フェンリルとメッコール、表と裏の六種族
三章開始です。
皆様どうぞお楽しみください。
「そっち行ったぞローズ!」
「任せてジーナ! はぁぁ!!」
前線を引っ掻きまわしているローズがジーナの脇をすり抜けてサルビアに向かった魔物を倒す。
直後、最後に残った魔物がジーナに蹴り穿たれて活動を止めた。
「……ふう、多かったねぇー」
「サルビアは大丈夫か?」
『問題ないわぁ』
現在は三層の森で探し者の最中である。
ギースとヤヨイは別行動だ。
ちなみにリンはギルドハウスの家政夫としてメンバーに加えた。
武装は物凄いが彼自身の性格が圧倒的に戦闘向きではなかったのでそのようになった。
武装自体も魔物相手というよりは対人特化の傾向が強い為、拠点防衛の方が活躍できる。
そもそもギルドハウスは狭間にあるので襲われることもないのだが。
「ギースたちはどうかな?」
「さてな、あの強烈な嫌がらせと馬鹿みたいな近接攻撃力を持った魔術師(笑)のヤヨイがいるから大丈夫だろう」
『戦えない人もいるわよぉ?』
「メッコールさんね」
「一応夜人族だし魔法特化の幽鬼だから問題ないんじゃねぇか?」
そう、いつかの依頼であるフェンリルの森にたどり着いたのだ。
まだとうの本狼には出会っていないのだが、そこまで行ったことを報告したらついてきたいという事でクエストが発展したのだ。
発生ではなく発展なのはすでにあの時トリガークエストを受注していたから。
「ローズ、体調はどうだ?」
「うん、呼吸器は外せないけど大丈夫だよ」
「コキュウキが何だか分からねぇが大丈夫ならいいさ」
あれから自発呼吸が弱弱しいとはいえ回復し、出来るようになったローズはチューブからマスクに変わっている。
それでも人工呼吸器がなければ満足にいられない。
ジーナはこちらの世界の事は詳しくないが、漂流者が別の世界に違う肉体を持っているのは知っている。
あの事件の後メンバーの皆にローズの現実の身体の事を話したのだ。
いついなくなるかわからない。
特にギースとヤヨイは物凄く心配してくれた。
なんと病院の場所を調べだして見舞いにまで来てくれたのだ。
ローズとしては現実の身体を見られるのは苦痛であったし、そのせいでメンバーが居なくなってしまうのではという恐怖もあったが二人は違った。
authentic world onlineの世界で元気に走り回っているローズが実はベッドから動けない。
もはや鶏がらのような身体を見て同情の涙を流すなんてことはしなかった。
代わりに笑顔で困ったことがあったら何でも言えとまで言ってくれた。
ヘタに哀れまれるよりも数倍うれしかったのは言うまでもない。
「あっちの方広くない?」
「ああ、ぽいな」
『通信入れるわぁ』
パーティの所在地はなんとなくあっちという程度だがわかる。
マップというものが存在していないのでそうなるのだが、ステータス表示があるのだからそれはあってもいいと思う。
だが運営は出来るだけステータスも開いてほしくないようだ。
その世界で生活しているという感覚を肌で感じて欲しいからということなのだが。
ボスモンスターにHPLPバーが表示されていたり、クエスト表示はあれほど自己主張がつよいのだから手遅れだと思う。
変なところでこだわりがある。
「待たせたか?」
「ううん、そんなに」
ギースと恋人同士のような会話をする。
それをぶち壊したのはあの人だ。
「おお……おお! ここさ! この場所さ!! 開けてて魔物が少なかったここで出会ったさぁ!!」
結構奥深くまで進んでいたらしい。
濃密な神獣の気配によって他の魔物が近寄れないこの場所を野営というか休憩地点とし、食事を用意していたら出会ったという事だ。
というかそんな場所で出会ったのがタダの魔物だと誰が思うだろうか。
その場所の主ともいえるフェンリルに気づかなかったとはいえ食事の提供(貢物)を拒否するのだから呪われても仕方ない。
「でも、フェンリル居ないお?」
「条件でもあるのか?」
「さあ?」
『すごい綺麗な場所ねぇ』
「ヒントは料理だろうな、メッコールさんよ」
「ああ、持って来てるさ!」
メッコールがドサドサと調理器具から簡易コンロまでを取り出して並べる。
ギースは組み立て式屋台を設置し始めた。
「この道具があればどこでも商売ができる」
「この道具があればどこでも料理できるさ」
なんだかんだで似たものっぽい。
「俺の屋台は炭焼きしかできねぇ初期のもんだから調理器具かりるぞ」
「自分が作ったらお菓子にしかならないさ、ここは任せるさ」
自慢にならない自慢をしてメッコールは引き下がる。
ざっと簡単に作れるもんでもやるか! と意気込んで調理を開始したギース。
その間にヤヨイはどこからか持ってきた木材を加工してテーブルと器を作った。
「錬金?」
「ですお、始めはコミュニケーションが苦手でしたお。
それで霊幻導師は戦闘面の強化をしたかったから、普通に魔術使っても良かったけれど出来れば近接も強くしたかったお。
錬金はポーションとか自作して他人とあまりかかわりがないようにしたかったからですお」
なんとも闇の深い理由だ。
「でもすごい話すよね」
「兄貴がアレで受け入れられてましたし、他にももっとアクの強い人が居ましたお。
だから自分も大丈夫じゃないかと吹っ切れましたお」
それでもかなりの時間かかったらしい。
武道大会はそのリハビリの一環で出場し、麻呂を見てあれでもOKなら自分は全然問題ないんじゃないかと完全に理解したそうである。
