勝負だ! 前編
「勝負だ!」
「……もう、諦めたらどう?」
呆れて言葉が出た。
もう何度目のことだろうか。
イオは私が外を出歩くたびに、こうして立ち塞がり勝負を挑んでくる。
そうなってしまった理由は二つ。
私への嫉妬と汚名返上だろう。
イオはエリスを一途に好きなようだ。
だからスノエおばあちゃんの弟子として一緒にいる時間が長い私に嫉妬して突っかかってくる。
これは私だけじゃなくてニト先輩も同様だろう。
エリスの恋する相手をイオが認識しているのなら、ニト先輩の方がよっぽと嫉妬の想いは強いだろうが。
汚名返上は鬼ごっこでイオから私に皆から分かりやすく鬼とされてしまったからのようだ。
よかれと思ってしたことだが、男の子としては屈辱だったらしい。
集団の中でリーダーなようなので、皆の前で恥をかいたとかんじているのもある。
父親が優れた街の兵士であるということというのも理由の一つかもしれない。
父親にそんなことないっと言うことのために、確か一回目の勝負に挑まれた覚えがある。
それで私が鬼で鬼ごっこをして勝った。
それ以後、何回も色々な勝負内容で突っかかってくるとは思いもしなかったが。
これまでの経緯を思い出して一つ溜息をつく。
私が一度外に出かけると毎回のように勝負を挑んでくるが、イオ達はそんなに暇なのだろうか。
こちらは忙しいのに。
私の年齢で働くことは珍しいことだが、それでも家のお手伝いをしているぐらいの年齢ではある。
というか、エリスに会いにいって好感度を稼ぐほうが、有効な時間の使い方ではないのだろうか。
「クレディア、声に出てるよ」
兎の捕獲の依頼主であったことから親しくなったネネがこそりと近づいて言った。
心の声が漏れていたらしい。
イオにも聞こえていたようで、俯いて体を震わせていた。
「出来たらやってる……っ!」
ギラリとした目で睨まれた。
若干涙目なので怖くない。
「昔やってたんだけどねー」
「働くのに邪魔だって言われたんだっけ?」
「そうそう。『もう来ないで』って言われたりして。イオはそれからしばらく落ち込んでたよね」
「それで俺達が慰めて」
「大変だったよねー」
「……なんというか、ごめん」
イオの友達の言葉の数々を聞いて謝ると、「くっそぅ……」と頭を抱えていた。
ほんとにごめんなさい。
「……そんなことよりも、勝負だっ!」
「そんなことで済ましていいの?」
つい突っ込んでしまったのを「大丈夫!」とイオの友達から返ってくる。
「イオはね、朝にアピールしてるんだよ」
「エリスが薬屋に行くときにな」
「毎朝頑張ってるよね」
「花とか好きなお菓子あげてね。……何も進展してないけど」
悲しすぎる最後の言葉を聞いた。
エリスの恋を応援する私だが、同情してしまう。
というか朝、たまにエリスからお菓子をもらうのだが、それはイオがあげたものだったのか。
知らずに美味しく頂いていた。
食べ物のことを考えていると、なんだがお腹が空いてきた。
あまりお昼ご飯は食べてきていないのだ。
なので「なんで話すんだよ!」「えー、いいじゃん」と言い争っているのを放って、私は屋台でお菓子を買った。
ジャムが入った焼き菓子だ。
もぐもぐと頬張っていると、「私も食べたい」と近づいていたネネに残っていた分をあげる。
量が多いなと思っていたのだ。
私は時間を忘れて二人で仲良く食べていると、むんず首の辺りを掴まれた。
そのままずるずると引きづられる。
なんだなんだと見るとイオだった。
そうだ、勝負するということだったのだ。
人数が多いと話がずれやすいのだ。
最初は何をはなしていたのか忘れてしまう。
勝負することにやる気が出ないまま、服が伸びてしまうの敵わないので自分で歩いて移動する。
向かう場所は公園らしい。
先程までいた場所はよく馬車が通っていて危ないのだ。
近くにあるというので、直ぐに着いた。
「それで、何の勝負をするの?」
やる気なしに言う。
完全に忘れていたが、お昼の休憩時間は終わっているだろう。
早く終わらせて、家に戻らなければならない。
仕事があると言っても、買い物してお菓子を食べていたことから信じてくれないのだ。
呑気にしていた私も悪いのだが。
「今回はこれだ!」
これ、のところでイオは木剣を見せた。
二つあるので、打ち合うのだろう。
いつも持っていない木剣を持っていたので、予想はしていた。
「危なくない?」
「怖気づいてるのか?」
「そういう訳ではないよ」
子供だけでやるには、もしものときにどうかと思うのだ。
というか二回目から勝負内容を変えているのだが、ついに自分が得意なもので挑んできた。
イオは兵士である父親から剣を教えてもらっている。
なので自信があるのだろう。
今回は負けるはずがないと、得意げな顔だ。
だが、明らかに魔法使いである私に剣で挑もうとするなんて、よっぽど勝負に勝ちたいのだろう。
私が女であること忘れてることはないだろうが、遠慮がない。
そのことを言ったら、今度こそ泣いてしまいそうだが。




