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送還勇者と来訪者  作者: 神月センタロウ
現代日本編
9/115

08:こうのもり、再び

 順調に飛ばすワンボックスの中、デジタルの時計を見ると時刻は22時を回っている。初めての乗車フラグを立てたユリウスは既に車酔いに倒れ、一番後ろの座席で呻いている。他のメンバーはと言えば、アルマが窓を全開にして外の風と流れる風景を楽しんでいるが、スピードのせいで結構な風が入ってくるので閉めて欲しい。シェンナとミーララがその風をモロに受ける形で若干寒そうだ。


「速いねー凄いねー」

「さ、寒いです……アルマさん勘弁して下さい」

「シェンナ、アルマ引っ込めろ。徹は窓締めちゃって」


 シェンナがアルマを強引に引っ張って車内に戻すのを確認してから、徹が運転席から遠隔操作で窓を締める。


「おお……何もしてないのに動く。このガラス細工凄いね」


 目をキラキラさせながらアルマが窓ガラスをコンコンと叩いていた。暗い車内なので、猫目が物理的にもキラキラ光っている。


「それはパワーウィンドウって奴だ。機械仕掛けで電気の力で動く」

「機械ねぇ……ゴーレムとかそういう類とは違うのよね?」

「ゴーレムの動力をマナじゃなくて、他の物に変えたって考えたらいいのかな。まぁ歯車細工の延長と思えばいい」

「なるほどねぇ。全く理解出来ないわ」


 シェンナはシェンナで研究対象といった所だろうか、窓ガラスや椅子を丹念に調べていた。下を向いても車酔いしないのは凄いと思う。


「ぽてとちっぷって美味しいですねー。これは帰ったら是非再現したいです」


 一番後ろの座席ではユリウスの面倒を見ながらミーララがお菓子をガンガン食っている。真由が出発時に持たせたらしい。


「私にも。美味しそうな匂い」

「アルマさんはこっちの方が良さそうですよ。こざかなみりんぼしという奴だそうです。見た目はお魚ですね」

「ほうほう……開かない。ミーララ、開けて?」

「はいはい、よいしょっと。はい、どうぞ」

「ありがと。うん、美味しい」

「遠足じゃねーんだぞ。後、その袋の中の白いやつは食うなよ? 死ぬぞ」

「毒入り!?」

「毒入りじゃねーけど、白いのは食用じゃないんだ。保存専用のアイテムみたいなもんだ」

「了解。ソージも食べる?」

「俺はいいや、喉渇くし。ところでユリウスは大丈夫なのか?」


 さっきから呻き声すら聞こえなくなったから心配して聞いてみたが、ミーララが黙って首を振って返す。このまま現地で役立たずは勘弁して欲しいなぁ……。


「取り合えず、時間はもう少しかかるから作戦会議だ。敵の戦力とこっちの戦力、ミーララ判るか?」

「はい、完璧です! では、まずは想定される敵の戦力からですかね」


 ポテトチップの袋を丁寧に畳んでリュックサックに詰め込んでから、キリリと真面目な顔をしてミーララが話し始めた。


「王城襲撃の際に目撃された魔族は四人です。どれも上位魔族と推察されます」


 ふむ、上位が四人か。確かに城の兵士じゃ厳しいだろう。


「一人目は、魔王の後継者を名乗る主犯格と思わしき魔族。直接セリス様を襲撃したと思われる奴ですね。特徴は私達が討伐した魔王ガッツバルトに容姿が酷似しています。セリス様が太刀打出来なかった様子なので同様の近接特化・魔術耐性の高い個体と推察されます」


 ミーララの説明の中で名前が出てきたので、俺が討伐した魔王を思い出した。


 『魔王ガッツバルト』今回ハイランド大陸に攻めてきた筋肉馬鹿の魔王だ。魔術攻撃をほぼ無効化し、その上魔術を使えなくする『刻印』とかいうのを打撃に乗せて使ってくる魔術師の天敵みたいな奴だった。本来致命傷になるであろうセリスの神属性の魔術を食らってもピンピンしていた。俺にとっては別に困る能力じゃなかったので相性は良かった方だろうか。


「二人目は狼の獣人です。正面から攻めてきて暴れていたのが目撃されています。こちらも近接を主軸にしていましたが、魔術に対しての耐性は魔王と違い低い様です。代わりに高い再生能力があったと報告されています」


 こっちの世界のイメージ通りの狼男かな。ヌンチャクとか使いそうだな。銀武器が効くのだろうか?


