決着をつけよう!
脳筋格闘家魔王対ゴム人間ザイン。勝敗など火を見るより明らか。
「だったら骨はどうだ!うお、軟らかっ!?」
「硬い所はどこにもないよ!」
男としてその台詞は悲しくないのか、とちょっと思ったけど、戦闘中だからね。硬い訳がないよね。どことは言わないけど。
魔王は関節技を掛けてみたり、横薙ぎの攻撃を繰り出したりしてるけど、どれもザインには全く通じない。ただ攻撃された箇所が伸びるだけ。
でも、ザインの攻撃も全然当たらない。攻撃が通じない分、防御にかなりの意識を回してるようで、ザインのシャベルはさっきから全部空を切っている。
「それよりもお前!そのシャベルは一体何なんだ!?俺の腕を切るなど、剣でも難しいはずなのだが!?」
「リィンにミスリルコーティングしてもらったからね!」
「ミスリルのシャベルなど作るな!!」
魔王は本能で戦う分、思ったことも全部口に出るタイプらしい。元々嘘なんかつかない奴に見えるけど、戦闘中はもっと素直だな。
「なるほど、打撃は全く効かないと。なら、こいつはどうだ!?」
鋭い爪を振りかざし、魔王がザインに襲い掛かる。さすがに岩をも抉る爪は流し切れず、ザインの顔が苦痛に歪んだ。
「ぐっ!?」
「ははは!やはりな!このまま引き千切って……伸びるな!」
引き千切るのは無理だったっぽい。そのままびよーんと伸びて、むしろ手が使えなくなってる。ザインは素早くその手を押さえつけ、片手でシャベルを振りかざした。
それに気づいた魔王は、素早くシャベルを押さえて反撃を封じる。すると、ザインはシャベルから手を離した。
「リィン流魔法術『人刺し指』!」
「ぬお!?っく!ウォルスの記憶にあったな、これは!」
氷の爪で攻撃しようとしたザインの腕を、魔王は素早く掴む。お互いにそれぞれ相手の腕を封じた状態になり、一種の膠着状態が作られる。
「くっそ……!まさか、そんな隠し玉を持っているとは思わなかったぞ!」
「僕だって、これを戦闘に使うなんて思わなかったよ!」
「戦闘に使うと思わなかったと言うが、じゃあ何用の魔法だ!?」
「リィンはホーンラビット一匹丸々食べたいときに使ってる」
「どんだけ食うつもりだあの妖精は!?」
どんだけって、ホーンラビット一匹分だよ。
「だが羨ましいな!俺もドラゴンを仕留めた時は、食いきれなくて涙を呑んだものだ!」
「だったら、戦いなんかやめてリィンから魔法教えてもらえば!?」
「それは無理だな!こんな楽しい戦いを、今更やめられるものか!」
やっぱりなあ。ザインはあわよくば平和的解決できないかって思ったんだろうけど、魔王は戦いそのものが楽しいタイプだからね。どっちかが死ぬまでは止まらないか。
二人は同時に手を離すと、素早く相手から距離を取った。その時、ザインの頬に小さな日の光が当たり、魔王は怪訝そうな顔をした。
「光……だと?」
魔王が天井を見上げ、そして固まった。
「夜空を走る流れ星、尾を引き走る流れ星。魔力に惹かれて集いし星よ、我が手に乗りて命を待て」
まあ、そりゃそうだよね。城の中に巨大な隕石を掲げた妖精がいたら、誰だって固まると思う。
「なっ!?こ、こいつ、いつの間に!?いや、それ以前にメテオフォールだと!?超級を超えると言われるあの魔法か!?そんな特大魔法を、なぜ妖精のお前が使える!?」
「惜しいね、確かにメテオではあるけど、これはプチメテオ……私サイズだからプチプチメテオかレッサープチメテオだね!」
そう、ザインは自分で魔王に勝とうなんて、一つも思ってなかった。だから、魔王に勝つのは私に託してきた。
そのために、私は途中から戦闘に参加せず、ずっと準備を続けてきた。ザインから貰った魔力と、この15年間たくわえ続けた魔力を使い、この私が詠唱すら使って、小さな隕石を宇宙から呼び寄せ続けたのだ。
「どこが小さいんだ!?」
「食らえばわかるかもね!さあ、落ちろぉ!!」
隕石を、魔王目掛けて投げつける。でも当然、魔王はそれを避ける。
直後、隕石が空中で止まり、魔王が目を見開く。
「な、に!?」
それに構わず、私はザインに顔を向けた。
「ザイン!」
「いいよリィン!」
ザインは両手を大きく広げ、隕石を受ける構えを取った。直後、巨大な隕石に見える集合体はバラバラに砕け散り、ザインに襲い掛かる。
びょーんと、ザインの各所が大きく伸びる。その状態で、ザインは魔王に向き直った。
「魔王、お前は強かったよ。攻撃も読まれるし、純粋に速かったし。けど……無差別に襲い掛かる攻撃は、どう避ける!?」
「何だと!?お前達、まさか――!?」
「いっけぇ!私とザインの合体技!プチメテオ ショットガン!」
