06:良い思い出として
最近何か短いなと思う今日この頃。
執筆時間は一緒なのに謎です。
案の定というか、王城に戻った俺達は公の場では無く応接室に通された。そこには不機嫌なフィリス女王とユーベンテ宰相、苦笑いを浮かべるダグダ国王とアレンさんが待っていた。
「こちらの言葉が足らなかった、というのもありますが。でもまさか自分から言いふらすとは思いもしませんでした。現在の情勢というものを多少なりとも理解している物と思っていたのですが」
「いや、流れと言いますか……不可抗力と言いますか……」
「まぁ起こってしまった事はどうにもなりませんし、今後はマユ様の件は軽率には喋らない事をお勧めします。サカカミ様に関しましては、明日にでも事の次第を含めて公表致しましょう。先日、貴族達に紹介してしまいましたが、伏兵が居るなどと知っていれば……はぁ……ユーベンテ、そこらへんはどうなっていますか?」
「はっ。当日の謁見に参加された方には全員に緘口令を出しておきました。本人を含め、話してしまった人にも伝えるようにとも言い含めてあります」
「とは言っても、噂は流れ出るのでしょうね。あちらの情報網次第ですが、本当に頭の痛いことです……」
眉間と胃の辺りを押さえて唸るフィリス女王様。ガルファリオンがギリギリ間に合わせてくれた情報を生かしきれなかったのが悔やまれる。
「時に、交流商会の豚の件は何か返事は有りましたか?」
『昨日の今日だし、まだ話し合いでもしてるんじゃないかジャン。どこからも返事は無いけど、昨日の晩貰った宰相さんの原文通り伝えては有るジャン』
「そうですか、何か進展が有ればお願いします。そう言えば他国には伏兵の話はしてあるのですか?」
『お父さんが一緒に伝えてるはずジャン』
「有り難い事です。何か手を打たれる前に捜索隊の編成を前倒しにしましょう。マユ様の装備も準備出来た様ですし、サカカミ様も以後は臨戦態勢でお願いします。以前使っていた防具は宝物庫に保管してありますので」
「はい、この後すぐにでも取りに行きますね」
「幹部を含む襲撃犯が伏兵の中核だったとは思いますが、決して負けられぬ戦いです。以後は気を引き締めるようにお願いしますね」
「はい、ご迷惑お掛けしてすいませんでした」
最後にようやく用意された果実入りの紅茶を一口飲んで、フィリス女王様は謁見の間へと戻っていった。退室際にダグダ国王から、何か有ってもお前が蹴散らせば良いと適当なエールを受けたが、完全に失敗したなぁとしか思えなかった。
その後女王様の言いつけ通り、宝物庫に向かい以前愛用していた黒鉄鋼の部分鎧を貰い身に付けておく。胸・腰・篭手・ブーツのパーツしかないが、結構重い。身体強化の術を起動してない状態だとスキーブーツを履いたような感覚になるが止む得ないだろう。
「あにぃの鎧は黒なんだねー。あれかな『漆黒のなんとか』とか狙ってたのかな?」
「んなわけねーだろ。重いけど頑丈なんだよ、これは」
久々に身に付けるが以前より数段重く感じる。最後に真由と同じ耐火加工済みの赤いマントも付けるが、それすら重量を感じるほどだ。試しに腕を回したり、素振りをしてみるがどうにもぎこちない。
「んー、鈍ったかな。ちょっと不安になってきたよ」
「だからあれほど鍛錬しておけと言ったのだ」
「もう一回勇者とか予想できねぇよ。俺も真由と同じ白鋼のヤツ買ってもらおうかな」
「黒鉄鋼もそれなりに高級品なのだがな。体を鍛えれば済む話だ、使い慣れた物でもあるしそのままで良いだろ?」
「まぁ確かにこれ以上せびるのも悪いしな……」
周囲にある高そうな調度品が目に入る。万全を期す為と言えば貰えるかもしれないが、ン百万相当の資金をポンポン貰うのも気が引けるので諦めた。
