死なない決意をしよう!
そろそろ次の町に着くかなあと言う頃。私はザインの肩に乗っかって、勇者について調べていた。
みんな気軽に勇者勇者言うし、私も前世のRPGのノリでそれを許容してたけど、よくよく考えれば勇者って変な響きだ。
単純に考えれば『勇気のある人』で、これで魔王に対抗できる理由が分からない。女湯に単身突撃できる男の人は全員魔王に対抗できるとでも言うのか。
そんな感じで、神ペディアで調べてみたら『単身魔王に対抗できる勇気と力を持った人物』だそうで。パーティ組めよ。五人がかりでボコせよ。
と思ったら追加情報で『理由は様々だが、徒党を組むのが苦手な者が多い』などという記述があった。なるほどなるほど、パーティ組めよ。
一度調べ出すと、余計な所にどんどん飛んでくのはよくあることで、占いの項目見てたのにガレー船漕ぎについて熟読してるとかよくあるよね。
で、勇者についてさらに深く調べてたら、私はとんでもない記述を見つけ、危うく肩から転げ落ちそうになった。
「う……嘘、でしょ……!?」
「ん、リィン、どうしたの?」
勇者から、現状の勇者について調べた時、神ペディアにはこう出ていたのだ。
『現在世界には49人の勇者がおり、全員が魔王討伐に向かっている』
そもそも、勇者は100人いたはず。それが王都のお触れが出た時点では半分になってて、この数日でもう一人消えたってこと!?
どういうことなの!?なんで減ったの!?女湯突撃して逮捕でもされたの!?きっとそうだ、そうに違いない!
現実逃避気味にそう思おうとしても、心のどこかでそうじゃないという声が聞こえる。魔王討伐の旅に出て、一人減ったってことは……つまり、そういうことなんだろう。
私は神ペディアの内部に意識を集中し、ここにアクセスしてくる思念とその残留物を辿る。その中で、ここ数日アクセスが無いのを調べれば……いた、こいつだ。
最後にアクセスが途切れたところは……うん?かなり近い場所?詳しい位置を……よし、特定完了。
「あの、リィン、大丈夫?なんか、怖い顔してるよ?」
どこか不安げに、ザインが話しかけてくる。私は一瞬迷ったけど、ザインには全部伝えることにする。
「あの、ね。勇者が一人……死んだみたい」
「ええっ!?な、なんでわかるの!?」
「私達サポート妖精はね、神様から色んな情報を受け取れるようになってるんだけど、それで勇者のことを調べたら、『現在49人の勇者がいる』って出たの」
ザインは一瞬目を丸くし、すぐに顔を歪めた。
「あの、それでね、その最後にいた場所が、かなり近いらしくて……」
「わかった、行こう。リィン、案内して」
私が言い終える前に、ザインはそこに行くことを決めていた。シャベルをいつでも振れるように構えながら、私達は勇者がいたであろう場所に向かう。
小一時間ほど歩き、問題の場所に着いた。その場の光景を見て、私とザインは何を言っていいのかわからなくなった。
「……ホーンラビットかな」
「そ、そうだね……まあ、無防備ではあるよね……」
ズボンとパンツを下ろした状態で、喉を一突きされてお亡くなりになっている少年。いや、凄惨な現場ではあるんだけど、見た目が、何と言うべきか……滑稽?
とりあえず、服をちゃんとしてあげて、目も閉じさせる。一応の格好が整ったところで、私はザインに尋ねる。
「で、どの装備持ってく?」
「持ってかないよ!?君、僕のこと追剥とか死体漁りとでも思ってる!?」
「えー?でも、ゴブリンの武器なんか全部換金してるじゃない」
「魔物は敵対してるからいいの!でも同じ勇者の遺物を勝手に使ったりはしないよさすがに!」
うーん、これは動物を食べるのは可哀想と言いつつ、虫を皆殺しにして作った野菜は何も考えずに食べる似非愛護家理論!一寸の虫にも五分の魂なんて言葉は真っ赤な嘘っぱちだってよくわかるよね!
そんなことを考えていると、ザインは勇者の死体を担ぎ上げた。死体丸ごと頂いて行くのは考え付かなかったな、非常食にでもするのか?
