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やらかし

「異世界転生ヤクザ 東山銀次の受難」


 序章 死出の旅


 Ⅰ やらかし



「嘘だろ…」


 茫然と立ち尽くした身体。驚くほど自然に、言葉が開いた口から漏れ出ていた。


 目の前に広がるのは、異臭を放ちながら轟々と立ち上がる炎。ときおり弾ける火の粉が、線香花火のようにきらめいている。

 もはや原型を留めていない「それ」を中心にして、炎はますます勢いを増していた。暗くなり始めた藍色の空に向かい、オレンジ色の火柱が煙を押し上げながら立ち上っていく。そのコントラストが不思議に綺麗で、思わずため息が漏れていた。


 吐いた息が僅かに白くなるような、12月の冬の日のことだった。

 目の前に突如として現れた、信じられない光景。


 ……その光景をぼんやりと眺めながら、俺は何かに憑りつかれたように、突っ立ったまま動くことが出来ないでいた。頭の中は白綿を代わりに詰め込まれたかのようで、何も考えることが出来ない。


 ふと周りを見ると、やじ馬たちが続々と集まり始めているのが見えた。噂好きそうな近所の主婦たちから、小さい子供まで。パシャパシャと写真を撮る音が、後方から聞こえる。

 若者たちが騒ぎながらケータイのカメラを向ける方向の中心に、俺はいた。


「おーい!あぶねえって、離れろ兄ちゃん!」


 どこかの親父が後方から呼びかける声。その声が遠く聞こえたのは、距離のせいだけではないような気がする。

 ――やじ馬たちの声、徐々に近くなるサイレンの音。燃え上がる鉄塊が崩れゆく、鳴き声にも似た不快な音。それらすべてが混ざり合い、ハウリングするかのように頭の中を巡っている。



 どこからとも知れず、頭の中に語りかけてくる声があった。


――まだ間に合うかもしれない。今すぐにでも炎の中に飛び込めば、スーツケースだけでも取り出せるかもしれないぞ。あれは頑丈な金属製だったはずだ。まだ間に合うかもしれない――もう一人の自分はそう言う。


 しかし……現実を直視すれば、そんなものがまやかしだということはすぐわかることだった。

 トランクから轟々と噴き出している炎。それを見れば、中のものだって到底無事であるとは思えない。それに、今まさに燃えるトランクから噴き出している燃えカスのような黒い紙きれが、まさしくそれを表しているように見えた。――そうだ。もうとっくに、状況は絶望的だった。


 

 そう、それは数分前のことだ。


 立ち寄ったコンビニで買い物を済ませ、出てきた俺の目の前で、乗ってきた車が燃えていた。それは今月の売り上げをすべて積み込んで、組の倉庫へ向かうはずの組長のベンツだった。


 組長のベンツが、燃えていたのだ。


一発ネタです。小説初めて書きました。

こんなんですが一応続きます

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