魔の気配。
聖都に入るときに感じた結界のようなもの。
メアリィに聞いても何も感じていないようだったけれど、わたくしにはなんだかとても違和感のある壁のようなものを突き抜けた、そんな感じがしていて。
出る時にもやっぱり同じようにそれはあった。
「間違い、ないかぁ」
「どうされたのです? お嬢様」
「うん、ちょっとね。ここ、聖都って名前がついてるのは伊達じゃなかったみたい。すごく強力な結界が張ってあったみたいなの」
「ああ。私聞いたことがありますよ、このベルクマールでは500年周期で魔王が蘇り、そして封印されてきた歴史があるのですって。と言っても前回の魔王からもう500年以上経ちますけど、そんな兆候もないようですしね。もしかしてここの魔王はもう他の国に行ってしまったのかもしれません」
え?
「ご存じないですか? 前回の、500年前の魔王ったら帝都に出たんですよ?」
「嘘、そうなの?」
「旧帝都ですけどね。その時に当時の帝都はほぼほぼ崩壊してしまいましたから、少し移転して都市を作り直したのが今の帝都マクギリウスなのですわ」
初めて聞く話。
っていうか、わたくしあんまり帝国史って勉強していないからダメですね。
「じゃぁ、帝都にまた魔王が復活するかもしれないってことですか?」
「それなんですけどね。もしかしたらもう魔王はこの世界にいるかもしれないって、そんな噂もあるのです」
「どういうこと?」
「帝国聖女宮の最奥の間にある聖石。そこに封印されているはずの魔王は、もうとっくに復活なされてるって、そんな噂ですわ」
「噂、なの?」
「私も宮殿の侍女長様に大昔に聞いただけで確かなことではないんですけどね」
「そう、なのね……」
皇帝陛下のお膝元。そんな宮殿の侍女たちが語り継いでいる噂。
不思議な話だけど、なんとなく真実に近いのかもしれない。
ただの勘、だけど。そんな気がする。
そんな話をしながら馬車が街道に出たところで、なんだか悪寒がしたわたくし。
聖都が結界に護られ魔が入ることができなかった分、こんな周囲の山村にそんな不穏な気配が漂っている?
目的地の少し斜めに入った山の奥から、放っておけないくらいな魔の気配を感じたわたくしは、騎士長に寄り道をお願いした。
浄化できるものならしておいたほうがいい。
知ってて黙って通り過ぎるのは、ちょっとだけ気が引ける。
一応なりたてとはいえ聖女なんだもの。
聖女の役目を果たさなきゃ。そう決意して。