焼きそばパンがしゃべったんですが?
宇宙ベーカリー騒動の余韻も冷めぬまま、次にやってきたのは──しゃべる焼きそばパン!?
カグラたちの世界、ついに「パン自体が喋りだす」という新たなステージに突入しました。
パンは語る、パンは空を舞い、パンは大陸を形成する……。
もはやバグでもSFでも収まらない、パンの叡智(?)が炸裂する回、はじまります。
「……あー、腹減った」
朝、カグラはゆるゆるとベッドから這い出ると、手近に置いてあった焼きそばパンをもそもそと取り出した。
「今日もお前しかいねぇよな……」
そうつぶやきながら、パンにかぶりつこうとした瞬間──
「……その通りだ、我こそが“すべてのパン”の原点にして終点……」
「──っ!?!?!?!?!?!?」
カグラはパンを床に落としかけた。
今、聞こえた。確実に。
頭の中ではなく、パンの中から声が。
「誰だ!?てか、どこだ!? てか、なんでパンがしゃべる!?」
「落ち着け、カグラ=シノノメ……我はそなたの名を知っておる」
パンが、**“上下に小さく動きながら”**しゃべった。
「我が名は“ヤキソバー”。焼きそばパンにして、パンの祖たる存在だ」
カグラ「いやいやいやいや!? なんで俺のパンが自己紹介してくんの!?!?!?」
部屋の扉がガチャリと開く。
「ちょっと朝からうるさいわよカグ──って、なにそのパン!?動いてない!?喋ったよね今!?」
セリスティアも素でパニック。
「落ち着け。まずは聞け。──時は遥か古代、“パン創世”の時代にさかのぼる……」
「いや落ち着けねぇよ!?なんでナチュラルに回想入ろうとしてんだよ!!」
「……時は遥か昔──パンなるものがまだ“概念”でしかなかった頃……」
カグラとセリスティアは、ちゃぶ台を囲んで正座していた。
その中央には、湯気をたてながら語る焼きそばパン《ヤキソバー》が鎮座している。
「なにこれ……シュールすぎる……」
「セリスティア、お前の魔法でどうにかできないの? パン封印魔法とかない?」
「そんなもんあるわけないでしょ!?パンに感情ある前提の魔法体系なんて聞いたことないわよ!」
ヤキソバーはふむ、と唸った。
「今の世界は、我らパンの祖たちに忘れられた“第二の時代”。
そなたらが日常的に食しているこの形──これは我らの遺志がほんのわずかに残っている証だ」
「……つまり、お前は……なんだ、“神”? パンの神様ってやつ?」
「神というより、“起源”だな。我が生まれし時、世界はまだバターの概念すらなく……」
「いや、お前の話、バター出てくるタイミングいつも変だな?」
セリスティアがメモ帳を取り出して真剣な表情で言った。
「とりあえず確認したいんだけど、あんた、なんで今になって目覚めたの?」
「うむ、それはな──」
パンは、じっとカグラを見つめた。
「お前が、あまりに雑に俺を温め直したからだ。
──電子レンジ、3分だと熱しすぎだ。我が中のバグが再起動された」
「は?俺のせい!?てかパンがバグって目覚めたの!?しかも電子レンジで!?」
「電子レンジは現代の火山に等しい……目覚めるには十分だ」
セリスティア「ちょっと待って、つまりそれ、カグラのせいでパンの神が復活したってことよね?」
カグラ「やめて!?その言い方すっごい責任重いからやめて!?」
──だが、この後、ヤキソバーの“本当の目的”が明らかになるとは、
この時の二人はまだ知る由もなかった。
「……そして我は思い出した。
この世界は、我ら**“一次発酵体”**によって形成された“パン世界仮設実験体Ω(オメガ)”なのだと……!」
「なにそれ!?意味がぜんっぜんわからないんだけど!」
セリスティアがちゃぶ台をばーんと叩いた。
「いやちょっと待って、それつまり──この世界そのものが、パンの副産物みたいなもんってこと?」
ヤキソバーはうむ、と頷きながら焼きそばをこぼした。
「この現象、かつては**“炭水化物シミュレーション”**と呼ばれていた。
だが、第二次スチームブレッド大戦の後、我らは記憶を封印し、沈黙のラップに包まれ眠りについていた」
「黙ってる間に、パンの歴史が軽くSF入ってきてるよね?」
そこに、不意に部屋が揺れる。
──ドゥゥンッ!
「……また、何か来るわよ!」
セリスティアが結界を張ろうとした瞬間、窓の外に現れたのは──
**“浮遊するバゲット型モンスター”**だった。
「パンが空から降ってきてる!?しかも敵意むき出しで襲ってきてるんだけど!?」
「……あれは、“空中酵母生命体”!かつてパン文明が栄えし頃、宇宙を渡って旅をしていた者たちだ!」
「いやどんな設定だよ!!」
カグラが叫ぶも、もう空からはフランスパン、メロンパン、果ては揚げパン型の巨大飛行体までが続々と襲来していた。
「セリスティア、避難するぞ!ついでにパン買い占めよう!!」
「落ち着け!!これはパンじゃない、兵器!!」
そのとき、ヤキソバーの声が響く。
「時は満ちた……我がパンコードを発動する時──
“バグレシピ・コードゼロ(0)”!」
──彼が光を放った瞬間、空から落ちてきたバゲットたちがピタリと静止した。
「え、なに?止まった……?」
「今のうちに……語らせてもらおう。“始まりのパン”の物語をな……」
「むかしむかし──この宇宙がまだ、粉と水と酵母だけでできていたころ……」
「え、そんな状態あるの?宇宙ってどこから始まったの???」
セリスティアが戸惑うのも無理はない。なぜなら今、ヤキソバーが浮かび上がりながら背後に“星型のパン銀河”を投影しているからだ。
「我らはパン銀河団より来たりしもの。かつて我らは**“パンコード”**によって全てを支配していた──」
──ドォン!!
