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前世の料理を作ってもらおう!

 思った通り、四天王の一人を討ち取ったことは大変な大ごとになった。おかげで一週間ほど、ザインと私は足止めを食った。

 宿屋の主人は『こんな強い勇者様が泊まった宿なんて、絶対人気が出ます!』とホクホク顔。結局は金か、資本主義の犬め。

 でもご飯は結構豪勢なの出してくれたから許す。マトンとかラムとかの羊肉が売りらしくて、毎度毎度羊肉。これにはザインも私もにっこり。地味に珍しいんだよね、羊肉。

 で、羊肉食べてると、ど~~~しても食べたくなってくるものがある。前世では羊肉と言ったらこれ!って感じの料理、すなわちジンギスカン!

 当たり前だけど、この世界には無い。でも食べたい。じゃあどうするかっつったら、作ってもらうしかないよね!てなわけで、ご主人と直談判。

「ご主人さーん、どうしても食べたい料理があるんだけど、リクエストしてもいーい?」

「ああ、これは勇者様の妖精さん。どのような羊肉が食べたいんですか?」

 羊肉確定かい。まあ当たりなんだけど。羊肉亭に改名しろ。

「あのね、ジンギスカン!」

「じ……じんぎすかん?」

 宿屋の主人のみならず、後ろで聞いてたザインも首を捻っている。なんだ?私が悪いとでも言いたげだな?

「え~っと、どのような料理か伺っても?」

「あのねー、甘じょっぱいタレで、羊のお肉……できればラムの方かな。それを焼いて食べるんだけどね?こう、脂身を熱して脂を垂らして、それを使ってお肉をじっくり焼いて、タレに漬けて食べるの!おいしいんだよ!」

「なるほど、焼肉のような感じですね?」

「あーっとね、焼くのはこっち、お客さん側でやるのね」

「え、ご自分で焼く!?」

「そう!まあ難しかったら、やってもらうんでもいいよ!でねでね、タレはしょっぱさが強いんだけど、甘みもしっかりあって……リンゴだったかなあ?を、すりおろして入れたりしてあるの!あとニンニクも外せないね!」

「ニンニクを入れたら、肉の匂いが消えてしまうのでは……?」

「そこまで羊の匂いが好きか!?羊過激派か!?枕を羊毛100パーセントにしてやろうか!?でも、これは絶対に合うから信じて!」

 まあ、説明には大苦戦。しょうがないよね、私だって昔……というか前世で何度か食べたっきりだし、こっちの世界では存在してないし。

 それでも、何とかかんとか必死こいて説明して、一応それっぽいのは作れそうってことで、私達はお部屋で待機。私がワクワクしていると、ザインが恐る恐ると言った感じで聞いて来た。

「ねえ、リィン?」

「ん、なぁにー?」

「あの、じんぎすかん?って料理、見たことも聞いたこともないんだけど、リィンはどこで知ったの?」

 そりゃ気になるよね。私だっていきなりモケレケンメーベ料理とかが出てきたら、シェフを呼んで詰問するだろうしね。

「別の世界の料理だよ!」

「別の世界……ああ、リィンって神様から色々情報もらえるんだっけ。別の世界の料理までわかるっていうのは、すごいね」

 そういう訳じゃないんだけどね。でもまあ、別にそれで納得してるならいいか。

 ちなみに、情報は本当にあるのかな?試しに神ペディア改め、クックゴッドを調べてみると、明らかについさっき追加しましたみたいな感じでジンギスカンの情報が出ていた……神様、仕事早いな。ていうか神様の食に対する拘りすごいな。 

 てーか、説明してる時に追加されてたら説明苦労しなかったのに!畜生、これが神の試練って奴か!

 リクエストしたのは朝だけど、試作もするってことでジンギスカンは夕飯に決定。あと例の鉄板は用意できないと思うから、普通の鉄板になるかもね。

 それまでは暇なので、ザインと魔法の訓練をしたり、軽く打ち合いを試してみたり、ゲームで遊んだり。

 魔法は超級も実戦レベルで使えるようになったし、打ち合いはもはや相手にならなかった。ちょっと悔しい。ゲームはすごろくみたいなので遊んだ。

 これは宿屋にあったやつで、マスごとに『お酒を一気飲み』とか『スライムの真似』とか、変な指示がある奴だった。でも変に盛り上がった。学生のノリに近かったかも。ちょっとだけ懐かしかった。


 そしてそして!

 いよいよ!

 お夕飯!


