母VS娘
朝早く、庭では苛烈な戦闘が行われていた。
それは一方的なものだった。
流れるような剣捌きで攻める母メリンダ、杖で防御して無理な攻撃は魔法でギリギリいなす私クレディアで、経験の差や背や力の大きさから後者の方が劣勢だった。
私は体にいくつか傷をつくっていた。
致命的となるものは受けてはいないものの、白い肌に痣があるのが目立つ。
他にも体力が削られ息が上がっていたり、苦痛で顔を歪ませていることから劣勢だという判断はつけやすい。
無詠唱で氷塊を狙ってとばす。
態勢を整える為の行動だ。
氷ではなく風のほうが無から作る氷よりも風のほうが楽だが、それだとメリンダが同じように風で簡単に相殺されてしまうので、剣からは逃れられない。
持っている属性のうち残り闇と無があるものの、闇は本がなかったせいで適性が一番あっても自己流では限界があり、無だと魔力弾があるが風魔法と同様な理由で駄目だ。
なので消去法で氷となる。
これは四回目の同じパターンで、一回目以降は見切られて避けられていた。
なのでまたそうなる可能性はあったが、メリンダはこちらの望むように離れた。
だが、
「スピード、上げるわよ」
ぽつりと呟き、一歩踏み込んだ。
そこからは姿がかき消えたように錯覚した。
どうやら身体強化をしていたうえに風を纏わせたようだ。
驚く暇もない。
とっさに杖を前に出すと、運良く剣を弾き返すことが出来た。
思った以上に重みはなかった。
けれどその分、技術と速さで二撃目、三撃目はもろ受けることとなった。
日頃からメリンダから滅多打ちにされているが、この痛みは急所をえぐり今までの比ではなかった。
これは訓練だ。
だが真剣ではないとはいえ、容赦のない攻撃は殺す気できているのかと、一瞬思ってしまうものだった。
連続して続くメリンダの攻撃を地面に転がるようにして大きく避ける。
痛みを恐れてではない。
このままでは防御出来ずに、一方的にされるがままになってしまうからだ。
私は考えを切り替える。
戦い方の主体を杖から魔法にすることを決めたのだ。
私は自身の扱う魔法が危険なものだと理解していた。
もちろん日々の生活を豊かにするものはあるが、ここ五、六年強くなるために攻撃魔法ばかりを磨き続けて来たからだ。
それを後悔し忌避することはない。
むしろ頼りにし、魔法を研究することがここ最近の趣味にもなってきたほどだ。
だが鍛錬といっても母に魔法を向けることはしたくなかった。
鍛錬や成長するにつれて魔力が増え、膨大とは言い表せれないぐらいの量になった現在、下手をすれば簡単に人が死んでしまう威力になってしまったからだ。
そんなヘマはしないが、自分の手で母を殺してしまったということはしたくない。
魔力が巨大すぎて繊密な操作は苦手な部類に入るのだ。
不得意というまでではないが、たまに気を抜くと魔法に込める魔力が多くなる。
毎朝の日課となっている母との訓練は、棒術や剣術だった。
決して魔法を使うことはない内容で、魔法なしでも身を守れることを念頭にしたものだった。
けれど街から戻ってきた母は帰ってそうそう、魔法有りの全力の勝負をしようと言ってきた。
それが今置かれている状況の最中だ。
先程までは魔法をどうしようもない時しか使っていなかった。
使わないで母の剣を凌げるとは思っていなかったし、実際杖だけでなんとかならなかった。
棒術は魔法と比べて二年ぐらいしか習っておらず、基本だけしか母も知らなかったからことが原因といえる。
母の本気はやばい。
たぶんこれも少ししか本気を出していないと思う。
それでも身体強化のみならず風を使った高速の戦闘スタイルは、このままでは一方的に攻撃されるだけ。
母の姿を見失ってしまうことがあることから、格の違いを思い知らされる。
だが私はそのことによって戦意を折れることはない。
逆に安心してしまった自分がいる。
これなら多少の魔法でも、母はどうってことはないと攻めたててくるだろうと思ったからだ。
私は一瞬にして風魔法を構築する。
その短すぎる時間でも、メリンダは追撃しようとするのだから驚きだ。
迫りくる母に、ではなく地面から巻き上がるようにして風を起こす。
風が土を巻き込む。
思惑通りになった。
サラサラとした土ではないせいか思っていた以上のものではなかったが、メリンダが目に土が入り、狙っていた効果がでた。
メリンダが思わぬ攻撃で怯んだすきに、地面に杖をトンっと置く。
この杖は棒術として用いていたが、魔法を行使する際にも利用でき自身と地面との媒介とする。
杖には精密な操作がやりやすくなる効力もがあるので、この戦闘にはもってこいのものだ。
「凍れ」
その言葉でここら一帯の地面が氷で覆われる。
メリンダは魔法が発動する際に発生する、魔力の反応に気付いたのか飛んで、凍ることに巻き込まれることは回避した。
着地すると同時に、メリンダは嫌な顔をする。
剣士にとっては戦いづらいフィールドになったからだ。
だがメリンダはそのことに臆することはない。
足を地面に叩きつけるようにして氷をえぐり、接近する。
先程よりはスピードはおちたが、それでもまだ速いと言える範疇だ。
あまり効果はなかったことに、母の超人さが伺えた。
そしてそこから拮抗状態が続く。
メリンダの体にも傷がつくようになり、戦いは白熱していった。
魔法はその場の劣勢した状況をひっくり返す力はあるが、いかんせん十分な距離がない。
周りは木だらけで、結界の外に出たら魔物がいるせいで、立ち回れる範囲が限られているからだ。
メリンダは魔法を避け、自身の風魔法で相殺したりそらしたりして、剣で切り込む。
私は魔法で遠く距離を保つようにしながら攻撃し、接近されたら棒術をもって魔法を放つ時間を稼ぐ。
中級や上級魔法は打たない。
殺し合いとなってしまうし、放つ時間がないからだ。
そうして互いに体力や魔力が限界となり、ついに決着がつく。
メリンダが剣で、私が杖で打ち付け合ったとき、杖が限界を迎えたからだ。
ぼきりと杖の半ばから折れ、使い物にならなくなった。
クレディアが目を見開き驚いた隙に、メリンダはピタリと剣先を目の前に突きつける。
「……参りました」
そう言ってクレディアは背中から地面に倒れ込み、ひんやりとする氷上で息を吐き出した。