「説明してる間にまた襲来してるー!?いや今度は……クリームパンに顔ついてるんだけど!?」
「……あれは“第七種パン属・メンタルフィリング種”。甘さで相手の理性を溶かす……!」
「どう考えてもおやつでしかないでしょそれ!!」
カグラの叫びは空しく、クリームパンが群れで突っ込んできた。
「こっちもなんか出せよ!バグスキルとかないのか!」
「うむ、ならば見せよう。
この混乱を収束する──**“バグスキル:再構築するパン理論”**を!」
──ボワァッ!
ヤキソバーの背中から光るトースターみたいな装置が飛び出し、上空のパン生命体を次々と「再焼成」し始める。
「え、焼きなおしてる!?ていうか、どんどん美味しそうになってるんだけど!?
──あっ、あいつら……争うのやめて食べ始めたぞ!?」
そう、戦っていたパン生命体たちは焼き直されて次々と“和解”していた。
「……争いを終わらせるのに必要なのは、武力でも対話でもない。
──焼きたての、あたたかいパンだ」
「いや名言風にまとめんなよ!!」
宇宙は、いったん静けさを取り戻した。だがその裏で、ある計画が始動していた──
──ザザ……ザザザ……
宇宙の静寂を切り裂くように、銀河通信が鳴り響いた。
「こちら“パンコード管理機構”より全銀河に通達。
現在、天空パン大陸が発酵しすぎにつき、構造崩壊の危険性があります──」
「発酵しすぎって、そんなことある!?てか、それ宇宙構造物でしょ!?」
カグラがツッコミを入れるも、巨大パン大陸はすでにふくらみすぎていた。
「見て……地平線が……焼き色ついてる……」
セリスティアがぽつりとつぶやく。
その通り、天空に浮かぶパン大陸の表面はカリカリに焼けていた。
「なんでこの世界、何でもかんでもパンにすんの!?」
だが──
その焼き色の裂け目から、何かが出てくる。
「な、なんか出た!ていうか……あれ、コロッケパン!?飛んでるの!?なんで!?!」
空を舞うパン。叫ぶ魔法使い。沈黙するシオン。
「……これはもう、パンではない。
もはや、“超パン”だ……」
「超パン!?バカっぽすぎるぞシオン!」
──そのとき、ヤキソバーが再び語り始める。
「聞け……これはかつて滅びた**“天界のパン文明”**の復活である。
発酵の果てに到達した者たちの、最終形態なのだ──」
と、そのとき。
──ズドォォォォォン!!!
巨大な何かが、天空パン大陸を貫いた。
「……あれ、焼きそばパン特大サイズじゃない……?」
セリスティアの声が震える。
それは、全長3kmの焼きそばパン型飛行物体。
「名を名乗れぇぇぇ!!!」
カグラが叫ぶ。
そして、返ってきた声は──
「我が名は“焼きそばパン・オリジン”。
お前たちのパン文化は、すべてここから始まったのだ──」
「──しゃべったあああああ!?!?!?!?」
焼きそばパン・オリジン。
それは、空を割って現れた、圧倒的サイズと存在感を誇る超古代のパンだった。
「我こそは、始まりのパン。
この星にパンをもたらした、“第一の発酵体”である──」
「……焼きそばパンがしゃべってる……」
セリスティアが遠い目をした。
「つまりお前が……この世界の“パン問題”の元凶……?」
「否。我はただ、焼きそばを抱いたパンとしての使命を全うしたに過ぎぬ。
争いも、空中都市も、宇宙ベーカリーも──すべては人類のパンへの欲望が生んだもの」
「メッセージ性が強い!!!」
「だが、今こそパンは語る。
“腹八分目で止めておけ”とな──」
……その瞬間、空に浮かぶパン大陸が爆ぜた。
──ボォォォォォン!!!
天から降り注ぐ、無数のパンくずと焼きそば。
人類の街々は、やさしいパンの香りに包まれた。
「うっわ……なんか……めっちゃうまそうな雨降ってきたんだけど」
「小麦の香りだけでお腹いっぱいになるって、どういう理屈よ……!」
一方、パンの神パンヴァーナは遠くからつぶやいた。
「これでよい。これで……すべてのパンが……やさしく、温かく、受け入れられる世界が──」
パン大戦、終結。
残されたのは、空にうっすらと残る“焼き目の雲”。
そして、
「……あ、そろそろ本物の昼メシの時間だわ」
「パンで満たされたあとに焼きそばパン食うやつ、俺ぐらいだろな……」
というわけで、焼きそばパンの“始祖”がまさかの人格持ちで登場しました。
思ってたよりも真面目で語り口が哲学的でした
パンってなんなんでしょうね……(考えるのをやめた)




