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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
母の元へと向かう旅

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歩き、食べ、寝る

「少し休憩にしようか」


 王都から暫く歩いた後のことだった。


 補助魔法をかけたので、ロイはあまり疲れている様子ではない。

 それは狼人であることも影響しているかもしれない。

 だが幼い体にとっては、ずっと歩き続けることには苦痛に変わりないだろう。

 大きめの石があるところに腰かければ、おずおずと近付いて座る。

 リュークはお昼寝タイムのようで、地面の上ですぴすぴと寝にはいる。


「ロイ、ごめんね。疲れたよね」

「……ううん」


 ふるふると顔を横に振る。

 そして合わせていた目線を地面に下げた。


 ロイと仲良くなれる方法はないだろうかと思う。

 出会って一日も経っていないとはいえ、親しくなれば自分のことを話してくれるようになるだろうか。


 取り敢えず、頭を撫でて鞄に入れていた小さめの果物を差し出す。

 宿でたくさん昼食をたべていたようだが、小腹は空いたはずだ。

 案の定そうだったようで、ロイは少しずつ果物を食べる。

 私はその横で遅めの昼食をとった。


 実はとてもお腹が空いていたのだ。

 騎士の手から逃れるためにも、王都からは距離を離したかった。

 そのため狭い路地から逃げ延びた後に食べる暇はなかったのだ。


 それにしても、王都の出入りを管理する門番の対応には内心ドキドキであった。

 私達の情報が通達してあったのか、疑う目で見られていたのだ。

 子供な私とロイの二人組であるから、しょうがないことではあるが。


 鞄の中を点検され、ロイには帽子をとるように言われた。

 リュークには後でこっそりと王都の外壁を飛んで出ることとし、咄嗟にロイの耳に闇魔法をかけたのが幸いだった。

 闇魔法は色だけでなく、実体はあるものの目に見えないようにすることを出来るようになったのだ。

 そのお陰で引き留められることはなく王都を出ることが出来た。



 私はいわく付きの蜂蜜をパンにかけ食べる。

 やはりこの蜂蜜は美味しい。

 リュークが半分も食べてしまった蜂蜜だけでなく、もう一瓶買っておけば良かったと後悔する。

 そんなことを考えていると、ふと横から視線を感じた。


「食べる?」

「……いいの?」

「うん、いいよ」


 食べかけではあるが、パンを渡す。

 どうやら蜂蜜にひかれたようだった。

 くんっと匂いを嗅ぎ、一口かじる。


 五秒ぐらい、動きが固まった。

 その後は速いスピードで食べ始めてペロリと平らげる。


「なくなっちゃった」

「まだ食べる?」

「……ううん。もう、おなかいっぱい。でもまたたべたい」

「じゃあ明日の朝食べる?」

「うん」


 とても素直な子だと思った。

 そして今までで一番長く会話が続いたとも。

 だがこうして食べものがきっかけだと、失礼だが小動物に餌付けをしている気分だ。

 そう感じてしまったことを誤魔化すように、またロイの頭を撫でる。

 目を閉じて気持ちよさそうにしているのを見て、私はまた小動物みたいだと思ってしまった。




 腹を満たして休憩してから、歩くのを再開する。

 これまでは王都から近いところであったので、魔物が襲いかかってくることはなかった。

 だが今ではそうなるような動きが魔力探知からうかがえる。

 リュークに目を向けると、私の考えは伝わったようだ。

 魔物の反応がする方へ飛んでいく。


 それを何度か繰り返したところで、早めに野営の準備をすることにした。

 野営は初めてであるからだ。

 手間取る時間も考え、日が沈むまで多く時間があるうちから行う。


「どこかにいっちゃうの?」

「少し離れるだけだよ。大丈夫、リュークが付いていてくれるからね」

「ガウッ!」


 火を焼べるための薪を拾いに行く前、ロイは不安そうにした。


 魔物が来てもいいようと結界をはってある。

 それにリュークには魔物との戦闘で失った魔力を譲渡してある。

 魔力譲渡は普通出来るものではない。

 自分と相手との魔力の適性があり、拒絶反応が起こってしまうからだ。

 これは私とリュークが古代の契約をかわしているから出来ることである。

 そんな訳であるから、魔物が来ても平気であろう。

 魔力探知によって、強い反応がないことは確認済みだ。



 魔物のことでトラウマが出来てしまったのだろうか。

 あの騎士につきだした残党からの話では、魔物に追いかけられていたという。


 こういうとき、どうすればいいのだろうか。

 ロイのふわふわの髪を優しく頭を撫でるが、不安は解消されていないようである。

 頑張れと応援するだけで見ているだけのリュークは放っておき、暫く悩む。

 そして私は抱きしめることにした。

 母とエリスによくしてもらったことを思い出したのだ。

 包み込んで伝わる人の暖かさと心臓の音は、穏やかな気持ちになれる。


「少しだけ、待っていられる?」

「……うん」

「いい子だね」


 三回目にして慣れ、よしよしと流れるように頭を撫でてから薪拾いへと出発する。

 帰ってきた頃には、ロイはリュークと楽しそうに遊んでいた。


 流石はリュークだと思いながら、着々と私は野営の準備をする。

 干し肉や森の恵みからとれたものが入った暖かいスープは、あまりお腹を空かせていなかったロイでもするすると食べれた。

 ちなみにリュークは戦って倒した魔物のお肉をいっぱいに食べていた。



 すうすうと眠るロイに毛布をくるませ、私は結界を張り直す。

 リュークも手伝ってくれるが、出来たのはあやふやのコツンと叩けば壊れる結界だ。

「ガゥ……」と悲しそうにするリュークに「慣れないことだから仕方ないよ」と慰める。



 ぱちりと弾ける火を見て、ふわあとあくびをする。

 あまり深く寝に入らないようにしなければならない。

 結界があるとはいえ、破られる可能性はある。


 私はロイの命を預かっているのだ。

 元いた場所まで送り届けると決めたのだから、責任をもたなければならない。


 私は火を消し、かるく瞼を閉じる。

 そうして私は周りの気配を感じながら、意識を浅く沈めた。

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