褒美の品を試そう!
羊肉至上主義亭に滞在して一週間と半分。さすがに多少の飽きは来るけど、主人の料理の腕が良いからあと一ヶ月は滞在できる。
でも、今日でようやく事実確認だの何だのが終わって、いよいよ旅立てる日。いや、ほんと長かった。これでも、早馬ぶっ飛ばしてだいぶ急いだらしいんだけどね。
ザインは四天王の最強格を倒した功績が認められて……最強だったんだね、あれ。最弱だと思ってたよ。なんかごめんね。
とにかくそれで、王様から直々に剣が与えられることになった。飾り気はないけど、刃は鏡面仕上げってくらいにピカピカ。あと変な魔力も感じるから、素材はミスリルとかそういうのかも。
「では、勇者ザインよ。これが、王より賜った剣だ。受け取るがいい」
「ありがとうございます」
一応、片膝をついて両手で受け取ったりという礼儀は尽くす。とはいえ、私もザインもその辺の礼儀には疎いから、姿を消して神ペディア見ながら横で喋りまくりという、とても実態は見せられない状況だったけどね。
ザインは受け取った剣を鞘から抜くと、何度かぶんぶん振ってみた。割と軽いようで、動きがかなり速い。さらに、袈裟斬りからの突き、そして逆袈裟、というように連撃も披露する。うーん、ついにシャベルの勇者卒業か?
そしておもむろに、ザインは剣を逆手に持つと、それを地面に突き刺した。
「ちょおぉい!おまっ、何をしている!?」
うわあ、使者の人面白い声出したな。だいぶ素が出ちゃったみたいだね。
でも、ザインは至って真面目に柄を踏み、ザクッと地面を掘り返した。動きが完全にシャベルのそれなんですが。
「その……すみません。すごく良い剣であるということはわかります。ですが、その……僕には、些か使いにくいんです」
「え、それが、か?」
「はい。まず、軽すぎます。刃も薄くて不安になりますし、掘った時にあまり土が乗らないところも気になります」
「乗るわけねえだろ……」
護衛の兵士辺りから、ぼそっと正論が聞こえた気がする。ザインは剣を何だと思ってるんだろうね。
「何より、滅茶苦茶な使い方をしたら壊れてしまいそうで、すごく不安なんです」
言いながら、ザインは使い慣れたシャベルを手に取った。
「僕には、こっちの方が合っています。ですので、気持ちは嬉しいのですが、この剣は他の、誰か使える方に差し上げてください」
「……王から賜った剣を、突き返すというのか?」
使者の言葉に、ザインは頭を下げた。
「申し訳ありません。ですが、僕がそれを持っていても、その……邪魔、と言いますか」
「ザイン、言い過ぎ言い過ぎ」
思わず私が突っ込んでしまうぐらいの大失言だ。売ればいいお金になるから、絶対に邪魔ってことはないと思うんだけどね。
使者の人はシャベルを持つザインを、苦虫と毛虫とえへん虫をまとめて噛み潰したような顔で見ていたが、やがて口を開いた。
「……私も、王に納得のいく説明をしなければならない。お前の言葉を、証明はできるか?」
「ええと……護衛の方と、戦ってみましょうか?魔法は無し、このシャベルとその剣で、一戦ずつということで」
「よかろう。では、レオン」
「はっ」
なし崩し的に、ザインは護衛の兵士さんと戦うことになってしまった。でもまあ、そんなに不安はないかな。王都にいた頃は、あっさり組み伏せられてたけどね。
「では、勇者よ。行くぞ」
「お手柔らかにお願いします」
まずは、もらった……というか突き返した剣での一戦。ザインはやや押され気味ながら、思った以上にまともに使えている気がする。
けど、やっぱりだいぶ使い慣れないみたいで、一分ぐらい戦った後、兵士の方が剣を止めた。
「……確かに、下手だな。たまに刃筋が通っていなかったし、剣の腹で打とうとすることも多々あった。その剣だから耐えきれていたものの、量産品の剣ならすぐに壊れていただろう」
