魔王軍からスカウト来たけど、焼きそばパンの方が大事です
王国に狙われ、魔王軍に目をつけられ、挙げ句の果てには「観測外個体」認定──。
え、ちょっと待って? 俺ってそんなにヤバい存在だったの?
今回も、スキルが勝手に働く系男子・カグラが、平和に焼きそばパンを食べたかっただけなのに、世界の裏事情に巻き込まれていきます。
新ヒロイン(保護者?)セリスティアの覚悟も垣間見えつつ、
ますますカグラの“存在”が謎に包まれていく話、はじまります!
──空間が“ゆらいだ”。
まるで、誰かが世界のプログラムを一瞬だけ書き換えたかのような、そんな違和感。
「……なんか、またバグったかも」
「この世界、壊れてない……?」
セリスティアと顔を見合わせたまま、俺たちはしばらく固まっていた。
だが次の瞬間──
「カグラ=シノノメ! そこにいるのはわかっている!」
「出てこい! 魔王軍と接触した件について、王国の正式な取り調べだ!」
うわ、なんか物騒なの来たーーー!!
魔術院の正門前に、めっちゃ重装備の人たちがずらりと並んでる。
盾とか持ってるし、もうこれ完全に“戦争始めます”のフォーメーションだよね?
「え、俺、何もしてなくない? ていうか、焼きそばパン食ってただけだよ!?」
「うん、たしかにそうだったね……」
セリスティアはちょっと困った顔で微笑む。
なんだその“イケメン彼氏が事件に巻き込まれても許しちゃう彼女”みたいな顔は。
「カグラ様、王国からの正式な呼び出しです。すみやかに同行を──」
「嫌です」
「即答!?」
「いやだって俺、まだ腹減ってるし。あと、眠い」
完全にやる気ゼロの俺を見て、兵士たちは顔をしかめる。
中には「こいつマジでヤベェやつじゃね?」みたいな目で見てるやつもいた。
そして──
「王立魔術院、監察官のメルゼス・クローディアスだ」
やってきたのは、いかにも偉そうなローブの中年男。
すんごいオールバックで、目つきもするどい。
「貴様のスキル、“絶対無効(Ver0.01β)”の検証を行う。
──全力で」
「いやそれ、やる気満々じゃん!? 検証っていうか俺、なんかされるやつだよね!?」
そして次の瞬間、メルゼスの背後から光の魔法陣が浮かび上がった──。
メルゼスの魔法陣から、巨大な光の矢が放たれた!
「うわっ、ちょ、マジで撃つの!? 実技試験とかじゃないの!?」
「問題ない。“絶対無効”が本物なら、貴様にダメージは通らぬ」
「いや精神的ダメージは通るわ!!」
ドゴォォォン!!!!
爆音とともに辺りが白く染まり、砂煙が舞い上がる。
……そして、煙の中からぬっと出てくる俺。
「……ほらな、こうなる」
服はボロボロ、焼きそばパンは──
「うわあああああ! 半分潰れてるゥゥゥ!!」
「……何を嘆いているのだ、貴様」
周囲がどよめく中、俺は地面に正座して、潰れたパンを眺めていた。
「いいか!? 食いもんに被害が出たら、話は別だからな!!」
「君の怒りポイントそこなんだ……」
セリスティアが呆れ顔でため息をつく。
そのとき──
「こらー! 王立魔術院が何をしてるのー!?」
どこからともなく、威勢のいい声が飛んできた。
金の髪がひるがえり、空から優雅に“何か”が舞い降りてくる。
「また来た!!」
「ふふん、カグラ! 今度こそ堂々と名乗るわよ!」
降り立ったのは──
「セリスティア・アルマ=レーヴェ! 王国第三王女にして、カグラの保護者です!」
「……やっぱ姫だったんだこの人」
「お前、ほんとに今知った感じだな!?」
兵士たちがざわつく。
「第三王女!? え、あの人が!?」「本物か!?」「というか、焼きそばパンの彼となんで一緒に!?」
「焼きそばパンの彼って言うな!!」
俺の中で、“王国の人たち=面倒くさい”のイメージがどんどん強まっていった。
「ま、まぁ落ち着こう? 一旦、焼きそばパンを食べながら話し合おう?」
俺がそう提案すると、周囲が一瞬だけ静かになった。
……が。
「まさか、貴様……“焼きそばパン交渉術”を……!?」
「そんな禁断の外交手段が……!」
「いや、ただ食ってるだけだよ!!」
カグラはもぐもぐとパンをかじりながら、事態を整理しようとする。
「まず俺が無敵で、魔王軍にスカウトされて、でも保護者(王女)がついてて……いま魔術院とやらにも狙われてる、と」
「大丈夫よ。私が全部対応するから」
「やっぱ頼れるなあ、保護者」
そこへ、さっきのメルゼスが不満げに割り込んでくる。
「だが、彼のスキルは危険だ。“全属性無効”など、下手をすれば世界の法則にすら影響を及ぼしかねん」
「へぇ、そこまでいくともう……神じゃね?」
「いや、そっち方向には行かせない!」
そのとき──
ポンッ。
手のひらサイズの魔導端末がカグラの懐から飛び出した。
画面には、赤い警告表示。
【Warning:スキル干渉が検出されました】
【系統外スキル“???”により空間安定性が崩壊しかけています】
「おいおいおい……“???”ってなんだよ! バグかよ!」
「それ私も気になってた。あんた、最近“何か”変な夢とか見なかった?」
「え、夢? そういや昨日──」
《ザザッ──ノイズ……同期中────エラー──》
端末がバチッと火花を散らして、勝手にシャットダウンした。
「うわ、デバイス爆発した!? やっぱバグってる俺!」
