“再登場”、その名は――誰だっけ?
今回は完全なる“パン暴走回”です。
焼きそばパンが世界を飲み込み、宗教が生まれ、存在が上書きされます。
カグラは何も気にせず食べてます。うん、いつも通りだね。
──中立領《白の庭園》、門前にて。
今日もカグラはベンチに腰掛け、焼きそばパン片手に空を眺めていた。
「……はぁ。平和だな」
焼きそばパンがうまい。それだけでいい。
魔王軍? 王国? 世界? うるさい。焼きそばパンを食ってからにしてくれ。
そんな静寂をぶち破ったのは、
風を切って飛来した――爆音と共に舞い降りた二人の影だった。
「ふははははっ! やっと見つけたぞ、我が宿敵! カグラ=シノノメッ!!」
「パン屋だー!! 焼きそばパンちょうだーい!!」
「誰がパン屋だよ!!」
そう叫んだのは、もちろんこの男。
ジルド=フォン=グランツ。
学園の主席にして、テンプレエリート枠。だが第1話であっさりぶっ飛ばされた悲しき男である。
その隣には、金髪ツインテールでエネルギーが爆発してる少女。
リリィ=ハートフィールド。
上品なお嬢様に見えて実は脳筋。焼きそばパンに命を懸けるテンプレヒロイン(脳筋)。
カグラはパンを咀嚼しながら言った。
「……誰?」
ジルド、ガーンと音を立てて膝をつく。
「やはり貴様、記憶が……!」
「いや、顔は覚えてるけど、名前が思い出せなくてな」
「それが一番つらい!!」
門前で騒がしくなる二人。
だが、この時点では誰もまだ――
この**“空気を読まない二人”**が、後の中立会談にまでバグを起こすとは想像していなかった。
「こ、ここが《白の庭園》……!」
ジルドは興奮した様子で周囲を見回す。
「中立勢力の拠点とされ、王国も魔王軍も干渉できぬ、いわば……神域!」
「パンの香りがする~!」
「違う! 焼きそばパンのせいだ!!」
そのとき、奥からゆっくりと足音が響いた。
「……なんの騒ぎ?」
セリスティアが現れた。白いドレス、ゆるやかな笑み。
「ここは外交と対話の場。お静かにお願いします」
「お、お姫様!? ってことは……王国側の者か!」
ジルドが瞬時に警戒態勢に入る。
「ちょ、待って待って、戦わない戦わない!!」
カグラが急いで両者の間に割って入った。
だがその背後で、リリィがポツリとつぶやいた。
「……ねぇ、奥からちょっと豪華な焼きそばパンの香りしない?」
「してない! てか焼きそばパンの種類ってなに!?」
「ゴールド焼きそばパンとか……」
「そんなメニューあるか!!」
ジルドが一歩前に出て叫ぶ。
「貴様のような男に、王国と魔王軍の和平交渉を任せておけるか!
この場は我が正義の手で清めさせてもらう!!」
「って、おまえ完全に意味わからんくなってるよな!? 何の話!?」
セリスティアは深く息を吐いて言った。
「……入ってもいいけど、騒いだら結界が作動して全自動パン投げ機が作動します」
「なんでそんなもん設置したの!? 誰がそんな防衛システム考えたの!?」
ジルドとリリィは、結局「パンを一口食べたい」という理由でセリスティアに小さく頭を下げ、静かに(※つもり)中へと入っていった。
だが、この時点で――
《白の庭園》の空間演算が、わずかにズレ始めていた。
「……それで、君たちは何しに?」
セリスティアがゆったりとした口調で問いかけた。
その視線の先では、ジルド=フォン=グランツと、リリィ=ハートフィールドが、なぜか正座している。
「くっ、なんという威圧感……さすがは王家の姫君……!」
「正座ってパンの儀式かな……?」
「違う。完全に怒られてるだけだ、俺たち」
カグラはソファに寝そべったまま、焼きそばパンをくわえていた。
「で? なんでお前ら、ここ来たん?」
「そ、それはだな……!」
ジルドが立ち上がる。
「貴様のスキルに関して、王国の安全保障上、重大な懸念が生じていてだな! 本来ならば直ちに拘束すべき事案なのだが、例の観測外干渉や、魔王軍の動きもあり、当面は中立地帯にて様子を――」
「つまり、『様子を見にきた』ってことでOK?」
