表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/61

行く先を選ぼう!

 帰りの旅は楽なものだった。少なくとも魔物の地は。

 来る時は月単位でかかったけど、帰りは道が分かってるからすいすい帰れる。途中の温泉に関しても抜かりなし。硫黄泉メインであちこち入る。

 魔物は普通に襲ってくる。けど、知能の高い一部の奴は逃げていく。そりゃあねえ、魔王殺した相手とは戦いたくないもんね。おかげでだいぶ楽ができた。

 ちなみにホーンラビットは襲ってくる。まあこいつ、魔王も襲ってたみたいだしね……本当になんで絶滅しないのか謎。

 んで、ひっさしぶりに町に着いたら、もうえっらいことに……よく考えたら、魔王の魔法で全員知ってるんだもんね。そりゃ大歓迎もされるわ。

 逆兵糧攻め、冒険の話をしろ、サインくれ、その他諸々。婚姻届け持ってくるんじゃねえ、こんにゃろ。まあ私が怒るまでもなく、ザインが無表情で灰にしてたけどね。もちろん書類の方ね。

 一日休めれば十分だってのに、まあ引き留めがすごい事すごい事。王都に行くんだっつってんだろ愚民どもめ!お前等は王より偉いつもりか!?王より優先されるべき奴等なのか!?

 もう、一日でぐったりだった。ザインも『休む前より疲れた』とのことだったので、私達は大きく方針変更した。

 つまり、超級速力強化を使っての強行軍。なんで人間の手と目を逃れるために強化魔法を使わないといけないんだ。ゴキはきっとこんな気分なんだろうな。知りたくもなかった。

 結果、ほとんどの町はすっ飛ばしたけど、羊肉神教団本部には顔を出した。多少の……かなりの……相当……多大な迷惑を蒙ってでも、ここのジンギスカンは食べる価値あるからね。

 まあ、うん、脱出に二日かかった。いや、意外と主人は物わかり良かったんだけど、周りがね……王より偉いお方ばっかりで本当に疲れた。

 他の町は寄らない。スパンキング少年タウンなんてもっての外。絶対私のお尻叩きたがるもんね。

 んで、王都に着いたら、それはそれは凄まじい事になった。

「うおおおお!勇者様ぁぁぁぁ!!!」

「魔王を倒した勇者様だぁぁぁ!!!」

「本物だぁぁぁ!!勇者様こっち向いてぇぇぇ!!!」

「妖精ちゃんこっち見てぇぇぇ!!!妖精ちゃぁぁぁぁぁぁん!!!!!」

 もう歓声で真っ黄色。すんごい音量。うるせえ黙れとしか言えないし、言っても聞こえない絶望。私は即姿を消した。まあ、私への声はそこまで多くは無かったけど……ただ、熱量は高めでちょっと色々怖いんだよね。

 ただまあ、ここは王様がいるおかげですぐにお迎えが来て、何とか進めそうで……いや、無理だった。進めない。王の使いを遮るな愚民ども。集団心理って怖いね。

 もうどうしようもないから、王様には無礼を働くことを先に伝えてもらって、向こうから合図が出たのを見計らって超級筋力強化発動。屋根の上に飛び上がって、その上を走って王城まで向かう。まさにパルクール。気分は忍者。

 てーか、これすら民衆にとっては『すごい勇者様のすごい技』になっちゃうのね。下からの歓声がすっごい。

 城壁を飛び越え、二階テラスから城内に入る。城の兵士達も『あれじゃあ仕方ない』みたいな感じで許してくれてる。実際、どうしようもないからね。さっさと王様の元にたどり着くに限る。

 だいぶ異質な登場ではあったけど、王様は何とか体裁を整えてくれて、こっちも何とか準備をして、魔王討伐の報告……いや、もう知ってるから確認?を行う。

「勇者ザインよ。この度、そなたは魔王を討ち果たし、人間達を救った。その功績は、どんな言葉でも語りつくせぬほどである」

 ザインは片膝をつき、頭を下げて拝聴中。うんうん、最初王様だと気づかなくて立ったままだったとは思えない成長ぶりだね。

「故に、そなたには褒美を取らせよう。どんな願いでも言うがいい。尽きぬ財でも、美しき妻でも、比類なき武具……それはいらぬか。何でも言うがいい」

 黙って聞いていたザインは、さっきの『美しき妻』というところでちょっとピクッと反応した。それを見て、私は内心溜め息をついた。

 周囲には、色んな人がいる。で、どう見てもこの場に似つかわしくない、めっちゃ美人さんも何人か見える。たぶんあの人達が、ご褒美、つまりはザインのお嫁さん候補なんだろう。

