今度こそご褒美をあげよう!
意外と早めに町に着いた私達は、宿を確保してから食事をして、買い出しをして、魔王の情報収集をして、そして部屋に戻ってきた。
そしたらもう、あとやることは一つだけ。
そう、寝ることだ!!!
……って、言えたらいいんだけどね。お散歩前の犬みたいな目をしてるザインに、さすがにそんな残酷なことは言えない。
うーん、チューか。ネズミの真似で何とかごまかせないかな。ごまかせないよなあ。ザインマジ切れしそう。
そもそも言いだしたの私だし、言いだした私が逃げるのは卑怯だよね……既に一回逃げちゃったし、これ以上ザインにそんなひどい事はできない。
覚悟を決めるしかない。大丈夫、ほっぺにするだけだから、そんなに大変じゃないはず。いやそれでも一回逃げたけど。でも、やれる。私ならやれる。
うう、でもやっぱり恥ずかしいよぅ……言わなきゃよかった、あんなこと……でもでも、ザインはそれを期待して頑張ってくれたんだし……。
そもそも!私のチューなんかそんなにしてほしいのか!?自慢じゃないが二度の人生で一度も彼氏なんかできたことのない私だぞ!?何が良いんだ!?どこが良いんだ!?女なら何でもいいんだろ!?くそぉ、このエロガキめが!!!
いや、落ち着こう私。そんな考えになっちゃうのは良くない。ザインはきっと、私の何かが良いと思ってるんだろう……たぶん。
うーん、どの辺だ……?やっぱり女の子なら誰でも良いのでは?それだと、なんか……嫌だなあ。
いや、関係ないよね!?別に私の気持ちは今関係なくって、ザインにチューすればいいだけの話でっ……いや、でも……どうなんだろ……?私じゃなくてもいいのかなあ?
それだったら適当な女の子拉致って来ればオッケーだし願ったり叶ったりだな!!!
……いや、そうでもないな、意外と。知らない子とザインがチューしてるって考えると……なんでだろ、何か、やだなぁ……。
「リィン?」
「ひゃいぃ!?」
いきなり話しかけられて、私は文字通り飛び上がった。これ、前にも全く同じ光景なかったっけな?
「なんか、表情がくるくる変わってたけど、何か言いたい事とかあったら聞くよ?」
そう言うザインの顔は、ちょっぴり呆れ笑いみたいのが浮かんでいる。私、そんなに表情変わりまくってたのか。
「あ、じゃあ、その……えっと……えっと、さ」
「うん?」
「ザ、ザインは、さ……そのぉ……チュー、するの……他の、えっと、人間のさ、女の子とか、じゃ……ダメ、なの?」
ザインの表情がちょっと曇った。あ、何か勘違いさせちゃったかも。
「あっ、違うの違うのっ!いや、どうしても人間の子がいいならどっかから拉致ってくるけどさ!」
「拉致はダメでしょ拉致は……」
「けど、その……私、ほら、人間じゃないし……サイズ違うし、他にも、そのぉ……」
ちょっと言い辛い。私自身はそう思ってないから。でも、前世でよく言われた言葉だけに、引っ掛かってるのも事実だ。
「……変な、奴……だし……?」
「あ、自覚あったんだ」
「いやザインもそう思ってたの!?周りが言ってるだけで私は普通だよ!?絶対私普通!周りが変なのっ!!!」
ザインも思ってたなんて!?どこがだ!?私どこも変じゃないもん!!
「……気にしてたの?」
「き、気になんかしてないよ!!するわけないじゃんか!!変な奴等の言ってることなんて!!」
「……うん、気にしてたんだね」
ザインは私を宥めようとするように、頭を撫でてくれた。私はその手を振り払おうとするけど、ザインはしつこく撫でてくる。
「やめてよ!変な奴のことなんか気にする必要ないじゃんかー!」
「必要あるよ。変でも何でも、僕にとっては大切な子だからね」
大切な子。
そう言われて、思わず動きが止まる。すると、ザインは私を引き寄せ、膝の上に乗せて優しく頭を撫でてくれた。
……私、猫じゃないぞ?
