!」
『重いわぁぁぁ……早くしてくださいぃぃ』
ズリズリと奈落へ引きずられていくサルビア。
このままでは二人とも落ちてしまう。
「サルビア離せ! お前が落ちたら死んじまう!!」
バインドの効果で外すことができないのだが、焦っていてそれどころではない。
「ローズ!! アタシは良いから行け!」
「う、うん!!」
どうやら通路に入れば攻撃対象にはならないようだがギースはまだフロア内の扱いなのでガーゴイルたちが向かっている。
「やあああああ!!」
「ローズ! 俺よりサルビアを!」
「あっちは平気!」
「何?」
「再召喚! モンフー!! サルビアさんを引っ張るお!」
『阿!』
ヤヨイの声が聞こえた。
その途端に引き上げる力が強くなる。
力仕事が無理な魔術師ヤヨイ。
彼女には強烈な膂力を誇るキョンシーのモンフーがついている。
ローズは飛び込んでいくときにヤヨイが起き上がるのを見ていた。
彼女ならば状況を確認しだい動いてくれる。
なら自分がやるべきことは露払い。
空中を自由に立体機動で動ける自分にしかできない行動だ。
それからほどなくしてジーナも無事合流を果たす。
「つ、つかれたぁぁぁぁ!!」
「悪い、助かったぜ……」
『お互い様よぉ』
「モンフー便利だな」
「自慢の相棒ですお」
これ以上は進めないと一度休憩をはさんでいた一行。
1Fの仕掛けでここまで披露させられたのだから2F以上は一体どんなことになるのか不安で仕方ない。
「なんつうか……町の冒険者が突破できなかった理由がわかる気がする」
「ローズが空中戦出来なかったらもっと苦戦してたかもな」
「モンフーとヤヨイが居なかったらギースも落ちてたよ」
「サルビアさんの頑張りもあって全員無事でしたお」
『流石に焦ったわぁ』
皆が思い思い互いを褒めたたえる。
「「「「『はぁ……』」」」」
盛大な溜息が出ざるを得ない。
「これ、通路は罠で広間はギミックと魔物とのパターンだと思うか?」
「だと思いますお……最悪中ボスも覚悟した方がいいですお」
「だよなぁ」
ゲーマーだった二人が肯定するならそうなのだろう。
ここから上に昇るのがかなり嫌になってきたローズたちだった。
一応補足。
サルビア(登紀子)は人魚姫に憧れていました。
なので現実の登紀子と喋り方が違うのは彼女なりに「姫」っぽいのを表現しているせいです。
ゲームをやったことがないのにロールプレイをしている彼女はいろいろな黒い歴史を量産する資質を持っているわけですねw。




