仲直りしよう!
翌日、私達はちょっと微妙な雰囲気のまま町を出た。今日はいよいよ、長らく拠点にしたこの町から次の町へ向かう予定だ。
もはやゴブリンであっても、ザインの敵ではない。5体程度なら一度に相手できるし、仮に仲間を呼ばれたって、戦利品が増えてありがたいまである。仲間を餌に大虐殺。すっかり密猟者の顔になったねザイン。
なので、私としてもあまりやることはなく、ザインについてふよふよ飛び回る。合間合間で、蜜のある花とか果実とかをちょこちょこ取っていく。
「リィン、さっきから何集めてるの?」
「ふえ!?こ、これはね……えっと、まだ秘密!」
「そ、そうなんだ。まあ、いいけどね」
そう、これはまだ知られちゃいけない。なぜなら、これはサプライズ用のアイテムだからだ。
昔、私が食べちゃったパウンドケーキ。それを、お昼のデザートに作ろうと考えているのだ。小麦粉なんかはザインの荷物から頂く予定!
とはいえ、卵とかバターとか、どう考えても手に入らないものもあるから、その辺は私の知識と神ペディアで代用品を探す。なんでか知らないけど、ご飯のレシピも充実してるんだよね、神ペディア。クックゴッドに改名しろ。
砂糖は果実とか蜜とかを煮詰めたりして採取。この辺は魔法で出来るから、むしろ前世より楽。
「……リィン?なんか、すごく甘い匂いが漂ってるんだけど?」
「あわわぁ!?何でもないよ!?ザインの気のせいじゃないかな!?」
「絶対気のせいじゃないと思うけどわかった、気にしないようにするよ」
食い物の匂いは逃さないって奴か。色気より食い気か。いや、ないな。こいつは食い気より色気派だ絶対。
とにもかくにも、ザインは危なげなく魔物を撃退しながら進んで、私は下準備をしながらついてって、いよいよお昼の時間になった。
今日のご飯は、黒パンに薄く油を引いて、塩が強烈に効いたベーコンを挟んだもの。黒パンの時点で癖が強いけど、私は結構好きな奴だ。
「はいこれ、リィンの分ね」
「ありがとー!えへへ、一緒にご飯だね!」
私が言うと、なぜかザインは気まずそうに視線を逸らした。どうしたんだろ、実は全部一人で食べたかったのかな?でもこれは私のだ!一口たりともやらねえぞ!?
奪い返されないように警戒しながら食事をするけど、やっぱりザインはどこか上の空。何か悩んでるようにも見えるけど、何だろ?
まあ、それはいいや。そろそろ、満を持してのデザートタイム!いざ――!
「あ、あのさリィン」
タイミング悪いな!?でも何か言いたいことがあるんなら、聞かないって選択肢は無い。
「ん、どうしたの?」
「あ、あの……その、えっと……えっとぉ……」
珍しく、何か言いにくそうにザインが言葉に詰まってる。パンツでも見せてほしいのかな?さすがに見せないぞ、このエロガキめ。
「そ、そのっ……お尻見せて!」
…………
えっ、マジで?
ちょっと想像を上回られちゃって、ちょっと何言っていいかわかんない。
「あっ、違っ……ごめん!そうじゃなくて!いやそうなんだけど!あのっ、その!違っ……」
「あ、うん……ザイン、ザイン?え、っと、何か理由があったんだよね?ただ見たいから、とかじゃない……よね?」
ちょっと警戒しながら確認すると、ザインはコクコクと頷いた。よかった、本格的に性に目覚めたのかと思った。
「わかった。じゃあ、その、ね?ゆっくり説明してくれるかな?順番に。ちゃんと聞くから、ね?」
ゆっくり話しかけると、ザインは大きく息をついて、そして私に頭を下げた。
「まず、昨日のことなんだけど、ごめん!僕……その……」
「あ、大丈夫だよ。だって、それは私が……」
「違うんだ!僕っ……怒ってたのは最初だけで、あとはリィンのお尻を触りたかっただけだったんだっ!」
…………
え、えぇ……。
そ、それを言われて、私にどう反応しろと……?
