保護者、やめてもいいですか?
宇宙戦争が起きるかと思ったら、なんかパンの会議が始まってました。
パンってすごいね。何でもできる。
たぶん宇宙の始まりも、焼きそばパンだったのかもしれない。
今回は、カグラの言葉が多元宇宙を揺るがしたり、
セリスティアが限界を迎えたり、スーツ着たパンがしゃべったりと、
まともな要素がひとつもない回です。
それでいいんです。パンだから。
「……ねえ、カグラ?」
朝、目が覚めて最初に飛び込んできたのは、セリスティアの声だった。
「んー……焼きそばパン……どこだっけ……」
「夢の話じゃなくて! 現実の話!」
俺が顔をあげると、セリスティアは寝癖のまま、頬をぷくっと膨らませてこっちを見下ろしていた。
白の庭園の朝はいつも穏やかで、鳥が鳴いて、空は高い。……はずなのに、今日はちょっとだけ、空気が張りつめてる。
「昨日のこと、ちゃんと覚えてる?」
「えーと……怪獣がパンで滑って宇宙に飛んでった……とか?」
「だからそれよ!なんで毎回こうなるのよ!?」
彼女は両手で頭を抱えたあと、ふっとため息をついた。
「私、こんな毎日になるとは思ってなかったのよ……。最初は、“保護者”って名乗るのも、ちょっと背伸びしたつもりだったのに……」
俺はむくっと起き上がりながら、口元に残ってた焼きそばパンのソースを指で拭う。
「……でもまあ、俺のこと守ってくれてたし、助かってるよ? マジで」
「だからそういうとこよ!!」
セリスティアが手をバタバタ振る。魔法でも発動するのかと一瞬びびったけど、ただの感情表現だった。
「“助かってる”とか“ありがとな”とか……それ、全部“次のやらかし”の前フリじゃない!!」
「え、バレてた?」
「バレてるわよ!っていうか、**むしろ“バグの前兆”**として魔導院の論文に書きたいぐらいよ……!」
朝から大騒ぎしてたら、どこからともなくミルミとアロマが顔を出した。
「おはよー! あ、ケンカ? ねえケンカ? 見ていい?」
「……ログ取りたいなら勝手にやって」
「アロマちゃんつめたっ!」
俺はぼんやりと朝の空を見上げながら、思った。
──セリスティア、保護者ってやつ、やめたがってるかもなあ……。
その日のブランチタイム。
白の庭園のテーブルにて──
「でね、記録をとってみたのよ、私」
セリスティアが、透明な魔導スクリーンをポンッと展開する。
そこには、俺と彼女が出会ってからの“事件”ログがズラーッと並んでいた。
⸻
•焼きそばパンを追いかけて、魔王城へ侵入
•焼きそばパンを焼こうとして、王立魔術院に喧嘩を売る
•焼きそばパンを宇宙に放って、観測機構をバグらせる
•焼きそばパンが時空を歪め、異世界に“パンの神”が降臨
⸻
「ねぇ……なんで全部、焼きそばパンが主語なのよ……」
「いや、パンは被害者だって。俺はただ、パンに導かれてるだけで……」
「もうね、あんたの人生、パンがラスボスなんじゃない?」
セリスティアは、額を押さえて深いため息をつく。
「私、ちょっと本気で考えてるの。“保護者”って立場を、降りること」
「……マジ?」
俺が目を丸くすると、セリスティアは神妙な顔でうなずいた。
「毎回、魔王軍とか観測機構とか、宇宙人とか、怪獣とか……もう保護対象が世界壊してんのよ?
