閑話:世界の狭間にて
一章で総司が思った疑問点の回答回です。
どこまでもどこまでも白い道は伸びている。横幅も日本の一般的な車道くらいはあるだろうか、それなりに余裕はある。あるのだが、もし滑落したらどうなるというのだろう。
そんな事を考えながらただひたすら歩く。景色の変化が全く無いので進んだという実感も無い。時間の感覚も怪しくなってきた頃、ついに真由がダレた。
「つまんなーい! つかれたー! 想像してたのと違うー! やすみたーい!」
その場にペタンと座り込み、駄々を捏ねる。他のメンバーも苦笑するばかりで怒ろうとはしない。体感で言えばもう2時間くらいは歩いているだろうか。『渡り手』の速度は判らないが、アレなら10分もせずに到着と馬鹿剣が言っていた気がするが、現状はゴールすら見えていない。そりゃ気持ちも折れるというものだ。
全員の気持ちを代弁して爺さんに尋ねてみる。
「なぁ、爺さん。後どれくらい掛かるんだ?」
「ようやく半分といった所かの。休憩するか?」
「やっと半分かよ。じゃあ区切りも良いし、休憩にしよう」
「やったー! ミーララさん、お茶とお菓子出して!」
「はーい」
「あんまり端に行くでないぞ。道を外れれば面倒な事になるでな」
やっぱり滑落したらロクな事にはならなそうだ。ミーララから回ってきたお茶を爺さんに渡し、その場に腰を降ろす。俺の分のお茶と一緒に煎餅も回ってくる。別に容量が増えるような術が掛かっている訳でも無いのに、ミーララのリュックからは本当に何でも出てくる気がする。
「やはり煎餅にはお茶じゃのう。贅沢を言えばほうじ茶の方がええのう」
文句を言いながらも美味そうに食っている爺さんだが、そもそもこの人は食う意味があるのだろうか。エネルギー源は別とか言っていた気がするが。
「何じゃジロジロ見て? カスが髭にでも付いとるかの?」
「いや、そうじゃないけど。食う意味あるのかなってね」
「まぁ気分の問題じゃな。姿に順ずる感覚というのもあるのじゃよ」
「本当良く判らない生態してんな……」
この爺さんに関しては『未知』という事で色々納得するしかないと割り切っている。詳細に爺さんの生態を解明した所で俺には関係の無い事だ。
お茶と煎餅で多少疲労が回復すると頭も回ってくる。休憩時間、爺さんが真横というポジション、絶好の質問タイムだ。何を質問するか整理しつつ早速爺さんに話しかける。
「そういや爺さん、ちょっと質問いいかな?」
「ん、何じゃ? 答えられる範囲なら良いぞ」
了承が得られた。まずは観光についてかな。
「この間、かすみちゃんにアルテミア観光の許可出したじゃん? アレって他にも居る面倒見てくれた人はダメなの? うちの両親とかさ」
「別に構わんぞ? 元の世界に戻ってから他言するのは禁止じゃがな。そこさえ守ってくれれば、何も問題はありゃせん」
「え、そんな緩いのかよ……あんなお別れしといて、どんな顔で言えば良いんだそれ……」
「別に誰でもという訳ではない。お主らはもうアルテミアに関わった人物じゃ。いちいち上司に新しく許可を貰わんでも済むからという話じゃて。大々的に観光旅行を企画してツアーを組まれても困る」
「儲かりそうだなー、異世界観光ツアー。ダメ?」
「ダメじゃ」
でもこれで了承は取れたので一安心。最悪でも結婚式には両親を呼べそうだ。というか、このノリなら行き来できるんじゃないのか? と、聞いてみる。
「じゃあ、関係者だけでも節目節目で行き来出来るかな?一年に一回とかで良いからさ」
「それは……上司次第かのう。ワシに許可されているのは原則として一生命体に一往復の渡航だけじゃ。今回のお主と他二名の帰還した勇者が戻れる場合のみと限定されて、二回目の許可が降りたのじゃ。正直難しいと思うの」
「そうか……」
やっぱりそんな美味い話は無いか。さて、次の話題だ。流れに乗って自然な感じで話を繋げる。
「じゃあさ、元から『勇者召還』なんてせずに神剣をアルテミアの人で使えば良いじゃん? 何でわざわざ外から呼ぶのさ?」
