Side.B 始まりの刻
更新遅れました! すいません!
流石に唐突すぎるから、という理由で昨夜のうちの出立は諦めたものの、しかしシャルロッテの「会いたければ今日の夜までに準備しておけ」と言う言葉に従って準備を進めていた。
勇者としての顔を隠すためのコート。食事用と旅具用の2つに分けた収納空袋。そして治癒魔法を扱うのに長けた通常よりも短い魔杖。
用意するのはこれくらいだろうか。
そんなに多くを用意してもダメだ。
邪魔になるような物は置いていかなければ。
そんなことを考えながら作業をしていると、コンコンと扉が叩かれる。
「はい」と短く答えると、その先の人物も気を引いていないと気が付かないような声で言う。
「……優梨。そろそろ行くわよ」
「わかった」
こくんと頷く。
集合場所は王城の、たしか最上階へ登る階段に1番近いシャルロッテ姫の部屋だったか。
王家の人は最上階に近い部屋で暮らしていると言う。シャルロッテ姫も第一王女なれば、そこで暮らすのも頷ける話だ。
向かおうと自室の扉を閉めて戸締りを確認すると、王女様の待つ部屋へと向かう。
その途中に室内訓練場がある。優梨達はその水飲み場を通らなければならないのだが――
「んぁ? 彩花と――優梨じゃねえか! お前、部屋から出てきたのか!」
元々バスケットボール部で鍛えられていたお陰か、クラスメート1がたいが良い五十嵐が目敏く優梨と彩花を見つけて手を振ってくる。
「い、五十嵐くん。それに――」
「久しぶり、優梨」
「一条、くん……」
一条勇気。
正義感の塊のような人物。優梨と彩花の友人であり、異世界から召喚された勇者達のリーダーでエースのような存在であり――今、1番会いたくない人物だった。
「今までどうしていたんだ? まだ、彼のことを引き摺っているのか?」
「う、ううん。引き摺っては、いないよ」
「そうか。それは良かった。思い詰めていると善くなくなるからね。――けど、彼のことは残念だったよ」
目の前の彼は悲しそうな顔をする。
まるでアキラが死んでいるかのような言いようだ。彼は連れ去られただけ。死んでいるとは限らないし、なんなら優梨はこれから、生きているだろう彼のところへ会いに行くつもりだ。
しかし、一条の中でのアキラは、死んでいるに等しい存在なのだろう。
おそらく、そうでも思っていないと重い枷を引き摺ってしまう。特に良くも知らない、訓練も座学も怠けた挙句に賊に拐われた愚か者。しかし自分たち勇者にとっては大切な仲間。
彼は悪人を許さない。それと同時に怠け者も許さない。彼は怠惰を許さない人物だ。
「一条くんは、まだ彼が死んでいると思っているんだね」
「…………」
「そう。なら、わたしは貴方と話すことは何もないよ」
「……そうか」
苦しそうに顔を逸らす。
同情を誘うような素振りだ。それで誘われる人もいるのだろう。
けれど、優梨が靡くことはない。彼は生きている。そう言ってくれる人がいた。信じない理由がないわけがない。
「なぁ、アイツら何かあったのか?」
「さあね。考えの相違みたいなものじゃない?」
「うん? よくわからねえ」
「乙女と男の違いよ。あまり詮索はしない方が身のためね」
「そういうモンか」
ふむ、と五十嵐は素直に頷く。
会話も切られ、もう行こうかと優梨が踵を返そうとすると、何処からかパタパタと走ってくる侍女頭が目に入った。
「ん? あれ、ミュルテさん?」
「なんか急いでるっぽくね?」
「勇者様! 此方にいらっしゃいましたか!」
ミュルテ・ガグンラーズ。
王宮の侍女頭で、古くから王宮に使える一族の末裔だ。その始祖は遥か昔に存在したとされる英雄だとされ、王宮でも丁重に扱われている人物の一人だ。
地位を確約されているのにも関わらず、自ら率先して侍女になったとされる謎の多い人物なのだが、事情を知らない異世界の勇者一同からしてみれば、普段は物静かで大人しいメイドさんでしかなかった。
「大変です!」
「落ち着いてください、ミュルテさん。まずは深呼吸をして落ち着いて」
「落ち着いている暇がないんです! 魔王軍が……」
ハァハァと息咳切っていたミュルテは、優梨の回復魔法でスタミナを回復し、自分を宥めていた勇者達に告げる。
「魔王軍が! 侵攻してきました!」
『はあっ!?』
予想の斜め上を行く言葉を聞いて、勇者達は頓狂な声を上げた。




