恋とパンは、突然に。
暑い夏の日差しのなか。
旅に出た一本の焼きそばパンが、
たどり着いたのは、塩対応の少女がいる海辺の町だった。
パンに心はあるのか?
あるとして、それはどこにあるのか?
たぶん、焼きそばとマヨネーズの間あたりだと思うけど──
そんなパンが、恋に落ちました。
ツッコミと潮風とちょっぴり胸の奥が熱くなる、
“恋するパン”のサマーラブストーリー、開幕です!
昼休み。購買部前は、いつものように長蛇の列。
カグラ「今日こそ……今日こそ俺は焼きそばパンを手に入れる!!」
セリスティア「すごいね……そんなに情熱を注げるなんて」
ミルミ「情熱っていうか執念っていうか……もはやパン依存?」
アロマ「診断:炭水化物ストーカー」
カグラは列に並びながら、心の中で決意する。
(頼む……まだ誰にも買われてませんように……!)
しかし──
レジで、彼女は立っていた。
淡いピンクのカーディガン、三つ編み、
手に抱えたのは、最後の一本の──焼きそばパン。
少女「ふふ……今日も、会えたね」
焼きそばパン「……(無言)」
──静かな世界が、そこに広がっていた。
カグラ「…………誰だよ!!!!??」
少女はゆっくりとパンを見つめながら言った。
「“焼きそばパン”くん……今日も、おいしそうだね。ううん、“凛々しい”……かな」
カグラ「パンを凛々しいって言ったやつ、初めて見たよ!?」
少女は一礼すると、パンを抱えて去っていく。
その背中を、購買部中の生徒が見送る。
セリスティア「ねえカグラ、今の子……」
カグラ「……完全に、パンに恋してたな」
ミルミ「私よりぶっ飛んでるの、初めて見たかも!」
アロマ「これは……パンを巡る三角関係、発生の予感」
──こうして、カグラの昼休みは終わった。
焼きそばパンは、今日も選ばれ、そして愛された。
だが彼には、まだ知らないことがある。
恋というものが、こんなにも消化に悪いものだとは──
──放課後、図書室の片隅。
少女は机に日記帳を広げ、ペンを走らせていた。
『パン日記 No.148』
今日も、会えた。
焼きそばパンくんはいつも通りだった。静かで、堂々としてて、温もりがあった。
初めて会ったのは、あの日──購買部でひとつだけ残っていた彼。
みんながフランスパンやカレーパンに浮気する中、彼はそこにいた。
まるで私のことを……待っていたみたいに。
少女の名は──春風こむぎ(しゅんぷう・こむぎ)。
幼い頃から、パンと共に生きてきた少女である。
パン屋の一人娘。生まれた時から、粉と酵母と共に呼吸してきた。
──そして今、彼女は「本気で」焼きそばパンに恋していた。
こむぎ「でも……最近、邪魔が入るの……」
彼女の視線の先には──
壁にびっしり貼られた“購買部焼きそばパン購入者リスト”。
そこにはでかでかと「カグラ・シノノメ」の名前が赤線で囲まれていた。
こむぎ「……あの人さえいなければ、私と焼きそばパンくんは毎日一緒なのに……」
(※購買部では普通に販売されてる)
そのとき──
こむぎは、静かに取り出した。
焼きそばパンの“レプリカぬいぐるみ”を。
そして、そっと話しかけた。
こむぎ「焼きそばパンくん……私、明日……告白するね」
『明日、伝える。
この気持ちは、本物だって。
たとえ相手が、人間じゃなくても。』
──翌日、購買部前。
カグラは、またも長蛇の列に並びながら震えていた。
カグラ「なんか……寒気がするんだけど!?なにこれ予兆!?」
──そして、恋の主食戦争の火蓋が、静かに……落とされた。
──昼休み。購買部前のベンチ。
そこには、少女と──一本のパン。
