怪獣、焼きそばパンに吠える
宇宙ベーカリーだの、怪獣だの、そろそろ読者が「何読んでたんだっけ?」となっていそうだけど大丈夫。
今回も焼きそばパンが世界の中心です。バグ? 怪獣? 空間圧縮?
それ全部パンの副作用だから安心して。
シオンもセリスティアもカグラも、たぶん本気で世界を救ってる(つもり)です。たぶんね。
「……なんか、空、赤くね?」
昼下がりの空の下、カグラは焼きそばパンをもぐもぐしながら空を見上げた。
雲が、焼けたパンの形になっている。
そしてその中心から、**ゴオォォォン……**という地響きのような音が鳴り響いた。
「パンの音がするぞ」
「そんなもん聞いたことないわよ!」
セリスティアがいつもの優雅さを失ってツッコむ。
そのとき、空の裂け目から、巨大な影が降ってきた。
ドォォォォォォン!!!
地面が揺れた。土煙が舞う。
そしてそこに、そびえ立つように現れたのは──
「……パン……の……怪獣?」
全長100メートル超。
全身がもっちりとした焼きたて生地で覆われ、背中には焼きそばパン製造炉を装備。
咆哮と共に、トッピングが飛び散る。
「おい待て待て! おれそんなつもりでパンの神とか言ってたわけじゃ──」
「うわ、やばいの召喚しちゃった系!?」「てか明らかにパンに人格あるでしょアレ!」
観測者たち、セリスティア、シオン、アロマ、ラドリウス──
なぜか全勢力がこの場に集結していた。
「──パンで滅びるのか、この世界……」
誰かの呟きが、夕暮れに染まる空へ消えていった。
「やべぇぞ! パンの咆哮で近隣10都市が焼きそばまみれだ!」
「見てください! 奴の背中から……新作の“超激辛ソース”が噴射されてます!」
──事態は予想以上に深刻だった。
焼きそばパン怪獣は、街のベーカリーを片っ端から吸収し、巨大化を続けている。
「対パン用兵器を配備せよ!」
「パン用? 何それカロリーで倒すの?」
軍隊が応戦を試みるが、全ての砲弾は**“パンの中に吸収される”**という謎のチートバリアによって無効化される。
「おい、オレの“全属性無効”スキルと似てるぞあれ……」
カグラがパンかじりながらつぶやいた。
「ねえカグラ……あんたのチート能力、アレのせいじゃないわよね?」
「………ノーコメントで」
セリスティアの目が冷たい。焼きそばパンよりも冷たい。
そのとき、通信魔法が入る。
「こちら王立魔術院防衛局! 非常事態につき、**“コード・アークトースト”**を発動する!」
「えっ、コード・アークトーストって……まさか伝説の──」
「……ああもう、しょうがねぇなぁ」
焼きそばパンを片手に、カグラはゆっくりと立ち上がった。
彼の背後で、街がじゅわぁぁぁあと焼きそばの香りとともに沈んでいく。
「おいパンギラス、いい加減にしとけよ……俺の“焼きそばパン権”まで侵害してんぞ」
「カグラ。お前、本気を出す気か……!?」
セリスティアが空間を結界で固定し、周囲を静止状態に保つ。
「やめとけ、スキル“???”が暴走したらこの星がバターロールになるかもしれない……!」
──しかし、すでに遅かった。
カグラの背後に、巨大な“パンの紋章”が浮かび上がる。
同時に世界がバグる。空が食パン模様になり、重力がフワフワとバターのように揺れる。
「うわ、なんか“質量”がフランスパン級になってるぅぅ!」
その瞬間、パンギラスが吠えた。
「グォオオォォォォォォオオォォ……(ソース足りねぇ!)」
だが、カグラも叫ぶ。
「黙れ! 焼きそばパンは“ソース薄め”がちょうどいいんだよ!!」
ビキィッ!!
空間が割れた。
カグラが“無属性干渉”スキルを発動。
世界に干渉し、“焼きそばパンの理”そのものを書き換え始める──!
