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第一章 Vol2.01 AIの現状 俺の履修科目

 アルファーAIシステムの起動初日、俺が押しつけられたミッションは、正直かなりエグかった。


 ちょっぴり食傷気味になった俺は、その後しばらくアルファテスターから逃げるように日常に没頭していた。 


 まぁ授業も始まったし、バイトも忙しくなったし――言い訳ならいくらでも並べられる。

 実際、時間がなかったのも事実だ。


 1年のうちに一般教養科目を詰め込みまくって、休日返上で特別講義にも出ていたおかげで、単位には余裕があった。

 ……まぁ、あまり興味を持てなかった講義の成績は《可》が混じってるけど、それもご愛敬ってことで。


 2年になって専門科目の履修が始まるにあたり、大学側からは「興味のある研究室をいくつか訪ねてみては?」というお達しがあった。


 そんな流れで、俺はAI研究で知られる鹿毛研究室を訪ねることにした。

 もちろん、俺の目当てはそこに所属する弥勒先輩だ。


 「……あれ?電算機棟の中に鹿毛研、無いじゃん。え、まさか旧館?」


 インフォメーションのフロアマップを指で追ってみたけど、該当する部屋は見当たらない。

 仕方なく、電算機棟を抜け、その奥にある旧館へ向かう。


 新館は近代的な6階建てで、サーバールームにはバッチリ空調も効いてて快適。 

 それに比べて旧館は、3階建ての、どこか昔の病院のような構造をしている。 


 壁にはあちこち耐震補強の跡があり、外壁も何度も塗り直された形跡がある。

 まるで「廃墟系モダンアート」だ。

 そこはかとなく、九十九神が住んでそうなミステリアスな雰囲気が漂っている。


 案内板を見ながら歩いていくと……



 「あっ……あった。」

 


 1階の一番奥、木立に囲まれた湿っぽい雰囲気の部屋。それが鹿毛研究室だった。

 ドアには、在室か不在かを示すスライド式のプラカードがかけられていて、今は「在室中」の表示。


 俺は、軽くノックした。


 コンコン……


 「新2年の瀬上です。弥勒先輩、いらっしゃいますか?」



 「はぁ~い!」


 部屋の奥から返事が聞こえ、ペタペタとスリッパともサンダルともつかない軽薄な音が近づいてくる。


 

 キゴッ――!!


 ―――ダン!!



 「わ、ごめんね。この扉、外開きなの……って、聞いてる?」


 見事にドアに張り倒されて、額に《在室中》の痕跡を残していた俺は、お詫びにコーヒーを振る舞われ、研究室へと通された。


 部屋には作業机が4つあったけど、今日は他のメンバーはお休みか教授に随行しているらしく、弥勒先輩が一人だけだった。


 コーヒーを入れてくれたのはいいけど、先輩はテーブルには腰掛けず、自席に戻ってひたすらプログラミングに没頭。


 「ごめんね、ちょっと切が悪くて……もう少しで区切りつくから……」

 


 ……そして、1時間が経過。

 

 「ふぅ……で、瀬上くん、今日のご用件は?」


 「え、あ、はい。専門履修のことでアドバイスをいただけたらと……」


 「それにしても弥勒先輩、すごく楽しそうにコード書いてましたね」


 「ふふふ、わかっちゃった?」


 ――しまった。地雷、踏んだかもしれない。

 


 そこから先輩のスイッチが入った。

 話は、大学の電話窓口対応を自立型AIに任せる実験の話から始まった。


 感情も自我も持たないAIは、いかに高度な自然言語処理をしても「機械的な受け答え」になってしまい、利用者に違和感を与える。


 その結果、クレームが殺到。


 「感情を持つAI」の研究も行われているが、現状では“感情”が偏りすぎてしまうという。


 ある感情に「極振り」する、常に怒っているようなAIとか、ずっと落ち込んでるAIとかが出来上がってしまい全く実用に耐えないらしい。



 ――アルファーって、感情あるんじゃ……?


 ――自我……すでに持ってる気がするんだけど……



 俺の中で、いろいろな疑問が渦巻く。


 さらに、感情や自我を持ったAIが社会に及ぼす影響を懸念する学者たちの意見や、今の法整備の遅れについての話題が続く 


 そんな話を2時間も聞かされ、内容は面白いはずなのに、さすがに頭が痛くなってきた。

 ちなみに履修のアドバイスは、一言ももらってない。


 ――……よし、孔雀にでも寄って行こう。



 購買で飲み物とお菓子を買い込み、杉山の携帯に電話をかける。

 


 「やぁ杉山、今日も孔雀入り?」


 「あっ瀬上君、そうだよぉ。今日も先輩のお勧めアニメ上映会やってるから来る?」


 「もう3話目だけど、まだ間に合うよ~早くおいで~」


 杉山の相変わらずの草食系な口調に少し調子が狂いながらも、俺は急いで化学部準備室へと向かう。



 ……そして到着。部屋の外から聞こえてきたのは、狂気すら感じる高笑い。

 


 「フゥ~ハハハハハ! 我が名は平等院竜馬!! 狂気のマァ~ドサイエンティストである!!」


 

 中をそっと覗いてみると、白衣姿の松山氏が、机に乗ってポーズを決めていた。



 ギャラリーの拍手喝采。


 ――ここは、いつ来ても平和だ。

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