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あーくんあのね、きょうね。  作者: 吐 シロエ
ひとつおとなになる
38/38

38 おおぞらのしたで

 あーくんが自分自身を受け入れてから、長い年月が経ちました。


 それからと言うもの、あーくんは子供の頃と変わらない純粋な心で、宝物のスケッチブックに絵を描きます。


 自分でこぐまさんの修理をしたら、小さい頃と同じようにこぐまさんが話してくれるようにもなりました。


「よう、旦那。今日はどこへ行くんだ?」


「あぁ、こぐまか。今から仕事なんだ。ついてきてもいいよ」


「マジでか!? よっしゃあ!」


 あーくん以外の人には、こぐまさんの姿は見えません。


 けれど、あーくんが話す物語があまりにも面白いので、家族や周りの人たちはすぐに信じてくれました。


「くらげ、今日も行ってくる。いつも待たせてごめんね」


「わたしは大丈夫。応援してるから」


 あーくんがくらげさんに微笑みかけると、くらげさんも『にへらっ』と笑います。


 あーくんの部屋にある水槽(すいそう)には、本物のくらげが浮かんでいました。


「ねぇ」

「なんだい?」


 あーくんが振り返った瞬間に、くらげさんはあーくんを軽く引っ張って頬にキスをします。


「おはようのキス」


「……くらげは本当に僕のことが好きだなぁ。ほら」


 あーくんはお返しに、くらげのおでこにキスをしました。


 最初はイタズラっぽく微笑んでいたのに、くらげさんは真っ赤に頬を染めます。


「じゃあ、いってきます!」


 あーくんは白いシャツの上に紺色のカーディガンをはおり、カバンを肩にかけます。


 そして、笑顔で駆け抜けていきました。


 あーくんの仕事は二つあります。一つは絵本作家、もう一つは『おもちゃのお医者さん』です。


 おもちゃのお医者さんはボランティアなのですが、おもちゃと裁縫(さいほう)が大好きなあーくんには、これ以上にない仕事でした。


「あ、あーくん先生だ!」


「私のエミちゃんのお直しして~!」


「違うよ、僕の方が先!」


 仕事場に着いたあーくんは、さっそく子供たちに囲まれます。あーくんは穏やかな笑顔で、みんなに言い聞かせました。


「みんな、順番は守ろうね。あんまり守らないと、こぐまさんに捕まっちゃうよ」


「またこぐまさんの話~!」


「本当にこぐまさんっているの?」


「うん、いるよ。こんな感じ」


 あーくんは慣れた手つきでスケッチをして、みんなに警察官の服を着たこぐまさんを見せます。


「ほんとだ!」


「カッコいい~!」


「こぐまさんのお嫁さんになりたい!」


「あはは、相変わらずモテモテだなぁ」


 この様子を見ていたこぐまさんは、恥ずかしいような誇らしいような、不思議な気持ちになりました。


「あ、あのね! お母さんにね、お兄さんのところに行ったら、雪ちゃんを直してくれるって聞いたの!」


 あーくんの仕事が終わってしばらくした後、あーくんのもとに一人の女の子がやって来ました。


 雪のように白い肌、青い瞳とロングヘアな銀髪の女の子に、あーくんは懐かしいように思えます。


「……君は、タキちゃんだね? お母さんに、君のことは聞いている」


「うん、タキって言うの! あの……えっとね、雪ちゃんの様子がおかしいの」


 あーくんは雪うさぎのぬいぐるみである、『雪ちゃん』を優しく持ちました。


 そして、どこかほつれたり傷ついたりした場所がないか、しっかりと点検します。


「見せてくれてありがとう。でも、雪ちゃんにはどこも悪いところはなかったよ」


 それを聞いたタキちゃんは、少しだけ悲しそうな顔をしました。


「あのね、そうじゃないの」


「おかしいかもしれないけど……。雪ちゃんがね、寂しそうな顔をするの。相談しようとしても、タキに言ってくれないの」


「そっか……。そうだったんだね。それなら、いい人を紹介するよ」


「それにタキちゃんは、変な子じゃないよ。僕も()()だから」


 その言葉を聞いたタキちゃんは、桜が咲くような笑顔を浮かべました。


 

 数日後。天気にも恵まれ、大きな木が見える丘で、あーくんとナギサちゃん親子はピクニックをすることにしました。


「……久しぶり、だね」


「……うん、久しぶり。あと、おめでとう」


 久しぶりに会ったナギサちゃんの薬指には、指輪がきらりと光っていました。


 ナギサちゃんもすっかり大人になって、銀色の髪は短め。服は白いレースワンピースに、青いロングカーディガンをはおっていました。


「ねぇねぇ! タキ、からあげ食べる~!」


「それより、いただきますしてからね」


 親子のほほえましい会話を聞いて、あーくんはふっと笑みをこぼしました。


 そして、大きな声で呼びかけます。


「よーし! ()()()、お昼ご飯だよ~!」


 あーくんとナギサちゃんたちの『お友だち』が一斉にやって来て、お弁当を囲んで笑い合いました。


「……あーくん。今日のこと、ずっと忘れない」


 大きな木の下には、スケッチブックとペンケースが添えられていました。

去年の冬休み前から連載を始めて、この物語を完結することができました!読んでくださった皆さん、本当にありがとうございます…!


純粋だった子供の頃の心を、忘れないでおきたいですね 2019.2.27(水)

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