セリスティアの冷静なツッコミに、ジルドが一瞬固まる。
「……そういうことだ」
「察してくれたらいいのにー」
リリィは口をとがらせていた。
セリスティアは、そっと一枚の布を魔力で取り出し、リリィの膝に敷いた。
「冷えますから、どうぞ。あと、これ」
「……あ、ありがと……えっ、クロワッサン焼きそばパン!?」
「最近の新作です」
「マジでここ、パン屋なんじゃ……」
一方、シオン=ヴァレアは部屋の隅に座り、静かに本を読んでいた。
だがその手元の空間には、ほんのわずかに“バグの波紋”が揺らいでいた。
「……君のスキルが、彼らにも影響を与え始めている」
「え、また俺のせい!?」
「違うとは言ってない」
「なんなんだこの流れ、完全に俺=原因みたいになってる! 実際そうだけども!」
リリィが首を傾げて言う。
「……ところでさ、カグラのスキルって、何なの?」
「それが誰にもわからないんだよなぁ……」
セリスティアが小さくため息をついた。
「正確には、“観測できないスキル”。観測すればするほど、世界の演算に干渉してしまう。だから、正体に近づけば近づくほど、私たちの認識そのものが曖昧になっていく」
ジルドが、ようやく真面目な顔でつぶやいた。
「……バグか。なるほど。理不尽なまでの無効化と現実干渉……それは確かに、“世界のルール外”の存在だ」
「でも、焼きそばパンに関してはルール内だよね?」
「お前の例外処理の使い方、どっか間違ってんだよ!」
その瞬間、部屋の照明が「パンッ」と一度、軽く瞬いた。
シオンが小さく顔を上げてつぶやく。
「――また、“ズレた”な」
「……あ、今なんか、部屋が一瞬“右に90度回転”しなかった?」
「してたな。しかも俺だけ真顔で座ってたのに、机とソファが壁走ってたぞ」
「やっぱりバグだよね!? 俺のせいじゃないよね!?」
その瞬間――
バシュゥゥゥゥン!!
空間に穴が開いて、宙からカプセルが落ちてきた。
「うおっ!? またなんか出た!?」
カグラがびびってパンを落とす。
カプセルから現れたのは──
「……王国観測機構、臨時ログ修復班の者だ」
「また増えたァァァ!!」
「状況確認中……スキル『???』による空間演算ズレが検知されました」
セリスティアが眉をひそめる。
「……“演算ズレ”?」
「はい。時間軸の乱れ、認識エラー、ギャグ密度の異常増加を確認。なお、本件は“冗談と現実の区別がつかない”症状として記録されています」
「それ、もう俺の人生じゃん!!」
リリィが真剣な顔で聞く。
「じゃあ……この空間、いつ“まとも”に戻るの?」
「さぁ?」
「即答で投げたーーー!!」
さらに、部屋の壁がヌルッと溶け、書斎とパン屋のキッチンが融合し始める。
「おい、セリスティア。焼きそばパン作りながら哲学語るのやめろ」
「人生はバターと似ています。“溶ける”ことで風味が出るんです」
「今のはうまいけど違う! ツッコミ間に合わねぇ!」
シオンが静かに指を鳴らすと、空間の揺れが一時的に止まった。
「観測レベルを一段階下げた。少しはマシになるだろう」
「何その“サーバーに負荷かけすぎたから画質落とした”みたいな調整!」
ジルドが、頭を抱えながら言う。
「……もはやこの空間、“異常”ではなく“日常”だな……」
「そう、それが《白の庭園》」
セリスティアが紅茶を注ぎながら答える。
「カグラさんがいる限り、常識のほうが間違ってるんです」
\ピコン♪/
突然、どこからか「好感度が1上がった音」が鳴る。
「えっ、誰の!? 誰の好感度!? ランダムイベントかよ!」
──そのとき、外からバリバリと音がした。
「また誰か来た……?」
現れたのは、フードをかぶった謎の人物。
「“パンを焼いて、世界を揺らす者”……我らが探していたのはお前だ」
「やだ怖い! パンの宗教団体できてる!!」
部屋の空気が一気にキナ臭くなるが――
「──で? 焼きそばパンいる?」
「買うんかい!!」
「……これ、俺が焼きそばパン食ってるだけで起きてるってマジ?」
