表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
送還勇者と来訪者  作者: 神月センタロウ
現代日本編
31/115

30:これがある日の糧となる

閲覧有難うございます。

気が付けばPVも1万を超え、総評価も最初の目標100を達成出来ました。

修正作業をするような拙い設定で始まった投稿ですが、次の目標を据えこれからも頑張って書いていきたいと思います。

 決戦の日の朝。目覚まし時計など問題にならないくらい早く起きてしまった。いつもなら寝起きは悪い方なのだが、この日ばかりはと目が覚めると同時に意識が覚醒する。その勢いで時計を確認すると5時30分。いくらなんでも早すぎたと早々に後悔する羽目になった。


 パジャマ代わりにしているTシャツの上に一枚羽織り、二度寝などしないようにと一階に降りてコーヒーを淹れる。香りによる刺激も強くなるようにホットにしようと湯を沸かし、無人のリビングのTVの電源を入れて沸騰するまで暫し待つ。沸いたやかんの火を止め、インスタントの素を入れておいたカップに注いで一口。


「美味い」


 TVのCMかというような光景だが、俺の体に力が漲ってくるのを実感する。これで今日一日戦える。今日の俺に失敗は許されないのだ。優雅な時間を愉しんでいるとリビングのドアが開きミーララが入ってきた。まだ眠いのか目を擦りながら、パジャマ姿で台所の方へと歩いていく。


「おはよう、ミーララ」

「ふぁい、おはようございま……え、ソウジさん?!」


 朝の挨拶をすると、まるで幽霊でも見るかのような顔で俺をマジマジと観察してくる。一瞬で眠気が覚めたらしく、目を真ん丸に開いていた。


「てっきりママさんだと思ってました。何でこんな時間に起きて、しかも優雅に寛いでるんですか……」

「今日は何故か目が覚めてしまってな。良い朝だ」


 カーテンを少し開け、天気が雨では無い事を確認しながらコーヒーの入ったカップを傾ける。そんなサマになる構図の俺をミーララが半目でジーっと見ている。


「何故かって……あー、今日はデートでしたっけ?」

「そういえばそうだな。うん、実に清清しい朝だ」

「楽しみすぎて早起きしちゃったって事ですか……子供ですか」

「子供なら寝られないだろ、俺は逆に良く寝すぎたんだよ」

「あんまり変わりませんよー、まだ6時前じゃないですか。大きな音を立てて他の方を起こさないで下さいね?」


 一言注意してからミーララは台所に消えていった。TVでは早朝のニュースが流れているが、別に見る気は無い。ソファに腰を降ろし再度コーヒーを飲みながら画面を眺める。うん、本当に何しよう。する事が無さ過ぎる。





「いってらっしゃーい、お土産宜しくねー」

「晩御飯までには帰ってきてね~」


 真由と母さんに見送られ、俺とセリスは田舎の都会、三条ヶ崎へとお出かけだ。予定通りの10時に出発したのだが早朝の莫大な時間は本当に苦痛だった。ミーララが起きてくる人に次々と俺の事を話して回って行き、それを聞いた面々がソファで寛ぐ俺を見て大笑いしていた。しかも相手である肝心のセリスが9時30分まで爆睡していたのだから余計に俺の立つ瀬が無い。


「さて、このまま何事も無ければ昼前くらいには到着出来るな。トーストだけだったけど向こうに着いてから昼飯で大丈夫?」

「勿論大丈夫ですよ。アルマさんやミーララとは違いますからね?」


 頭の中で今日の予定を反芻しつつ、いつもと違い俺の腕を抱きかかえる形のセリスに確認する。この体勢……入れ知恵をしたのは真由だろうか、褒めてやるしかない。しかし、これは朝一から俺の心が試されてるとしか言えない状況だ。これが噂の「当ててんのよ!」か。非常にけしから有難う御座いますとしか表現出来ない。


 デートという名目のお出かけなのだが。セリスの服装は髪をなるべく隠す為に帽子を被るので、ジーパンとTシャツの上に七分袖のシャツと少々お洒落には欠ける感じだ。本当はふわふわのスカート姿でも見たいのだが、如何せん帽子が野球帽タイプの形の物しかない。スカートに合わせるのは至難の業なのが悔やまれる。


「ソウジ様と二人でお出掛けなんて初めてですね。昨日の夜はちょっと眠れなくて、寝坊しそうでしたし」


 ご機嫌で語るセリスの言葉で朝一のミーララとの会話が頭を過ぎった。いや、セリスは子供じゃない。人間幾つになってもそういう時は有るのだと自分の心を説得する。


「本当は遊園地でも行きたかったんだけどね、流石に日帰りだとロクに遊べないし厳しいよな」

「行ってみたかったですね。マユが凄い楽しい所と言ってましたし」

「全部終わったら神様に頼んでみようか。一旦戻してもらって、帰るまでの間に皆で行っても良いしさ」

「そうですね、大勢の方がそういう場所は楽しそうですね」

「願い事がどうのこうの言ってたし、その線でお願いしてみるとするか」

「今から楽しみですね」


 他愛の無い会話だが、必ず帰ってくるのが前提だ。別に無理をする気も無いが、邪神を倒して生きて無事に戻ってくると改めて決意する。そこが最低ラインだ。それ以下は失敗と言ってもいい。