夕飯まではまだ時間があるので、昨日約束していた公衆浴場の場所を教えるついでに戦闘準備の為行き付けの薬屋にも行く事にした。以前判明した例のハーレム計画の参加者であると判った今は少々複雑な気持ちだが、決して疚しい気持ちは無い。薬は重要なのだ。
今回はもう大金を持ってる訳でも無いので真由と二人で行こうとすると、ユリウスがお目付け役、アルマは薬屋ちゃんに用事があると付いて来た。シェンナは疲れたし用事も無いからと自室へ、ミーララは食堂に手伝いに行ってしまった。
「アメリアちゃんも処罰?」
「処罰はしないけどさ、何かやり辛いね……」
「数少ない、あにぃファンかー」
「絶対そんな事ないと思うんだけどな。店の為に身売り考えてたんじゃないかな?」
「玉の輿、将来安泰」
アルマがグッと親指を立てる。
「いや、だからその計画は無しな?」
「ペット枠でも、おーけい」
「ペットなら良いかな」
「その差が判らんのだが……」
『山羊の蹄亭』から少し離れた場所、下町の工場の様に小さい商店が集まっている区画、華やかなメインストリートに出店する程には資金の無い店が集まっている場所で中には怪しい店も散見出来る。その中でも一際ボロイ感じだが店舗を構えているのが『ログレス薬品店』だ。知る人ぞ知る良心的な店らしいが、そのせいで儲けが出ないのだ。
建て付けの悪くなったドアを軋ませながら開くと、カラコロと鐘が鳴り入店者の存在を店内に報せる。その音に気が付いたのか、女性が一人店の奥から慌てて出てきた。
「い、いらっしゃませ~。回復軟膏から解毒薬まで、何でもお任せ『ログレス薬品て』、あああ!?」
前口上も途中で止まり、俺の顔を見て絶叫する女性。赤茶色の髪をみつあみにし、年季の入った売り子用の制服には何箇所かパッチワークで継ぎ接ぎした後も見受けられる。俺より少し年上の女性、アメリアさんだ。
「ソウジさんじゃないですか! 最近見ないからどこかで死んじゃったんじゃないかと心配してましたよ」
「ちょっと事情が有って顔出せなかったんですよ。アメリアさんもお変わり無い様で」
「そうですね……お得意様だったソウジさんが来なくなってしまって、私も店も変わりなくこの有様です……」
やや疲れた表情で店内を見渡すアメリアさんの目線を追ってみると、以前よりも寂れた感じになっている。
「俺が来てからそれなりに客が増えたって言ってませんでしたっけ……?」
「はい、増えましたね……魔王討伐が終わった後、お父様が『勇者愛用の品』と宣伝しまして。それはもう大勢の方がいらっしゃいました」
「それなのに何故こうも寂れて……」
「『そんな大口の発注なら半額にしてやるぜ!』とか『金が無い? 出世払いで持っていきな!』とか……挙句に転売までされて……」
「なんというか、ご愁傷様としか……」
「今回の一件でお父様には商人の才能が無いと身に染みて実感出来ました……」
遠い目をするアメリアさんは20代のはずだが、その哀愁が30代を超えた苦労人の姿に見える。気前の良い親父さんのお陰で俺も数々の薬品を準備する事が出来たのだが、ここまで重症だとは思わなかった。
「えと、取り合えず以前お世話になった分だけでも適正価格でお支払いしますね」
「何をお売りしたのか、帳簿が有れば良かったのですが……」
マジであの親父さん商売する気あるのかよ。呆れる俺の背後では、真由とユリウスがヒソヒソと玉の輿狙いという話の信憑性について議論している。
「あの、ソウジさん。今日はどういったご用件でしょうか。在庫も乏しいのですぐにご用意出来る物は限られますが」
「近々迷宮に挑む奴が居るので、回復系と解毒を買おうかと。後は俺用にも何品か買おうとしたんですが、有りますか?」
「はい、回復軟膏でしたら初級と中級がありますね。解毒も同じだったかな? 強化系の薬品に関しては、初級の筋力強化くらいしか有りませんね」
「ああ、じゃあ回復の初級・中級を10ずつ。解毒は中級を5。強化は有るだけ全部お願いします」
