05:王都を歩こう ② 食事編
山羊肉について補足
良く洗っている店の物は大丈夫みたいですね。
寧ろその臭いが病み付きという方も居るようですが。
「お待たせ~。いや~あの店主の顔、ソウジ君達にも見せたかったわ~」
真由と二人でダレている所にシェンナがご機嫌で帰ってきた。何でも昔大笑いされたとかで、現状のオールバック風の髪型を見て驚かれたそうだ。呪いを緩和するアイテムの生成素材という触れ込みで、心当たりを探してくれるとの約束を取り付けてきたらしい。
「まぁ実際はあたし専用なんだけどね、出所さえ掴めば用済みよ」
「というかアルテミアにも有ったんだな、足りないなんとかワックス」
「ヤシって言ったっけ? それに似たような形状の木があるらしいのよ。同じ物だとしたら採取出来るかもしれないって言ってたわ」
「何にせよ良かったな、こっちでも都合付きそうで」
「根本解決はしないけどね。これで余計な事に気を散らさずに解呪の研究にも専念出来るって物よ。邪神もちゃっちゃと倒して貰って早く落ち着きたい所ね」
アルマを待つ間にシェンナを交えて真由の今後の特訓方針を決めておく事にする。目標は魔術使用に関してのノウハウの習得、並びにアルマから近接戦闘の心得を教わる事だ。一ヶ月程度でどこまで身に付くか判らないが、最低限身を守れるようにはなって欲しい。
術関係で教える物の選定をしているとアルマも戻って来た。指定時間ギリギリだったが、丁度昼を告げる大鐘楼の鐘の音と同時くらいだ。
「女王様、話長いね」
「おかえり。ちなみにそれは小言を言われたって事か?」
「違う、ずーっと待ってた。小言も言われたけど、それは主にソージに関して」
「……フィリス女王様、何て言ってた?」
「近日中に公表しようとは思ってたから問題無い。けど、潜伏してるかもしれないヤツが帰還を知ったら仕掛けてくるかもしれない、もう少し物事を考えろ。だってさ」
「さーせん」
「判れば宜しい」
何故か自分の言葉の如く偉そうにするアルマを無視して、昼飯に行こうとユリウスとミーララに声を掛ける。上客を逃した商人に恨みがましい視線を送られるが、気にせずに防具屋を後にする。
人が群がる屋台や高級食堂には目もくれず、裏通りを抜けてメインストリートからかなり離れた下町までやってくる。スラムというほどではないが、それなりに気性の荒いヤツが多い場所なので真由には注意をするように伝える。
「お城のご飯も良いけど、やっぱあそこに行くのね」
「そりゃそうだ。ロクさんの飯とここの飯が俺の中ではアルテミアの味だしな」
「私は魚。それ以外はない」
「そういや魚介系も『渡りの孤島』が止まってるから無いんじゃね?」
「ここのは湖のヤツだから平気なはず。そこら辺の調査は万全」
「食い物関係は本当にマメだよな」
向かっている先が何処の店か判っている面々と話ながら進んで行く。最初の頃、まだ役立たず勇者だった時分にお世話になった食堂を目指しているのだ。それなりの戦果を上げ王城でも肩身の狭い思いをしなくなるまで、主に下町で寝泊りしていた俺のメイン食堂。セリスは王城に、ユリウスは自宅で夜を過ごし翌朝町で合流という生活。今では非常に懐かしい。
当時は結構な頻度で来ていたのだが、今回は半年以上振りになる。三段程の小さい階段を上がり、開け放たれたドアから店内に入るといつも通り荒くれ者や若い兵士で賑わって居るようだ。
「いらっしゃいませ~、『山羊の蹄亭』へようこそぉ!」
入店一番、元気の良い声が聞こえてくる。その聞き覚えのある声の主に挨拶をしに向かう。
「お久しぶりです、コットンさん。覚えてますか?」
「あら、勇者様に皆様も。お久しぶりですね~、出世してうちの料理は口に合わなくなっちゃったかと思ってましたよ。全然来てくれないんですから~」
この食堂の看板娘のコットンさんがにこやかに挨拶を返してくれるが……俺が帰った事すら知らない様子だ。当時から脈無しとは思っていたが、こうも普通に反応されると流石に少しショックだ。
「ああ、ソウジは先日まで元の世界に帰っていたからな。来たくても来れなかったんだよ」
ユリウスがナイスフォローを入れる。別に仲を取り持って欲しい訳では無いが、馴染みのある人に好意を持たれたいと思うのは自然では無かろうか。うん、自然なはずだ。
「あらまそうなんですか。じゃあ、帰ってきて早々に食べに来てくれたんですね~、嬉しいですね~。じゃあ、いつもの席に居る奴らどかしてきちゃいますんで、ちょっと待ってて下さいね!」
そう言いながらいつもの席、というか勝手にそう思っている店の奥の角のテーブルに向かって行ってしまった。別にそこを指定した訳ではないのだが、一応入口からも一番遠い上座的な席らしい。