『いい傾向ねぇ』
「まあ、麻呂とか変態は多いな。漂流者」
「ジーナも大概だけどね」
「なんだと!?」
「よっしゃ、できたぞ!」
そんなやり取りをしているとギースから声が上がる。
取り寄せたり狩りにいって手に入れた様々な食材を使った料理が所狭しと並んでいる。
「うらやましいさぁ……呪い、解いてもらえるといいさぁ……」
まともに料理が出来るのをそばで見て羨ましがっているメッコール。
それが出来るようにここまで来たのだからフェンリルが現れたら交渉を頑張って欲しい。
「……来た!」
ローズが気配にいち早く反応する。
濃密な神気があたりを覆いつくしていた。
「あれを見ろ!」
ジーナが広場の中央を指さすとまるでとぐろを巻くようにあたりを漂っていた霧のような物質が集まっていく。
そこに現れたのは白銀の毛並みを持つ巨大な狼だった。
『ぐるるるるる……』
「これが……」
「神狼フェンリル……」
「神々しいですお」
『可愛いわねぇ』
「すげぇな」
各々がそれぞれの感想を述べる。
フェンリルはのそりとこちらへ歩を進めてきた。
『……我を呼び出したのは貴様らか?』
「喋った!?」
「なるほどな、料理は供物の代わりか」
「し、神狼フェンリル殿! お久しぶりですさ!」
『うん? 誰だ貴様は』
「は、はい! 以前貴方様に罰を与えられた哀れな料理人ですさ!」
呪いと言わなかったのは行幸だ。
『……ほほう? 確かにその顔は見覚えがある……我の前に供物を用意し、それをささげるのを拒否した愚か者か』
「そ、その節は私めも貴方様がかの神狼フェンリル殿とつゆ知らず無礼を働いたことをお詫び申し上げたく存じますさ……」
メッコールは土下座状態で一度たりとも顔を上げていない。
額を地面にこすりつけ、必死に訴えかけている。
『……して?』
「この度は私めも深く反省し、この罰をお許し下さるようお願い申し上げに参じました次第でございますさ。
こちらの友人に供物を用意していただき、何卒この毒料理の罰を『その供物を作ったのはそ奴か?』は? はい!!」
フェンリルはギースの方を見ている。
「此奴は馬鹿だった。
知らぬこととはいえ神に無礼を働いたんだからな。
だが、その罰はもう十分に受けたと俺は考える。
俺からも頼む……どうか呪いを解いてやってくれ」
ギースもノリノリだろう。
友人という設定に乗っかって話し出した。
フェンリルは。
『くく……人族と夜人族が友か……よく見れば夜人族は他にもいる上にそっちには魚人族か……。
我の知らぬうちに種族間の確執は取れたのか?』
その問いに関してはローズが答える。
「夜人族との確執はまだ完全に取れていません。
私が率先してそれを解くために動いているつもりです」
具体的な行動は何一つしてはいないが、夜人族が表で活躍すればするほど評価は変わっていくだろう。
『……ほう、夜人族の王がよくそのような許可を……ん? その魂は……貴様らは漂流者か……なるほど……そういう事か……いいだろう。
そこな幽鬼よ、此度の罪はこいつらに免じて無しにしてやろう」
「!? あ、ありがとうございますさ!」
『さて、漂流者たちよ。
お前たちには聞きたいことがある』
「なんでしょうか」
『天界に居る天人族と連絡がとれぬのだが、その理由をしっているか?』
「「「『「天人族?」』」」」
『なんと、裏の六英雄全てにはまだあっておらんのか?』
ここにきて変わった情報が飛び込んできた。
「裏の六英雄ですか?」
「聞いた事ねぇぞ?」
「六英雄ってたしか人、獣人、魔人、エルフ、ドワーフ、機械人ですおね?」
『そうだ、それは表の英雄だ。
裏は夜人族、魚人族、竜人族、妖族、樹人族、そして天人族だ』
「何をしているのですか?」
『邪龍の封印を担う種族だ、表の種族たちは封印の術式により裏の種族の町を隠す、裏の種族たちは隠されし狭間にて封印されし邪龍の力が解けぬよう守っている。
最近は術式が弱まっているのを感じていてな、尤も重要な封印を守る天人族と連絡が取れないのが気がかりなのだ』
とんでもない裏話をここにきて暴露である。
「ぐ、具体的にどの封印か教えてもらえますか?」
『夜人族は邪龍の生命力、魚人族は邪龍の強固な守りの力、竜人族は邪龍の理不尽な膂力、妖族は邪龍の特殊な力、樹人族は邪龍の溢れんばかりの魔力、天人族は邪龍の知能を封印している』
「確かにレヴィアタンはかなり硬かったな」
『ん? もしや古の魚人王と戦ったのか!』
「変な悪魔も居ましたお」
『封印はどうなったのだ?』
「申し訳ありません、魚人王は開放したのですが封印は解かれました」
『……なるほどな……そこまで封印が弱っていたか……』
フェンリルがなにやら考え込む。
「あの……」
『む? ああ、すまぬ。
おぬしらに一つ頼みたい、天人族の様子を見て来てもらいたいのだ』
「そりゃ構わねぇが、どこにいるんだ?」
『天人族は機械人の町の王が持つ鍵を使えば秘されし天空城へと入ることができる、その天空城の玉座の間より狭間の町、「天界」へ行くことができるだろう。この証を機械人の王に見せれば案内してくれるはずだ』
「わかりました」
『ところで、アレは連れて帰ってくれるのか?』
「あれ?」
フェンリルが顎でしゃくった方向を見る。
「うっひょー! 出来る! 普通に料理が出来るっさー!!」
「あ、うん」
「引きずってでも帰るわ」
『うむ……たのんだぞ』
三章は割とサクサク進めたいと思ってますが……。
更新は亀ですすいません。