「三人目は、剣を持った首無し騎士。外見から、恐らく魔王決戦時に姿を見せなかった幹部の一人デュラハンと推察されます。剣技での戦闘しか報告されていませんが、情報通りなら最高位の魔族です。他にも何か有ると見ておいた方が無難ですね」


 確かに、魔王側の戦力の最高峰と言われた三人の幹部内の二人しか倒してなかったはずだ。戦後処理の最大目標の一人に上がっていたツワモノも居るのか。


「最後の四人目は、人の外見の女性型の魔族で、目立った攻撃はして来なかったそうです。ただ、対峙した味方兵士が突然敵に回ったとの報告が有ります。恐らく支配の魔術等のそういった搦め手が得意な魔術師型の固体と思われますね」


 夢魔とかそういうのだろうか、誘惑して配下に加えるような。こっちでは術が使えない事を祈るしかないな。


「以上が、襲撃後に聞いた限りの敵戦力なのですが……」

「……こっちの戦力足らなくね?」

「ですよねー……言ってて私も不安になってきました」


 非戦闘員が二名、俺も多少動ける程度で装備は頼りない。シェンナも得意な魔術は使えないから準戦闘員か。前衛のユリウス、アルマは問題無いだろうけど、相手の説明を聞く限りじゃキツイだろ。だが、今の話を聞いて多少疑問も出てきた。


「そんな人外魔境の住人がこっちの世界に来てるのに何で何もしないのかね? ニュースにもなってないし、俺にもちょっかい出してきて無いし」

「さぁ……そこはなんとも言えませんね。何かトラブルが起きている可能性は有りますが、大人しすぎるというのも怪しいですね」


 ミーララも首を傾げているが、そこはもう出たとこ勝負か。当たって砕けろ的な思考は俺達のウリだ。


「まともな状態なら正面からぶつかるのは危険かな。第一目標はセリスの奪還、状況的に助け出したら逃げる感じがベストか」

「でもある程度の戦闘は避けられないと思いますよ。あちらがどれ程の準備をしてあるか判りませんが、魔術具を数種使える分こちらが有利な面もあります」


 言いながらリュックサックをポンポンと叩くミーララ。そう言えば何が入ってるか詳細は聞いてなかったな。


「ちなみに用意した物は?」

「準備してきた物は、上位攻撃魔術のスクロールが20本、中位相当の魔術の行使が可能な杖型の魔術具が数本。上位中位の回復支援型の物がスクロールで20本、簡易ですが布系の防具と小盾が数個入ってます」

「結構ごっそり持ってきたな。スクロールと魔術具は使えるのは確認したよな?」

「はい、どちらも先ほどシェンナさんと確認済みですね。バッチリです!」

「それは何より。量的に見て結構な額行きそうだな」

「私が敵陣に出ちゃったら全部使ってでも安全圏に逃げるように、との事だったので惜しみなく頂いてきました!」

「あー……忘れてた。その件に関して、お前死ぬ可能性あったの判ってるのか?」

「ええまぁ、最悪はそうでしょうけど。今までお世話になりっぱなしだったので、恩返しと思って頂ければ……」

「仲間が死ぬのが恩返しとは言わないだろ。命を粗末にするな」

「あう……すいません」

「まぁ元を正せば、俺があっちで戦後処理までちゃんと参加出来ていれば、問題無かったはずなんだよな」


 シュンとなったミーララには悪いが、今回上手く行ったのは賭けに勝ったとしか言えないし、50%で死ぬような危険な物だったので譲る気はない。


「ちょっと脱線するけど良い? その言い方だとやっぱりソウジ君は自分の意思で帰ったわけじゃないのよね?」


 突然シェンナが割り込んできた。そう言えば忘れてたけど、そこはどうなっていたんだろうか。


「当たり前だ、アリスの野郎に騙されて『勇者強制送還』とか言う術で帰されたんだよ!」

「はぁ~……やっぱりねぇ。おかしいとは思ってたんだわ」

「あの王女様、やっぱ性格悪いね。殺っとく?」


 アルマが物騒な提案をしてきたが、それもいいかなと思う。でもどうせなら自分で一発食らわしたい。


「ちなみに向こうでの俺の扱いってどうなってたわけ?」

「確か祝賀会のパーティの終わりの頃にアリス様が……何だっけミーララ?」

「『お集まりの皆様に重大なお知らせがありますの! 勇者サカカミ様はたった今、皆様に最後に会えて良かったと仰って元の世界にお帰りになられました! お止めしたのですが故郷の家族が心配だと、別かれが辛くなる前に戻るというご意思を尊重致しました。オーッホッホ』でしたっけ?」