その席で偉そうに飲んだくれてた野郎共を簡単にあしらってしまうコットンさんは逞しい。
「勇者様~、お席用意出来ましたよ! こちらへ~」
しかもご丁寧に、現地から入口まで良く聞こえるくらいデカイ声でアピールされてしまった。当然店内の面々から一斉に注目を浴びる事になる。
「今回は俺のせいじゃないよな……?」
「もう少し物事を考える。女王様にもう一回報告行く?」
「まぁ流石にコレはソウジが可愛そうだがな。しかし、これで今日の晩には町全体が知っているだろうな」
「帰ったら報告すっか……」
予期せぬ大告知に、帰ってからの小言を考えると胃が少し痛んだ。食べる前から胃の心配をするとは思わなかった。
ジロジロと好奇心混じりで向けられる視線に耐えながら、用意された席に座る。ヒソヒソと何か話している輩も居るが、何を話しているかなど聞こえては来ない。
「ご注文はどうしますか?」
「飲み物は果実のジュースで。食事は俺は山羊ステーキ、真由も同じのでいいか?」
「オススメならそれでー」
「あたしは山菜とキノコのソテーにパンで良いわ」
「私もシェンナさんと同じので~」
「私は焼魚定食」
「俺も山羊肉ので頼む」
「はいは~い、承りました~。ところでその、勇者様と同じ黒髪の方はどなたですか?」
「ああ、こいつは妹だ」
「えー! じゃあ、もしかして勇者様が解雇されて、新しい勇者様として呼ばれた方なんですか?!」
「え、いや俺は解雇されてないよ……?」
「えー! じゃあ、もしかして兄妹で二人共勇者ですか!」
「え、いや……まぁ。そういう事……?」
何故だ。何故こうも的確に情報を拾ってくるんだ。どんどん情報が流れ出るじゃないか。
「料理長に腕を振るうように言ってきますね! 勇者様二名が愛した味『山羊の蹄亭』の名物ステーキ、これは良い宣伝文句になるわ~」
小躍りしながらコットンさんは行ってしまった。真由がジト目で見てくるのが辛い。テーブルにガツンと頭を打ちつけて反省の姿勢を見せる。
「今のはなぁ……擁護出来ないな」
「不可抗力だろ……」
「黙ってれば良かった」
「そうは言ってもな……」
「ソウジ君、少し黙ってた方が良いんじゃない? このままじゃ夜まで待たずに兄妹勇者二名が居るって広まるわよ?」
「食い終わったら予定変更してフィリス女王の所行くか……」
「そうした方が良いだろうな。まぁ折角の食事だ、せめて食い終わるまでは楽しく行こうじゃないか」
「うー……」
完全に轟沈した俺の所に、コットンさんが飲み物を持って帰ってきた。
「あれ、どうしたんですか? お腹痛いんですか?」
「いや、あのコットンさん。俺が帰ってきてるってのは国が発表するまで内緒に出来ないかな?」
「えー? でも、私が言わなくても勇者様の顔くらい知ってる人は一杯居ますからね。出歩いている時点で無理じゃないですか?」
「そういや、そうだよね。あれ?」
「ソウジ、お前が居る居ないじゃない。マユちゃんの正体についてが秘匿情報だ」
「あ、そうか。コットンさんは俺がアルテミアから居なくなったって知らなかったんだよね?」
「そういう噂も聞きましたけど、お触れが出た訳では無いですからね。てっきりお城に住んでるか他の大陸に行かれたのだと思ってましたよ」
「ほらな? 関係者以外はそういう認識なんだよ。だから女王様が仰りたかったのはマユちゃんについてだ」
「あーなるほどね……という訳でお願いしますね、コットンさん」
「は~い。マユちゃん、で良いのかな? 外見とかそういうのも含めて喋らないようにはしますね~」
「あい、お願いします。あぁ何か一気に疲れたよ」
笑顔で了承の意を表して、コットンさんは別の客の所に行ってしまった。再度テーブルに突っ伏しながらぐったりとする。
「自業自得だ。しかし、これで何も起こらねば良いのだが。先日の襲撃で町中からも不安の声を聞くしな」
「邪神ってのが、追加で召還された妹ちゃんの存在から作戦に勘付いて、先手打って仕掛けてこないとは言えないものね」
「潜伏している勢力が有るとして、情報収集役なのか単なる奇襲用の伏兵なのか。普通に考えれば両方なのだがな」
「準備出来る前に来られたら、爺さん勝てるのかな……」
「どうだろうなぁ。マユちゃんの剣だけでも早めに貰っといた方が良いかもな」
「『ハイランド』、伝言頼む」
『了解ジャン。ちなみに途中経過だけど、アルテミアに残ってる勇者のうち二名と交渉して一人は快諾してくれたらしいジャン。もう一名はダメ』
「なーーーんでだよ! 暮らしてる世界の一大事だぞ、断ったヤツ誰だよ!」