 女の私から見ても美人さんだし、ザインと歳が近そうな子もいる。だったら、ザインはきっとあっちの方が良いんだろうなあ。何だかんだで、私は妖精だから、色々不便だろうし。

 と言うより、さっきの中から選べってことなんだろうなあ、貴族的な言い回しを考えると。お金と女をやるから、受け取るよな?っていう意味なんだろうね。その代わり、国には服従してろよ?という意味も入ってるんだろう。

 ああ……このままだと、神様が言った通りかなあ。ザインが選ぶんなら、私に止める権利はないけど……でも、ザインが他の子と仲良く……まではいいけど、キスとかしてるのは……うう、考えるだけで辛いよぅ……見たらきっと死んじゃう。相手の子が。

「……僕、は……」

 ザインが小さく声を上げた。ああ、聞きたくないなあ。でも、聞かなきゃなあ。場合によっては、すぐに神様呼ばないと。

 いや、もう行こうかな。うん、それがいいかも。ザインが他の子を選ぶところなんて、絶対見たくない。

 私は目を瞑り、神様へのパスを繋ごうとした瞬間、逆に向こうからパスが繋がる感覚があった。

『判断が早すぎはしませんか』

 うわぁ!?お久しぶりです!びっくりした!何事も早めの判断が良いかなって思いまして!

『貴方がそこまでネガティブだとは知りませんでした。少し臆病になりましたか』

 うーん、自分では自覚ないけど……でも、そうなのかもしれない。いや、違うな。元々だ。ザインのためだ。よし死のう。

『不慣れなことは、誰しも臆病になるものです。10分後にもう一度来ますので、その時に改めてどうするか聞かせてください』

 いや、だからもういいって……おーい、神様?おーい!?

 私が脳内でそんな会話を繰り広げていると、ザインは顔を上げ、はっきりとした口調で言った。

「僕は、勇者です。ただ、勇者としての、自分の使命を果たしただけです。ですから、どのような褒美も要りません」

「え!?」

 驚いたのは私だけじゃなく、その場にいた全員がどよめいていた。王様は手を上げてそれを制すと、静かな声で続ける。

「殊勝な心がけだ……連れている妖精と違ってな。しかし、褒美を取らせぬなどということは、王としての沽券に関わる」

「でしたら、僕に旅立つ許可をください。そして、魔物の地で暮らす許可を」

 どよめきが再び大きくなる。今度はそれを止めず、王様は質問を重ねた。

「なぜ、わざわざそんな僻地へ行くのだ?王都に屋敷を立てることもできるのだぞ?」

「理由は二つあります。まず、僕は結局のところ、こんな輝かしい世界は似合わない、ただの町人なんです。さっきの騒動も、正直、結構疲れまして……」

 それを言われてしまうと、王様も何も言えないみたいで、苦虫を三匹噛み潰したような顔をしている。実際噛んではいないと思いたいけど、確認するまでは事象は確定しないね。もしかしたら噛み潰してるのかもね。

「もう一つは、今のところ、あそこで生きていけるのは僕達だけだと思います。ですが、僕達だけでもいるのなら、いつかは人が住める土地にもなるのではないでしょうか。それはこの国にとっても、利益のあることだと思います」

 ザインの言葉に、王様は髭を弄りながら考えていた。まあ、褒美を断る勇者、つまり首に縄を付けられない危険人物の処遇を考えれば、慎重にもなるよね。

「ふむ、妻も要らぬと言うのか?見目麗しき令嬢や、公爵令嬢であろうとも自由に選べるのだぞ?」

「それこそ、僕には最も不要です。僕が妻に選ぶのは、このリィンだけです」

「えっ!?」

 いやっ、ちょおぉぉぉい!!!いきなり何ぶっ込んでくれてんだ!?いや、嬉しいよ!?嬉しいけどそれみんなの前で言うかぁ!?

