身の程知らずをわからせよう!
悪魔三体を倒して人類滅亡を水際で防いだ勇者。
超大型ミノタウロスを他の勇者と協力して倒し、村を守った勇者。
なぜかシャベルを振り回し、なぜか強い勇者。
今のところ、これがあちこちから聞こえるザインの評価。特に悪魔三体を倒したことと、勇者同士で協力して戦ったってところは結構評価されてるみたい。
ちょっと前まではただの少年だったのに、今やちゃんとした勇者様なんだから、人の成長ってすごいよね。
で、有名人になると、それを妬む人間も出てくるわけで、ザインは今まさに絡まれ真っ最中。人間関係のしがらみって奴だね!
相手は三人組で、戦士と弓使いの男、魔法使いの女。まあ、内容なんかはありきたりで『お前みたいなガキが~』とか『俺達の方が強い~』とか、そんなくだらない内容。
ザインは別に怖がってはいないけど、迷惑そう。本当に迷惑そう。同じ魔物と戦う人なんだから、仲良くすればいいのにね!
「あの~……別に、誰が強いとか興味ないので、もう行っていいですか?」
「ふざけんなガキ!てめえの方が強いと思って調子に乗ってやがるな!?」
うん、まったく話が通じない輩だね!これはもう身体で分からせてあげた方が良いかもね!
ということで、私はパッと姿を現し、ザインに話しかける。
「ねえザイン!」
「うわっ、なんだこの妖精!?」
どうやらサポート妖精については知らなかったみたいで、三人ともめっちゃびっくりしてる。
「この三人、殺して埋めちゃおう!ちょうどシャベルも持ってるし!」
「いやいやいやいや、そういうためのシャベルじゃないからね!?ただの武器だからね!?」
「そっちのがおかしいと思うけど……」
女が突っ込んできた。悪い奴じゃないのかもしれない。でも埋めるけどね!
「じゃあ殺さなくてもいいけど、ちょっと優しく頭を強打すればいいよ!そのあと胸辺りを掘れば完璧!」
「殺してるよね!?あと優しい強打って何!?強打の時点で一つも優しくないよね!?」
「お手本見せてあげよっか?」
「やめて!!!」
私達の会話を、三人は唖然とした表情で聞いている。私の威光に恐れを為したか。
「とにかく、僕は何事もなく話が終われればいいの!リィンは大人しくしてて、お願いだから!」
「そっかぁ……三人とも、可哀想に。ザインのせいで、近い将来死んじゃうね」
「え、なんで僕のせい!?」
「だって、ここでザインが勇者の力を見せてあげれば『やっぱり勇者ってすごいんだ』って思って、身の丈に合った行動を取るようになるでしょ?でも、ザインが何もしなかったら『勇者なんて所詮ただのガキ』なんて思って、調子に乗ってこの間のミノタウロスみたいのと戦って、ミンチのトマトピューレ和えになっちゃうんだよ?まあ、しょうがないよね。三人が死んでも、ザインには何にも関係ないもんねー」
私が一気にまくし立てると、ザインはちょっと言葉に詰まった。何か言おうとしてはやめ、を何度か繰り返し、小さくため息をつく。
「リィンには敵わないね……じゃあ皆さん、戦えばいいんですか?そうだとしたら、衛兵さんに許可取って、場所探して、誰も巻き込まないようにやりましょう」
投げやりな感じのザインの態度が鼻に付いたのか、戦士の男が腕を振り上げた。
「ふざけやがってこのガキ!てめえなんてこの場でっ……うおっと!?」
ザインは一瞬で懐に入り込み、振り上げた腕を軽く押さえていた。引ききった状態だと、軽く押さえるだけでも動かなくなるんだよね。
「やめてくれますか?僕はただ騒動にしたくないだけで……」
「この野郎!放しやがれ!」
「子供だからって手加減はしないわよ!猛き風よ、回りて刃と姿を変え――!」
うん。本っ当に話が通じないし、話をする気が無い単細胞達だね。攻撃をさせないように押さえただけなのに、それを攻撃と見なして襲ってきちゃったよ。
その時のザインの顔は、ある意味で見物だった。『ああもうやだ……』という心の声がはっきり聞こえてくるレベルの、それはそれはひどい顔だった。
悠長に詠唱を続ける魔法使いに、無詠唱のストーンバレットを放つ。それに驚いて詠唱が中断されると、ザインは簡易詠唱を唱えた。
「中級変形、アイスバインド!」
「なっ!?んぐっ、むぐうっ!?」
魔法使いの身体を腕ごと縛り上げるように、そして口回りを覆うように、氷が巻き付いていく。さすがザイン、中級魔法もモノにしてるね!ていうか中級オリジナル魔法ぶち込んだね!
さすがにそこまで来ると戦士も体勢を整えて、なんと剣を抜いて襲い掛かってきた。殺す気満々じゃん。これ殺してもいい奴じゃん。
でも、ザインは溜め息混じりにシャベルでいなし、足を引っ掛けて転ばせると、飛んできた矢を素手で掴み取った。うーん、鹿に乗る練習もするべきか?
