焼きそばパンの記憶が消えた日
今回は“記憶”と“パン”が交錯する、バグ多め・感動(風味)少々の不条理回でした。
パンを巡る次元の乱れと、異次元カグラたちの無駄に熱い議論──
そして、最後には“焼きそばパン”が持つ大切な思い出が、静かに浮かび上がります。
朝。
いつものように目覚めたカグラは、伸びをしながらぼんやりと天井を見つめた。
「……なんか、腹減ったな」
特に珍しくもない、ただの空腹。
でも、なんだかモヤモヤする。何かが……足りない。
「……あれ? 俺、いつも何食ってたっけ」
その瞬間、部屋の空気が静止した。
ドアがバタンと開き、セリスティアが爽やかに顔を出した。
「おっはよ〜。今日も焼きそばパンの時間だよ〜ん! いつもどおり三つあるから選んでいいわよ〜ん!」
彼女の両手には、香ばしく湯気を立てた焼きそばパンの山。
黄金色のパン、ソースの匂い、完璧な朝。
なのに──
「……焼きそばパンって、なに?」
「…………は?」
セリスティアの笑顔がフリーズした。
それはまるで、世界のローディングが止まったような沈黙。
「なにって……え、ちょっと、待って、今なんて言った?」
「いやだから、焼きそばパンってなんだ? 食い物? 新手の呪文? 〇ケモン?」
「……アタシの焼きそばパンを〇ケモン扱いすな!!!!」
パンが1個、投擲武器と化してカグラの額に直撃。
ぐしゃっといい音を立てて床に転がった。
「いや、なに!? ガチで知らんのよ! 俺、そんなにパン狂だったっけ!?」
セリスティアはしばらく固まったあと、ふるふると震えながら呟いた。
「……これは、事件だわ。大事件だわ……この世界の終わりかもしれないわ……」
焼きそばパンの記憶を失ったチート主人公。
世界は、またもや、謎のバグに巻き込まれようとしていた──。
「落ち着いて……何か原因があるはずよ」
セリスティアは深呼吸しながら、浮かぶ魔法陣から情報を検索し始めた。
カグラはというと、まだ眉間にシワを寄せたまま、焼きそばパンを手に持ったり、においを嗅いだりしている。
「……これ、パンの皮に、なんか……茶色い……スパゲティ?」
「スパゲティじゃないわよ! ソース焼きそばよ! しかも焼きそばパンっていう完成された神食よ!」
「うーん……この見た目とにおい、完全に初対面だわ」
セリスティアはごそごそとバッグから、見慣れないデバイスを取り出した。
見た目は魔法と科学が融合したような──なんというか、やけに中二病くさい造形だった。
「記憶干渉検出装置・試作型。いざという時のために用意してたの。名前は……《リメンバリン》!」
「ダッサ……」
「うるさい! これが唯一の手がかりかもしれないのよ!」
カグラの頭にポンと《リメンバリン》を乗せ、魔力を流し込む。
デバイスがジジッと音を立て、スクリーンに“欠損領域”という表示が浮かび上がった。
「……やっぱり。カグラの記憶の一部が、不自然に空白になってる」
「俺の焼きそばパンメモリが……フォーマットされた!?」
「比喩が雑っ!! でもたぶんそれで正解……これ、外部干渉の痕跡がある」
「誰かが……俺の焼きそばパンだけを消した?」
「そんなことができるのは……“観測外干渉レベル”の存在よ」
そのとき、カグラのポケットがピコンと鳴った。
見ると、どこにも登録してない通知──“記憶市場システムより再起動要求”と表示されていた。
「……記憶市場って、前にちょろっと関わったよな?」
「そうよ、でもそれ、世界律管理機構の一部で……普通は、接続すらできないはず……」
──記憶の改竄、観測外の干渉、そして焼きそばパンを消すという謎の意図。
全てが、徐々に繋がり始めていた。
「……焼きそばパンって、もしかして……ただの食い物じゃなかったのか?」
「私、見たことがあるわ。これに似た症例──“記憶の核”が、まるごと食べられたケース」
セリスティアが静かに語り始めた。
「記憶って、ただの情報じゃないの。存在の一部……とくに“初めての焼きそばパン”みたいに、感情と結びついた記憶は特に強い」
「なるほどな……。つまり俺の“焼きそばパンとの出会い”は……誰かに、根こそぎ食われたと」
「パンを“食べた”記憶が、“食べられた”って……」
「うん、ちょっと混乱するけど、語感はいいよな」
セリスティアは再び《リメンバリン》を操作し、欠損領域を拡大。
すると、そこには不可解な“文字化け”のようなデータ痕跡が現れた。
「……“YKP-0001”、焼きそばパン第一世代? なにこれ、分類コード……?」
その瞬間、カグラの頭の中で何かが“パチン”と弾けた。
──真っ白な空間。
ただひとつ、そこにぽつんと浮かぶ、焼きそばパン。
(おい……俺……?)
パンがしゃべった。
(お前の記憶は、ここだよ……。焼きそばパンに、最初に“うまっ”って言ってくれたの、お前だったろ?)
「誰だお前!? パンなのにしゃべんなよ!」
(忘れないでくれよ……俺のこと)
──パキィィン!!