「ミーララ。似てるけど最後ちょっと違う」

「あぅ……なんかいつも高笑いしてるイメージが」

「というか、よく覚えてるわねあんた」

「記憶力はちょっと自信ありますので、えっへん」


 珍しく褒められて、得意げに胸を張るミーララ。


「無い胸張っても、ソージを含めて誰も振り向かない」

「?!」


 ボソっと呟いたアルマに即座にどん底に突き落とされていた。


「だいじょーぶ、私はだいじょーぶ。私はまだ120、育ち盛りだしママも大きいし……まだ可能性が……」

「せめてコレくらいないと、オスは来ない」


 胸に手を当ててブツブツと独り言を言い始めてしまったミーララに、自分の胸を両手で持ち上げてウリウリと見せ付けるアルマ。そんな自慢する程無いと思うんだけどなぁ。


「でもソウジ君は来なかったじゃないさ?」

「!?……ソージは多分、小さいのが好き?」


 更にそこにシェンナが追撃を入れる。いや、本当姦しいな。


「脱線すんじゃねぇ!話が進まねぇんだよ!」


 面倒な方向に話が反れて行くのを止めていると、運転席の徹が溜息をついているのが聞こえた。


「お前、結構楽しくやってたんだなぁ……真由ちゃんがまじで可愛そうだ」

「それについては反省してる……」


 言い返せないので素直に謝ろう。当時の俺は舞い上がっていたのだ。


「纏めるぞ~? 現地に着いたらまずは当日俺が違和感を感じた場所へ移動。何も無かったら周囲の探索、徹とミーララは駐車場で待機。何か有ったら電話するが、ヤバそうだったら即逃げてくれ。俺達はセリスを見つけるまでは残る」

「了解、でも無茶して真由ちゃん泣かすなよ?」

「『命を大事に』だな。上手くやるさ」


 某有名RPGの作戦名を告げ、決意する。絶対に死なない。目的地への残り時間はもう後僅かである。





 『ようこそ こうのもり へ』


 前回見た時とは違い、夜の帳のせいかおどろおどろしい雰囲気を醸し出すアーチを潜り駐車場で戦闘準備を済ませる。


「魔術用品の大部分はシェンナさんに渡しておきますね。使うタイミングと種類の判断をお願いします」

「了解。品目はさっきチェックしたけど、持久戦は厳しいかもね」


 言いながらミーララから手渡されるスクロールなどをローブの腰紐に刺していくシェンナ。愛用の杖は背中に紐で止めて、両手に小型の杖を持つようだ。


「で……ユリウスは平気か?」

「こ、この程度……何とでもなる」


 車から降りて来たユリウスに目をやると明らかにフラフラで顔色が悪い。結構足にきてるように見えるが……不安だなぁ。


「しっかりしてくれよ? 戦力足らないんだから」

「ああ……家名と家族にかけて、必ずお前らは守る。この命に代えてもな!」


 だからフラグっぽい言動やめろや。


 ユリウスの装備は愛用の鎧一式と、ロングソード、大きめの盾と一般的な物だ。勿論、品質は最高級で魔術で強化もされている逸品。環境の違いで若干動き辛いようだが、元から鍛えてあるのでそこまで問題は無いだろう。


「アルマは何か違和感無いか?」

「ん、大丈夫。あの岩の地面よりは動きやすい」


 岩の地面、アスファルトの事か。こちらは準備万端のようで、短剣二本を構えて素振りしつつ地面の感触を確かめている。ちなみに耳や尻尾などの目立つパーツを隠す為に、大きめのレインコートのような外套を着せている。


 ユリウスと俺が前面でタンク役とアタッカー、中衛のアルマがけん制と後衛の護衛、後衛としてシェンナが攻撃魔術、セリスが補助と回復魔術で支えるというのがウチの基本だ。バランスが取れてて良いパーティだと思う。


 ちなみに俺の装備は、軽量化された小さい金属盾とショートソード。防具は薄手の上半身だけ覆う皮鎧の上に、スッポリかぶるようにアルマと同じ外套を羽織り、足元はこっちに戻された時のブーツと少々頼りない。一応何本かの魔術スクロールと小杖を腰に刺している。