「はい。スキル【???】が空間演算と“パンの記憶”に干渉している可能性が高いです」
シオンがごく真面目な顔で頷く。
「“パンの記憶”って何だよ!?」
「カグラが過去に食べた焼きそばパンが、世界律に記録されていたんです」
「記録されんなそんなもん!!」
セリスティアが、ふと思いついたように手を叩く。
「でもね。焼きそばパンって、すごくない? 炭水化物 on 炭水化物よ?」
「お前もバグってんのかよ!」
そこへ、例の“パンの使者”がカウンターに腰かけた。
「我ら、焼きそばパンの真理にたどり着きし者……“パンズ・オブ・エタニティ”と申す」
「ちょっと待て。なんだその中二病ネーミング」
「我らは“焼きそば”と“コッペパン”が出会った神話の再現を目指している」
「神話にすんなあのパン!!」
すると、ジルドが神妙な顔をして口を開いた。
「まさか……俺が学生時代にこっそりパン屋で働いていたことが、ここで関係するとは……」
「伏線あったの!? そんな設定初耳だけど!?」
「いや、今作った」
「作るな!!」
リリィが勢いよく立ち上がる。
「もう我慢ならない! このままじゃパンに世界を乗っ取られるわ!」
「何その“パンディストピア”」
「焼かれる前に、焼く!!」
「サイコヒロイン爆誕すな!!!」
バリィィィン!!
窓ガラスを突き破って、“パンの使者”の仲間たちが飛び込んできた!
「焼けよ……心を、パンのように!」
「全員ポエム口調!! やばい、ノリが完全に宗教だ!!」
そのとき、セリスティアが結界を再展開。
「落ち着いて。ここは《白の庭園》よ。パンもポエムも、静かにしてて」
「その一言で全部黙ったーーー!? さすが保護者!!」
……とはいえ、状況は収まったわけではなかった。
“焼きそばパンの記憶”が演算レベルで世界に影響し始めている。
もはやパンはただのパンではない。
パンは、存在の意味にすら干渉しはじめていた──
白の庭園。
ふたたび沈黙が訪れていた。
……が、カグラだけは、黙々と焼きそばパンを食べていた。
「うめぇ……。やっぱり炭水化物には炭水化物なんだよなぁ……」
セリスティアが、呆れを通り越して感心の顔。
「この混乱の中で、動じないなんて……さすが、カグラくん」
「いや普通は動じるだろ!? パン宗教とか飛び道具すぎるんだが!」
シオンが、空中に情報端末を呼び出した。
「観測結果が出た。カグラのスキル【???】は、こう定義される可能性がある」
《存在定義バグ:対象の“在り方”そのものを、過去・現在・未来にわたって書き換える》
《現在の影響対象:炭水化物、特にパン類》
「おれ、パンに愛されすぎじゃね?」
「いや、パンが世界を“お前に合わせ始めた”んだよ!」
「それはそれで困るわ!!」
そのとき──世界が“ぐにゃり”と揺れた。
パン屋、学食、街角のベーカリー……
どこもかしこも、“焼きそばパン”しか売らなくなった。
「こ、これは……!」
「パンの一極化現象……!」
「いや、用語作るな!」
観測者の報告が、次々と各勢力に届いていた。
■ 王国:「スキル【???】は存在改変レベル。もはや神託では?」
■ 魔王軍:「焼きそばパンによって、秩序そのものが再構築されている」
■ 観測機構:「ログが……焼きそばパンに上書きされていく!?」
──世界は今、“パン”に食われつつある。
だが、そんな中でもカグラは言った。
「……パンが、世界を滅ぼすとしても……俺は食う」
「いやなんでそのセリフに説得力あるんだよ!!」
こうして、またひとつ世界はバグった。
だが、バグの中心にいるカグラは──何も変わらず、焼きそばパンを頬張っていた。
次回、「焼きそばパン、神になる」
──お楽しみに。
お読みいただきありがとうございました。
もうね、焼きそばパンが主役なんじゃないかってぐらいの勢いでした。
「世界よりパン」が合言葉になりつつありますが、そろそろストーリーも動かすかも……しれません。
次回はタイトル通り、神になるかどうかは未定です。カグラだし。
それではまた次回、焼きたてでお会いしましょう!




