14:ホシに願いを
次回は明日か明後日になります。
「では、皆さん終わったようなのでこれから手順を説明します」
それぞれが水晶をはめ込んだ神剣を手に車座に座る。パッと見で変化は無いが、神剣達の反応は様々で。中でも『フリオニル』に少し危険な兆候がある。
『あれだけ信じていたのに……よもやこのような仕打ちをされていたなど、許せません。私の身体と心を弄ぶなんて……いっそ一緒に滅びてやりましょうか』
『『フリオニル』落ち着くんだ。我らはあくまで主様のお力の一部、この感情も仮初に過ぎない。それが原因で目的を達成出来ないなんて事はあってはならないんだ』
『でも許せないのよ。主様に拝領した私達を改造するなんて、神の風上にも置けないのよ!』
『ハッハッハ、細かい事は気にするな! どうせこの後俺達が制裁を加えるんだろう、その時に晴らせば良いわ!』
『ソノ提案ニハ賛成デス。我ラノ本分ヲ果タシマショウ』
「あの……説明して良いかな……」
「サカカミが困っているだろう、お前ら少し黙れ」
『……すまないな、下の者が迷惑を掛ける』
「いえ、『エアリア』さんは別に悪く無いですから……」
『……今のは『ジャッジメント』だ。私はこっちだ』
「ああ、すいません。似ているので」
ここに来てようやく『ハイランド』の気持ちも少し判った気がする。序列的に上に居るらしい兄貴分の『エアリア』『ジャッジメント』の区別が付かない。注意して聞けば丁寧で少し古風な硬い言い回しをするのが『ジャッジメント』。普通に喋るのが『エアリア』なのだが、他が個性的な上に声質も平坦な男性の物なので一瞬判らないのだ。
『間違えるなんて失礼ジャン』
「いや、お前がそのままで良かったよ……何か少し安心した」
『そんな事言っても、あの時の殺意は忘れないジャン。僕とソウジに一生埋まらない溝が出来たジャン』
拗ねた神剣をあやしつつ、話を切り出す。
「これから行うのは神とされる生命体の封印です。俺の支援者の話では、二人だろうが余裕で封じられると言ってました。混ぜ物のせいで純度が下がった状態とは違ってそれだけの力が神剣達には元から備わっていたそうです」
「ふむ。それでいてあの威力だったのカ。君の支援者は本当に凄いお方なのだネ」
「まぁ自称最高位らしいですからね。俺達の世界の本当の創造主らしいですよ?」
「あんな広い世界を創られた方か~。憧れちゃいますね、会って見たかったです。先輩はラッキーですね!」
「そ、そうだね……」
キラキラした目でこちらを見てくるユーニさんは何故か俺を先輩と呼ぶ。実際勇者としてはそうなのだが、言われた事の無いフレーズにちょっと照れる。
「でもここまで自由にやっていて、あの神様が気が付かないってのも凄いですよね」
円らな瞳で怪獣大決戦を眺めるニンニーさん。それについても水晶に仕掛けがあるらしいと説明をするが、実際本当に理解出来ない。神には神の事情があるとしか言えないだろう。
「でも真由が飛んでいったり、グルグさんが飛んできたりは見えてるはずですから、戦闘に隙が出来たらこっちに来るかもしれません。手順だけ早めに説明しますね」
神のきまぐれはいつ起こるか判らない。真剣な表情に変わったメンバーに説明を開始する。誰が何をするか、その為にはどうしたら良いのか、どうなるのが最終目的か。そして最後にどうなるのか。なるべく丁寧に急いで話し、全員の反応を待つ。
「規模のデカイ話だな。だが、面白い」
最初に決意したのはグルグさんだ。追従するように『イグニス』が言葉を発する。
『どうせそういう存在だったしな、しょうがねぇか。今回のと同じような感じなんだろ? だったら問題ねぇさ』
「世話になったな『イグニス』」
『だからお別れじゃねーよ。何時でも真下で待ってるぜ?』
サッパリとした二人ならではの会話。
オルゲンさんも続く。
「飛べなくなるのは残念だネ。非常に良い乗り心地だったのに」
『お前の国にあるというボードを持ってくれば良いだろう。何時でも運んでやるぞ』
