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真・ヤクザ転生

 Ⅵ 真・ヤクザ転生


 ……かすかな草の匂いが鼻孔を刺激する。


 小鳥のさえずりが聞こえ、頬には肌をなでる涼やかな風を感じていた。穏やかな陽気が、眠りの水底から意識を呼び覚ます。


 目を開けると、そこにはぎらぎらとした強い光。眩しい。青々とした木の葉の隙間から真昼の太陽が覗いている。葉が風にそよぐのに合わせ、光は次々と形を変えていた。背景には澄んだ青色。


 ――俺は、こんなところで何を……


 やがて意識は覚醒していき、自分を客観的に認識し始める。俺は今、草むらのような場所に寝転がり、ぼんやりと空を眺めているのだ。しかし、なぜそんなことを…?

 ゆっくりと体を起こす。すると、胸と鳩尾を中心とした激痛。思わず声をあげてしまう。顔の大部分もひどく痛み、右耳も聞こえづらかった。よく見れば満身創痍だ。……俺は、どうしてこうもボロボロになっているのだろう。


 茫然と、血にまみれた手足を眺める。しばらくの間そうしていると、唐突に全て思い出した。


――そうだ、俺は組の連中に追われて……

 燃え盛る組長のベンツ、殴られて飛び散る血液、血を流しながらうずくまる兄貴の姿……さっきまでの地獄の光景がフラッシュバックする。そして、思い出すのは交差点の場面。迫りくる大型トラックと、ヘッドライトの閃光。――俺は、たしかにあのとき轢かれたはず……だが、今俺はこうして生きている。どういうことだ…?


 ふと周りを見渡した。そこには、長閑な田舎の風景が広がっていた。

 広がる畑、遠くには草を食む家畜の群れ。小屋のような小さな家々と、農作業をする人々の影。その周りを囲むようにしてどこまでも続く森。

 だが、それは明らかに日本の風景ではなかった。家の作りや植物の見た目が、大きく日本とは異なっているのだ。壁に使われている薄灰色のレンガや、煙突などの特徴からは、中世の色合いを残した閑村、という印象を受ける。それによれば、どうやらここは外国らしい。


 俺は混乱した。どうして俺がこんなところにいるのか。控えめに言ってわけがわからなかった。日本のヤクザに追われて、海外まで逃げてきてしまったというのか。それとも、既に捕まって、連れてこられたのがここというわけか。……どちらにしろ信じがたいが、俺は今確かめるすべをもたない。記憶が定かでない上、状況と合致しないという事態に、俺は頭を抱えた。


 そのときだった。視界の端に、何か特徴的なものが映ったのは。


 遠く向こう、切り立った山々が折り重なるように連なるあたりに、飛行船のようなものが浮いているのが見える。それが相当に大きいものだということは、山の向こうに微かに見える街並みと比較してもわかる。 

 外国に行ったことはなかったが、なるほど、外国ではこういうのも一般的なのか。初めて見るその物体を、俺はなんとなく目で追ってしまう。


よく見ると、その飛行船は何かに曳かれて移動しているようだった。それは形を微妙に変えながら、ゆっくりと移動しているように見える。……何だろうか。俺は目をこらし、よくよくその影を見つめた。すると、翼竜のような巨大な生き物が飛行船を曳きながら羽ばたいているのが見えた。―――なるほど、そういうこともあるのか。







……は?