こむぎ「焼きそばパンくん……私、ずっと……」
焼きそばパン「…………(袋がカサカサ)」
こむぎ「ううん……やっぱり、ちゃんと目を見て言うね」
(※目がない)
少女は震える手でパンを両手に抱え、そっと告白した。
こむぎ「わたし、焼きそばパンくんのことが……好きです!!」
──その瞬間。世界が止まった。
というのも、
そのシーンを──
木の陰から、カグラとセリスティアとミルミとアロマが、
ガッツリ見てたからである。
カグラ「見たか!?見たよな今の!?」
セリスティア「完全に……パンに告白してたね……」
ミルミ「わたし……パンの気持ちを考えると泣きそう……」
アロマ「記録済。校内ネットに拡散完了」
カグラ「拡散してんじゃねえよ!!!!」
だが、そのとき——
こむぎが、パンに耳を寄せて言った。
こむぎ「……え? ……“僕も君が好き”……?」
カグラ「幻聴じゃねぇ!? パン喋ってるの!?」
セリスティア「カグラ……落ち着いて。彼女、もともとパンと会話してるから」
ミルミ「パンが返事してるの、今が初めてなんだけど……?」
アロマ「感情干渉発生。焼きそばパン、自己認識フェーズに突入」
カグラ「おい待て、パンが自我を持ち始めてるぞ!?バグってんぞ!?」
──焼きそばパンは、静かに光を帯び始めていた。
そして、こむぎの手の中で、
ほんのり温かく、トーストされていた。
カグラ「……焼けてるゥゥゥゥ!?!?」
──その日、地球の平均気温が、0.2度上昇した。
理由は定かではない。
だが、たった一つの“ありえない出来事”が、
世界に小さなバグを刻み込んだ。
それは、パンが喋ったという事実である。
購買部の裏庭。
こむぎの手の中にある、一本の焼きそばパン。
焼きそばパン「……俺は……焼かれる運命だと思ってた……」
こむぎ「……しゃべったーーーーー!!!!!???」
カグラたち、飛び出してくる。
カグラ「なに!?今の声、パン!?パンの声か!?」
セリスティア「落ち着いて、言語解析を──」
アロマ「波形一致。出力源:焼きそばパン」
ミルミ「焼きそばパンの声……ちょっとダンディだったね……」
焼きそばパン「名乗るほどの者じゃないが……呼ぶなら“パン次郎”とでも呼んでくれ」
カグラ「勝手に名乗ってんじゃねえよ!!!!」
こむぎ「パン次郎さん……!」
パン次郎「俺は、何百というパンたちの中で……お前にだけ、温もりを感じた」
こむぎ「それって……!」
パン次郎「俺は……お前が好きだ。春風こむぎ。いや、“こむぎ”……俺の小麦よ……」
カグラ「バカップルできてんじゃねええええええ!!!!!」
──その瞬間。
空に、巨大な影が現れた。
???「世界は、パンの愛を許さない」
カグラ「だれぇぇぇぇええ!?」
???「我こそは、“国際パン類規制機構(I.P.L.C.)”地球支部・第7監視官──バゲット13号!」
セリスティア「なんかきたあああああ!!」
ミルミ「……パンの恋愛って、国家レベルで禁止されてるの!?」
アロマ「条約違反。これは国際問題」
パン次郎「……来やがったな。旧友バゲット。てめぇとは、ロールパン連邦の時からの因縁だぜ……」
カグラ「バックストーリーが濃すぎるんだよ!!!!」
──こうして、
**恋する焼きそばパン vs 国際パン規制機構(+ツッコミ勢)**という、
完全に情報過多な戦いの火蓋が切って落とされた。
──その夜。
月が照らすのは、購買部の棚の一角。
そこに、ぽつんと置かれた一本のパン。
パン次郎「……このままじゃ、こむぎを巻き込んじまう……」
彼は静かに、袋を自ら破った。
そして、