別れを惜しむように、語る二組。
最終的にどうなるか。神剣達は姿を変える。剣という形を捨て元の純粋な力に近い存在に変わるのだ。だからもうこうして手に持って語り合う事は出来ない。
『嫌なのよー、どんな姿になるかも判らないのよ!』
「我侭言っちゃ駄目ですよ、それに貴女なら綺麗なお花になるかもしれませんし」
『あ、やっぱり~? わたし可愛すぎるし、そうなっちゃう宿命なのよ』
「美味しそうな花になって下さいね」
『そうそう綺麗で美味しい……え?』
関係的に俺と『ハイランド』に近い物を感じた。ニンニーさんとは話が合うかもしれない。
「『ガミネラ』、『イグニス』共々最前線だがいけるな?」
『勿論デス。必ズヤ封ジテ見セマショウ』
「お前なら出来る。信じているぞ」
『オ任セヲ』
ここは主従が理想で良いな。殿と忠臣って感じだろうか。
「短い間でしたが、色々有難う御座いました『アクエリア』様!」
『マリエルに宜しく伝えておいて下さい。子が産まれたら是非一度、海原に連れてくるようにと』
「必ず! 必ず伝えます!」
『アクエリア』さんには悪い事をしてしまった気がする。時間が有れば俺もマリエルさんを訪問してみよう、ここまで心配されている人に一度会ってみたい。
「フリちゃん、私達が要らしいし頑張ろうね!」
『必ずやあの方を惹き付けて見せます。もう離しません』
鼻息荒く気合を入れる真由と少し病んだ感じの『フリオニル』。『ジャッジメント』の担当も真由になっているので、本当に要だ。頑張って欲しいが、これ以上変なパーツは付けないで欲しい。
それぞれが語り合う中、地面に刺さったままの『ハイランド』に声を掛ける。
「まぁそういう訳で。あながちさっきのやり取りは間違いじゃないんだ」
『理解は出来るジャン。良い方法とも判るジャン。でも納得行かないのは何故ジャン』
「他の人らは役目って割り切ってるのに往生際悪いな」
『こんなの割り切れる訳無いジャン! だって僕は僕だ! 確かに皆幸せになるかもしれないけど、僕はどうなるんだ!』
両膝をついて、剣の柄に手を置き語り掛ける。
「お前は一番人間臭いよな」
『当たり前ジャン! 僕の知性を侮るなジャン!』
「本当に悪いとは思ってる、お喋り好きなお前が暫く寂しい感じになるかもしれない」
『大体姿が変わるってどうなるか判ったもんじゃ……ソウジ?』
「絶対に探してやるから……喋る岩とかさ、鉱石とかさ。もしかしたら地面とか山かもしれないけどさ、ジャンジャンうるせぇから目立つだろお前……」
柄を握る手にいつの間にか力が入る。
「お前抜きでなんて思っちゃいねぇよ。絶対に探して連れて来て、国宝にしてやるよ。毎日ピッカピカに磨いたり、動かせないなら近くに町でも作ってやる。だから……約束するから、力を貸してくれ」
少年神の計画を聞いた時、こいつが絶対に嫌がるのは想像出来た。甘えん坊な末っ子らしい我侭で、空気も読まずに拒否するだろうと。もしかしたら物分り良く引き受けるかもとは少しは思ったが、実際は想像通りだ。
だから頼み込む。代替品も用意出来ない不甲斐ない俺の理想の世界の為に、一肌脱いでくれないかと。俺が出来る事なら何でもする、でも出来ない事もある。それは十分に理解している。だからそれを出来る人を頼るしかない。誠心誠意、その見返りに全力で報いると誓う。
「……頼む!」
最後にそう締めくくり『ハイランド』の返事を待つ。見守る一同、その中心に位置する剣が言葉を発する。
『変に下手で調子狂うし、この空気で断ったら僕の印象最悪ジャン。ソウジはこういう駆け引きだけは上手いジャン』
「悪いな、頼るしか能が無いからな。自然と上手くなったみたいだ」
『絶対に見つけるジャン。一人とか寂しいジャン』
「ああ、任せとけって。絶対に見つける!」
力強く誓って、神々の戦いを見据える。
一応は彼らの人格の産みの親に逆らうのだから、俺は敢えてこう宣言する。
「じゃあ手筈通り。爺さんの面倒看にいきますか!」