「本当にごめん!怒ってるフリしてれば、続けられるって思って……リィンに、すごく痛い思いと、怖い思いさせちゃって、本当にごめんなさい!」
本気で謝るザインを見ていると、本気で悪いと思っているのが分かる。
「だから、その……お尻出してほしいんだ!」
「その『だから』はどういう『だから』なの!?繋がりが見えないよ!?」
すごいな、私に突っ込みをさせるとは……前世でも、そんな逸材ほとんどいなかったぞ!
「あっ、ごめん!その、まだ、お尻痛いよね……?今日も、ずっと座ってないしさ」
うん、大正解。もうほんっとにお尻痛くって、触った奴はぶっ殺すってレベルで痛い。日焼けした後の皮をうっかり深めにめくったぐらいには痛い。
「だから、せめて、その痛みを取ってあげたくて……そのために、ちょっと見せてほしいなって……」
「み、見せる必要ある……?薬だったら、自分で塗れるし……」
「あ、見なくても平気かな?その、じゃあ、近くに来てくれるかな?」
近づいた瞬間、まさぐりやしないだろうな!?
警戒心マックスでザインに近づいてみると、ザインは膝を叩いてそこに乗れというジェスチャーをした。結構恥ずかしいけど、そこに抱き着くようにうつ伏せに寝ると、小さな詠唱が聞こえた。
「癒しの力を……痛みと怪我を癒し、元の形へ」
すうっと、お尻の痛みが引いていく。これ、まさか回復魔法!?あれ、でも教えた覚えも見せた覚えもないんだけど!?
「どう、かな?効いた?」
「え、すごい、ちゃんと効いてるけど……ザイン、いつの間に回復魔法なんて覚えたの?」
回復魔法は、結構難しい部類に入る。というのも、炎とか氷とか、そういったものは想像しやすいけど、傷が治る様なんていうのはものすごく想像しにくいからだ。
まして、この世界は前世のとこみたいに医療が発達してるわけでもないし、他人の回復魔法でも見ないと覚えにくい魔法のはずなのだ。
「昨日、やってみたらできたんだ」
「え、やってみたらって?」
「自分でさ、ちょっと怪我作って、治す練習して……あはは……」
それを聞いた瞬間、私はザインの手をしっかりと握っていた。
「そんなことしちゃ、ダメ!」
「えっ……リ、リィン……?」
「正直嬉しい!すっごく嬉しい!でも、自分を傷つけてまで、何かをしようとしないで!」
「で、でも……元はと言えば、僕の勝手で……!」
「それでもなの!罪悪感があるのはわかる!でもね、ザインが傷つく必要はないの!魔王を倒すのだって、ザインがボロボロにならなきゃいけないんなら、他の誰かにやらせたっていいの!」
なんで、私はこんなに必死なんだろうって、自分でも思う。だけど、言葉は止まらない。ザインが傷ついて何かをしようとしたって思うと、居ても立っても居られない。
「だけど、僕が勇者で……」
「そんなん、周りが勝手に言ってるだけだよ!勇者なら魔王に勝てる!?じゃあ兵士は勝てないの!?剣士は!?魔法使いは!?賢者は!?神は!?」
「か、神は勝てるかも……?」
「じゃあ!必死になる必要なんてない!他の穀潰し共が勝手に掛けてきた期待なんて、王都にでも投げ捨てちゃえ!王様にやらせちゃえ、そんなもの!」
自分でも訳が分からない。怒りと、悲しみと、他にも色んな感情がごっちゃになって、思い浮かぶままに口から吐き出す。
「私はザインのサポート妖精なの!勇者のじゃない!ザインはザインじゃなきゃダメなの!勇者なんて存在に成り果てるんなら、それこそザインである必要なんてない!」
