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魔法を覚えよう!

 隣町に来て一晩ぐっすり寝て、私はだいぶ落ち着いた。ザインは少し寝不足っぽかったけど、一応大丈夫とのこと。

 でも、寝不足で旅なんて危ないし、そもそもザインは覚えるべきことがいっぱいある。

 よくよく考えれば、いくら勇者だなんて言っても、ザインは本当に数日前までただの片田舎の子供として育っていた。しかも狩りとかそういう事もせず、喧嘩もせず、とにかく暴力とは無縁の男だった。

 だから、戦いの本当に基礎的な部分も知らないし、魔法だって遠くの世界の話だと思ってる節がある。

 そんなわけで、私達はしばらくここに留まり、ザインと特訓することにした。

 最初の町を出て、次の町に入ってからが本格的なチュートリアル。そんなのも珍しくないしね。

「それじゃ、リィン先生の魔法講座、準備はいいかなー!?」

「あのっ……リィン?ちょっと、リィン?」

 なんだ、ノリの悪りい男だな。昨日できたかさぶた引っぺがすぞ?

「何よ、せっかく盛り上げようと思ったのに」

「そ、そうじゃなくてっ……あの、えっと、ズ、ズボン、忘れてない!?」

 ザインの指摘に、顔にぐわっと血が集まるのを感じる。でも、私は努めて平静を装って答えた。

「な、何言ってるのかなーザイン君は!?そ、そんなことないし、あるわけないし!あ、でも、えっと、ね?」

 すーはーすーはー息を吸って、何とか普通の声音で喋る。平常心平常心……!

「昨日は私が約束守れなかったし、見られても減るものじゃないし……か、仮に!仮にね!?そんなことがあっても、別に気にしないかなーなんて!」

 よし!ごまかしきった!私偉い!そしてザインの視線が痛い!

「……無理してない?」

 意外に鋭いなこの子!?

「し、してないってば!そ、そんなことよりさ!ザインの身を守る大切な技術教えるんだから、真面目にやってよね!?」

「……真面目にやらせてほしい……」

 なんか顔を覆いながらぶつぶつ言ってるけど、私はもう気にしないことにした。ま、まあ、貫頭衣とはいえ長めだから、そう簡単には見えないしね?大丈夫大丈夫……たぶん。

「と、とにかくやるからね!えっと、魔法で重要なことって、何か知ってる?」

 とにもかくにも授業を始めると、ザインも何とか切り替えてくれた。

「詠唱だっけ?」

「全っ然違う!根本から違う!発想からして違う!お客さんやりますね!?」

「間違ってるって意味でいいのかな?」

「せいかーい!やったね!」

「間違ってるって言ってるのが正解ってことは、僕の答えは間違ってるわけね」

 何を当たり前のことを言ってるんだろう、この少年は。頭おかしいのか。

「詠唱なんていうのはね、補助輪でしかないの。自転車に乗れない人がくっつけて、乗れる気になってるだけの、できる人にとっては邪魔以外の何者でもない異物」

「じ、じてんしゃって何?」

「乗り物。でね、魔法で重要なことは三つ。一つ、その形とか姿とかを思い浮かべる。二つ、効果を考える。三つ、それを発動するように念じる」

 私が言うと、ザインは一瞬考え、そして私の顔を見つめてきた。

「あの、もう少し詳しくお願いできる?」

「自転車のこと?」

「違うよ、魔法の方」

「わかった。じゃあついでに、詠唱がどう補助してるかっていうのも説明してみようか。たとえばファイアーボールだったら、詠唱は『燃え盛る火球よ、我が手より出でて眼前の敵を燃やし尽くせ』とかそんな感じだったよね?」

 ザインはいつの間に持っていたのか、メモ用紙にメモを取りながら私の話を聞いている。うーん、本当に先生になった気分。

「これを分解していくね。『燃え盛る炎よ』で、燃えてる火の玉を想像できるでしょ?これが基本の一、思い浮かべる部分。その次の『我が手より出でて』で、手から出るという効果を乗せるのね。つまり基本の二、効果を考える」

 さっきまでのエロガキっぷりが嘘のように、ザインは真面目にメモを取っている。

「『眼前の敵を燃やし尽くせ』で、相手に向かって飛ぶことが想像できて、さらに威力も想定できる。つまりこれも基本の二、考える部分の補助になる。最後は今までのを全部ひっくるめて念じるだけ。これで、めでたくファイアーボールが発動するってこと」

「逆に言えば、それが何も言わないで思い浮かべられたら、無詠唱で魔法を使えるってこと?」

 お、いいねいいね。ザインはこういう応用が得意っぽいなあ。

「そういうことだね。現に、私の魔法って無詠唱だったでしょ?」

「え?でも『風刃 かまいたち』って……あ、終わってから言ってたね、そういえば」

「でもまあ、最初は詠唱有りでやってみて、コツを掴んできたら詠唱を短くしたり、無詠唱にしたりするのが良いよ。ちゃんと思い浮かべられないと、自分に飛ばしちゃう人だっているしさ」