討伐ではない、封印だ。邪神が最初そうだったように、反省するまで大人しくして貰うだけ。その面倒を看るのが子供である神剣達、俺はそういう心構えだ。
◆
「我が剣、天を翔る! 神力<飛翔の剣>!!」
真由の掛け声と共に『フリオニル』がドラゴンと黒モヤの方向に射出された。神剣を自在に高速移動させるだけの術らしいが、オルゲンさん曰く使用者も乗って移動できたり便利らしい。来た時の事を思い出し、確かに便利そうだなと共感する。
速度も軽くマッハを越えてそうな感じで、真由の飛行より格段に速い。乗ったら音速の壁にぶち当たるんじゃないかと心配にはなる。
グルグさんとウカ……ウピヤエさんは既に前線に向かっている。二人は直接押さえる場所なので接近するそうだ。ウポ……ウピヤエさんが守り、グルグさんが攻め担当だ。
何か覚えにくいよね……。
程なくして真由から現地到着の合図が出る。行動開始とばかりにオルゲンさんが『ジャッジメント』を抱えて飛び立った。オルゲンさんは直接戦闘には参加せず、後方での役割がある。結構重要なポジションだ。
「んじゃま、真由やっちまえ!」
「了解! んんーーーーやああ!! <重力球>!! 全力全開!!!」
どれだけの威力なのか、遠めにも見てわかる程にドラゴンと黒モヤがたたらを踏んだ。浮島の大陸も少し揺れた気がするので、真由がまた人の枠から外れた予感がする。
「まーだーまーだー!」
んにににと唸りつつ、出力を上げているのだろうか。凄い形相で離れた『フリオニル』に力を送っている感じの真由に声を掛ける。
「お、おい。あんまり無茶するなよ。今の段階で既に母さんに怒られるの目に見えてるんだしさ……」
「わーたーしーがー! あにぃのー! 世界を守ーる!!」
何か変なスイッチが入ってるらしく、聞く耳は無いらしい。その気迫が通じたのか、ドラゴンと黒モヤが磁石のようにくっ付いた。
『小娘!! 何をしている、邪神だけを狙え!!』
その瞬間、世界中に響くように爺さんの怒号が飛ぶ。ようやく気が付いたのか、気にするほどでもないと侮っていたのか。
『何かコソコソやっているかと思えば、ワシを巻き込んで滅するつもりか!! 浅はかな考え、邪神を滅ぼした後に悔いるが良い!!』
何か言って凄んでいるが、最早手遅れでご愁傷様としか言えない。慢心は身を滅ぼすというのはお約束だ。
こちらを睨みつけるドラゴンの足元から火炎が巻き起こる。グルグさんだろう、重力場に引っ張られない程度に離れてとは言ったはずだが、結構近い場所から撃ち出されたので心配になる。
更にドラゴンと黒モヤを覆うように地面から光沢を放つ黒い巨大な壁が競り上がっていく。動きの鈍った神二人を包むように球体状にその形を変え、完全に隔離した所で真由に指示を出す。
「よっし、拘束したままど真ん中に移動しろ!」
「了ー解!!」
手で何かを操るように、真由が球体ごと大陸の輪の中央へと移動させていく。手筈通りなら、あの中は火炎地獄。しかも中央へは『フリオニル』が引っ張る力、外壁は『ガミネラ』謹製の高硬度の金属のはず。
神封じの力を持った三剣が削っているのだからと、上々な滑り出しに安堵したのも束の間。外壁をぶち破って光線が天空へと消えていった。開いた穴からは無数の触手が外に出てくる。
「ピンチになったら協力かよ! 案外仲良いんじゃねーか、あいつら。真由『ジャッジメント』起動出来るか?」
「よーゆー!」
本当に余裕なのかと言いたくなる程の形相で、少年神から聞いた解放の言葉を真由が口にする。
「汝、雷の化身よ! 外界へと逃げる神々を打ち落とす、裁きの雷となれ!」
言い終わると同時に空の一角から放たれた稲妻が触手を直撃して、打ち滅ぼして行く。『ジャッジメント』の役割は外敵からの世界の守護と、封じた神が万が一出てきた時の最終防衛ライン。天空から全てを監視する『秩序』の守護者。
「あにぃ! ど真ん中ついた!」
「よし、んじゃ囲むぞ!」
この段階で『ガミネラ』『イグニス』も解放されているはずだ。『ガミネラ』は、封じた神を取り囲む強固な物理的な障壁に。『イグニス』はその内部で神の力を削ぎ続ける炎になる。
