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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
二人と一匹

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22/333

不安を流し込んで

「まさか、杖が折れるなんて……」


 地面に寝転がったまま、愚痴を呟く。

 母はそれを聞いて薄く笑った。


「……狙ったの?」

「あのままだと、魔力が少ない私のほうが負けていたから。まだまだ経験が足りないわね」

「そんなの、気付ける訳ない」


 訓練で何回か自然に杖が折れたことはあった。

 だから今回もそうだと思ったけど、母はあんな激しい打ち合いの中、ずっと同じ一点を狙い続けていたらしい。

 攻撃を防ぐことで精一杯だった私には気付けなかったことだ。

 杖を折るようにしなければ負けていたと言っているが、私にはまだまだ手の届かない距離にいるんだと考えさせられ、打ち沈んだ。




 そうして色々と考えながらぼうっと空を眺めていると、視界にリューが映る。

 パタパタと私の上をぐるぐると回っていて、急激にお腹の辺りに降下し、自分の口から「うぐぅ」と声が出た。


「ウ?」


 声に反応してリューが私の顔を覗く。

 自由気ままなマイペースな様子に「もう、しょうがないな」と体を起こした。

 リューが成長していないせいか、私のほうが体が大きい。

 そのおかげで今は腕に抱えても、重さでぷるぷるさせるようなことにはならないようになっていた。


「リュー、杖を直してくれる?」


 杖は木から作られているので、折れた場合は毎回頼んでいた。

 魔力を通すことが出来る回路が一度途切れているため修復後はただの棒となってしまうが、棒術の練習だけであれば支障はない。


「ガウっ!」


 リューは快く引き受けてくれた。

 龍は魔法を発動するのに詠唱は必要としない。

 ただ集中して、目の前の二つに別れた杖を見つめる。

 それだけで二つに分かれた杖は見る見るうちに、見た目だけは元通りとなった。


「ありがと」

「ガウガウ」


 いえいえと言っているように聞こえて、私はつい笑ってしまった。


 *


「話があるの」


 母が言った。

 この言葉だけで、先程の突然の訓練を行った理由を察した。

 ついにその時がやってきてしまったのだ。

 だから母は私を試した。

 母がいなくても一人でもやっていけれるかを。


 母が話してこなかった全てを知ることの覚悟は出来ている。

 そのための時間はあったから。

 だが、母がいなくなってしまうことに関しては未だもやもやとしたものを抱えている。

 せめて引き止めて母を困らせる言動はしないよう、心に決めた。




 リューを連れて椅子に座る。

 一人で聞くのには心細かったから。

 母は二人分の紅茶とリューに紅茶代わりに果物を一つを持ってきて、私と向かい側に座った。


「……強くなったわね」

「まだまだだよ。お母さんに勝ってない」

「私より強くなってしまったら、母としての面目がないじゃない」

「お母さんより強くなることが、私の目標だから」


 母は私の強さの象徴だ。

 見た目はふんわりと可愛らしい。

 しかし一度戦いの場になると雰囲気が変わり、キリッと見えるようになるのだ。

 体は女性らしい肉づきをした体付きではあるが、同時に引き締まった体も持っていて剣を振るい続けてきたからか、手のひらは硬い。

 危険なときは助けに颯爽と来て、魔物相手には遅れを取らない


 そんな母を誰が尊敬しないだろうか。

 剣と魔法の違いはあるが、強さを追い求める方向性は同じだ。

 だから母みたいに格好よく、強い人を目指しているのだ。



「……そういえば昔、泣きながら私より強くなって守るって言ってたわね」

「っ、それは気が動転していたときだから!」


 そのときの自分に戻れるなら、魔法を数発放って黙らせたい。

 羞恥心で顔を赤くしている私を母が思いっきり笑い、リューは果物に夢中になっていたのかその声でビクリと体を揺らした。


「ああ、もう……。ふふ、そんなに真っ赤にならなくてもいいじゃない」

「……うぅ」


 もう忘れてほしい。

 そもそも話をするのではないのか。

 いや、これもそうなのだが、もっと重要な話ではないのか。

 ジト目でそう訴えかけるが逆効果で、再び笑いを誘うだけだった。


「……」

「分かった、分かったわよ」


 ようやく功を奏し、笑いがようやく収まる。

 でも時々思い出して笑いをこらえるための息が漏れていた。



 暫しの沈黙。

 リューでさえも二人の間に漂う空気を感じとり、音をたてないようにしていた。


「……話の切り出し方は考えていたのだけど、いざとなると怖気づいてしまうものね」


 異常に笑っていたのは、話を少しでも先延ばすことが理由にあるのかもしれない。

 聞く方だけでなく、話す方にも相応の覚悟がいるのだと母の言葉から感じ取った。


 母は冷めかけている紅茶を飲んだ。

 それは抱え持つ不安を胸の内に流し込み、閉じ込めるようだった。

 カチャリと紅茶を置いたことによって音が鳴る。


 そしてゆっくりと口を開き、心に秘めていたことを語りだす。


「クレディア、あなたは魔族の子なの」

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