「それは簡単な事じゃ。神剣は有事に備えての物、アルテミアの者が何時でも扱えては要らぬ争いが起こる」
「別にそれじゃ勇者が永住したら意味無くないか?」
「その為の『勇者強制送還』じゃ。抜かりないわい」
「あー……お陰で良い迷惑だよ。全く」
「そんな使い方するとは思わなくての。そろそろ一回降臨でもせんと、ワシの言葉も軽くなってきておるようじゃのう」
「あの派手な登場なら暫くは威厳も保てるんじゃないかな」
「そうしようかのう。あの姿は肩もこるし、あんまり好きじゃないんだがのう」
トントンと肩を叩きながらお茶を啜る爺さん。敵だ味方だ言うのも疲れるくらい拍子抜けしたので、そこは飛ばそう。後は何か有ったかな?ああ、ガルファリオンの件を伝えておくか。
「そうだ、爺さん。うちに居た元魔族のヤツが言ってたんだけど、同じ様に魔化結晶を付けたヤツがまだ潜伏してるかもしれないらしい」
「ほう、可能性は考えて居たがやはりそうか。アヤツも知恵が回ってきたのう。本当に今回は成るべくして成ったという事か。素直に反省すれば良い物を……」
そう言う爺さんの言葉はちょっと寂しそうにも聞こえた。個体数の少ない同族を滅ぼそうというのだから、そういう感情にもなるのだろうか。そこら辺を含めて少し興味が沸いたので話を聞いてみる。
「爺さんさ、邪神って結局何をしたわけ? お仕置きされてたわけでしょ」
別に邪神を庇う訳ではないが、死刑に相当する処罰だ。相手の事も聞いてみたい。少し間を空けてから爺さんが話し始める。
「若い神は力の加減を覚える為に、他の生命体を手に掛ける輩を罰する役目を負うのじゃ。有体に言えば『滅びの神』じゃの。そこでどのような技術、どんな思想を持った生命体が台頭するとそうなるのか学ぶのじゃ。その経験を生かしそうならないように調整するのが管理神の仕事。どんな生命体も何れは星の外に出る、その時に他を排除しないように思想を調整するのじゃ」
「ラブアンドピースか。大宇宙連合でも作れば良いのかな?」
「どこかの神の領地では既に有るらしいがな。ワシの管轄ではまだまだ先の話じゃて。さて、邪神の話に戻すかの。アヤツは滅ぼす事に酔ったのじゃよ。たまに有る事じゃ、命を統べる全能の者と舞い上がりまるで関係無い星を三つ滅ぼした」
「それで死刑にならなかったのに、今回は転移させただけで死刑なの?」
「普通は無いな。じゃがヤツは封印される前に最後に言ったのじゃ。いつか必ず貴様の世界を全て滅ぼしてやるとな。今回、アヤツは渡航術を覚えた。今はまだ送り出してもすぐに消えてしまう眷族じゃが、何かしら対応してくる可能性はある。そうなる前に、という事じゃな」
「なるほどね。でもさ、最初に破壊神やらせるからそうなるんじゃない? 管理しながら加減を覚えれば良いんじゃないの?」
「昔はそうだったんじゃが、お主の知識で判りやすく説明しようかの。例えば、星の生命体が暑い暑いと苦しんでいたとしよう。お主ならどうする?」
「え、そんなの涼しくしてあげれば良いんじゃないの?」
「そこで加減を失敗した結果、極寒の星になって生命が死に絶えた。結果だけ見れば『滅びの神』より性質が悪い」
「爺さんが恐竜滅ぼしたのか……」
「ワシの話じゃないぞ? ワシの前任者の話じゃ。どうだ、判りやすい例えじゃろ?」
「すげぇ納得したわ。だったらどうせ壊す物でやらせた方がマシって訳か」
「聞こえは悪いがそうなるの。まぁそのお陰でお主ら人類が台頭している訳じゃから、結果がどうなるかなど、ワシらも判らんという事じゃよ」
考古学に一石を投じる会話をしながら、十分な休息が取れたと実感する。聞けば結構答えてくれる爺さんにお礼を言って立ち上がる。
「おーし、残り半分らしいし。そろそろ行くぞー!」
「「お~」」
メンバーの体力も十分に回復したようだ。地味な徒歩移動の異世界転移はこうして再開されたのだった。
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