「現地に行く前にキャンプ場の方で情報収集してみるか。何かしら情報が得られるかもしれない」

「何かこういうの久しぶりですね~。ソウジさんと一緒に冒険した頃を思い出します」

「まだ数ヶ月しか経ってないのに遠い昔のようだな。改めて頼むぞソウジ」

「魔王に捕まったお姫様の救出ね。それこそ吟遊詩人の好物なんでしょうけど」

「全くだ。クリア後の隠しダンジョンに挑む気分だぜ」

「何それ? 時々ソージの言う意味が判らない」

「全部終わったらゆっくりこっちの文化を説明してやるよ。徹、ミーララを頼む」

「あいよ。気をつけてな」

「行ってらっしゃいませ~」

「さて、鬼が出るか魔王が出るか。行こうじゃないか」


 先頭から俺、ユリウス、シェンナ、アルマの順で隊列を組み、まずは受付の方に進んで行く。視界が通る場所に出る前に三人を物陰に待機させ、売店があった建物の方に近づく。当然夜なので売店スペースは無人の様だ。傍らに見えた電気が灯いた小屋の方に向かうと、中年のおっさんが暇そうに読書をしていた。閉まっていた窓をノックするとこちらへと移動してくる。


「ごめんな、今の時間は営業してないんだよ。明日来てくれるかな?」

「夜分遅くにすいません。利用では無いのですが、少しお話を伺っても宜しいでしょうか?」


 露骨に嫌そうな顔をされたが、少しならと対応してくれた。


「最近こちらで何か変わった人を見かけませんでしたか? もしくは変わった事が無かったでしょうか?」

「変わった人ねぇ……あぁ、少し前に外国人の女の子が来たとか誰かが噂してたな、ドレスみたいな服を着て綺麗だったって言ってたな」

「な!? ひ、一人だったんですか?」

「確か一緒にもう一人女の子も居たとか言ってたな。言葉が通じなくて困ったそうだ」


 いきなりビンゴかよ。一緒に居たのは誰だか判らないが、出歩いてるのなら無事という所か?


「一緒に狼男とか、そういうのは居ませんでしたか?」

「狼男? いやいや、普通の女の子としか聞いてないよ。兄ちゃんの格好もアレだが、コスプレパーテーでもあるのかい?」


 言われて自分の格好を見るが、日本じゃ普通はしない格好だな……というか駄目元だったのに、このおっさんの情報はかなり当たりだ。


「ええ、まぁ厳密には違いますが。ちなみに女の子はその後も来たんでしょうか?」

「さぁなぁ……昼間の連中からちょっと聞いただけだからな。明日来れば誰か知ってるんじゃないかな?」

「そうですか」

「ちなみに兄ちゃんはキャンプ場を使うわけじゃないんだよな?」

「はい、そっちは予定してないですが、何か?」

「最近キャンプ場の客に野犬被害が出ていてな。食い物とか衣類がやられてるらしい。猟友会に依頼して近々山狩りする予定だが、それまでキャンプ場も閉鎖になっていて、今は使えないんだよ。俺も売店とか施設関係を荒らされないように見張ってるクチだ」


 ……何か引っかかるな。魔族が居るにしては被害が少なすぎる。野犬ってのが魔族に関係してるっぽいか?狼の獣人が変身していると考えるべきか、若しくはその眷属とかか?推定セリスと一緒に居たという女の子というのも気になる。余り一人で考えていてもしょうがないし、一旦戻るか。


「色々有難うございます。あと、明日まで駐車場を使いたいんですが料金は幾らでしょうか?」

「本当は駄目なんだがな、訳ありかい?」

「さっきの話の女の子、多分俺が探してる人だと思うんですよ」

「なるほどな、まぁあんまり出歩かないようにしてくれるなら良いだろう。施設は使えないけどいいか?」

「それは大丈夫ですね」

「何か有ったら夜の間はここに居るから言ってくれ、トイレくらいなら貸せるさ。昼勤の奴にも引継ぎの時に伝えておくから、料金はそいつらに払ってくれ」

「いや、本当に何から何まで有難うございます」

「ははは、気にするなって。見つかると良いな」


 最後にニカッと笑っておっさんは部屋の奥の椅子へと戻っていった。最初の面倒臭そうな対応の割りに凄い良い人だったようだ。最後にお礼を言ってから三人を待たせてある場所へと戻り、仕入れた情報を掻い摘んで説明をしてみる。