だいぶ、色々滅茶苦茶言ってる自信がある。正直言って、私自身何を思って言ってるんだかわかりゃしない。でも言わなきゃダメだって使命感で、とにかく捲し立てた。
ザインは私の剣幕に圧倒されて、しばらく驚いたように私を見つめてたけど、しばらくするといつもの優しい笑顔を浮かべて、私の頭を撫でてくれた。
「……途中から、話が横道に逸れまくってたよ」
「うっ……そ、そうかな?そうでもないと思うけど?」
「でも、ありがとう。リィンが、僕のことを大切に思ってるんだってわかった。けどね――」
ザインは頭を撫でていた手を、私の頬に添えて、まっすぐに見つめてきた。
「僕も、リィンのことは大切に思ってる。だから、リィンを傷つけてしまったんなら、僕自身が傷ついても、何とかしてそれを取り返さなきゃって思うんだ」
「そ、それはぁ……」
「嫌って言うんでしょ?でも、諦めて。僕はそういう性格だから」
そう言われたら、私だって諦めるしかない。いや、洗脳すればいけるか?
「でも、もう一回……本当にごめんね、リィン」
「ん……いいよ。ちゃんと謝ってくれたから、許してあげる」
正直、ちょっともやもやした感じは残ってるけどなぁ!ていうか、そこまで女の子に飢えてるの!?せめて等身大の女の子を標的にした方がよくないかなあ!?でもそれは犯罪か!じゃあ仕方ないな!
けど、まあ、やっぱり似てるところあるのかなあ。私だって、ザインにお詫びしようと思ってたのに。
「あの、さ、ザイン。実はね、私も昨日の……っていうか、9年前のお詫びしたいと思ってて……あの、これからパウンドケーキ作るから、食べてくれる?」
私が言うと、ザインはわかりやすく目を輝かせた。
「うん、食べる」
「お、おお……すごい食いつき。わかった。じゃあちゃちゃっと作るから、ちょっと待っててね!」
そして、ここからは私流魔法の真髄。魔法の石で竈を作り、魔法の炎で焼き上げて、具材は魔法の風刃でさくっとスライス。
あんまり大きくはないけど、旅人風パウンドケーキ(妖精の魔力を添えて)の出来上がり!
「はい、お待ちどーさま!ゆっくり食べてね!」
「ありがとう、いただきます」
ザインはパウンドケーキを一口齧ると、目を瞑って鼻からゆっくり息を吐いた。だいぶ味わってくれてるみたい。
「うん、すごくおいしい。リィン、ありがとうね」
「えへへ、よかったー。でも、9年前のお詫びの品だから、お礼なんていいよー」
私も一口貰った。蜜とか果実から砂糖を取ったせいか、結構色んな味わいが混じって面白い味付けになってた。クックゴッドに書いときたいな。
パウンドケーキを食べ終えると、私達はどちらからともなく顔を見合わせた。
「……リィン、仲直りしてくれる?」
「私の方こそ、許してくれる?」
お互い笑って、ぎゅっと握手して、休憩を終えて再び立ち上がる。もう、もやもやした気持ちはない。
「じゃあ、行こうかリィン。サポートよろしくね」
「任せてザイン。頑張っちゃうからねー!」
シャベルを担ぐザインのすぐ隣を飛ぶ。うんうん、やっぱり後ろより隣にいる方が良いな。
ちょっと色々あったけど、仲直りが出来たなら、もう怖いものはない。ザインが無事に旅を終えられるよう、しっかりサポートしていこうと、私は決意を新たにするのだった。
今回の成果=ザインと仲直りした。
ザインも男の子だからしょうがないとは思うけど、私ってそんなに魅力的かな?
王様にも色仕掛け効いたし、きっと魅力的なんだね!ふふん!