「リィン、悪いんだけど戦闘頼める?」
「別に良いけど、それどうするの?」
「『それ』とか言わない。可哀想だから、せめて町まで連れて行って、埋葬してもらうよ」
さすが善性が高いと言われた男、見ず知らず……でもないか。でもほとんど接点のない勇者にここまでしようなんて、本当に酔狂なお人だ。
だけど、そんな彼のことは、私は嫌いじゃない。
「じゃあせめて……中級筋力強化!これで少しは楽に歩けると思うよ」
「いや、少しどころか何も持ってない時より歩きやすい気が……ていうか、これなら普通に僕戦える気がするよ。とにかく、ありがとうねリィン」
そうして、私達は再び町に向かって歩き出した。途中、何回かゴブリンやらレッサーベアやらに襲われたけど、ザインが片手でシャベルを振り回してあっさり撃退していた。ザイン君、シャベルでゴブリンの首を刎ねても、もはや無反応なんだね。慣れって怖いね。
ちなみにレッサーベアは、前世で言うとラブラドールレトリバーくらいの大きさの熊。1メートル手前で立ち上がって威嚇する習性があるから、そこを狙って突き殺されたり頭を叩き割られたりする悲しい生き物だ。まあ、そこで仕留められないと力は熊だから、やばいんだけどね。
そろそろ日が傾くかなという頃、私達は次の町に到着した。荷物が荷物なので、門番の兵士と色々やり取りがあったり、念のためということで衛兵に事情聴取されたりもしたけど、少なくともザインは善意の協力者で、彼はただの魔物の犠牲者ということで取り調べは終わった。
彼については、遺族に連絡をした後埋葬してくれるという話になり、後のことは衛兵に任せて、私達は宿屋に向かうことにした。
その道すがら、ザインがポツンと呟いた。
「彼についてたはずの妖精は、どうなったんだろう?」
それに対して、私は答える。
「死んだよ、勇者と一緒に」
「えっ!?」
ザインは驚いて私を見る。でも私にとっては当たり前のことすぎて、逆に何を驚いてるんだという感想しか出てこない。
「あのね、私達は勇者と一蓮托生……とも違うな。なんて言えばいいんだろ?人馬一体も違うし……寄生?」
「寄生はないでしょ寄生は」
「でも近いものではあるんだよ?私達は勇者の生命力をほんのちょっともらって、それと魔力を混ぜ合わせてこの世に存在してるの。だから理論上、生まれた瞬間にサポート妖精をぶっ殺せば、勇者の人はちょっと長生きするんだよ」
「うーん、いくら長生きできるって言われても、それはちょっと嫌だな……ちなみにどれくらい違うの?」
「サポート妖精無しで100年生きるとして、有りだと99年と358日くらいになるかな」
「誤差じゃん」
ほんのちょっとだけ笑って、ザインは表情を改めた。
「仮に半分しか生きられないって言われたって、僕はリィンがいる方が良いな」
な、なんだいきなりこの野郎!?ちょっと嬉しいけど何も出ねえぞ!?
「少なくとも、リィンといれば退屈は絶対にしないもんね」
「なんか含みがあるように聞こえるよー?」
「気のせいだよ。それに……僕は死ぬ気もないし、リィンも死なせないから、安心してね」
ポンポンと、優しく頭を撫でてくれる。でも、ちょっと違うんだよねえ。
「えー?私はサポート妖精なんだから、私がザインを守るんだからね?」
「確かに結構守られてるけど……あ、じゃあ、二人とも死なない、で」
「ん、それが一番いいね!」
ザインの拳に自分の拳をコツンとぶつけ、笑いかける。
正直、早くも一人勇者が死んだってことを知って、ちょっと動揺はした。でも、私達ならきっと、この先も一緒に進んでいけるって信じてる。
根拠なんか一つもないけど、ザインと一緒だったらやれるかなって、私は割と本気で思っていたりする。
今日の成果=勇者のご遺体を回収しつつ、二つ目の町に辿り着いた。
サポート妖精のためにも、レベル上げはしっかりね!