自らの“具”を引き締めるように──立ち上がる。
パン次郎「今こそ、パンに自由を──パンに愛を──パンに、旅を!!」
──翌朝。
購買部前に掲げられた、ひとつの張り紙。
【緊急告知】
焼きそばパン、行方不明。
カグラ「な、なんだってーーーーー!?」
セリスティア「まさか、動いた……!?」
アロマ「防犯カメラ映像確認中。……走ってる……自走してる……」
ミルミ「ひとりで!?どこへ!?この夏、どこへ行ったの焼きそばパンくん!!」
──場所は変わって、高速道路のサービスエリア。
ジャンプ力を活かしてトラックの荷台に乗ったパン次郎は、今、
日本横断の旅に出ていた。
パン次郎「愛する者を守るため……人間のように生きるのさ……」
ドライバーのおじさん「……気のせいか、パンが泣いてるように見えるな……」
──そしてその夜、ひとつのツイートがバズる。
【目撃情報】
サービスエリアで焼きそばパンが歩いてた。
#パン次郎 #自由を求めて #動く炭水化物
カグラ「バズってるーーーーー!?!?」
セリスティア「……これは、国家規模の捜索になるわね」
ミルミ「旅先で“運命の具材”と出会ったりするのかな……」
アロマ「ルート予測中。次の目的地、恐らく……“海”」
カグラ「……待ってろ、パン次郎! 俺たちも夏休みを使って、お前を追う!」
──追いかけろ、旅する焼きそばパン。
──ザッパーン!
青い海。まぶしい日差し。
そして浜辺に打ち上げられる、一本のパン。
パン次郎「……着いたか。ここが、“塩味の記憶”の地……」
(※勝手に命名)
彼が辿り着いたのは、
とある港町にある──海の家『しおしお亭』。
そこで出会ったのは、
ツンとした目つきの海女装束の少女。
???「あんた……何やってんの、そんなカサカサの格好で」
パン次郎「……俺は旅のパンだ。焼きそばパンだ。通称パン次郎」
???「……暑さで頭いかれたパンなんて初めて見たわ……」
──彼女の名前は、“しおん”。
海の家で働くバイト少女で、口調は完全なる塩対応。
パンに対しても手加減なし。
しおん「てか普通に、アンタ腐るから。冷蔵庫入っときな」
パン次郎「俺はまだいける! 保存料入りだ!!」
しおん「うるさい、くさる前に口縫い合わせるわよ」
パン次郎「もう袋開いてんのに!?」
──だが、夕暮れ。
パン次郎が浜辺で静かに夕陽を見つめていると、
後ろからそっと座ってくるしおん。
しおん「……バカなパンね。わざわざ逃げ出してまで、何がしたいのよ」
パン次郎「……愛を、守りたかっただけさ。俺の小麦を」
しおん「……バッカみたい……」
だがその目は、どこか優しい。
潮風がふたりを包む。
──ひとときの、やさしい沈黙。
しおん「……まあ、嫌いじゃないけどね。あんたみたいな……」
パン次郎「え、今なんか言った?」
しおん「なんでもない。腐るぞ」
パン次郎「やっぱ好きじゃないよね!!?」
──こうしてパンは、“初恋の塩味”を知る。
それは少ししょっぱくて、でも、確かにあたたかい味だった。
読んでくれてありがとうございます!
今回はまさかの焼きそばパン×海女さんという、
前代未聞のラブ(?)展開でした。
パンに感情移入したこと、ありますか? 俺は今日初めてしました。
しおんちゃん、完全なる塩対応だけど実は優しいんですよね……
いや、パンにやさしい時点でもう常識を超えてる気もしますが。
次回、もしこむぎとしおんが出会ってしまったら──?
修羅場?食パン合戦?それとも青春三角関係編?
パンは焼かれるのか、挟まれるのか。
次もバグった旅でお会いしましょう!