ザインが全身に力を入れると、その張力で隕石が勢いよく押し出される。一つ一つが多様な鉱物を含んだ重量級の隕石であり、土魔法みたいに打ち消すことは不可能。軌道は滅茶苦茶で、ザインも私もどこに飛ぶんだかわからない。それが何百という数で、一斉にザインの前方へ襲い掛かった。
回避不能、防御不能。理不尽の塊のような攻撃が魔王に降り注ぐ。
魔王は両腕で急所を守るけど、最初の一発が右腕を持って行き、次の一撃で左膝を砕かれ、体勢を崩した瞬間、全身に隕石の雨を浴びた。
一瞬後、そこには魔王だった男がいた。四肢がもげたり折れたりして、身体の各所も穴だらけだけど、まだ辛うじて息はあるみたい。
「……とんでもない……奴等だった。やはり、その妖精から……仕留めるべきだった、か」
だいぶひどいやられっぷりだったけど、魔王は文句一つなく、むしろ満足げな表情すら浮かべて、そう呟いた。
「俺の代で、魔族の世界に、できなかった、のは、悔やまれるが……俺は、満足、だ」
魔王は荒い息をつきながら、私達に視線を向けてきた。
「おまえ、たちは……まんぞく……か……?」
その言葉に、ザインは少しだけ悩み、やがて小さく頷いた。すると、魔王は笑顔を浮かべ、大きく息を吐いた。同時に、魔王が使っていた投射魔法が、フッと消えた。
それから、魔王が動くことはなかった。ザインは魔王の前に立つと、静かに両手を合わせた。
「叶う事なら、手を取り合いたかったけど……それは、僕達の後に任せるしかないね。魔王、君は本当に強かったよ。どうか、安らかに」
うーん、天上天下無双の勝利を祝いたかったけど、ちょっとそういう雰囲気でもないかな。でもま、いっか。お祝いは帰った後死ぬほどされるんだろうし。
あと、正直もう本当に限界。存在が消えそう。魔力使い過ぎて本気で限界。
「ザイン……ご、ごめ……も、わた、し、無理……」
「えっ!?リィン大丈夫!?」
「ま、まりょく……すこし、でいいから……わ、分け……」
「ちょっと待って!ん!」
って、ちょおおぉぉ!キスじゃなくて大丈夫って話はどこにぃぃぃ!?絶対癖でやったなこいつ!もうキスから逃れられないのかぁぁぁ!
……でも、考えようによっては結構いいかも。お疲れ様のキス……うん、すごくいい。
なんて思ってたら、ザインが唇を離してしまった。
「……リィン?今キスのことばっかり考えてなかった?」
「き、きのせいよ……」
「まあ、気持ちはわかるけどね。ちゃんと受け取ってね」
そしてまた、唇が重ねられる。今度はちゃんと魔力を受け取る。ひとまず上級一回分くらいで……うん、だいぶマシになった。
「ふう、ありがとザイン。ほんとに消えちゃうかと思った」
「やっと平和な世界になるのに、消えちゃ嫌だよ。さあリィン、少し休んだら、帰ろうか」
言いながら、ザインは魔王の亡骸を担いだ。王都への報告用か、豪快だな。
「持ってくなら首だけの方が良くない?」
「いやいやいや、そういうんじゃなくてね?ただ埋めてあげようって思っただけで……うん、いつものリィンになってきたね」
ザインが私に笑いかけ、私もザインに笑いかける。そうして、私達は魔王討伐の旅を終え、王都への帰還の旅を始めるのだった。
けど、私の胸には、少しだけ不安が付きまとう。
もしかしたら、これが今世最後の旅になるかもしれなくて……でも、離れたくないけど……ザインは、帰ったらどんな選択をするんだろう。
今日の成果=魔王を討伐した。
ついに!ついに使命を果たしたよ!天上天下無双の勝利ぃ!イーヤッハァー!
魔王は純粋な獣人で、その無双のフィジカルで魔王の座に就いた、歴史上でも珍しいタイプの魔王だよ!大体はやっぱり悪魔とかが多いみたい!
生まれながらに膨大な魔力を持ってて、魔法使いになることを期待されたけど、攻撃魔法も補助魔法も全然使えなくて捨てられたっていう不憫な生まれ!『魔王』としか呼ばれないのは、そんな生まれで名前が無いからだよ!
でも捨てられたことをまったく苦とも思わず、『じゃあ鍛えるか』って感じで鍛えだしたらそっちの才能が開花した感じ!基本的にすごくポジティブだよ!
実は恋人がいたこともあって、魔王が使う各種の魔法はその時に身に付けたもの!青春だね!思春期だね!でもその魔法が異質すぎてフラれたよ!世知辛いね!
最終的にはノブリス何ちゃらみたいな感じで、力があるから魔族の世界目指すかって感じで世界征服に乗り出したよ!そんな軽いノリで侵攻しないでほしいね!
でも考えようによっては、そのおかげで私はこの世界に来られたよ!だから私にとっては恩人とも言えるね!
全力でぶっ殺しちゃったけどね!