「有難う御座います。えーと、初級が10、中級が20、強化初級が5で……金貨10枚ほどですかね」
「いや、娘さん。安すぎるし最後適当に端数を切ってませんか?」
溜まらずユリウスがツッコミを入れた。騎士団でも良く使う薬関係の相場は知っているようだ。ちなみに大体の相場は初級が銀10、中級が金1くらいだったと記憶している。
「すいません、計算が少し苦手な物で。でも大体これくらいですよね?」
「あにぃ、根本的にこのお店ダメなんじゃないの……?」
「相場より安くて品質は普通に使えるって有名だしな。しかし、この寂れ加減を見ると心が痛むな」
「玉の輿云々より、こちらの方が大問題だぞ。ソウジがどうやって値の張る薬品を持っていたのか謎だったが、こういう事か……良く今まで経営出来ていたと不思議だ」
「え、玉の輿って? アルマさん?」
「ごめんニャン」
店内の時間が止まる。口を滑らせたと痛恨の表情のユリウス、変なポーズのアルマ、そしてそれを見つめるアメリアさん。みるみる顔が真っ赤になっていく。
「ちっ、違いますよ?! 玉の輿なんてそんな、私は純粋にソウジさんをですね」
「ストーップ! はい、そこまで!」
「おお、意外や意外。本気だった!」
「真由も黙れ!」
とりあえずパニックになりかけているアメリアさんを抑え、落ち着かせる。本当に心当たりが無い、どこでフラグが立ったのか謎だ。ただ買い物に来てただけだ。
落ち着いたアメリアさんに真由がにじり寄る。
「ちなみに、どこが?」
「ここら辺って荒くれ者のおじさんしか居ないじゃないですか。そんな中、当時はまだ幼い感じのソウジさんが入らした訳で、何かこう守ってあげたくなりませんか?」
「あー……そういう方向……」
「今はもう当時の面影がなくなり掛けてますが、まだ大丈夫です。まだ私的には許容範囲です! この際ですから言いますが、どうですか! 今ならこの店とお父様を捨ててでもお嫁に行きます! 今ならまだ間に合いますから!」
何がどう間に合うのか、小一時間聞いてみたいものだ。女性から告白されてこんなにも嬉しくない事が有るのだろうか。これは母性じゃない、完全に年下の少年を愛する目だ。
「えと、商品頂けますか? 相場と差異が有る様なので適正価格で買いますね。金16ほどですかね、あーたいへんだー手持ちが少し足らないやー。ちょっとでなおしてきますねー」
「あ、待って! 待って下さいよー!」
全てを店に置き去りにして俺は帰る。当時の思い出、優しいお姉さんという感じだったアメリアさんを俺は忘れない。その裏に潜んでいた真意については、気が付いてはいけなかったのだ。
◆
「あにぃハーレムの面々ってさ、セリスさんが一番まともそうなんだけどどうなの?」
「正解だ。ハーレムという表現に異議は有るが、他は問題児しか居なかったと結論が出た」
公衆浴場に寄ってから王城へと帰ってきた。ロクさんの食堂で燻製肉とパン、スープで夕飯を取りながら真由が俺の暗部に斬り込んで来る。
「だとすると、ダンジョンマスターちゃんってのもそういう感じなの?」
「今度行く迷宮で会えば判る。妖精族はロクな奴が居ないとも実感出来るだろう」
「迷宮自体よりそっちの方が心配になってきたよ……どんな人なの?」
燻製肉を良く噛んで飲み込んで、更にスープで喉を潤してから一気に言い放つ。
「自己中、中二病、馬鹿、アホ、のじゃ、我侭、ガキ、妖精族」
「何個か微妙なの混じってるねー」
「あと、馬鹿だな」
「それさっき言ってたよ。あにぃ、修行するの別の場所にしない?」
「出会わなければ問題無い。俺が行く訳でも無いしな」
「ヒドイ……」
早ければ明日か明後日には真由が旅立つであろう迷宮の主。『迷宮の呼び声』と自称する馬鹿との邂逅は避けたいのは本心だ。
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