 我が目を疑った。殴られたせいで目がいかれているとしか思えなかった。


 何度も目をこすり、その遠い影に向けて再び目を凝らす。だが、どう見てもそれは、ファンタジーモノの創作でよく描かれるような、赤い鱗に長い翼を持つ伝説上の生き物にしか見えなかった。ご丁寧に口から火まで吐き出しているではないか。


……ビキビキと、眉間の皺が深くなっていく感じがした。


 目線を地上に戻す。よく見ると、他にも何かおかしい。何も考えていないような顔で牧草を食んでいる家畜たち。いつの間にか近くに移動してきていた群れの一つを見て、俺はぎょっとする。――それは牛でもなければ馬でもなく、かと言って羊にも見えない奇妙な生き物だった。


 馬のような縦長の顔の両側に付いているのは、長く垂れ下がった耳のようなもの。しかしそれは象のようなものとは違い、細長かった。

 そして何よりも、俺が知る限りでは四足歩行の生き物にはありえないものがそれには付いていた―――背中から左右に向けて生えた、鳥のような二つの羽である。


 ――それに、それにだ。現地住民だと思っていた人間たちの様子もどこかおかしい。

 俺が今立っている丘の上から続くけもの道が、少し慣らされた道に変わるあたりに、小屋のようなぼろい建物がある。視界の中で一番近くにある建物だ。そこには先ほどから人影が見え隠れしていたのだが、その姿が今ははっきりと見える。


 見えていたのは、若い女、というか少女だった。古めかしく質素な衣装に、美しく伸ばされた金髪。――しかし、その娘の耳は異常なくらいに長く、顔の横幅に迫るのではないかというほどに横に伸び出ていた。




「…………」



 風の音が耳に鳴り響く。風の強さはさっきと同じはずなのに、その音はどこか寒々しく、弱々しい笛のような音色となって耳に届く……それは棒立ちした身体を中心にして、やがて耳鳴りのような、ある種のノイズのような響きとなって渦を巻いていった。


 空を仰ぎ見た。そこには、先ほどと変わらない青空。狂いそうなくらいに透き通った、青。膨大な光を放つ天体も、刻々と姿を変えゆく雲塊も。どれもが鮮明で、リアリティに満ち満ちて……全く現実のものとしか思えなかった。


 俺は風がひりつく頬に手を当て、さらりと下へ撫でた。傷つき、血まみれとなった皮膚は、少し触れただけで激痛が走った。


―――いてえな、


 と。だが、それだけ。何も変わることはない。


 左手でずっと握りしめていたドスの、そのぎらついた生々しい刀身に、そっと右手を添える。ぎゅっと刃を握り込むと、鋭い痛みと共に血があふれ出す。血が草の上に滴り、染めていく。

だが、いくら痛みを感じても、自室のベッドで起き上がるいつもの朝は来なかった。

 


「ハハッ……ハハハハッ……!!」


 俺は笑っていた。合わせて、棒立ちの身体が力なく揺れる。


 まったく滑稽だった。全て、もうどうでもいいとさえ思えてくるほどに。


「……うッ…!」 

 突如として強烈な眩暈が襲い来る。それは段々と度合いを増していき、視界はぐらりぐらりと地震が起きたかのように揺れた。

 これまで血を流しすぎたのか、あるいは……。血の気がひき、急激に体温が下がる不快な感覚によろめき、頭を押さえる。


 やがて、視界は一回転。俺は仰向けに倒れた。


 映るものすべて、ぐるぐると螺旋を描きながら歪んでいき、形を失っていく。それはコーヒーに垂らしたミルクが混ざっていくようで、その中で自身の意識も攪拌されていった。


(まったく、傑作だ……)


 視界が閉じる寸前、諦観と、それを通り越した何かが俺の中を満たし……俺は考えることをやめる。



 そして、ブラックアウト。意識は途絶えた。



 


 12月の、ある冬の日のことだった。開かれたと思われた俺の人生は、意図せぬやらかしによって幕を閉じる。


 死を思ったそのとき、俺は異世界への転生を果たしていた。



 ……異世界に一人転生してしまったヤクザ、東山銀次。

 彼の壮絶サバイバルが、今始まる…!


 To be continued…


ギャグのつもりで書いたんですが、友人に見せたら「シリアスにしか見えない」と言われてしまった。ええ…。

更新が滞ってる間に、銀次がTRPGのPCになったり、その動画が投稿されたりしてしまった(???)。

今忙しいんですが、一応続きを書くつもりではあるので、よろしければ気長にお願いします。

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