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馬鹿を練習台にしよう!

 夜中に、私はふっと目を覚ました。それと同時に、ザインも目を覚ましていた。

「リィン」

「起きてるよ。武器要る?」

「一応、お願い」

 自分に筋力強化を掛け、ザインにシャベルを投げ渡す。その直後、宿屋の窓がぶち割られ、一人の男が飛び込んできた。

「このガキ――ぶべっ!?」

 ばかぁん!と良い音を立て、ザインは飛び込んできた男の顔を躊躇うことなくフルスイングしていた。一応、面で叩く優しさはあったけどね。

 一体どちら様かと思ったら、床で伸びてるのは昼間ザインに絡んできた一団の弓使いだった。あれ~、一晩牢屋って聞いたんだけど?

 ザインもそれに気づき、怪訝そうな顔で男の顔を覗き込んでいる。

「この人、昼間の人か。鍵開けとかできる人なのかもね。とりあえず衛兵に突き出そうか」

「そうだねー。ついでにちゃんと仕事しろって、怒った方が良いよ!」

「そ、それは状況を聞いてからね」

 夜中だというのに、私達はざっと服を着込み、宿屋の主人に顛末を説明して、衛兵の詰所まで歩くことになった。弓使いはザインが荷物のように担いでいる。

 しっかし、魔法使いの人が発狂寸前になったのに、それでもなお襲ってくるこいつは何なんだか。馬鹿を極めちゃったのかな?

 もういっそ、殺した方が楽なんだけどなーと思っていると、不意にザインが膝をついた。

「ぐっ、うっ!?」

「ザイン!?大丈夫!?」

「くっくっく、このガキめが、油断するからだ!」

 弓使いの男は、いつの間にか意識を取り戻していたようで、その手には長い針が握られていた。これ、毒針か!でも死んでないから急所は外したね!だけど毒は食らったかも!

「俺達に恥かかせやがって、くたばれ!」

 決めた。もうこいつは殺す。絶対許さない。

 そう思って戦おうとしたら、ザインが手を上げて私を止めてきた。

「ぐっ……癒しの力を。蝕む毒を洗い流せ」

 いつの間に覚えてたのか、ザインは解毒魔法を使うと、弓使いの追撃を受け止め、股間を思い切り蹴り上げた。

「あぐお!?おっ、おっ……おおおぉぉぉ……!!」

「ナイッシュー」

「ありがとう。こいつ、さすがにたちが悪すぎるな……しっかり捕まえてもらわないと」

「ううん、ザインは生温すぎる。こいつはここで殺すよ」

 一度は止められたけど、ザインは一発を返した。じゃあ次は、当然私の番だよね!

「ちょっと待ってリィン!勝手に殺すのはダメだ!どんな悪人でも裁きを受けさせないと!」

「向こうが勝手に殺そうとしてきたんだよ!?向こうは良くてこっちはダメなんて理屈、私は認めない!」

 ザインが止めてくるけど、こればっかりは譲れない。私は風の刃をまとい、弓使いの首元を飛び抜けた。

「リィン流魔法術、『風刃 かまいたち』――!」

「くっ!癒しの力よ!傷を癒し、元の姿へ!」

(ざん)!」

 ギリギリでザインの回復魔法が発動し、弓使いを殺し損ねた。だったら、次はもっと早く……!

 いや、待てよ?これ、ザインの練習にちょうど良くない?私が殺しにかかって、ザインが防いで……うん、良い感じ。失敗してもゴミが死ぬだけだし、何も問題ないね!

「いいねザイン!じゃあ、次はどうかなー!?」

「ちょっと待ってってリィン!殺しちゃダメだって――!」

「リィン流魔法術、『メバルの気持ちを思い知れ』!」

「ええとこれはっ……ウィンドブロウ!」

 おお、すごいなザイン。顔の周囲の空気を無くしにいったら、そこに風を吹かせてきたか。前に教えた自然科学の知識も、しっかり応用してくれてる。なんか嬉しいな!