 ほらぁみんな固まっちゃってんじゃんか!そこの兵士、『まさに勇者だ』じゃないんだよぉ!?そこの令嬢!『レベル高い』とか呟かない!!

 いやいや待てよ、なるほどそういうことか。こんな事言う男に嫁ぎたい女の子はいないよね。断りの台詞としては最高だね。ふう、早とちりしちゃダメだ私……。

「……実に勇者だな、そなた。では、其方は何の褒美を得ることもなく、そこの妖精と二人、魔物の地へ行くと言うのか」

「僕が得るはずだったものは、各地の復興や支援に使ってください。魔王を倒したとはいえ、傷ついた人達はいるはずです」

「…………なるほど、自身の幸せだけでなく、この国の未来も見ているわけか。実に殊勝な心がけだ」

 処遇としては悪くないと思ったのか、それとも本気でそう思ったのか、王様は大きく頷いた。

「よろしい。ならば、勇者ザイン。そなたは魔物の地へ行き、自由に暮らすがよい。もし支援が必要ならば、我々はいつでも力になろう」

 王様の言葉に、ザインは静かに頭を下げた。

「国王様、ありがとうございます。御厚意を無下にしてしまい、申し訳ありません」

「構わぬ。これが初めてではなかろう?」

「ほ、ほんとすみません……」

 そういや剣断ってたもんね。さすがに本気で恐縮してるみたいで、ひっさびさに小市民ザインが見られた。

 最後に頭を下げ、退出しようとするザインに、王様が声をかけた。

「ザインよ」

「はっ……」

 一体何事かと戸惑うザインに、王様は優しい微笑みを向けた。

「達者で暮らせよ」

「あ、はいっ……ありがとう、ございます」

 最後のは、本当にただそう思ってたんだろうなあ。王様、孫を見るお爺ちゃんみたいな顔だったもんね。

 ちなみに、退出も門ではなくテラスから。強化魔法を使って外に飛び出し、一気に王都の外へ出る。よっぽど民衆に囲まれたくないんだなあ。

 少ししてから、私は恐る恐るザインに尋ねた。

「あ、あの……ほんとによかったの?美人さんもいっぱいいたのに」

「え、なんで?やだよ、貴族の人と結婚とか……すんごく疲れそうじゃない?」

 ザイン、本気で嫌そう。あっれー?思ってた流れと根本から違うなあ?

「えええ!?で、でもでも、男の人ってやっぱり美人さん侍らせて酒池肉林でわっしょいわっしょいするものなんじゃ……?」

「わっしょいが何なのかはわかんないけど、少なくとも僕はそんな生活する気はないよ。だったら、リィンと温泉入ってのんびり暮らしたいな」

「……あっ!?だから魔物の地って言ってたの!?温泉のために!?」

「え?だってそういう話したじゃない?だから逃げるのにもちょうどいいなって思って、そういう話にしたんだけど……」

 なんだ、全部私の早とちりだったのか……ザイン、本当に他の女の人じゃなくって、私を選んでくれたんだ……やばい、ちょっと泣きそう。

「ていうか、リィン?その口ぶりだと、僕があの子達の誰かと結婚するつもりだったって思ってたね?」

「え、う……だ、だって、男の子ってそういうのが好きだと思ってたし……!」

「僕はリィンを信じてたのに、リィンは僕を信じてくれなかったのかぁ。そんなに僕って信頼無いのかぁ、悲しいし腹立つなぁ」

「ちょっ、ご、ごめんって!でもっ、ほら!すっごい美人さんだったし、そういう可能性もあるかなーって!大体、ザインエッチだし!」

「あとでお尻叩き千回ね」

「ちょおおお!?多すぎ多すぎ!」

 だけど、まだまだこんな話ができるんだって思うと、すっごく嬉しい。ザインとまだまだ、ずっと一緒にいられるんだ。

「……でも、それで許してくれるなら、何回叩かれてもいいよ」

「……そんなに不安だったんだ。言ったでしょ?僕はリィンが好きなんだよ」

 そう言って、ザインは優しくキスをしてくれた。えへへ、仲直りのキス、嬉しいな。

『……それで、転生はどうしますか?』

 空気を読め阿呆神めがっ!!!するわけねえだろうがっ!!!

