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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
母の元へと向かう旅

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逃げる

後半は騎士のルスイ視点です。

 右、左、後ろは壁で覆われている。

 前方は騎士。

 大柄であるが晴れやかな笑みを浮かべているから、威圧感はない。

 さて、どう逃げるべきか。


「そんなに警戒しなくてもいいんだぞ? ただ、俺は話を聞きたいだけだ」

「話だけならいいですが。それだけではないですよね」

「そうだな。駐屯所まで来てほしい」


 きっとこの人は良い人だと分かる。

 裏がなさそうな性格だ。

 だがそれでも駐屯所までなど面倒くさい。

 それに長く時間がかかりそうなので、リュークがいるとはいえロイを宿に置いたままでいられない。


 前世のように任意というものがあるのだろうか。

 ちらりとフード越しに伺うが、相手の騎士はにっかりとしているだけだ。

 だが多分拒否権はないのだろうなと思った。


「あいにく、私は供には行けません」

「どうしてだ? 来たら懸賞金を用意するが」

「……信用をしていないからです」


 すんなりついていったら、駐屯所には奴隷狩りの援助をしていた者がいる。

 その者は貴族であるから、一介の冒険者である私の方が身分的に立場が低い。

 低いということは、相手の思う通りに事を進められるものである。

 例えば、難癖をつけて拘束することだって可能だ。


 この世界は貴族の力が強い。

 なので、殺す前にガムザから何か自身の情報が渡っていないか怯えている貴族がいるような場所には行けない。



 信用していないという言葉から、空気がピリッとしたように感じた。

 私が一方的に感じただけかもしれない。

 だが互いにしたいことが一致しないことは、どちらも理解していた。


 自然と杖を持つ手に力が入る。

 壁で囲まれている路地であるので、騎士がいる前にしか逃げるところはない。

 いや、上があるか。

 風魔法を使用すれば、かけ上がることは出来るはずだ。

 そのための時間は多くを必要としない。


「どうしても来ることは難しいか?」

「はい。騎士様には申し訳ありませんが」

「それならば、実力行使するまでだ」


 これまで話していた騎士の声とは別の声がした。

 私は斬りつけてくる剣を杖で受け止める。

 反射的に身体強化したがまともに真正面から受け止めたため、手がびりびりとした。


 そういえば、騎士は二人いたのだった。


 そう考える間にも、相手は二撃、三撃と与えてくる。

 私は今度は剣を受け流しつつも、魔法の構築をする。

 殺すつもりはないことは、剣を鞘におさめていることから分かる。

 だがそれだけで、もう一人の騎士と比べ奴隷狩りの援助をしていた相手か疑わないという判断はない。


「ルスイ、何をしているんだ!?」

「見れば分かるだろう。貴様も加勢しろ」

「残念だけど、その必要はないよ」


 魔法を発動し、何もないところから風が吹いた。

 ぴょんっと跳び上がれば、体は軽々しく宙に浮く。

 そのまま私は壁や物置を蹴っていく。

 途中、騎士は「逃がすか!」と剣を投げ、逃げるのを阻止しようするがすんでのところで回避した。

 その弊害で被っていたフードが落ち髪がゆらりとはためくが、なんら支障はない。

 私は狭い路地から脱出した。






 バンッと勢いよく扉を開ければ、ロイが驚いた様子でいた。

 リュークは何も動じず落ち着いている。

 私はぱちりぱちりと瞬くロイを横目に、宿に置いていた荷物をまとめる。


「ごめんね。急だけど今すぐ出発するね」


 準備が出来ればロイの手を繋ぎ、多少引っ張りつつも門まで連れていく。

 リュークは事情を知っているので、露店に目移りしつつもついてくる。



「……一度帽子をとってくれるかい?」


 門番は耳を帽子で隠すロイに言った。

 ロイはちらりと私を見る。

 一つ頷けば、そろそろと帽子を外した。


「―――ああ、引き留めて悪かったね。もう行っていいよ」


 私が冒険者を示すタグを見せ、ロイの分の関税を払えば門番はすんなりと通してくれた。

 こうして私は簡単に、騎士に見つかる前に王都から脱出することが出来た。


 *



「お前らはたかが魔法使いのガキ一人も連れてこれないのか!」

「失礼ながら団長殿、たかがというのは語弊があります。子供とはいえ、一団規模のある犯罪者を倒した実力のある魔法使いです」


 怒鳴り散らす団長野郎に反論するが、「言い訳はいらんっ!」と一蹴されるだけでだった。

 コネだけで団長となり、怒鳴り散らすか命令するしか脳がない目の前の相手に腸が煮えわたる。


「汚ならしい平民のうえ役立たずとは。我が騎士団の恥だっ。お前ら二人供、我が隊から出ていけ!」

「言われなくとも、そうするつもりです」


 終始イライラさせられる元上司の顔面に、思いっきり退職届を叩きつける。

 顔を真っ赤にして「な、何をするっ!」と怒り狂う団長様子は、とても滑稽だった。


「俺は退職届は書いていないからな」


 バンヌがそう言ったかと思うと、机の上に置いてあったペンを用いて名前を書き足し始める。

 私の退職届にだ。

 縦に綺麗に書いてある名前の横に、バンヌの歪に書かれた名前が加えられた。


 バンヌの呑気な馬鹿な行動によって、団長は怒りで震える。

 私はあまりの愉快さに、自身の煮えわたった感情は冷えていった。






「貴様は騎士を辞めなくても良かったんだぞ」


 元々辞職するつもりであったものの、売り言葉に買い言葉の形で辞めてしまった私だ。

 それに続くようバンヌも騎士を辞めなくともいい。


「昔からルスイとはずっと一緒だったからな」


 答えになっているのかいないのか、よく分からん回答だった。

 だが騎士を辞めてから一人で行動するよりも、二人の方がいいだろう職につこうと思っていたので、その点都合がいい。



「それで、これからどうするんだ?」

「ついてこれば分かる」


 スタスタと歩いていけば、バンヌであっても目的地は分かったようだ。


「冒険者になるのか?」

「名誉を手にいれられるからな」


 騎士にだって元々そのことが目的で入ったものだ。

 あの隊では貴族ばかりのお飾りの隊だったせいで、まともな仕事はこなかった。

 その連鎖で己の実力を発揮できる事もなかったので、今では騎士になったことはつくづく後悔している。



 人相手に培った剣技がどれほど通用するだろうか。

 最後の仕事であった魔法使いの少女を思い出す。

 あの魔法使いは冒険者として馬車の護衛の仕事をしていたので、魔物相手でも遅れを取らないのだろう。

 突然斬りかかったとしても、動じた様子はなかった。

 小龍を使役しているというから、人相手の戦闘は何度も経験済みなのだろう。

 どんな経緯で小龍との縁があったかは知らないが、数奇な人生を送っていると思った。



 まあ他人のことよりも今は自分のことだ。

 冒険者となるならば、最初は低ランクから始まる。

 そのため受けられる依頼が低い報酬のものしかない。


 バンヌは冒険者になった後のことで呑気に「海というものを見てみたいな!」と言っている。

 が、そんな他国に行かなければない海まで行く余裕はまだないのだ。

 まあ想像だけならば、いくらでもしてくれればいいが。


「なあルスイ」

「なんだ」

「またこれからもよろしくな!」

「……ふん」


 握手のために差し出された手をバシリと叩き、「さっさと行くぞ」と冒険者ギルドへ入る。

 後ろから「ハハハハ!」と笑いながらもついてくるバンヌに、少しだけだが安心した気持ちを抱いた。

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