そしてここで俺の出番だ。『ハイランド』を掴み、巡らせた根に更にイメージを送る。
「タイミング合わせろよ! 落っことさないようにな!」
「任せてー!」
「形状変化! 『惑星』!」
自分でも意味不明なネーミングだが、創ろうとしている形を一言で言えばそうなるので仕方が無い。
複雑に大地に根を張った神剣を曲げたり捻ったり。七つ大陸を動かして、球体を囲むように貼り付ける作業。
「これ……結構きっつい……」
パワーアップしてるはずのマナでも、動かしている最中は常に消費する形状変化には追いつかないらしい。所々動かなくなったり、少しボロが出てくる。
「あにぃ、手伝う!」
ガシッと俺の手の上から真由が『ハイランド』を握る。途端に最初よりも速い速度で大陸が動き出した。絶対これ事情知らない人は天変地異だと騒いでるに違い無い。
球体に貼り付けるので、当然逆さまの大陸も出てくる。それを落とさぬように重力の力を維持しつつ俺の手伝いとか、真由が別格とか言ってた爺さんの言葉が過ぎるが、別格すぎだろうとツッコム。
「悪ぃな。不甲斐ない兄で」
「ぜーんぜんおっけー!」
あくまで軽く返してくるが、表情は強張っているので結構厳しいんじゃないかなと作業を急ぐ。イメージに集中し、大体を囲み終えた所で埋まりきってない大陸の隙間から火柱と閃光が漏れ出た。
「やべぇな本気出し始めたか?!」
「あにぃ、早く次! これ以上出力上げたら、大陸の人も潰れちゃう!」
「了解、ユーニさん。隙間お願い!」
「はい! 汝、水の化身よ。大地の繋ぎ目、その空白を埋める海原となれ!」
『では……ご武運を』
そう言い残し、『アクエリア』が剣から大量の水へと姿を変える。際限なく虚空より流れ出る水が大陸の切れ目に流れ込んで行く様子を見ながら『ハイランド』に更にイメージを送る。
大陸から外へ『ガミネラ』の壁に沿うように無数に分岐させて、流れ込んでくる『アクエリア』が零れぬように刀身で隙間を埋め尽くす。それが十分に行き渡ったと判断して『ハイランド』を解放する。
「汝、大地の化身よ! 刃を土に変え、我らを支える大地となれ!」
『ジャンジャン! それじゃ一足先に行ってくるジャン』
「おう、また今度な!」
『絶対に探すジャン! 約束ジャン!』
張り巡らせた刀身が土に変わる感触が伝わってくる。先端の方からあっと言う間に変わり、根元まで来たと実感すると柄がポロリと取れた。
手に持った柄を見る。刃の部分の無いただの持ち手だけ。刃を土にと言ったのだから残ったのだろうか。喋らぬそれを握り締め、ニンニーさんに指示を出す。
「土壌は完了! しっかり補強お願いします!」
「はーい。『フォレスティア』頑張ってね」
『任せなさいなのよ! 全部ジャングルにしてやるのよ!』
「居住区は残せよ……?」
オオトリだからか、妙に張り切る『フォレスティア』に釘を刺しておく。森だらけの惑星など勘弁して貰いたい。
「汝、樹木の化身。大地に根を張り、大地を埋め尽くし、命に豊穣を。そして大地を抱き支える楔となれ!」
言葉に合わせ、最後に地面に突き立てる。メキメキと音がして剣が木に変わり、大地を根が走る。
「お、おい。これまさか」
「あー。このまま大きくなるパターンですかね」
「まじっすか……」
「先輩、逃げるべきです!」
目の前でどんどん育つ木を見ながら少しずつ後ずさる。どこまで育つのか、この木何の木では済まない大きさになりつつあるが、それでも止まらない。
「逃げるぞ! 真由は術に集中してろ、俺が抱えて運ぶ!」
「『フォレスティア』張り切りすぎー」
「わ、私走るの苦手ですのでっ!」
仕方が無いのでユーニさんも担いで逃げる。最早神力の加護の無い俺は普通の男の子、真由はフル装備だし、ユーニさんも結構身が詰まってるのか重い。火事場のクソ力だろうか、それでも両肩に乗せて走る。
「あーもう、余計な事して!」
「多分あれが『フォレスティア』ですよね、後で薪にしましょうか」
