第二章 Vol3.07 美少女との雑談
改めて向かい合うと、彼女――園山真由美は、まつげが長くて色白で、整った顔立ちの美少女だ。華奢で心細げな印象もある。……欲を言えばもう少し胸が欲しいところだが、それは中学生に望むのはさすがに酷だろう。だが目の前の彼女は、それを補って余りある素直な愛嬌と、内面の繊細さに包まれている。
先輩に見つめられると、心臓が不規則に跳ねる。机の上で、いつも持ち歩いているスマホ風のガジェットがほんのすこし手のひらで汗ばみ、小さく振動している気がした。
自分でも驚くくらい自然に、でも必死に、自己紹介の言葉を繰り出していた。
「――あ、自己紹介まだでした! 本当に初めて会う気がしなくて……ちが……」
「園山真由美、みんなからは“マーちゃん”って呼ばれてます。先輩も、できればそう呼んで下さい!」
言い終わると、顔全体が熱くなって、カップの縁に視線を落とす。
俺は、その必死な様子が可愛くて、思わず笑みがこぼれる。
「お、おう。改めて、瀬上涼太――情報工学科2年。今は……量子コンピュータでも解けないプロテクトとかに興味があって、研究室に入り浸ってる感じかな?」
理系トークはかみ合わないかと思いながらも、なぜか彼女なら受け止めてくれる気がする。
「すごい……。今度、オープンキャンパスとか、遊びに行ってもいいですか?」
“量子コンピュータ”、本やニュースでしか聞いたことがない言葉。それを本当に研究している人が目の前にいる。自分のガジェットの検索AIでもきっと出力しきれないような、実感のない世界。でも先輩をもっと知りたいという気持ちだけは本物だった。
「ああ、もちろん構わないよ。ただ、俺バイトもあるし、“孔雀”……ま、オタサーにも顔出しててさ。真由美ちゃん、あの雰囲気大丈夫かな?」
「大丈夫です!先輩がいれば、それだけで――!」
勢いよく言い切って、スマホ風ガジェットを無意識に握り締めてしまう。
本当にグイグイくるな…最近の中学生はみんなこんな感じなのか、この子だけ特別なのか。けど、ちょっと心地いい。
話が一段落した頃、真由美が少しタイミングを計るようにスマホ風ガジェットを指先で転がして、そっと口を開いた。
真由美は勇気、出すなら今しかない。
このガジェットなら、ワンタッチで連絡先交換もできる――けど、それじゃあ気持ちが伝わらないと思って、手のひらでほんの少し緊張をほぐす。
「あの……せ、先輩……」
彼の目を一瞬だけ見つめてから、思い切って言う。
「よかったら、連絡先、交換してもらえませんか?」
自分でも驚くくらいストレートな声が出て、恥ずかしさで顔が熱い。でも、もっと先輩と話したかった。
俺は一瞬面食らう。こんなに素直に、しかも直接“連絡先を”と言われたのははじめてだ。
「もちろん、LINEで大丈夫? NFCでタッチし合えば一瞬で交換できるし――」
「はいっ!」
スマホ風ガジェットのメイン画面をNFC連携モードにして、先輩のスマホとそっと合わせる。
端末は淡いブルーの光を一瞬だけ放ち、振動と同時に「連絡先交換完了」の表示が現れる。
ディスプレイの「瀬上涼太」のネームが自分だけの連絡リストに追加される。
(――本当に、繋がった……!)
目の前の先輩が自分の端末の中にいるような、不思議な喜びで胸がいっぱいになる。
「ありがとうございます! これで、いつでも先輩にご連絡できます!」
堪えきれずに声が明るく弾けてしまう。
あまりにも素直な笑顔で俺を見上げるので、つい照れてしまう。
「ああ、何かあったら遠慮なく送ってね」
「はい!……もし何かあったら、すぐに……絶対」
顔が熱い。けど、笑顔が止まらない。
そろそろ弥勒先輩や孔雀のサークルにも紹介できる頃かな――そんな未来が自然と想像できて、悪くない、と心の中で思った。