「というわけで何か様子がおかしい。どう思う?」

「んむ……なんとも言えないな。特徴的にセリス王女様の可能性は高いとは思うが」

「一人の監視で出歩けているってのがどうもねぇ。何かの術で操られてる可能性もあるわね。もう一人の女の子っていうのがそういう術者と考えるのが妥当かしら?」

「お腹減ったな」

「探してみなくちゃ始まらないし、予定通り山に入ってみるか」

「最悪何も無くても朝になれば更に詳しく知る人が来るのだろ?今のうちにやれるだけやっておこうじゃないか」

「解呪のスクロールは中位が二本だけね……通じればいいけど」

「おなかへったなー」

「よし、行くぞ」


 足早にハイキングコースへと移動をして、家から持ってきた懐中電灯をシェンナに持たせる。


「はー、凄い物ね……こんな小さいのに昼間みたいに明るく出来るのね。これも機械って奴なのかしら?」

「機械っちゃ機械だな。そんな難しい構造じゃないけど電気の力で動いてる」

「電気ねぇ。帰ったら雷系の術をもっと学ぼうかしら」

「ガミネラ大陸の技師と組めば、もしかしたら再現出来るかもしれんな。騎士団としてもこういった道具は是非欲しいとこだ」

「夕飯食べてない、お腹へったー」

「あーもううるせぇな。さっき車内で色々食っただろうが」

「あんなんじゃ足りない」

「朝になったら何か買ってやるから我慢しろ」

「うー……」


 ミーララといいアルマといい、なんでこのパーティには食いしん坊キャラが二人も居るのだろう。冒険時代のエンゲル係数の高さは多分、大陸一なはずだ。


「よし、行こう。道は歩きやすくなってるけど先頭はアルマ頼む、見えるよな?」

「バッチリ」

「続いて俺、シェンナ、ユリウスは殿頼む」

「了解」

「任せろ」


 隊列を変えて真っ暗なハイキングコースを歩き出す。懐中電灯で照らしてはいるが、鬱蒼とした森の内部はやはり不気味だ。命を狙ってくる輩が目標の魔族以外居ないのがまだ幸いか。


「しかし、何で日本でこんな冒険者の真似事しないといけないんだか……」

「もうちょっと気を引き締めろ、いつ山賊に襲われるか判らんぞ?」

「山賊は返り討ち?」

「んなもんいねぇから安心しろ。魔物もいねぇからな?」

「えー……」

「強いて言えば野生動物くらいか。それくらい安全な国だ」

「良い警備隊が居るのだな」

「んー、警備隊……まぁ質は良い方なんじゃないかな?」


 警察と警備隊では若干ニュアンスが違うような気もするが。自衛隊の方が近いのかな?


「是非一度見てみたいものだな。国を守る者同士、得る物も多いだろう」

「多分考えてるようなのじゃないぞ? どっちかというと街中の巡回警ら隊に近いな」

「ほぅ、では在野の不埒な輩自体が少ないのか。良い国じゃないか」

「まぁな。物騒な奴は少ないけど、その分政治的な面でのいざこざは多いけどな」

「それは贅沢な話だ。辺境に住む者や弱者にも命の危険の無い国の方が優れているさ。ハイランドもいつかはそうなりたいものだな」


 少し遠い目をして天を仰ぐユリウスは自分の家族の事でも思っているのだろうか。日本の感覚に戻ったせいで、やっぱり価値観の違いを感じてしまうのだろうか。


 あちらの世界にとっては命の危険など日常茶飯事だ。子供だけで森など入れば猛獣や魔物に食われるのがオチだろう。それ以外にも人攫いや賊の類も少なくは無い。そんな世界に生きる身だからこそ、平和ボケ出来る国が理想に見えるのだろう。安心して家族が暮らせる国を実現する為に騎士団として働いているとか以前話した事を思い出した。


「さっさと終わらせて早く戻れよ?」

「ん? ああ、勿論そのつもりだ。この一件を含め戦後処理が無事に終わったら、休暇を貰って家族旅行でもしようかと思っている。今から楽しみだ」


 もうツッコムまい。良い笑顔のユリウスを連れて尚も森を進むのだった。

 お読み頂き誠に有難う御座います。


 もしお気に召して頂けましたら、ブックマークだけでもして頂けると励みになります。感想も書いて頂ければ舞い上がります。


 お時間御座いましたら是非お願い致します。

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