「賛成!」
200m程走って二人を降ろす。流石に無理だ、重すぎる。
背後を確認すると起点の大木は沈静化しているが、周囲に少しずつ植物が生え始めているのが確認出来た。全周囲数キロとかの巨木にならなくて良かった。
「こりゃ完全に密林になるな……王都のまん前に何してくれてるんだか……」
「山と森に囲まれたお城なんて素敵じゃないですか」
「限度って物があるでしょ……」
「『アクエリア』様の場所も結構な大きさの湖になってましたね。大自然に囲まれた、素敵な国です!」
「水……まじで……?」
地図を書き換える作業が必要なようだ。疲れ果てた俺の横にオルゲンさんが降り立つ。
「汝、風の化身ヨ。星を包み、安らぎを与え給エ」
天高く掲げた神剣が、一陣の風に乗る様にサラサラと溶けて行った。
「こちらはこれで終了だネ。ちゃんと大気が包むように風の流れを調整して来たヨ」
「お疲れ様です。じゃあ仕上げですね。真由、解放して良いぞ!」
「了解! 汝、重力を司る者! 全てを繋ぎ止める、見えざる力となれ!」
一見終わったように見えてもここはまだ爺さんの世界。今は疲弊しているから大人しいのだろうが、力を蓄えたら何をしでかすか判らないのだ。そこで最後の仕上げは、少年神に合図を送る事。
貰った水晶の中でも一番の小粒な物を取り出して、それに向かって一言。
「準備完了です。お願いします」
一瞬間を置いて、キンと音が聞こえた。再度パキンと音がして青空がヒビ割れ、封印を兼ねてわざわざ惑星の形にした理由が現れる。
崩落していく虚構の空。その向こうに見えるのは満面の笑みの少年神の巨大な顔。
『やぁ、良くやってくれたね。これでこの世界は僕の物だ。フーッハッハー』
それじゃ完全に魔王だと頭を抱える俺に、オルゲンさんが不安そうに訊ねてくる。
「サカカミ君、本当に大丈夫なんだよネ?」
「た、多分」
俺の心配を他所に、少年神がこちらを見下ろしながら話し始めた。
『さて、お初にお目に掛かるねアルテミアの生命達。この度は色々と起こったから動揺しているかもしれない。不安に怯えているかもしれない。そりゃそうだ、大地が動き、見たことも無い事だらけで動じない方がおかしい。だけど、君たちは元を辿れば本来は僕の物、僕は君たちで言う所の神にあたる存在だよ』
アルテミア全土でこの光景が見られているのだろうか。同じように空を見上げ、不適に笑う少年の顔に怯えながらも耳を傾ける人々を想像する。
『今回起こったこの出来事で、君達は大きな転換期を迎える事になる。今まで当然だった魔術は一切使えなくなるんだ。これからは物理法則と科学の世界で生きて貰う事になる。当然混乱するだろうね、今まで出来ていた事が出来なくなるかもしれない。でも、それを補って余りある物だと僕は約束する。これをご覧!』
覗いていたヒビ割れを更に砕いて、昼間のような青空が一転して満天の星空に変わっていく。
「空気が澄んでるから綺麗ですね~」
「うんうん、絶景だネ。ハニー達も驚いて見ているだろうネ」
「王城の人達も見てるかな?」
「そりゃそうだろ。星なんか見たことないんだからさ」
全てが終わり、疲労困憊の真由の頭をポンポンと叩きながら夜空を見上げる。
『この無数の輝きは全てここと同じような惑星だ。君達はもう閉じた世界の住人じゃない、科学が発展すればあの輝きに届く事さえできるだろう』
少年神の演説は最後に仰々しく大きく手を広げて、無邪気な笑顔で締めくくられた。
『ようそこ僕の世界へ、異世界からの来訪者達! 無限に広がる世界を手に入れた君達を僕は歓迎するよ!』
その日、宇宙空間のどこかに惑星が産まれた。大気もあり、水もあり、緑が覆い茂る大地を風が吹き抜ける世界。多くの生命体が重力に縛られ、中心には燃え盛る炎を内包した核がある。
どこにあるとも知れないそんな惑星を創る。それが今回の計画の全容だ。
お読み頂き有難う御座います。
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