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ザイン視点 独白

 僕は勇者らしい。

 いきなりそんなことを言われたって、信じられなかった。訳が分からなかった。

 僕はただ、15年間普通に暮らしてきて、ちょっとお金に目が眩んだ両親に『減るもんじゃないから!』と言われて王都に放り込まれ……いや、送り出されて、よくわかんない儀式をするだけのはずだった。

 けど、そこで僕が勇者だと発覚した。救いだったのは、僕以外にもいっぱい勇者がいたことだけど、それでも相当な衝撃だった。

 喧嘩だってほとんどしたことがない。争い事はむしろ苦手。そんな僕が、魔王を倒すための旅に出るなんて、本当に何の冗談かと思う。

 だけど、それが僕の使命らしい。だったら、言いたいことは色々あるけど、自分の使命は果たしたい、とは思う。

 とはいえ、思うだけで果たせるような使命ではない。そもそも、魔王はすごく強いらしくて、僕みたいに何にも知らない奴が一人で旅に出ても、瞬殺されるのがオチだろう。事実、僕一人だったらきっとホーンラビットにも勝てなかった。

 それでも、こうして生きて隣町に着いたのは、心強い味方がいるからだろう。色々衝撃的な仲間ではあるけど。

 勇者をサポートする妖精。そんなのがいる、なんて話は聞いてたけど、まさか本当にいるなんて。

 そして、その小さな可愛い妖精が、僕の目の前に素っ裸で姿を現すなんて思いもしなかった。なかなかに衝撃的な出会いだったと言えると思う。

 本当に良いものを見た。女の子の裸なんて見たのは初めてだったけど、なんか、こう……とにかくよかった。

 もっとも、見てるこっちが恥ずかしくなっちゃって、一瞬で目を背けちゃったけど……後で惜しい事したなって本気で思った。

 話がずれた。その妖精……リィンは生まれた時からずっと一緒だったらしくて、僕が認識できるようになって嬉しかったって、いい笑顔で言ってくれた。

 他の勇者とも話をしたけど、やっぱりリィンは変わってる方だと思う。

 王様を脅すし、そのせいで僕は死罪になりかけるし、兵士に抑え込まれた時は本当に殺されると思った。『僕はここで死ぬんだな』って、当たり前のように運命を受け入れてしまうくらいには死んだと思った。

 かと思うと、他の妖精より深いところ(とでも言えばいいのかな?)で知識を探すことができるし、魔法に至っては伝説に語られる賢者みたいな使い方をする。

 そして、話に脈絡が無かったり、訳の分からない単語が出てきたり、基本より先に応用を教えようとしたり、人間の悪い部分にばっかり目を向けたり、僕の心情を何一つ考慮しようとしなかったり、色々とんでもない。

 こう並べてみると、変わってるって言うより、だいぶひどい部類に見えるけど、リィンは決して悪い人……じゃなくて、妖精ではない。

 僕に何か教えてくれる時は、ものすごく真摯で真面目。魔法理論だって、正直ちんぷんかんぷんな所が多かったけど、僕の反応を見ながら極力わかりやすいようには喋ってくれていた。

 初めての戦いでも、一応の段階を踏んで教えてくれた。最初に身の守り方、そこから攻撃の仕方。いきなりカウンターから入るのはどうかと思ったけど、スライムとかホーンラビット相手なら悪くないやり方ではあったし。

 あと、生まれた時から一緒だからなのか、それとも妖精ってみんなそうなのか、僕に対してすごく好意的に振る舞ってくれる。

 名前を忘れてたっていうのは……いや、いうの『も』なかなかに衝撃的だったけど、それで僕が安直な『リィン』って名前を付けてあげたら、本当に、それこそ花が咲くような笑顔を見せてくれた。

 緑色の髪に、緑色の瞳。身長は20センチそこそこ。羽は透明。森の中とか花畑とか、そういうところにいたら本当に似合うんだろうなあと思う。だから本当に、花が咲くような笑顔っていう表現がぴったりだと思う。

 そう、笑顔が本当に可愛い。ペット的な視点も入ってると思うけど、彼女が笑うと僕まで嬉しくなるような、そんな笑顔を浮かべる。

 あの笑顔は本当にすごく素敵だけど、今日また一つ知ったリィンの表情が、またとても可愛かった。

 ホーンラビットの首を切り落とした感触と、その後の光景がトラウマになって戦えなくなった僕に、リィンは『隣町まで行けたらほっぺにチューしてあげる』と言ってくれた。

 そのために、僕は全力で隣町を目指して……何回か死にかけたけど、リィンに助けてもらって、何とか僕達は無事に隣町までたどり着いた。

 で、リィンのことだから『目標達成、やったね!』なんて言いながらチューしてくれるかと思いきや。

 顔を真っ赤にして、あわあわして、無駄に行ったり来たりしながらごにょごにょと弁解して、しまいには涙目にまでなっておろおろしてるリィン。

 自分から言っといて本気で困ってるリィンは、本当に可愛かった。普段の奇矯な言動がどっかすっ飛ぶくらいには可愛いと思った。

 それが思わず口に出ちゃったときは『何笑ってんだこらー!』とか怒り出すかと思ったけど、それどころか奇声を上げて全身真っ赤にして固まるリィンはもう、抱き締めたいくらい可愛かった。

 だけど、あんまり困ってるから助け舟を出してあげたら、ものすごくホッとした様子でそれに乗っかって来た。

 こんなに女の子らしい面もあるんだなって、正直ものすごく新鮮な気分だった。

 ホッとしたリィンはぺたんと女の子座りでその場に座って、そして怒られた子犬のような表情で『ごめんね?』と謝ってきた。

 なんていうか、その姿に胸と下半身に物凄く血が巡るのを感じながら、僕はリィンの頭を撫でてあげた。

 するとリィンはホッとしたみたいで、ちょっとあわあわしつつも、今度また何かそういうご褒美を考えてくれると言った。何かもうここまで来るとペットみたいな感覚で頭をポンポンすると、リィンはまた全身真っ赤になって早々に寝てしまった。

 とにかく、今日は大変だった。物凄く歩いたし、戦いも多かったし、リィンの新しい魅力も知ったし。

 ……魅力と言えば、一回お尻を引っ叩いたとき、すごく張りのある良いお尻だったな……。また触ってみた……いやいや、何考えてるんだ僕は!?そんなこと考えちゃダメだ!

 けど、なんかこの先もとんでもない事言いだして、同じことしてるような未来が若干見える気が……そうなったら、またお仕置きを理由に触ることも……ダメだ!ダメだダメだ!リィンは純粋に僕に懐いてくれてるのに、そんなこと考えちゃダメだ絶対!きっと!

 何だか思考が変な所に行きそうだから、今日はもう寝よう。うん、それがいい。

 でも今、何より大変なのは、この胸と下半身に滾る感覚をどうやって発散しようかってこと。

 無視するには地味に辛いし、寝ない訳にもいかないし、暴れるわけにもいかないし……本当にどうしたものかな。


 まあ、何とか頑張ろう!今日一番の頑張りを持って、何とか寝ることにしよう!

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