突然の別れ
祭りが終わり出勤したら、本格的に研修が始まるので事務局に三人で行くと、応接室に通された。
そこには高齢の軍人がいた。それも金爵。
緊張しつつ、挨拶をしようと口を開こうとしたが止められた。
「これより、一切言葉を発することを禁止する。返事は不要だ」
「命令書、カサヲム-ハチク銀爵、大黒穴守護隊基地、整備部へと異動とす。ほら受けとれ」
黙って受けとるしかない。迫力と圧力が凄く、それしか出来ない。
「命令書、タイカ-ハチク白爵、大黒穴守護隊基地、整備部へと異動とす」
「命令書を受け取った時点でただちに行動に移すこと。以上だと言いたいが、簡単に今後のことを説明する。バライはフォルテを引き取れ」
「お祖父様、わ」
目力だけでフォルテの言葉を切る。お祖父様なのか。目を下にも向けられないから、胸章で名前の確認も出来ない。
部下だと思った人がフォルテの兄バライさんだったのか。フォルテとバライさんがドアを閉める
「急用が入ったから私はこれで下がる。詳細は部下から聞け。以上」
ええっ!?簡単な説明も無しにフォルテのお祖父様は去ってしまった。
そして、俺とタイカとエアちゃんの三人になってしまった。
「カサヲム、銀爵?なんだったの?」
「本当だ、銀爵になっている。本当の命令書が長文だ。俺が聞き取れなかったのかな」
「言ってなかったよ。でも、これ旧字ばかりで読めないよ。それで部下さんはどこにいるの」
「フォルテを慌てて追って行ったから、ここで待っていればいいのかな」
「ソファーに座っても良いかな?」
「足が笑っているからね。座ろ」
「私達はもう軍人なの?」
「銀爵は民間人では、なれないはずだから、俺はそうなのかな」
「フォルちゃんとはお別れなの?」
「詳細の中には含まれてないよね」
「のどが乾いた。食堂に行こうよ」
「俺はトイレに行きたい」
事務局に一言声を掛けてから、食堂で待つが誰も来ない。
いや、事務局長さんが来て、軍の命令書が出たら研究所では、どうにも出来ないらしい。
来たら連絡するから部屋を片付けるように言われ、借りていたレポートを返却して、フォルテの私物も含めて持ち出せるようにし、昼食までとってから、ようやくランさんが軍人さんを連れて来た。
「すまない。お待たせした」
文句を言いたい気持ちを押さえ、挨拶を交わして説明を受ける。ランさんは俺たちのサポートをしろと言われたらしい。
結論は任期は通常の徴兵と同じ三年間で、明日には基地へと移動を始めなければならない。
さすがに挨拶をしたいから、伸ばして欲しいと願ったら、君たちが遅くなると二度と挨拶が出来ない人間が増えるが国民として良いのか、と問われたら、俺もタイカも何も言えなかった。
そこからが慌ただしい。
引っ越しの手配はランさんが請け負い、学校への手続きをお願いした。
エアちゃんにはフォルテに会いに実家へ行ってもらう。
タイカは監督さん家族のところへ挨拶に行った。
そして俺は車で組合と実家に挨拶をしてきた。車は親父さんに譲る。
親父さんも同じ部署だったらしく、悪い場所ではないが、俺が教育隊を出ないのを不安になっている。
『エアちゃん。フォルテは?』
『泣いている』
『フォルテに繋げるかな』
『無理。うちの匂いをずっと嗅いでる』
『そう、ありがとう。お腹は空かない?』
『フォルテが心配。少しだけ我慢する』
『ありがとう、よろしくね。少し元気が出たら連絡してと伝言して』
『する』
「フォルテ先輩はどうですか?」
引っ越しの手伝いに来ているリンから声を掛けられた。
「泣いている」
「私も泣きたいです」
「もう泣いているよね」
そうリンに声を掛けると俺を抱きしめて本格的に泣き出したから、俺も泣きたくなる。
「泣くなよ、リン。頭ポンポン権を使うぞ」
「はい」
「ほら、いい女が台無しになるぞ」
「泣いても、いい女だもん、あと少しで、タイカさんにも勝てたもん」
「そうだな、よしよし」
「顔を洗ってきます」
リンが泣き止んでくれて助かった。
ランさんは少し前から居たが、リンが泣き止むのを待っていたみたい。
「どう、こちらは終わったの?」
「ランさん、お世話になります。何をどうすればです」
「もう寝具くらいね。後はまとめて送るわ。それにお仕事になっているから別に良いわよ。あなた達の方が災難よね」
「本当にそう」
「あなたが有能だから仕方ないわ」
「俺が?」
「飛行魔法具を作れる特級魔法具工で、そして立体文字発見者の最年少アカデミー会員さん。あなたは国で最高峰の魔法具職人よ」
目は赤いがリンが戻ってきた。
「そうです。先輩は凄いの。だからリンとの約束も破らないの」
「何の約束なの、リンちゃん?」
「空を飛ぶ約束か?」
「やっぱり凄いです。今から行きますよ」
「私はタイカちゃんを手伝うから、行ってきたら?」
「リンは大丈夫か?」
「はい」
「ベランダから飛ぶから、おいでリン」
「はい」
沈んだ太陽が見えるところまで上昇すると寒くなってきた。
「少し調子に乗ったな。寒くないか?リン」
「魔法を使っても、飛行魔法具に干渉しませんよね」
「大丈夫だよ」
「風防内を温かくしますので、もっと上に行きたい。あの雲を捕まえて」
「戻ろうよ」
「いいから行きますよ。待って、ボードに跨がりますから支えてください」
「良いけど、前に恥ずかしいとか言ってなかったか?」
「今は良いの、手を握ってください」
そう言って姿勢を変えるが、当然スカートが捲れる。もう風紀員に俺が怒られることもないけど、ここまで上がればリンも注意されないよね。
リンの魔法で暖かくなってから上昇を再開した。
東側に目を向けると俺達が行く基地の灯りが見える、この位置で停止した。
「リン、俺達が行く基地が見えるぞ」
「それでも、私の目では人の顔まで分からない」
「近くに感じたけど遠いんだな」
「すぐに会いに行ける距離ではありません」
「寂しくなるな」
「カサヲム」
「どうした」
「私ね、少し前に嫌なことが合ったの」
「ん」
「もうキスとか無理だと思った」
「そうか。もう大丈夫なのか」
「ええ。タイカさんとあなたのキスを見て、私も出来るようになりたいと思ったの」
「そう、良かった。ハレンチと言われなくて」
「フフッ。それでね、御願いがあります」
「俺に出来ることか?」
「はい、あなたにしかできない。上書きがしたい。だから、好きだよって言って、キスをしてもらえたら嬉しい。だから御願いします」
「好きだよリン」
いつもの唇を合わせるだけの口付けではない。でもリンの舌が固い。
「オーラなしで、もう一度して」
「舌を柔らかくね。好きだよリン」
「私も好きです」
金爵
ここでは高官だった退役軍人