どこに連絡すればいいの? 神様? 法王庁? 消防署?」
「まぁ……俺、たまに火も出すしな」
「そこじゃないっ!」
そのとき──
「カグラ=シノノメ、セリスティア=レーヴェ。観測機構より通達──」
突如、空中に観測機構のドローン球体が出現した。
その声は無機質で、だが内容は衝撃的だった。
「──“保護者機能の交代”が承認されました。近日中に、新たな管理者が派遣されます」
「……えっ」
セリスティアの目が、ゆらりと揺れた。
「ちょ、ちょっと待って!? 私、申請した覚えないんだけど!」
セリスティアが慌ててドローンに詰め寄るが、冷たく返される。
「……“申請ログ:セリスティア=アルマ=レーヴェ 第873件 嘆きの発言による自動申請処理”に基づき、保護者交代プロトコルを実行中です」
「えっ、それって……」
「“もう保護者やってられない”という発言を“本音”とみなし、機構判断で申請完了としました」
「そんな勝手なオート判定ある!?」
──そして。
空がぐにゃりと歪んだかと思えば、
ふわりと降り立った、新たな保護者候補がひとり。
「……やあ。初めまして。カグラさん。セリスティアさん」
──声が、やけに落ち着いてる。
背は高め、髪は銀色のショートカット。白いコートに、観測封印の紋章を片目に刻む。
「私が、新しい“保護者候補”……シオン=ヴァレアです」
「シオン!? え、うそ、なんであんたが!?」
セリスティアが素で驚くのも無理はない。
何故なら、彼は以前から、パンについてポエムを語りだした、自称・世界に意味を問う男である。
「焼きそばパンとは、存在の中間であり、崩壊と再構築の媒体だ」
「いや、それもう“保護者”っていうか“詩人”じゃね!?」
カグラは戸惑いながらも、なんとなく納得していた。
「いやでも……シオンなら俺のパンライフ、理解してくれそうな気もする……」
「待って待って待って! 本当に交代しちゃうの!?」
セリスティアは、なぜか不安げに叫んだ。
一方でシオンは静かにうなずく。
「彼の保護は、存在論的に非常に価値がある……パンの未来を紡ぐために、私は来た」
「その動機がダメだわ!」
──やがて、ドローンが淡々と告げる。
「なお、正式な交代には、当事者双方の“本音スキャン”による合意が必要です」
「……つまり?」
「“本当はどうしたいか”を、お互いに認め合えば、保護者の決定がなされます」
ふと、空気が静かになる。
──果たして、セリスティアの本音とは?
そして、カグラはどう答えるのか?
「では、保護者適性評価・最終フェーズ──“本音スキャン”を開始します」
ドローンが告げると、セリスティアとカグラの足元に、ふわりと光の円が浮かび上がった。
「ちょ、ちょっと待って、本音って……え、なに、嘘つけないやつ!?」
「心を可視化します。逃げ場はありません」
「最悪じゃん……!」
光のリングが、それぞれの胸元に優しく触れる。
次の瞬間──
「セリスティア=アルマ=レーヴェ、あなたの“本音”は──」
光の文字が、空間に浮かび上がる。
『本当は、カグラと一緒にいたい。もう、ぐちゃぐちゃでもいいから──“一緒”でいたい。』
「──」
場が、静まり返った。
セリスティアは、顔を真っ赤にして、そっぽを向く。
「……言ったじゃないわよっ! あれ、本音じゃないからっ! 見なかったことにしてっ!」
「いや無理だろコレ……ログ出てるし」
今度はカグラの番だ。
「カグラ=シノノメ、あなたの“本音”は──」
『正直、保護者って何なのかまだよく分かってない。でもセレスティアがいると、ちょっと安心する。焼きそばパンも冷えないし。』
「パン基準かよ!!」
「……でも、ありがとう」
セリスティアは、どこか泣き笑いの顔で、そっと呟いた。
──その瞬間。
ドローンがふわりと浮かび、冷たい声を放つ。
「“本音一致”確認。保護者継続──セリスティアに決定」
「うわぁぁぁぁ!! なんかもう、恥ずかしすぎて複雑ッ!!」
「シオン、ごめんな。でもパンの保護は任せた」
シオンは静かに頷いた。
「……理解した。私はパンを、詩とともに見守ろう……」
そして空へと消えていった。
──こうして、保護者の座は揺るがず。
だがカグラの周りには、ますますバグで奇妙な存在たちが集まりはじめる──
「それでは、新たなバグ干渉波が観測されました。対象:焼きそばパン。座標、複数世界線に拡散中」