「まさか……“調理後概念”の再定義だと……!?」
「パン理に手を出すなァァァァ!!」
──そして、世界は……。
焼きそばパンが勝つか、バグが勝つか。
この闘いが、「パンの歴史」に記録されることは、まだ誰も知らない──。
パンギラスの咆哮とともに、地表がトースト状に焼きあがっていく。
そこへカグラの“無属性干渉(Ver0.01β)”スキルが発動し、世界はさらにバグを加速させた。
「えっ!? なんか地面が“ふわふわ”してきたんだけど……」
セリスティアが困惑した顔で空を見上げる。雲が――食パンになっていた。
「これってもしや……空の主成分、小麦粉になってない?」
そのとき、アロマが緊急解析データを読み上げた。
「空間構成がバターとイースト菌に置き換わっています。このままでは……この惑星は“菓子パン”に変異します」
「地球改造、菓子パン計画……始まってたんだな」
シオンが詩的に呟くが、誰も聞いてない。
──そこへ再びパンギラスの咆哮が響く。
「グォオォォォ……!(クリームパン派なんだよぉ!!)」
「ふざけんな!!」
カグラが怒号と共に、空中に“焼きそばパン”を掲げた。
「焼きそばパンは、すべてのパンの中間に位置する【調和のパン】なんだよ!!」
その瞬間、空が割れる。
焼きそばパンから放たれた光が、天を裂き、パンギラスを包み込んだ。
「うわっ、まぶしっ!! なにこのパンから出る神々しさ……!」
「バターとソースの、完璧な調和……これが……“原初のパン”か……」
セリスティアが涙をこぼした。味覚と感動がごちゃ混ぜになっている。
だが──パンギラスは膝をついた。
「グルル……(うま……かった……)」
バタァン。
パンギラスは、“焼きそばパンの光”によって浄化され、満足した顔で地に伏した。
「……おつかれ、怪獣。お前も、焼きそばパンを……認めてくれたんだな……」
カグラがそっと、焼きそばパンの包装紙を握りしめた。
その瞬間、空が元に戻る。
世界も地面もパンじゃなくなり、日常へとゆるやかに収束していく。
だが、誰もが忘れないだろう。
この星が、一度“菓子パン”になりかけたことを。
焼きそばパンの光に包まれ、怪獣は去った。
だが、残された世界には“ほんのりソースの香り”が漂っていた。
「……あの怪獣、最後に笑ってたよね?」
セリスティアが言った。
「っていうか、途中から“パンのうまさ比べ大会”になってなかった……?」
「……俺さ、思ったんだけど」
カグラは空を見上げて言った。
「焼きそばパンって……戦争すら終わらせられるかもしれない」
「急に壮大なこと言うなよ!?」
セリスティアが思いっきりツッコむ。
シオンは遠くの空を見つめたまま、ポツリとつぶやいた。
「“焼きそばパン”──世界の調和の象徴……か。だが、まだバター派とメロンパン派の戦争が残っている……」
「その戦争、存在してたの!?」
アロマがタブレットを操作して、いつものように無言で表示する。
《焼きそばパン:世界平和指数 98.7%》
「数字にされると……説得力あるな」
ふと、セリスティアがパンをかじりながら言った。
「ねぇ、あたし思うんだけど……」
「うん?」
「宇宙がパンでできてたら……カロリー、すごいことにならない?」
「その理屈だと、宇宙服のサイズが3倍になるぞ」
──そんなゆるゆるな会話が続く中で、
世界はまた、いつもの日常に戻っていった。
どこかほんのり、パンの香りが残るこの世界で――
「……で、今日の昼飯なに?」
「焼きそばパンに決まってんだろ」
「それ、もはや呪いだよね」
──そして。
空は晴れ渡り、世界は静けさを取り戻した。
街にはパンくずと焼きそばの香りだけが残されていた。
「……じゃあ解散でいいの?」
セリスティアが言うと、アロマが小さくうなずいた。
タブレットには《状況:仮終了》と表示されている。
「仮って何……?」
「“いつもの”に戻ったってだけで、根本は何も解決してないって意味だよ」
シオンが妙に冷静なトーンで呟いた。
「うっわ、なんか真面目っぽいこと言ってる!」
「……さっきからずっと真面目だ」
カグラは地べたに寝転がりながら、空に向かって焼きそばパンを掲げる。
「お前が主人公だよな、焼きそばパン……」
(※彼が言っている“お前”はパンです)
「そういえば、怪獣ってなんだったんだろうね……?」
「パンを求めてたのか、パンそのものだったのか、パンが怪獣だったのか……」
「パンパン言いすぎ!」
みんなが口々に言いたい放題な中、
宇宙の彼方ではまた、パンの気配を嗅ぎつけた何かが──
……いや、もういいか。
今日はこのくらいで。
今回もありがとうございました。
怪獣が出てきたわりに、「あれ?出番短くない?」って思った方。正解です。
主役はあくまで焼きそばパンなので。
それにしても、世界がバグっても怪獣が来ても、結局日常に戻るのがこの物語のいいところ……かもしれません。
次は何が来るのか、自分でも全然読めてませんが、またゆる〜くお付き合いください。