 気が付くとバスがこちらに向かってきていたので運賃の用意をする。もうデートは始まっているのだ。少しの時間も無駄にせずに、本当に他愛の無い会話も愉しむとしよう。





 量販店が立ち並ぶ駅前の中でも真由のオススメの店があるという商業ビルに入る。10代の女子に大人気のブランドがあるとの事だ。父さんからセリスのお土産分のお金を前倒しで貰い、更に今回のデートの資金援助までして貰ったので財布は暖かい。こういう資金を出してもらうのは気が引けたが、格好付けられないのも嫌なので背に腹は変えられない。


「こちらの店ですかね、可愛らしい服が一杯ありますね」

「うん、店名も聞いた奴だね。入ってみようか」


 女性服売り場の一角に、明らかに客の数が多い店が有ったので見てみると正に大当りだったようで。大人気というのも頷けるくらい平日の昼間なのに客が多い。しかも女性ばかりで俺には非常に入り辛い感じだ。しかし、ここは度胸。セリスの為に我慢しようと覚悟を決めて店へと向かう。


「どれもこれも可愛いですね。生地も見たことがないような物が多いですし、迷ってしまいますね」

「ここだけじゃなくてお気に入りの何か見つけるまで回っても大丈夫だよ。無理して決める事もないし。それなりに貰って来てるから値段も気にしないで平気だよ」

「値段は読めないのでご心配無く。本当に良さそうな物を選びますね」


 そう言いながらセリスが店内の奥へと消えて行ってしまったので、一人で取り残される形となる。野郎がこんな店の店先に居るのも目立つので慌てて追いかけると、所狭しとディスプレイされた洋服が目に入る。


 フリルだらけとかそういう種類の店ではないようで、置いてあったパンフのを読むとコンセプトは『カワイイとスポーティの融合』らしい。それを念頭に改めて店内を見渡すと確かにパーカーやジャンパーのような物も多い。アクセントでフードに兎耳が付いていたりする程度で、確かに真由が好きそうな感じだ。寧ろアルマにも合っているのではないだろうか。


 そんな寄り道をしながらセリスと合流すると見事に店員に捕まっていた。地味な格好をしてはいるが、中身は北欧系の美少女だ。店員が目敏く看破したのだろう。既に帽子は没収され、綺麗なブロンド髪が露出した状態でオススメ商品を宛がわれていた。


「セリス、どうだー?」

「あ、ソウジ様。こちらどうでしょうか? 似合いますか?」

「彼氏さんですか? 彼女さんならうちの商品どれでも似合いますよ! どうですか!」


 薄いピンクのウサミミ付きパーカーをセリスがこちらに向けてみせてくる。良く似合っていると感想を述べようとすると、グイッと店員が距離を詰めてきた。


「どっかの雑誌のモデルさんですかね? いやー長い事ショップ店員やってますけど、間違い無くNo1ですよ。 彼氏さんもどうですか、私のオススメの店あるんでそこで一緒にオシャレ決めてこの後のデート愉しんでみませんか? 勿論、彼女さんは私が責任もってコーディネートしておきますから~。もう本当やりがいありすぎですよ。後で写真撮らせて貰っても良いですかね? あ、いや、悪用はしませんよ。うちのショップで飾りたいだけなんですよー。もう、こんな良い素材に量販店の服とか、彼氏さんも鬼ですね~」


 ドン引きだ。良くもまぁ舌が回るもんだ。この店の服であろうパーカーに短パンといった格好で、凄い人懐こく愛想が良いのは分かるがこの勢いはキツイ。若干距離を取って離れると、スススと静かに距離を詰めてくる。店員からは逃げられない!


「ソ、ソウジ様。大丈夫ですか?」

「ああ、うん。大丈夫……かな? それ気に入ったならそれにしようか。似合ってるし可愛いよ」

「え、ええ。では、すいませんがこちらをお願いします。他の商品も可愛かったのですが、本日はこれだけで」

「はい~。でも必ずまた来てくださいね! 商品の袋に私の名詞入れときますから、その時は是非上司にも会って下さいよ~、絶対専属のお話とか出ると思うんですよ~」


 これは早々に退散せねば……俺達にはこの店はまだ早すぎる。魔族とは違う商人の手強さを感じながら逃げるように俺達は店を後にした。





「どこの世界も商人は逞しいですね……気が付いたら捕まってしまってました」

「いや~……あの人は相当やり手なんじゃないかな。ショップ店員って皆あんな感じなのかな……」


 未知の領域の恐怖を語りながら、地球のジャンクフード文化の帝王であるハンバーガーを頬張る。やっぱりこういう庶民的な店の方が落ち着いてしまうのは俺の器なのだろうか。セリスも勿論美味しそうに食べている訳だが、王宮の料理とは違うジャンルで珍しいだけなのかもしれない。