セリスティアがぐっと前に出る。
「カグラ。このままだと、また狙われるかもしれない。
だから、今度こそ──私と一緒に、ちゃんと“拠点”を作ろう」
「拠点?」
「そう、焼きそばパンがいつでも食べられる環境を整えるために!」
「超大事なやつじゃん!!」
──《白の庭園》、それがセリスティアの拠点だった。
王都の北西、常人には見えない“結界の扉”を越えた先──
そこには、別世界のような空間が広がっていた。
「おぉ……めっちゃ庭園じゃん……!てか、Wi-Fi通ってたりする?」
「え? ……Wi-Fi? なんの属性?」
「文明属性だよ」
白い石畳に、整えられた花壇。中央には小さな噴水があり、まるで貴族の別荘みたいな雰囲気だ。
だがこの場所は、王国にも魔王軍にも属さない、“完全中立領域”と呼ばれる特異点。
「この結界のおかげで、王国の探知も魔王軍の追跡も完全シャットアウトなの。
魔力的にも特殊で、時の流れも……ちょっとズレてるんだけどね」
「じゃあここで焼きそばパン食って昼寝してたら、明日になってるパターンか」
「そうそう! たまに1日くらい飛ぶけど、気にしなければ大丈夫!」
「……いや、ちょっとは気にしよ?」
カグラは花壇の縁に腰掛け、残り半分になった焼きそばパンを見つめた。
さっきまでのバトルと異常事態が、夢みたいに思えてくる。
「なぁセリスティア」
「なに?」
「……お前、ほんとに姫なん?」
「うん、ガチ姫だよ」
「ガチかよ。そりゃ護衛つくわ」
「でも、抜け出してばっかりで怒られる」
「自由人かよ……」
ふたりの間に、ちょっとした沈黙。
それを破ったのは、セリスティアのやさしい声だった。
「……カグラは、自分の力のこと、どう思ってるの?」
「え? いや、バグってるなーって」
「それだけ?」
「焼きそばパン食ってると落ち着くし……。うん、それだけ」
「……そっか。なら、しばらくここにいてもいいよ」
「……え?」
「あなたを“人間”として見てくれる場所って、少ないでしょ。
ここなら誰も、あんたのこと“災厄”なんて呼ばない」
カグラは、ぽりぽりと頭をかいた。
「……あー、そーいうの、なんか苦手なんだけどな……」
「そーいうとこ、好きだけどね」
「今なんか言った?」
「なーんにも」
セリスティアはくすっと笑った。
──そしてその瞬間、庭園の結界が、微かに“軋んだ”。
見えない何かが、空間の外から干渉しようとしている。
「っ……この反応、魔王軍じゃない……?」
「え、またなんか来たの? 俺、昼寝のターン入ってたんだけど……」
「準備しよ。中立って言っても、平和とは限らないからね」
──静かに緊張感が走る中、ふたりは同時に立ち上がった。
──突如、空間が“裏返った”。
庭園の空が、真紅に染まり、結界が軋む音が空気を震わせる。
「……またかよ。こっちは静かに焼きそばパン食ってただけなんだけど」
「今回のは……今までと違う。魔力の質が違う。これは──」
バチッ、と空間にヒビが入る。
そこから現れたのは、黒衣の使者。
だがラドリウスのような威圧感ではなく、ただ淡々と──“観測”するような視線を向けてきた。
「……カグラ・シノノメ。お前の“存在ログ”が、世界の整合性を乱している」
「は? なんかまた難しい言い方されたんだけど」
セリスティアが一歩前に出る。
「ここは中立の結界内よ。干渉は条約違反じゃないの?」
「我々は“世界律管理機構”。条約の上位概念に基づき、ただ調整を──」
その瞬間、カグラのスキルがまた“勝手に”発動した。
空間がぐにゃりと歪み、侵入者の姿が──一瞬、バグのように“ノイズ化”する。
「……っ!? 干渉不能、概念反射が発生──ッ!」
「え、なに? またなんかバグった?」
「バグじゃなくて、それ……もう“仕様外”だよ!!」
侵入者は慌てて空間の裂け目へと引き返していった。
「対象……“確保不能”。暫定レベル……【観測外個体】。ログ提出を優先、後退する」
──ばたん。
結界の空が閉じ、静寂が戻る。
「……観測外個体って。なんだそのRPGの裏ボス感」
「ていうかカグラ、本当に人間? いろいろ逸脱しすぎじゃない?」
「いや、普通の焼きそばパン好き男子高校生だよ……たぶん」
そしてセリスティアは、ふっと笑った。
「ま、いいや。何者だろうが、私はあんたの保護者。覚悟はできてるから」
「……まじで?」
「まじで」
ふたりは、再び庭園の中央に座る。
その背後では、先ほどまで暴れていた空間が、まるで何事もなかったかのように、静かに揺れていた。
「なぁセリスティア」
「うん?」
「……次、焼きそばパン一緒に買いに行かね?」
「……ふふ、もちろん」
──空は少しずつ、元の青さを取り戻していった。
──次回、「規格外って、もはや何なんですか?」
ここまで読んでくださってありがとうございます!
今回はギャグとシリアスのバランスをちょい調整しつつ、
セリスティアの「本気の保護者宣言」や、“観測外個体”という新たなワードも登場しました。
……なんか話がすごく壮大になってきた気がしますが、本人は割と平常運転で焼きそばパン探してます。
次回はもうちょっとだけ、世界の“仕組み”とか“裏側”に触れつつ、ゆる〜く進めていく予定。
読んでも読まなくても世界が救われるわけじゃないけど、読んでくれたら嬉しいです!
それでは、また次回。