 もう食堂の中にニンニクとラムの匂いが漂ってて、食べる前からめっちゃ期待大。他の人の夕飯は、この宿屋定番の香草焼きだけど、私とザインだけは特別待遇。

「お待たせしました、ご依頼のジンギスカンです」

 宿屋の主人が、生のラム肉を大量にテーブルに置き、私達の前に鉄板が置かれた。そして、タレの入ったソースボート?っていうんだっけこれ?カレーが入ってるみたいな奴。それが脇に置かれた。

「なんだあれ?ジン……?」

「自分で焼くの?え、手抜き?」

「ニンニク臭すごいな。ついにここの主人もニンニク使うようになったのか」

 周囲は色々言ってるけど、私とザインの目はもうジンギスカンに釘付け。そして一つ、私は主人に聞きたいことがある。

「あのー、お野菜は?」

「野菜があると、羊の匂いが薄まりますので、まずはお肉のみでどうぞ」

 こいつはマジの羊肉過激派だな!!!ここまで来ると私も認めるしかないね!!!お野菜と一緒に食べるのが良いんだけど、まあ仕方ない!!!

「それじゃ、いっただっきまーす!」

 もう待つ必要はないし、待てない。脂は既に引いてあるみたいなので、私は肉を一枚鉄板に乗せると。ささっと両面焼いて、タレに漬けてから一口大に切ってパクッと!

「んん~~~~っ!!んんんんーーーー!!!」

 なっつかしい!おいっしい!さすが羊肉過激派!ソースも完璧の仕上がりだよ!

 私はもうほっぺたを押さえて空中に飛び上がって、足をじたばたさせて全身で喜びを表現した。それぐらいしてもまだ足りないけどね!

「そ、そんなに美味しいんだ?」

「んっ!」

 私はお肉をもっきゅもっきゅ噛みながら、ビシッと親指を立てる。ああ、これはいくらでもいけちゃうやつ!

 そんな私を見て、ザインも肉を取ると、両面を色が変わる程度に炙り、タレを付けてパクッといった。

「……んっ!?んんっ!おいひ!」

「んんっ!」

 私とザインは、思わず拳をぶつけ合った。そんな様子を見て、宿屋の主人は満足気な笑みを浮かべた。

「お気に召したようで何よりです。お話を聞いて、いかに羊肉の匂いを残したままのソースにできるか、一日中試作を繰り返しました。苦労したのがニンニクの比率で――」

 主人が何か言ってるけど、私達はもう食事に夢中。ザイン、さりげなく半分確保してるし。めちゃめちゃ美味しいけど、私はそんなに食べられないってば。

「すみません、お代わりってできますか!?」

「ええ、少し多めに作りましたので」

「じゃあ、あと二人前お願いします!」

 食うなあザイン!でも、私が紹介した料理を気に入ってもらえたのは嬉しいな、えへへ。

 すると、私達の食べっぷりと匂いに釣られたのか、他の客もおずおずと声をかけ始めた。

「あの。そいつらが食ってるの、俺達ももらえないか?」

「出来ればこっちも頼む。そいつらの食いっぷり見てたら、もう気になって気になって……」

「あ、はい。可能ではありますが――」

 宿屋の主人は、ちらりとザインを見る。すると、ザインは笑顔で答えた。

「あ、大丈夫です。さっきの二人前さえ確保してもらえれば、あとは他の人にも分けてあげてください」

「ありがとうございます。では、こちらジンギスカンという料理です。焼き加減はご自分でどうぞ」

 これ幸いと、主人は試作料理の試食という形で、全員にジンギスカンを振る舞った。羊肉が苦手な人もいたみたいだけど、これはラムだからか割と食べられたみたい。ソースもニンニク効いてるしね。

 結果、他の人達からも大人気で、後から野菜を持ってきてもらってから、それに脂とソースを吸わせて食べるのもまたすっごく美味しかった。

 もちろん、これも全員が真似をして、主人は『野菜も最初から持ってこい』と怒られていたが、笑顔で拒否ってた。過激派にも程がある。

 で、私も調子に乗ってお肉三切れも食べて、お腹がはち切れそうになった。ザインは三人前食べてたから、これまた死にそうな顔でベッドに横たわっている。

 でも、すっごく幸せ。美味しいもの食べて、だらっと横になって、そのまま寝るのは本当に最高。

 こうして、私達は久しぶりに美味しいものをお腹いっぱいに食べ、ゆっくりと眠るのだった。


 今日の成果=ジンギスカンを作ってもらって食べた。

 羊肉過激派亭の主人は、これを看板料理にすることにしたみたい。ニンニクと焼肉の匂いで、お客さんを引き寄せるパワーが段違いだったって。あと自分で焼いてもらうってスタイルのおかげで、支度も楽だったみたい。

 ちなみに、他の勇者もレシピを知って作ってもらった人はいるみたいだけど、羊肉過激派の主人以外はそこまでソースに力を入れなかったみたいで、あんまり人気料理にはならなかったよ。

 ここの主人に出会えたことは、お互いにとってすっごく幸運だったみたいだね!

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