『『アクエリア』のトコの勇者ジャン。現在妊娠中、しょうがないジャン』
「うあ、それはしょうがないな……って女の人だったのか」
『あの国の王子様と結婚したらしいジャン。ソウジよりは早かったけど、終戦したのがソウジの半年前。で、ソウジの終戦を聞いて結婚式を挙げたらしいジャン』
「そうなんだ……ちゃんと全部終わるまで待ってるとか超良い人じゃん」
『ソウジがもうちょっと早く終わらせてれば間に合ったのにジャン』
「それでも赤ん坊抱えて戦えないだろ。あー、じゃあその抜けた穴埋める時間もあるし、余計ヤバイじゃねーか」
『帰った勇者に交渉行く前に、神剣だけは持って来てくれる様にはしてくれるらしいジャン』
「そいつは何よりだが、案外前途多難だな」
防衛用の勇者が揃って、仕掛けてから更に順調に行って一ヶ月以上。年内決着は厳しいようにも思えるのだが、負けないようにするなら仕方が無い事か。
「は~い、まずは山菜とキノコのソテー二名さま~。シェンナさんとーミーララさんだっけ?」
「ですです、あー良い香りですね。このちょっと焦げた感じとか懐かしいですねー」
「懐かしいって……ミーララさん先々月くらいまで来てたじゃないですか」
「ちょっと食文化の違う場所に行ってたので、ついつい」
「旅行行かれてたんですかー、良いですねー」
給仕しながら世間話までこなすというプロの看板娘の技を見た気がする。喋りながらも目は他の担当テーブルに向けられていたようで、帰り際に空いた席の片付けに一直線だ。厨房に消えていった後、今度は三皿持って出てきた。
「はい、こちらが当店名物山羊肉ステーキですよー。熱いから気をつけて下さいねー」
鉄板では無いが、焼き上がりのアツアツ肉が乗った皿が真由の目の前に置かれる。量は200g程とそこそこあるが、足らないヤツは二倍盛り三倍盛りと金次第で出来る。ちなみにお値段は銀貨5枚。日本ならワンコインだ。
「結構……ボリュームあるね」
「マユなら余裕」
「あと、さっきから気になってたけど……これの臭いなのね……」
「あ、妹ちゃん。もしかして山羊肉初めて?」
「う、うん。ジンギスカンは食べた事あるけど、ここまで臭いが凄いのは初めてかな」
「ソウジ君は気にしないで食べてたから、あっちの人は平気かと思ったけどやっぱり臭うわよね……」
「そんな気になる程じゃないけどな?」
モギュモギュと早速頬張っている俺を、判らないって顔で真由が見てくる。美味いんだがな?
「とりあえずー……一口」
恐る恐る山羊肉を口に運んだ真由の眉間が凄い勢いで皺だらけになる。ムームー言いながら果実ジュースで流し込んで一言。
「なんか、口の中が動物園みたいになってる?」
「意味わかんねーよ……」
「妹ちゃんに昼時のこの店はちょっと厳しいかもね。混雑時だと下拵えの手を抜くのよ、ここ。空いてる時間ならもう少し臭いも少ないわよ」
「ほー、そうだったんだ。大して変わらないんだがな」
「ソウジ君はそういうとこ鈍感なんでしょ? 妹ちゃん、こっち食べなさい。あたしはソレで良いわ」
「うう、シェンナ姉さんありがとう……」
断る素振りすら見せずにシェンナの皿と交換している。そこまでダメだったか。
「でも、シェンナも臭いんだろ? 大丈夫なのか?」
「あたしは……魔法の粉が有るのよ」
「魔法の粉? 何だソレ?」
得意げな顔で手さげのポーチから、小さな透明容器を取り出すシェンナ。凄い見たことがあるシルエットだと思ったが、百均とかで売っている塩とかを入れて振り掛けるヤツだ。色が色なので中身はすぐに見当がついた。
「カレー粉かよ!?」
「正解~、こういう用途でも使うって聞いてね。正直、野営の時の獣肉は臭くてねー」
「しっかりしてんな……」
二・三回振りかけて、一瞬躊躇っていたのはご愛嬌か。大丈夫と思っても記憶の中の臭いが蘇るのだろう。口に放り込むと、露骨に微妙な顔になった。失敗だったようだ。
「確かに……かなりマシになるけど、元が結構凄いわね。消えるというより、主張して混ざり合ってるから、なんとも言えないわ……」
「まぁ臭いだけなら香草使えって事だな」
「残念ね、まぁ下拵え次第で普通の獣肉なら大丈夫そうかな?」
分量を変えながら残りの肉で実験するシェンナ。アルマは最後に来たのに既に食い終わっているし。取り替えて貰ったソテーは美味しいようで、真由もニコニコで食っている。
そんな食卓の風景を眺めながら、王城に帰った後の事を考えて少し胃が痛むのだった。
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