「だったらこうだ!超級筋力強化!死ねっ!」

「うわっと!?ぐっ、さすがに強っ……筋力強化!守備力強化!」

 うーん、初級でも強化されるとザイン相手はさすがに不利か。簡単に弾かれるな。でも、まだまだまだまだやり様はあるぞー!

「エアカッター!ハイドロストリーム!からの!リィン流魔法術『人刺し指』!」

「ウィンドブラスト!ロックフォール!リィンやめっ……アイスウォール!」

 かくして、私が全力で弓使いを殺しにかかり、殺されかけたザインがそれを守るという歪な攻防戦は長時間にわたり続いた。

 夜警の衛兵が騒動を聞きつけて駆けつける頃には、ザインはもうヘロッヘロだったし、私も正直結構来てたし、弓使いの男は何度か攻撃が届いたから錯乱状態だった。

 ま、首半分切られたり胸に氷刺されたり、回復が一瞬でも遅れたら死っていう状況が何度もあったもんね。殺せなかったのは正直残念だけど、それなりに気は晴れたかな。

 衛兵の皆さんには事の顛末を詳しく説明し、いっそザインの訓練になってたことも説明済み。それを聞いたザインは、半分ほど表情が無くなっていた。

「……リィン、一つ聞いていい?」

「ん、どうしたの?」

「もしもさあ、子供が親の言う事聞かないで大暴れして、何言っても聞かなくてっていう状況があったらさ、どうやったら言う事聞いてもらえると思う?」

 うーん、弓使いのことか。確かにわからせたはずなのに寝込みを襲って来たし、顔面フルスイング食らっても命狙って来たし、ああいう手合いだったら――。

「やっぱり、身体でわからせるのが一番だよね!痛みが無いと覚えられない奴って、どこにでもいるからさ!」

「なるほどね、よくわかった」

 ガシッと、私の身体が鷲掴みにされた。え、何これ?なんかデジャヴュ。

「えっ、ちょっ、何!?私何かした!?」

「十分したよね。何度もやめろって言ったよね?一瞬でも君、止まった?」

 あ、あれは私のことだっただと!?なるほど、これが誘導尋問っ……!

「い、いや、でも、あれはほらっ、ザインの訓練に良いかなって思って……!」

「そんなことしてる暇あったら、宿屋に戻って寝たかったよ僕は。君のおかげで、沢山の衛兵さんにも迷惑かけて、僕も迷惑蒙ったよね」

 ああああぁぁぁ……これは……これは避けられない奴!どう足掻いても絶望な奴だ!

「ご、ごめんなさいごめんなさい!やれるなーって思って、ついやっちゃっただけなの!不幸な事故だったの!!」

「そうだね、不幸な事故だね。疲れたからもう一日居ることにするからさ、明後日には痛みも引くんじゃないかな」

 そんな気遣いいりませんーーー!!!やめてくださーーーーい!!!

「衛兵さんも、お騒がせしてすみませんでした。以後、こんなことが無いようにしっかり教えますので……」

「君も大変だね。でも、きちんと頼むよ」

 衛兵も敵だったとは!?こんなに可愛い妖精さんのピンチなのに!?

 なるほどっ……これが、四面楚歌っ……!


 結局、お尻叩きからは逃れることはできず、私はお猿さんのように真っ赤なお尻で丸一日過ごす羽目になったのだった。くすん。



 今日の成果=昼間にトラブった奴の夜襲を撃退し、ザインに実践的魔法訓練をした。

 弓使いの奴は奴隷落ち決定で、どこぞの鉱山とかで重労働することになったよ。あのパーティは解散だね、自業自得。

 ちなみにお尻叩きは百叩きされそうになったけど、一応はザインのための行動だったってことで半分の50回叩かれた……お尻、痛いし熱いし、ちょっと泣いちゃった。

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