「え、そんなことあるの!?」

「自分の中の魔力を~、とかそんな風に意識しすぎて、やっちゃうみたい」

 もっとも、最近は魔法って詠唱ありきだと思ってる人が多くて、その事故は減ってるみたいだけどね。

「後はねえ、魔法が飛んでいくのが想像し辛かったら、それを投げるイメージでやるとやりやすいよ。火球とかは、たとえば……」

 私は掌に火球を作り出し、下から上へと腕を一周ぐりんと回し、最後に思いきり振り上げるようにして火球を放り投げた。

「こんな感じで!」

「見たことない投げ方なんだけど、やりにくくない!?」

「ウィンドミル投法っていう、れっきとしたボールの投げ方だよ!風車みたいに腕が回るのがお洒落でしょ?」

「お洒落な投げ方って感覚は理解できないよ……」

「黙らっしゃい。まあとりあえず、ファイアーボール辺りを一回試してみて」

「わかった。頑張ってみるね」

 そして、ザインの魔法実習が始まった。

 最初は詠唱付きでも、蝋燭の火かと思うような弱々しい火が出たり、ぼとんと火が落ちたりと散々だったけど、数回もやると魔法名を叫ぶだけの簡易詠唱でも炎を出せるようになった。

 うーん、やっぱりザイン、上達早いなあ。勇者だからっていうのはもちろんあるのかもしれないけど、とにかく呑み込みが早い。そして一度コツを掴むと、あっという間に応用まで持って行くほどの器用さもある。

「ファイアーボール!うん、結構何とかできる気がする」

「お世辞抜きに、かなり筋が良いよ。ザインは魔法使いみたいな戦い方でもやっていけるかもね」

「あはは、ありがとう。でもそれは、先生が良いからだよ」

「知ってる」

「……本当にいい性格してるよね。あ、それはそうとさ、『我が手より~』って詠唱あるから全部手から出してたけど、手以外からも出せるの?」

 本当にこの生徒は向上心があるねえ。先生嬉しいよ。

 と、そう思った時に、ふと前世の学校を思い出した。私は結構手を上げまくるタイプだったけど、先生によってはうんざりした顔したり、逆にちょっと嬉しそうだったりしたけど、嬉しそうな人はこんな感じだったんだなあ。

「もちろん、できるよ。他にもね、応用の幅ってすっごく広いんだ。だから、こんなこととか!」

 私は近くの木を指さし、思いきり念じた。直後、頭上から大量の火の玉が発生し、木に向かって飛んでいく。

「他にもこうとか!」

 今度は標的の前の地面を指さし、くいっと持ち上げる。瞬間、地面から炎が激しく噴き出した。

「さらには、こんなこともできるんだよ!」

 最後に、今度は両手を左右に広げ、そこから火球を撃ち出す。火球はある程度進むと急速に進路を変え、左右から挟み込むように標的へ襲い掛かった。

 そんな私の魔法を、ザインはあんぐりと口を開けて見ていた。うーん、良いリアクション。じゃあ、最後にとっておきを見せてあげよう!

「さらにさらに!極めればこんなことだって!上級魔法、フレイムピラーの変形!あったかピラー!」

 地面から、猛烈な炎が噴き出す。それはアッと思う間もなく、ザインの全身を飲み込んだ。

「うわあああぁぁ!?あ、熱……く、ない?」

 見た目は地獄の業火に包まれているザインだけど、当のザインは自分の体を見つめ、戸惑うようにあちこちの感触を確かめている。

「これって……もしかして、温度を下げて発動したの!?」

「はぁ、はぁ……そ、そうだよ。大体30度くらいかな?はふぅ……結構気持ち良くない?」

「いや、うん……色々言いたいことはあるけど、うん」

 あまりに魔力消費がひどいので、私は一度炎を消した。うーん、さすがに上級魔法ともなるとそれなりに辛いね!

「……上級魔法って言ってた?」

「うん、言ったよ?」

「リィンって、どこまで魔法使えるの?」

「超級もいけるよ?」

「……そう」

 何だかザインは遠い目になってしまった。まあねえ、初級頑張ってる人が上級とか見るとそうなるよね、わかるわかる。

「まあこんな感じでさ、魔法って思ったより自由なんだよ!だからザインも、『こんな魔法使いたい!』っていうのあったら、試してみてよ!」

「……使いたい、魔法……」

 確かめるように呟くと、ザインは軽く手を上げ、一瞬だけ目を瞑ったけど、すぐにしっかりと目を開け、短縮詠唱を唱えた。

「初級魔法、ウィンドブロウ!」

 ぶわぁっと、私の真下から風が吹き上がった。わぁ~お、まるでどこかの映画スターみたい!

「下から吹く風かぁ!ザインってやっぱり器用……」

 そこで、私は気が付いた。

 気が付いてしまった。

 私、今ズボン履いてないんだよね……てことは、今ぶわーって服捲れあがったってことは……!

 みるみるうちに、顔が真っ赤に染まっていくのが分かる。なぜか同じく、ザインの顔も真っ赤に染まる。

「ご、ごめんなさい!!つい出来心でっ……ほ、本当にごめん!」

「い……いいい、いいじょ!?べちゅ、別にっ……かまっ、構わないもん!?だってほらっ!?何も忘れてないし気にしてないし!?魔法すごいのはほんとだし!?」

「……ごめんね?」

「いいのっ!言わないでいいのー!変に意識しちゃうじゃんかー!だって、もう、ほら、あの、あれ、なんだ!?いいんだってばー!」

 結局、これのせいでぐだぐだになってしまい、私達の魔法特訓はここで強制終了となってしまった。


 今日の成果=ザインが下から吹き上げる魔法を覚え、女の子のパンツを見ることができるようになった。


 将来が思いやられるね!!!!!

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