「う……やっぱり、そうでしたか」
「武器を変えろ。シャベルでは、まともに戦えると言うんだろう?」
「はい。それでは、よろしくお願いします」
シャベルを構えるザイン。うんうん、やっぱりこっちの方が落ち着くよね。
開始の合図が出た瞬間、今度はザインが突っ込んだ。横薙ぎの一撃は想像以上に重く、剣で受けた兵士の顔が歪んだ。
「ぐっ!?な、こいつっ!?」
今度は突くと見せかけ、爪先目掛けて掘りにかかる。辛うじてその一撃はかわしたものの、ザインはそのまま土を顔目掛けて跳ねあげた。
「うあっぷ!?くっ、目潰しとは……!」
今度は下からシャベルを突き上げる。兵士は下がってかわしたけど、それを読んでいたザインは刃を縦にし、頭を叩き割らんと振り下ろす。
咄嗟に剣を構えた兵士だったけど、それこそが本当の狙い。ザインは剣を目掛け、渾身の力でシャベルを振り下ろした。
バキィン!と甲高い音が鳴り、刀身が吹き飛んだ。それを見届けると、ザインは追撃せずにシャベルを収め、二歩下がった。
「……納得して、いただけましたか?」
「なるほどな……国を守る兵士としては、そのシャベル術を教えてほしい所だ。斧の様であり、槍の様であり、しかしやはりシャベルでもあり、変幻自在の素晴らしい武術だった」
折れた剣を胸の前で掲げるように持つ。これは騎士の人が相手に敬意を表す時にやる敬礼だね。折れてるから格好悪いけど。
「シャベルでそれほど戦えるなら、いっそ一部の兵士はそれを正式の武器にしても良い気がするな」
「あはは……でも、恰好はつかないので、やっぱり剣の方が良いかと」
「とにかく、君が本当に剣よりシャベルの方が強いということはよくわかった。私からも、王には説明しておく」
「すみません、お手数かけます」
こうして、ザインはせっかくの高級な剣をもらうことなく、王様に返してしまった。もらってから売っ払えば、いいお金になったのにね!
「でもザイン、本当に良かったの?サブ武器として持ってても良かったんじゃない?」
私が尋ねると、ザインは笑って首を振った。
「いらないよ。冒険に出た頃はちょっと憧れたりもしたけど、使ってみたら思ったより使いにくかったしね」
シャベルより剣の方が使いにくいというパワーワード。世のドワーフを敵に回すぞ。
そんなことを思っていたら、ザインはちょっと恥ずかしそうに続けた。
「それに、さ。せっかくリィンが頑張って強化してくれたシャベルなんだから、よく知らない剣よりこっちの方が良いよ」
……やばいやばい、顔がにやけちゃう。でもそうかー、私が強化したシャベルの方がいいかー。えへへ。
「んー。じゃ、いつか良い素材とか手に入ったら、また強化してあげるね!」
「楽しみにしてる。それじゃ、行こうかリィン!」
「うんっ!」
そして、私達は魔王討伐の旅を再開する。少し足止めされちゃったけど、急ぎの旅じゃないから気にしない。
名実共にシャベルの勇者から逃れられなくなったザインと、次の町目指してゆっくり進んでいくのだった。
今日の成果=良い剣貰ったけど突っ返した。
レオンとやらはかなり腕が立つ兵士だよ。つまり、慣れない剣で一分ほど打ち合えたザインはかなり強いってこと。
ちなみにそのザインに関して『あの剣でよくもあそこまでひどい動きが』とか『シャベルがもはやシャベルじゃない』とか、王都に着くまでずっとグチグチ言ってたよ。
剣をだいぶ雑に……というか、シャベル風に扱ったのがどうしても許せなかったみたい。
けど、シャベル術に関しての情報提供したら、剣を圧し折られたことと併せて例の剣をもらえたみたい。良かったね!
あと、事の顛末を聞いた国王の顔は完全な虚無だったらしいよ。見てみたかったなあ。




