(ジョニー・ビー・バッド)7
リーダーのデビットがジョニーに言う。
「坊ちゃん、魔力暴走の危険がないなら、
ちょっとだけ魔物の相手をしてみないか」
「良いの」
「ヘルハウンドで稼がせてもらったお礼だよ。
ただし、お母様に怒られない程度だけどね」
これに他のパーティメンバーも同意した。
最初は魔力切れを想定して、盾の使い方を教えてくれるそうだ。
それをマスターしたら短剣の使い方に移るとのこと。
魔法での防御はまずシールド、そしてバリア。
シールドは一方向に向けての簡易な盾型の防御で、
シールドの枠外からであれば反撃は可能。
対してバリアは周囲を覆う強力な防御なので、
内側からの反撃は不可能。
盾士兼剣士のSランクのモーリスが指導する、と言う。
「最初の盾はこれにしよう」
剣帯のポシェット型アイテムバッグから盾を取り出した。
小さな丸盾で、モーリスが構えると玩具にしか見えない。
「小さいね」
ところがモーリスは意外な答えを返した。
「盾は大きさじゃない。
使い勝手だ。
その点、俺はこれが一番だ」
ジョニーは思わず尋ねた。
「さっきまでは大きな盾を使ってたよね、あれは」
「あれか、あれは自分を守る為じゃなくて仲間を守る為だ。
魔物との遭遇戦になった時はあれで前衛と本衛を庇う。
俺が身体強化して大盾を構えれば、たいていの魔物は足止めできる。
止めたところを後衛が反撃する。
足りなければ盾の後ろからも反撃できる。
今までこうやって生き延びて来た」
小さな丸盾を掲げて続けた。
「一人で戦い抜くならこれだ。
これなら自在な攻防が出来る。
小さいから身体強化の補助も必要ない。
これで受け流して魔物を好きな方向に転ばす。
そして剣で極める。
これまでそうして来た。
だから坊ちゃんにはこれをマスターしてもらう」
ニヤリと笑うモーリス。
経験から来るのだろう。
自信に溢れていた。
おもわずジョニーはお付きのアレックスを見返した。
彼も警備隊の腕自慢の一人。
その彼が肩を竦めた。
「一芸に秀でた者は無駄な物を削ぎ落す、そう聞きました。
その動きは踊りに近いものだそうです。
舞い踊るように受け流して敵を仕留めるとか。
おそらく、モーリス殿もそれが出来るのでしょう。
よく見て学んで下さい」
シンプル・イズ・ベスト、と言う言葉を思い出した。
ジョニーはモーリスに頭を下げた。
「宜しくお願いします」
「おお、理解してくれたか。
先ずは俺がお手本を見せよう。
まずは正しい受け止めだな。
そして次は受け流しだ。
近くにスライムの溜り場がある。
そちらで練習しよう」
見取り稽古から始まった。
ジョニーの母、ニコールの工房は第三区画にあった。
魔道具を開発製造販売するので、その敷地は広く取られていた。
真ん中に開発製造を担う工房本体があり、表に店舗棟、奥に倉庫棟。
その店舗の馬車寄せにカブリオレが入って来た。
一頭立ての二輪幌馬車。
座席の一つが馭者席で、もう一つはオーナー席。
この馬車も工房が開発したもの。
いつもは宣伝を兼ねて店舗の馬車寄せに置かれるのだが、
今日は違った。
朝より商会長の夫、イリアが私用で使っていた。
馭者はイリアが営む娼館の護衛。
イリアは馭者を店舗に向かわせ、自身は工房に向かった。
警備隊詰め所に片手を上げてその前を通った。
イリアは工房の関係者なので手続きはいらない。
詰め所から走り出て来た警備員が工房のドアを開けてくれた。
「ようこそ、相談役様。
商会長のところへ案内しますか」
イリアの役職は工房の相談役であった。
「今は開発室かい」
「ええ」
「邪魔したくないから会長室で待つ。
ゆっくりお茶してるから、伝えてくれるか」
「了解です」
イリアの扱われ方は、ニコール側関係者の間であるが、
かつては雑であったのが、格段に好転した。
ここジオラール国に転居するまでは、二人は通い婚であった。
ニコールはダイキン王国在住で、イリアはジオラール国在住。
共に屋敷と商会を持っていた。
ニコールがラブラス工房。
イリアは娼館。
その為にニーコル側関係者に雑に扱われていた。
さりとて、それにイリアが怒ったことはなかった。
苦笑いで済ませていた。
それがここへ転居し、手続きで姓を選択する段になるや、
イリアは躊躇わずにニコール実家の姓を選んだ。
ルルーシェ。
これが大きかった。
関係者間では、今では身内扱いであった。
実際、子供も三人いて、今更なんだが。
イリアはお茶を飲みながら、デスクの上の本に手を伸ばした。
『桃色頭巾お婆ちゃん』。
工房から出版した絵本であった。
魔道具が本業であったが、副業にも手を染めていた。
ポーションや薬等で、全体に占める割合はそれほどでもなかった。
ただ、その中にあって絵本は異色であった。
『黒頭巾ちゃん』に始まり、『眠れない森の緑頭巾ちゃん』
『白頭巾姫』『ブレーメンの笛吹き青頭巾ちゃん』
『おおかみと七色頭巾ちゃん』。
頭巾ちゃんシリーズを専門に出版していた。
作家はアンジー、挿絵はレイラ。
工房はこの二人のコンビの絵本のみを取り扱っていた。
レイラは工房の職人で、アンジーはペンネーム、
そのアンジーの正体を知るのはほんの小数であった。
絵本を読み終えた頃合いにニコールが戻って来た。
相変わらずアマリアが侍女として付いていた。
そのアマリアがイリアにニコリと微笑む。
「旦那様、それはジョニー様の最新作ですよ」
ジョニーがアンジーのペンネームで絵本作家をしていた。
まだ十歳なのにその売り上げで個人資産が膨れ上がっていた。
「相変わらず面白いよね。
私の血を引いているからかな」
「そうかも知れませんわね」
アマリアもイリアを認めるようになっていた。
それに対して苦笑いのイリア。
アマリアは澄ました顔でニコールとイリアに尋ねた。
「お二人とも珈琲で宜しいですか」
「ええ、私は甘め、イリアは苦いやつ」
「旦那様もそれで宜しいんですよね」
アマリアがソファーの二人に珈琲を運んで来た。
イリアがそれに手を伸ばしてニコールに尋ねた。
「ジョニーは無事に戻って来たかい」
「ええ、昼前に戻って来たわ。
傷一つないわ。
皆もよ。
けどね、・・・。
本人達は内緒にしてるけど、相当無茶したみたい」
「ほう、無茶を。
もしかしてジョニーも」
「ええ、そうよ。
ラブラビやパイア、オークの魔卵や牙、毛皮が盛り沢山だけど、
その中にヘルハウンドの番二頭が丸ごと混じっていたの。
あれを怪我人を出さないで討伐するのは無理よ。
たぶん、ジョニーも雷魔法で参加したみたいね。
それらしい痕跡が残っていたわ」
「へえ、やるもんだね。
ところで、予定ではヘルハウンドクラスが出ない浅い所だったよな」
「ええそうよ、浅い所、そこに出たの」
「でも君はヘルハウンドの魔卵が入手できて嬉しいんだろう」
「まあね」
「ジョニーを怒ったのかい」
「まさか、子供をお人形さんにするつもりはないわ。
少しなら目を瞑るわよ。
でも、一線を越えたら貴男に怒ってもらうから」
「えっ、・・・そうかそうなんだ」




