龍使いの魔法使い 後編 ※騎士視点
「昨夜取り調べした者と大体の内容と同じだな。戦闘慣れをしていて、魔法使いも子龍も魔法型。珍しい魔法の属性をもっている」
俺は捕まった子供達を家まで送っていたので取り調べをしていないが、ルスイによると似た内容だったらしい。
「ただ違う点は、子龍とその魔法使いを捕まえようとしていたことか?」
「それもだが、子龍が駐屯所に来る前この地区が騒がしかったのは、助けを求めていたのがお前らだったとは」
「恥もあったものじゃないな!」
「うぐぅ。なんとでも言え……」
男は歯ぎし苦い顔をするものだから、また体調が悪くなったのかと思った。
だが心配すると「近づくな!」と縄で縛られながらも後退りするので、杞憂であった。
「それにしても、魔法使いがまだ幼い子どもであることは、やり信じられないな」
「俺が嘘をついたと思ってんのか?」
「いや、全員が同じ証言をしている以上、そうではないことは分かっている。ただ、信じがたいだけだ」
「小人やドワーフではないのか?」
「ガキらしくねえ雰囲気だったが、人族に違いねえよ」
子どもの見た目に反して、大人びたものであったらしい。
だが子どもらしい一面も多少はあったようで、人族だったと証言する。
「種族はなんでもいいだろう。ただその魔法使いが今どこにいるかだ」
「子龍を攫う前、その魔法使いはどこにいたんだ?」
「確か……西区だ。冒険者ギルドから出て、寄り道はしていたがその通りをずっと歩いていたからな」
「王都に来たばかりなら、その西区辺りで宿をとろうとしていたんじゃないか? その地区は治安がいいしな」
「バンヌにしては、脳ミソを使ったな。ふむ、どうせ行く宛がない。試しに行ってみるか。龍を連れているんだ。魔法使いを見たという目撃者は多くいるだろう」
「おーい、その前にこっちを手伝ってくれよ」
同じ隊からの騎士からの応援の声によって、西区に行く前に部屋を片付ける。
主に龍の魔法で出来た大きな木についてだ。
その他についてはもう終わっているらしい。
この建物は宿主がいないからこのまま放置してもいいのではないか。
そう思うが、魔法で作られた植物の資料が欲しいという研究所からの声があるようだ。
黙々と作業をする。
「さて、行くか!」
「なんでお前はそんなに元気なんだ……」
げっそりとした様子のルスイだ。
歩く速度も、アジトに来た当初に比べて遅い。
「それにしても、正義感があるやつだな。その魔法使いは」
「子ども特有の正義感じゃないのか? そのお陰で奴隷狩りを捕まえることは出来た」
「私だったら懸賞金ぐらい請求するがな」
「それはルスイが金にがめついだけだろ」
「別に対価を求めているだけだ。だが懸賞金が出ていることを知らなくても、自分でしたことぐらい説明して欲しいものだな。やることだけやって去っていくとは」
ルスイは明らかにめんどくさいという表情をしていた。
確かにこの王都内からただ一人を探すのは大変だ。
きっと魔法使いは腕に自信があることは分かる。
そうでなければたとえ龍を使役しているとしても、一人で奴隷狩りの者と挑むことはしないだろう。
捕まっていた子ども達から、人気があった。
そして子ども達が行かないでと引き留めたにも関わらず、置いて一人の子どもを連れて去った。
その連れて行ったその子どもも知り合いであったのだろうか。
子龍と共に駐屯所に来た少年を思い出しそう考える。
だが自分の勘がそうでないと言っている。
この勘はよく当たるものだ。
昔から外れたことはない。
「うーん、よく分からないな」
「何がだ?」
怪訝そうにしている幼馴染みに、俺は口を開こうとする。
だがその前に緩い円を描くと俺達の元に何かが飛んで来た。
それはどさりという音と、くぐもった声がした。
つまり飛んできたのは人である。
それも手と口が植物で縛られ、下半身が凍っている。
つい先程、似た男を見たばかりだった。
だがそんな男よりも、注意しなければならない者がいる。
男を投げてきた者だ。
フードを被っており、背は小さい。
手には背と同じ長さの杖を持っていた。
「この男は奴隷狩りしていた内の一人。普段は援助してくれている貴族の領地のティナンテルにいたらしいよ」
声からして少女だ。
そして子龍はいないようだが、外見から判断して探している魔法使いである。
向こうから接触してきてくれたのか。
これで探す手間が省けた。
だが相手はそうではないようだった。
言うだけ言って、後ろを向いて立ち去る。
それももの凄い速さでだ。
「はっ? ちょ、待て、おい!」
「ルスイ、先に行くからな!」
出遅れたルスイを置いて俺はすぐに追いかける。
身体強化をしなければ、追い付けない速さだ。
俺は見失わないよう、一度ちらりと後ろを伺った魔法使いを見てもう一段階足に魔力を込めた。
だが魔法使いが角を曲がり俺も後に続くが、そこには誰もいなくなっていた。
代わりに三つの分かれた路地の道がある。
いや、一つの路地のすぐ奥にもう一つ路地がある。
「どの道だ……」
角で曲がった瞬間、魔法使いは魔法を使ったようだった。
この状況で使うとすれば、風属性だろうか。
なんという魔法使いだ。
無詠唱であるとは知っていた。
だが魔法を使えない俺であっても、無詠唱が簡単に出きるものではないと知っている。
俺は少女に衝撃と恐れを持った。
それは話に聞いていた魔法使いのことを、本当には頭で理解していなかったことを表している。
だが今はそんなことよりも、消えた魔法使いの行方が最優先だ。
得意ではないが、魔法を使った痕跡からどの道を行ったのか探る。
どの道にも残っていない。
曲がった角にはある。
やはり角を曲がった瞬間に、魔法は発動したようだった。
だとすると、他にどの道を行ったか判断するものは己の勘だった。
「……こっち、か?」
一番暗い路地。
入ってすぐに、初めて勘が外れたかと思った。
なぜなら行き止まりであったからだ。
だが、己の勘があっていると言っている。
じっと眺める。
隠れるところはない。
だが何もないと思っていた空間から、すうっと魔法使いの姿が浮かび上がった。
フードを被っているにも関わらず、目が合ったと感じた。
気配から、魔法使いが動揺しているのが分かる。
「やっぱりそうだったか」
「……なぜ分かったの?」
「勘だ!」
胸をはって答えると、魔法使いは戸惑っているようだった。