セリスティアとカグラがようやくひと息ついたころ──
またしても頭上に、見慣れた“観測者ドローン”の影が映る。
「……あれ、また来たのかよ。今度は何だよ……?」
「警告:対象“焼きそばパン”の存在が、複数の平行世界で同時発生。観測上、以下の現象が確認されました」
● 世界A:全員が焼きそばパンで構成されている
● 世界B:パンが人を食べている
● 世界C:焼きそばパンが議会を支配している
● 世界D:焼きそばパンを巡る戦争が勃発中(既に第七次)
「いや、バリエーションおかしくね!? なんでパンが議会入りしてんだよ!」
「ていうか、人を食べるパンってなに!? 調理法逆転してるじゃない!」
セリスティアが頭を抱えて座り込む。
カグラは遠い目をしながら、そっとひとつの焼きそばパンを掲げた。
「……たぶんさ。俺の持ってるこのパンが、“元祖”だったんじゃないかって、最近思うんだよね」
「え? え? なに言ってるの? また世界の真理みたいな話してる??」
「だってこれさ、冷めないし。腐らないし。……あと、たぶん、世界をつなげる何かになっちゃってる」
「そんな大事なパンだったの!?」
その時。
空が、微かにゆらいだ。
「──観測干渉発生。パンによる世界線超越が、臨界点に到達しました」
頭上に、巨大なパンの影が落ちる。
「うわ、また何か来たっぽいぞ!? でっか!? あれ、宇宙戦艦くらいあるって!!」
「え、待って、パン戦艦ってこと? パン型なの? 名前は? **“S.S.ヤキソバ”**とかそんな感じ!?」
──そして、影の中心から聞こえてきた声は、
「……保護者、追加申請します。“多元世界焼きそばパン協議会”から派遣されました」
「なにそれこわい!!!」
「ようこそ、我々の世界へ。パンの力を、あなたに──」
パン戦艦《S.S.ヤキソバ》から降り立ったのは、
スーツ姿のパン頭集団だった。
名札にはこう書かれていた:
“多元世界焼きそばパン協議会 監査部隊”
「……なんかスゴいの来ちゃったけど!? なんでパンがスーツ着てるの!? どうやってボタンとめてんの!? ……っていうか、顔パンなんですけど!!」
セリスティアがすでにテンパりモード突入。
カグラは割と冷静にパンをかじりながら彼らを見つめていた。
「うん……やっぱ焼きそばパンって、いろんな世界で重宝されてんだな……」
「いや、納得してる場合じゃないでしょ!? この状況、冷静に見たら異常よ!? 世界の終わりのワンシーンよ!?」
パン協議会の代表格(食パン顔、片眼鏡付き)が前に出る。
「我々は、過去にあなたが発した“パンに具を詰めただけで世界が救えるなら、苦労しねぇよな”という言葉に感銘を受け、観測を開始しました」
「俺そんなこと言ったっけ……」
「我々の世界では、その一言がパン宗教改革の発端となりました」
「なんかごめん」
代表パンは深く一礼した。
「カグラ=シノノメ。我々は、あなたを**“パンの可能性を超越した者”**と認定し、全世界の焼きそばパンをあなたに託します」
「──って、重っっっ!!」
セリスティア、もはや完全に意識が遠のいている。
「……もうだめ、わたしの保護者メンタルが保てない……この子どこまで行っちゃうのよぉ……」
そのとき、カグラがふと空を見上げた。
焼きそばパンの形をした衛星が、
ゆっくりと夜空に浮かんでいる。
「──まあ……食えるなら、なんとかなるっしょ」
──その瞬間、
空から焼きそばパンがしとしと降ってきた。
どこかの世界線では、
雨ではなく“祝福”としてパンが降るのだという。
――そして夜は静かに更けていった。
⸻
次回予告(仮):
『保護者、やめてもいいですか?2』
「……さすがにもう、限界かも」
カグラの宇宙バグに振り回され続けたセリスティアの心に、初めての迷いが生まれる――。
本当に、保護していて大丈夫なのか?
ギャグと感情の揺らぎが交錯する、
シリーズ転機の回!
お楽しみに!
ここまで読んでくれてありがとう。
本当にありがとう。
焼きそばパンが空から降ってくるラスト、どう思いましたか?
さて、次回は少し雰囲気を変えて、
セリスティアが「保護者やめてもいい?」と悩む話です。
この作品、ギャグですけど、ちゃんと人間関係も描きます。たぶん。
ではまた次回、焼きそばパンとともに。
(胃もたれには気をつけて)