『でしょうね、失礼しました。それでは、末永くお幸せに』

 私の暴言に怒るでもなく、神様はスッと消えた。うーん、勢いで強めに言っちゃったけど、今度菓子折り持って謝りに行くか。そもそも、転生させてくれたの、あの神様だしね。

 こうして、私とザインは人里を避けながら、再び魔物の地へと向かうのだった。今度は魔王討伐なんかじゃなく、新たな生活を始めるために。

 私達は勇者とそのサポート妖精じゃなくなった。これからは、ただのザインとただの妖精のリィン。私達の未来は、これから始まるんだ!


 ちなみに、お尻はきっちり百回叩かれた。理解はしてくれたけど、結構怒ってたみたいで、かなり強めにやられた。お尻、一日経ってもめっちゃ痛いよぅ……。

 なんでこう、私達は肝心なところで締まらないんだろうね……謎すぎるよ。



 今日の成果=ご褒美全お断りして魔物の地で新生活を始めることにした。

 今回はザインの紹介だよ!私の勇者様、ザイン!

 ザインはパッと見、全然パッとしない能力の持ち主だよ!見た目も普通だし、小市民オブ小市民って感じ!

 能力を5段階で評価するなら、全部2辺り!善性と性欲は4かな!本気でパッとしないね!

 でも、実は成長が異常に早いっていう特徴を持ってて、育ち方次第で比類なき勇者になる可能性を秘めてるよ!

 具体的には『ザインの攻撃!ホーンラビットに2のダメージ!ザインのレベルが上がった!』とかなるレベル!チート極まりないね!序盤は地獄だけどね!

 そんなわけで、魔王戦では他の勇者がレベル30だとしたら、一人だけ150くらいいってたよ!まあ、それでようやく他に並ぶんだけど……。

 ちなみに、王様に迷惑かけまくってるけど、意外にも仲は良好だったよ!優れた為政者だから色々下心もあったみたいだけど、個人的に気に入ってたみたい!

 その関係で、ザイン流シャベル術もしっかり後世まで伝わってて、工兵とか新兵が咄嗟に手に取れるもので戦う術として伝わってるよ。でもむしろシャベルを得意とする騎士が、十年に一人か二人は出るみたい!

 あとサポート妖精を妻と言い放ったせいか、後世では『最も勇者らしい勇者』として伝わることになるよ!絶対伝言ゲームで聞き違い発生してるよね!

 そうそう、あの場にいた女の子からの評価は『嫁に行かなくて良くなってホッとした』が2割、『残念だった』が5割、『やべえ奴』が2割、『結婚したい』が1割だったみたい!私のザインはやらん!!!

 ま、残念だったっていうのも、勇者の妻なら家の格も上がる、とか貴族めいた理由が多かったみたいだけどね!純粋にザインを好いてる子は意外と少ないってことで……ザイン涙拭けよ。

 後世の話では、『比類なきシャベルの使い手』『無詠唱魔法の草分け』『自己流魔法の創始者』『妖精を妻にした男』とか情報が錯綜してるよ!

 半分くらいは私の功績だし、魔法全般で言えばむしろガリーナがすごい功績残すんだけど、同年代だから混じっちゃったみたいだね!

 ご両親との仲は悪くないけど、お金目当てで勇者にされた辺りで自立の道を歩むことにしたみたい!『今頃贅沢三昧だろうし』とか現状をしっかり把握してたよ!

 善性の高さは、魔族相手でも友好的な関係になれないか模索する辺り、良く出てるよね!人間相手では武器破壊で終わらせてたしね!

 でも性欲も結構強くて、溜まってくると善性を押しのけて下半身でものを考えるようになっちゃうこともあったみたい!男の子オブ男の子だね!

 まあ私としては、アルディオとかピルツェータの妖精みたいにならなかっただけでも良かったと本気で思うよ!!!

次回、最終回です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