現実に戻った瞬間、カグラの手の中で、焼きそばパンが「じゅっ」と音を立てて湯気を出した。
「──思い出したぁぁぁ!!!」
「え、いまパンが光ったけど!?」
「初めて食べたとき、冷めてたのにうまかった! しかもソースが指についた!!」
「それ、そんな感動的な記憶だったの!?」
そのとき、空間がぐにゃりと歪んだ。
焼きそばパンの存在が、記憶をトリガーに次元に干渉し始めたのだ。
「カグラ、何か来る! 空間が、パン次元に……!」
「──空間が……割れた!?」
セリスティアの叫びと同時に、周囲の景色がパリパリと音を立ててヒビ割れ始めた。
地面、空、空気の色さえも、まるでガラスのようにひびが入って──
「ちょ、ちょっと待って! 世界が……焼きそばパン色になってるぅ!?」
カグラの足元に現れたひとつの“穴”。
そこからは、見たこともない世界が覗いていた。
──すべてがパンで構成された、パン次元。
雲はパン、地面もパン、空を飛ぶのはパン鳥。
街はフランスパンで組まれ、川はソースでできていた。
「……俺、パンの中に召喚されてない?」
そのとき、耳元で声が囁く。
(“ようこそ、選ばれし者よ。記憶を返した代償に、パンの真理を背負え”)
「パンの真理!? なんで俺だけこのノリ真面目なんだよ!!」
次の瞬間、カグラの目の前に──
“パンでできた王冠”が浮かび上がる。
「これ……パンの、王……?」
(汝の記憶と共鳴し、次元干渉スキル《パン・リメンバランス》を獲得──)
「いやスキル名ダサいな!?」
セリスティアが後ろから飛び込んできた。
「カグラっ! 世界がこのままだと“パンで満たされてしまう”わよ!」
「そんな炭水化物過剰な世界イヤすぎる!!」
──バゴォォォン!!!
突如、パン次元の空に“異物”が侵入する。
黒く渦巻く穴から、無数の異次元カグラたちが降ってきた。
「よぉ俺!」
「こっちは“カレーコロッケパン主義”だぜ!」
「焼きそばパンは甘え!」
「パンってより小麦でしょ?」
「ややこしいの来たぁぁぁぁあ!!」
セリスティア、完全にフリーズ。
「ちょっと待って……何この、“全カグラ集結”みたいな展開……」
「俺も聞きたいよ!!!」
「──このままだと、パン次元が“俺のせいで”崩壊する!」
カグラは叫びながら、次元の裂け目の中央に立っていた。
周囲では、異次元カグラたちが言い争っていた。
「やっぱ“あんパン”が王道だろ!」
「何を言う、カレーパンが至高だ!」
「お前ら、メロンパンの甘さを知らんのかァ!?」
──収拾がつかない。パンに関してだけは誰も譲らない。
「もうパン関係なくなってるよねこれ……」
セリスティアが冷ややかな目を向けた。
そのとき──
空に突如として、巨大なパン型の“玉座”が出現した。
そして、それは静かに語りかける。
(王を選べ……真に、パンを愛し、パンと共に歩む者を……)
「またバカ展開来たーーーッ!!」
異次元カグラたちが一斉にザワつく。
「よっしゃ王選手権だ!」
「焼きそばパンの名に懸けて負けられねえ!」
──でも、そのとき。
カグラ(本家)が、ふと手にしたひとつのパンのかけら。
それは、かつてセリスティアが焼いてくれた、焦げた焼きそばパンだった。
「……これ、まだ……あったのか」
その焼きそばパンだけが、すべてのパンの中で温もりを持っていた。
玉座が静かに光を灯す。
(選定完了。──王は、“焼きそばパンの記憶”に涙した者)
「おい泣いてねーよ!? ちょっと目にソース入っただけだから!!」
──ゴゴゴゴッッッ!!!
カグラの背中に、謎のパンマントが出現し、頭には“やや焼きすぎ”なクラウンが。
「わぁ……似合わない王、爆誕した……」
「俺、もう……パンの王ってことでいいの?」
「良くないけど、今は受け入れるしかなさそうね」
──パン次元、統一完了。
次元の裂け目が静かに閉じていき、世界に平和(?)が戻った──
静寂が戻った世界に──
それは、不自然なほどゆっくりと落ちてきた。
「……あれって」
「パン、だな」
空に浮かぶ“浮遊パン大陸”のかけらが、まるで“羽”のように、ふわふわと降ってくる。
手のひらサイズのクロワッサン、半分だけかじられたフランスパン、そして──
カグラの頭上に落ちてきたのは、例の焼きそばパン。
「お、帰ってきた。俺の昼メシ」
それを大事そうに受け取りながら、ぽつりとつぶやく。
「でもさ。結局……なんだったんだろうな、“パンの記憶”って」
セリスティアは、海辺の岩に腰を下ろしながら答える。
「わからないわよ。パンに始まり、パンに終わる。それがこの世界の理なのかもね」
「お前さ、もうちょいロマンとかで語ってよ」
──ふたりは笑い合う。
世界はなんとか壊れずに済んだ。
だが──空には今も、“浮かぶパンの影”がちらほら。
その様子を、どこか別の次元から見下ろす“誰か”がいた。
「……やはり、始まったか。焼きそばパンに選ばれし者よ……」
謎のフードの男が、パンくずをつまみながらつぶやく。
「このまま進めば、次は“発酵の時代”だ……」
正直に言うと、毎回「何書いてんだろ俺」って思ってますが、
でも、それでも書ききったのは、パンへの愛、そして読んでださる人達とのこのバカバカしい旅路のおかげ。
次回はもう少し真面目に……なるかな? ならないかな?
さて、世界の空に浮かぶパンを見ながら、次のネタを考えましょうか