「ごめんね。だけど、そもそもサポートをする妖精なのに、勇者達より戦闘能力が高くて、賢者って言われる人より魔法に長けてて、必要ないのに毎回食事してる妖精って時点で、結構変わってない?」
「……周りがやろうとしないのが変なの。私は変じゃないもん」
「50人の妖精の中で唯一裸で人前に出たことも、変じゃないって言いきれる?」
「だぁわあ!?そ、それは忘れてって言ったじゃんかー!」
いつまで覚えてるつもりだこの野郎!?やっぱり頭ぶん殴って忘れさせるべきか!?
「あはは、ごめんごめん。でもね、あれは忘れたくても忘れられない」
「忘れさせるしかないっ……!」
「やめてね?何するかは知らないけど、絶対ロクでもない事なのはわかるから」
畜生、エロガキめ……でも、そんな話をしてると、ちょっと心が落ち着いて来た。
「……変って言われるの、気にしてたって、なんでわかったの?」
私が尋ねると、ザインは私を軽く抱き寄せた。お腹に寄りかかるような格好になって、服越しにザインの体温を感じる。なんか、ちょっと落ち着く。
「君さ、興奮してくると『~じゃんか』って言い方するんだよね。だから『ああ怒ったんだな』ってすぐわかった」
「……言われてみればしてるかも」
ザイン、結構細かいところまで気にしてるんだな。私自身は全然知らなかったぞ。
「この際だからはっきり言うけど、リィンは変だと思う。すごく。とても。猛烈に」
「そこまでだとっ……!?」
「だけど、変でも何でも、僕にとっては大切な子なんだよ。だから、さっきの質問の答えだけど、他の女の子じゃダメなんだ。リィンだからいいんだよ」
しばらく、その言葉の意味が染み渡るまで時間がかかった。その間、私達はお互いの顔を見つめ合ってたけど、だんだんどっちの顔も真っ赤になってきた。
「あ、あのっねっ!そのっ、大切ってことで……!あのっ、えっと!」
「わ、わかるわかるっ!大切なだけだよね!?そ、それ以上ってわけじゃっ……!」
「あ、いやっ!そうでもなっ……!」
「えっ!?」
「あっ!?えっ!?ちょ、待って!こ、この話は後にしようっ!」
「そ、そだねっ!後にしよ、あとあと!!」
やばいやばい、もう何の話していいのかわからなくなる!ええと、今は何すればいいんだ!?そうだ、ザインにチューだ!
もういいや!このままの勢いでやっちまえ!この勢いならやれる!頑張れ私!
「えっと!じゃあ!ザイン!そのっ、あれ!する!するよ!せぇのっ……!」
と、そこまで言って、ふと思う。
せっかくのご褒美のチューなのに、勢いでってどうなんだろう。何か、ちょっと、失礼な気がする。逆だったら……いや、逆はないな!?いやでもでも、仮にあるとして……うん、やっぱり嫌かも。
「あの、リィン?」
期待を裏切られたという顔で、ザインが不満げに私を呼ぶ。まあ、うん。今のはちょっと失敗だったね。
「ご、ごめん。今、勢いで『えい!』ってやろうとしたんだけど……そ、そんなのは、ちょっと、失礼だって思ってさ。だから……ザ、ザイン。勢いじゃなくって、ちゃんと、するね?」
私はザインの手を離れ、軽く羽ばたいてザインの頬の前まで浮かび上がる。
ちらっとザインの顔を見る。うん、めっちゃワクワクした目してる。う~、あんまり見てると恥ずかしくなるな。
ザインのほっぺに視線を移す。そこに手を添えると、かなり温かい。ワクワクもしてるけど、緊張もしてるみたい。だったら、私とおんなじだね。
それにほんのちょっとだけ勇気をもらい、唇を近づける。
もちっとした感触と、ザインの体温が同時に私の唇に伝わってきた。ああ、ついにザインにチューしちゃったんだ。
そう思ったら、もうダメだった。私は全力で布団の中に飛び込み、頭から掛布団を被ってのたうち回った。
「っっっっ~~~~~!!!!」
もうほんと無理!何もかも無理!お腹ほわほわする!胸ぎゅーってする!顔熱い!恥ずかしい!明日からどんな顔してザイン見ればいいの!?
うわあぁぁぁ!!何なのこれ!?どうすればいいのこれ!?チューすごい!!チューやばい!!ほっぺでこれとか、唇同士だったら……わああぁぁぁ!!!
その後の記憶はない。気が付いたら外が明るくて、ニマニマしたザインが隣で寝ていた。
なるほど、これが……朝チュンか……!
今日の成果=何も話すつもりはないよ!!!!!!!




