目が惹かれる本
「いってらっしゃい」というエリスの声を聞きながら、念願の魔法陣に関する本を買いに家を出る。
お店側からの扉からは出ない。
スノエおばあちゃんの家に来てから何週間か経っているが、私は人前にめったに出ないから人目に触れると目立つのだ。
悪いことは言われないのだが、こそこそと噂をされているようなので良い気持ちにはなれない。
そうしてこっそりと外に出て、本屋へと向かう。
本屋は家から遠い場所にある。
分かりやすい道順なので迷うことはないが、昼の休憩時間までに薬屋に戻らないといけない。
私は早歩きで向かった。
本屋は分かりやすい看板があったので、初めてきたが通り過ぎることなく到着した。
私は読書が趣味なので、元々本屋には魔法陣のことを知るためにということがなくても来たかった店だ。
心躍りながら店内に入る。
国の識字率は低くはないので、本はかなりの量があった。
見ると大雑把に本の分類がされているようだった。
私は本を読むのは好きな方なので、目移りしながら魔法についての本が並んでありそうな本棚をまずは探した。
すると目当てのものではないが、目が惹かれる本があった。
私は思わず手に取る。
それは懐かしいものだった。
勇者が魔王を倒す話の物語だ。
同じ本ではないが、小さいころによく母に読み聞かせてもらったものだなと感慨深く感じた。
文字を覚えるための教科書みたいなものであったから何度も読み、内容は隅々まで覚えている。
パラパラとめくってみると、表現は違うところはあるが大体の流れは同じだった。
ただ今手に取っているものの方が詳しく書かれていて、何冊かあってシリーズ化しているようだ。
私が読んでいたのは絵本であったから、知らない内容のところを見つけてつい立ち読みしてしまう。
そうしてある程度読み進めてしまってから我に返り、本を元の場所に戻した。
だがそれは遅かったようだった。
何とは無しに見た方向に年配のおじいさんがいた。
目が合ったことで私はピタリと動きが止まってしまった。
「あの、魔法陣について書かれている本はありますか?」
先程までの行動について咎められるかもしれないと考えて、口は咄嗟に動いていた。
「あったら購入したいのですが」
「すまぬが、ここでは取り扱っていないのう」
魔法の専門的分野にはいるので、その答えは予想していたことだった。
「取り寄せることはできますか?」
「ふむ……。それよりも、魔法店に行った方が早いかもしれないかの」
魔法店は名前の通り、魔法に関する物を取り扱っている店だ。
確かに言われてみれば、魔法店で魔法陣に関する本を取り扱っている可能性は高い。
こうして本屋には目当ての本がないことが分かったが、ここで何も買わずに帰るのもどうなのかと考える。
せっかくだから何かオススメの本を聞いて一冊買おう。
読書は趣味ではあるが、最近は植物や調合に関するものばかりだ。
そう考えて話しかけようとすると、おじいさんが何冊かもっていた本に目が惹かれた。
勇者が魔王を倒す本の比ではない。
異形ではあるが人を原型にしていて紫色の髪と目をした表紙絵は、人目見たら私から目を離させないものだ。
「この本が気になるかの?」
持っている本にじっと私が見ていたら、嫌でもそのことに気がつくだろう。
しばらくしてから、おじいさんは私に話しかけたことを理解して「はい」と答える。
そうして私は惹きつけられるままにその本を買い、本屋から出ていた。
その間のことはよく覚えていない。
お金を入れている袋は少し軽くなっているから、お金でちゃんと買ったことは分かった。
表紙絵から本の内容は人族から見た半魔のことであるということは推測できる。
暗い雰囲気の色合いと描かれているのが異形の形である時点で分かるものだ。
私は半魔というものは自分だけでしか実際には知らない。
後は母から聞いただけのものだ。
半魔は人族と魔族から見放された。
そして人族に対して、数十年に一度の間隔で復讐は続いている。
私はあれこれと本を読んでもいないのに考えてしまう思考を無理やり断ち切る。
お昼休憩の時間は限られているのだ。
本屋から近くにあるという魔法店に行って、目当て本があるかを探さなくては。
私はおじいさんが教えてくれた道順の通りに、魔法店へと向かった。