「ハンバーガーは美味しいですね。この中身ならアルテミアでも再現出来そうですし、ミーララに頼んでおきましょうね」

「確かトマトの種も荷物に入ってたしね。ケチャップが導入されたらアルテミアの料理に革命が起こるな」

「ケチャップだけではありませんからね。醤油、味噌、マヨネーズ。どれもアルテミアで原材料の育成が上手く行けば、お料理の味も格段に上がりますよ!」

「文化侵略で神様から待ったが掛からなければいいけどね……」

「どうなのでしょうね。実際私達はあの方の実験農場のような箱庭の住人ですし、どこまでが許される物かと想像が出来ませんね」

「実験農場か……そういう風に言われると嫌な感じじゃない?」

「そうとも思えますが、あの方を直に見た感想から言えば愛情を注いで頂いているのかなとは感じとれますからね。可愛がられているペットのような物でしょうか?」

「ペットって言い方もどうかと思うけど。でも確かに悪いようには扱わないだろうって気はするよね」


 セットのポテトを摘みながら、爺神様の事を思い出す。現状まででは確かに気の良さそうな神様だが、実は!というパターンの話も多々有る。実際にそういったお約束にはまった俺だから変に疑っているだけかもしれないが、全面的に信頼するにはまだ時間が足らない気もする。


「信じて良いもんかねぇ、あの爺さん」

「現状は信じるしか出来ませんけどね。第一今までのお話で私達を騙しているとしたら、どこが嘘で何があの方の利益になるのかが見当も付きませんし」

「んー……例えば元々アルテミアは邪神の領地で、爺さんの方が横取りしたとか?」


 さしあたって思い付く物も無いので適当に言ってみたが、自分でもすぐに違うと判る仮定だった。


「だとしても、現状の私達の世界を守るという点ではあの方は味方ですね。礎になっているのが眷属である神剣の方々ですし、現に何度も邪神の攻撃で被害は受けてますからね」

「だよねー。やっぱり現状のアルテミアを守るって意味では、邪神が敵、爺さんは味方で良いのか」

「他にあるとすれば、邪神を倒しても私やマリーさんが元に戻らないという感じでしょうか……でもそうすると、アルテミアの住民の私達が戻れないので、結局上司に怒られてしまうのであの方には利益は有りませんね」

「上司に怒られるのが嘘……いや、だったらセリス達をこのままこっちに居させる方が面倒は無いはずだしな。いっそ全部複合で、邪神から領地を奪って我が物にしたい、上司には怒られないけどセリス達を戻したい。無理矢理すぎるか」

「まぁ疑うだけならどうとでも取れますからね。案外普通に信じていた方が簡単な話かもしれません。何より私に力を貸して下さってた方ですから」

「違い無い。議論するだけ無駄だな」


 言いながらポテトに手を伸ばすといつの間にか無くなっていた。折角のデートなのに自然と仕事の話をしているような雑談を辞め、町へと戻る事にする。


 流石に10月も半ばに差し掛かると、日の入りが早く感じるようにはなった。服の他にアクセサリーや小物など、女の子らしい店を巡りそれなりの収穫が有ったので暗くなる前に家に帰ろうと駅へ向かう。勿論真由に土産など無い。


 駅前で行動していたのですんなりと茅蒲野駅まで戻ってきてしまい、まだ時間はあるのでどうせならと歩いてゆっくり帰る。長い長い坂を寄り添うように二人で歩く。もうすぐ暫しのお別れだと、その温もりを存分に堪能していると不意にセリスが町の方を振り返り呟いた。


「こんなにも発展した文明が有るのに、アルテミアとは自由に行き来は出来ないのですね」


 見つめる先にあるのは、ポツポツと明かりの灯り始めた茅蒲野の町。更に遠景には海を挟んだ工場地帯の明かりだろうか、キラキラと輝いているのが見える。


「もしかしたらどこかの国がもう発明してるかもしれないけどね。一般人にはまだ想像も出来ない技術だよ。やっぱ爺さんの術は流石神様って感じだよな」

「『勇者召還』という術、何故有るのでしょう。アルテミアの住人から神剣の所有者を決めれば、こんな回りくどいやり方をせずとも良さそうな物なのですが」

「そういえば……何でだろうね。今度聞いてみるか」

「そうしましょうか。でもその術には感謝しましょう、こうして今ここに私が居れるのはそのお陰なのですから」


 アルテミアの住人はクサイ台詞が良く似合う。いつかの真由との遣り取りを思い出した。でも、今ならその時に真由が言っていた意見にも賛成だ。心からそう言っているのが凄く伝わってくる。そっとセリスの肩を引き寄せ、夜景に変わりつつ景色を眺めながら自然な感じで思いを伝える。


「全部終わったら、ちゃんとした結婚式挙げような」

「……はい」


 来週までには真由の手続きも終わるだろう。そこからは俺の領分、この誓いをフラグにしないように全力でやらせて貰おうか。

 お読み頂き誠に有難う御座います。


 もしお気に召して頂けましたら、ブックマークだけでもして頂けると励みになります。感想も書いて頂ければ舞い上がります。


 お時間御座いましたら是非お願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