「いい加減にしてもらえますか?言いたくないですけど、力の差を自覚してください。正直もっと強いかと思いましたけど、練習相手にもなりませんよこんなんじゃ」
だいぶイラついてるらしく、ザインがあまり言葉をオブラートに包んでいない。しかしザイン、この短期間で強くなったなあ。
「戦士の人は攻撃が見え見えで怖くないですし、弓使いの人はもっと相手の視線を意識してください。魔法使いの人は、悠長に詠唱なんかしてる時点で勝ち目はないですよ」
言いながら、ザインは魔法使いの拘束を解いた。三人とも、ただの子供だと思ってた相手が想像以上に強くて、かなりビビってるっぽい。
「え、詠唱が完了すればあんたなんて……!」
「おーっと、それ以上文句があるなら、このリィンが相手になるよ?」
さすがにザインが可哀想になったので、後の相手は私が引き受けることにした。でも、ザインは全力で私を止めてくる。
「やめて!君が出ると本当に収集つかなくなる!」
「えー、ちょっと力量の差をわからせてやるだけなのに。まずはリィン流魔法術、『風刃 かまいたち』で……」
「もう完全に殺す気だよね!?もっと穏便な方法でわからせるやり方はないの!?」
面倒だから嫌なんだけど、他ならぬザインが言うなら仕方ない。戦士と弓使いには通じないかもだけど、魔法使いには通じるやり方があるから、これでやってみよう。
「んじゃ、そこの魔法使い!リィンちゃんに注目ー!私とザインがどれだけのレベルか、ちょーっとだけ教えちゃうよ!」
「よ、妖精が何をするって……えっ!?」
まずは無詠唱で、アイスニードルを生成。
その周囲を、さらにアイスアローでコーティング。隙間なくぴっちりやるのがコツだよ!
さらにその周囲をアイスランスで囲う!これまた慎重にね!
最後にその周囲をアイスハープーンで囲って完成!これがアイス魔法四段重ね!
「じゃーん!アイスミルフィーユだよ!どうどう?できる?」
「……それが一体なんだって――」
「ひっ、ひいいいいぃぃぃぃ!!!」
戦士の奴が口を開こうとしたけど、魔法使いが悲鳴を上げる方が早かった。
「ばっ、ば、ば、化け、ばけものっ、化け物ぉっ!!ひいいぃぃ!!」
哀れ、魔法使いは全身をガクガク震わせ、豪快に失禁し、それに負けない勢いで涙を流し始めた。うーん、ザインが怯えた女の人に新たな性癖を目覚めさせなきゃいいけど……あ、大丈夫だ。うわぁって顔してる。
「ねえ、リィン?それってここまで怖いものかな?」
「難しくはあるよ!ザインもやってみるとわかると思う!」
「そう?それじゃあ……あ、なるほど。初級と中級と多重でっていうのがきついし、これ氷がぶつかるとお互い干渉して消滅しちゃうんだ。うーん、僕だと二重が限界だなあ」
「二重でも十分すごいよ!じゃ、それはそうとさ!今ならハンデで、そのアイスミルフィーユ出したまま戦ってあげるけど、私と戦ってみる!?」
私が尋ねると、魔法使いはいやいやをするようにぶんぶん首を振った。さすがに同じ魔法使いだけあって、私とザインがどれだけ高度なことをやってるのかはわかるみたいだね。
たとえるなら、今まで鉄の槍や剣を持ってホーンラビットを狩って調子に乗ってたのが、ザインがフライパンでケイブベアを倒すのを見て、さらに私がそれを指一本で圧倒してるのを見た感じかな。
しかもよく考えたら、この人詠唱付きで初級使おうとしてたのに、私もザインも無詠唱で中級だの使ってるから、下手したらそれ以上の衝撃だったかも。
他の二人は、さすがに発狂寸前の魔法使いを見て戦うのをやめ、この騒動を聞きつけた衛兵によって全員が事情聴取をされることになった。
ザインと私は勇者とその妖精で、単に絡まれてただけだっていうのを説明する。幸い、他の人からもそういう情報は聞いてたみたいで、そんなに長い取調べにはならなかった。
三人組は一晩ほど牢で頭を冷やしてもらうことになり、ようやくこの騒動は終わったけど、ザインは疲れ切った顔をしていた。
「変な人って、本当にいるんだね……僕、さすがに疲れたよ」
「お疲れ様ー!変な人は一人見たら三十人はいるって言うよ!気を付けようね!」
「それ人じゃなくてゴキ……はぁ。リィンと話してて『癒される』って思うのは初めてかもしれない……」
何だよー。そんなに私いつも変なこと言ってるかー?まあ、たまには言うけどさ。
「もう、今日は早めに宿屋行こう。それでゆっくり、アイス魔法重ねるのでも練習するよ」
「お、いいねー。私も付き合うよ!」
そして、私達は早めに宿へ向かい、その日は一日中魔法の練習をするのだった。
ちなみにザインは、割とぴっちり隙間のない二重構造はすぐに出来るようになった。今はそこから上級のアイスランスを使うのを練習中。
でもこの調子なら、すぐにできるようになっちゃうかもね!
今日の成果=身の程知らずの三人をわからせた。
あれでも、冒険者の中では中の下くらいらしいよ。魔法は詠唱ありきだと思ってる人が多くて、実はザインの魔法は下手な本職よりずっと上手かったりする。
あと私としては、ザインの戦闘技術が想像以上に高くてびっくり!アルディオと組んだ時に、色々見て覚えたのかもね!




